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第2章 イリゼ
12 シェフェール
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地下鉄へ向かう入口は駆けつけた警官達によって封鎖されていた。
そこに遅れてやって来たのは軍服を着た兵士達で、階級は少佐だった。少佐の背後にも部下を数名引き連れていた。
規制線の前に立つ警官は少佐を見て敬礼し挨拶した。
「お疲れ様です」
「お前の上司と話をしたい。聞いた話では選ばれし者が出たそうだな」
「はい。中へどうぞ。ドロン警部がいます」
そう言われた上司と部下達は規制線の中へと入った。
階段を降りて壊れた改札口を通り過ぎ、駅のホームへと出ると、そこに高そうな腕時計をした小太りの男が警官に指示を出している最中だった。
あれがドロン警部だと察すると、少佐はその男に近づいた。
「あなたがドロン警部で?」
「ええ、そうですが」
ドロンは少佐を見た。少佐は背が高く瞳の色は青かった。髭は剃られ金髪に、そして若かった。ハンサム顔だ。兵士にしとくには勿体ないと警部は思った。
「私はラサール少佐だ。ドロン警部、状況を知りたい」
「状況は最悪ですな。ウーリーという男が色んな連中を敵にしてしまったようで、追いかけ回され地下鉄へ車のまま突っ込み逃亡したんです。線路に落ち、尚も逃亡は続き途中大怪我を負った追っては見つけましたが、ウーリーは見つかってはいません。今、線路をくまなく調べているところです」
「ウーリーとかいう奴の他に誰かいなかったか?」
「いえ、誰もいません。あの線路のずっと先に車が一台ありまして、あれがウーリーの車であることは調べがついているんですが、車内には誰一人いませんでした。車は地下鉄の先頭車両にぶつかる寸前で止まっています。何故か車は無事で電車の正面だけが大きな凹みがあり、無人の運転席は滅茶苦茶の状態です。いったいどうやったらそうなるのか……」
「状況は理解したドロン警部。連中の捜索はあとは我々が行う」
「?」
警部は何故軍が? と首を傾げたが、警部という地位を持っても軍の少佐の決定には逆らえなかった。
「分かりました」
少佐は部下を連れ一旦地上へと出た。
少佐は部下に「おそらく何らかの変身で電車を力づくで止めたんだろう。その後連中が逃げ込むとしたらおそらく、使われていない駅から地上へと出る筈だ。そこへ向かへ」と命令した。
「必要なのは選ばれし者だけだ。あとは必要ない」と更に付け加えると、部下達は少佐から離れ近くにとめてあった軍用車両に乗り込み、走り去っていった。
少佐はここから部下達とは別行動に出た。
その頃、丁度この時間帯に別の場所の広場では今度の市長選の立候補者が大衆に向け演説をしていた。
取り囲んでいる多くは若い人や女性達で、その中心にマイクを持った中年女性の候補者がいた。
名をエマニュエル・シェフェール。今回の有力候補とされる。
「皆さん、今日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。もう既にご存知かと思いますが今回私、市長選に立候補を致しましたエマニュエル・シェフェールです。私は幾つかの公約を掲げて立候補しました。まず、食料の安全保障政策。我が国では農業に対し財源を当てこれまで自給自足でやっていきました。しかし、一部の地域では干ばつが起きたりと、水問題に直面し、その地域では満足な農業が出来ない状態にあります。それは最近増え始め、同時に異常気象も問題視されるようになりました。しかし、国はそのような事態になっているにも関わらず、戦争の為にお金をつぎ込んでいます。この街だって食料問題は他人事ではございません。私は農業にさらなる支援が必要だと考えます」
その後もシェフェールの演説は続いた。
すると、一人の少年が演説中のシェフェールに向かって「何が平和だ! お前は嘘つきだ!」と叫んだ。
全員が少年に目を向けた。シェフェールはその少年に怒ることなく、むしろ、少年の話に耳を傾けた。
「どうしてそう思うの?」
「僕のパパはお前は兵士になって国の為に戦えって言った。パパはおばさんのことを嫌ってるから」
「そう。どうやら私はお父さんによっぽど嫌われているようね。でも、もし戦争に行く必要がないって言われたらどう?」
少年は答えに困った。
「戦争は有害無益でしかない。誰もが気づくべきことで全員が戦争をやめれば、愚かな行いを続ける必要がなくなる。国はあなたた達に嘘をついている。本当は戦争をやめることは出来る。全ての大国が長期の戦争によって疲弊し国内がボロボロであることは同じなの。であるならば、全ての国が同時に停戦を持ちかけることは可能な筈。まさにそれが平和への一歩になる。平和を知らない私達は残念ながら平和へのイメージを持つことは難しい。しかし、昔はその平和が存在していた。なら、その平和はどこへ行ってしまったのか? そうじゃない。私達人間が平和を遠くへとやったのよ。なら、自分達でその平和を取りに行くしかない。平和は勝手に私達のところへ現れたりはしないのだから。行動するのみよ」
すると、一斉に拍手が起こった。
その近くを少佐が乗る黒いバイクが通った。
あの女は何も知らない。あの女の言った通りにしたところでどうもならない。身近に脅威が存在する限り。
それは戦場を見れば分かる。そこは選ばれし者同士の戦い。一般兵に出来ることなんてない。
そこに遅れてやって来たのは軍服を着た兵士達で、階級は少佐だった。少佐の背後にも部下を数名引き連れていた。
規制線の前に立つ警官は少佐を見て敬礼し挨拶した。
「お疲れ様です」
「お前の上司と話をしたい。聞いた話では選ばれし者が出たそうだな」
「はい。中へどうぞ。ドロン警部がいます」
そう言われた上司と部下達は規制線の中へと入った。
階段を降りて壊れた改札口を通り過ぎ、駅のホームへと出ると、そこに高そうな腕時計をした小太りの男が警官に指示を出している最中だった。
あれがドロン警部だと察すると、少佐はその男に近づいた。
「あなたがドロン警部で?」
「ええ、そうですが」
ドロンは少佐を見た。少佐は背が高く瞳の色は青かった。髭は剃られ金髪に、そして若かった。ハンサム顔だ。兵士にしとくには勿体ないと警部は思った。
「私はラサール少佐だ。ドロン警部、状況を知りたい」
「状況は最悪ですな。ウーリーという男が色んな連中を敵にしてしまったようで、追いかけ回され地下鉄へ車のまま突っ込み逃亡したんです。線路に落ち、尚も逃亡は続き途中大怪我を負った追っては見つけましたが、ウーリーは見つかってはいません。今、線路をくまなく調べているところです」
「ウーリーとかいう奴の他に誰かいなかったか?」
「いえ、誰もいません。あの線路のずっと先に車が一台ありまして、あれがウーリーの車であることは調べがついているんですが、車内には誰一人いませんでした。車は地下鉄の先頭車両にぶつかる寸前で止まっています。何故か車は無事で電車の正面だけが大きな凹みがあり、無人の運転席は滅茶苦茶の状態です。いったいどうやったらそうなるのか……」
「状況は理解したドロン警部。連中の捜索はあとは我々が行う」
「?」
警部は何故軍が? と首を傾げたが、警部という地位を持っても軍の少佐の決定には逆らえなかった。
「分かりました」
少佐は部下を連れ一旦地上へと出た。
少佐は部下に「おそらく何らかの変身で電車を力づくで止めたんだろう。その後連中が逃げ込むとしたらおそらく、使われていない駅から地上へと出る筈だ。そこへ向かへ」と命令した。
「必要なのは選ばれし者だけだ。あとは必要ない」と更に付け加えると、部下達は少佐から離れ近くにとめてあった軍用車両に乗り込み、走り去っていった。
少佐はここから部下達とは別行動に出た。
その頃、丁度この時間帯に別の場所の広場では今度の市長選の立候補者が大衆に向け演説をしていた。
取り囲んでいる多くは若い人や女性達で、その中心にマイクを持った中年女性の候補者がいた。
名をエマニュエル・シェフェール。今回の有力候補とされる。
「皆さん、今日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。もう既にご存知かと思いますが今回私、市長選に立候補を致しましたエマニュエル・シェフェールです。私は幾つかの公約を掲げて立候補しました。まず、食料の安全保障政策。我が国では農業に対し財源を当てこれまで自給自足でやっていきました。しかし、一部の地域では干ばつが起きたりと、水問題に直面し、その地域では満足な農業が出来ない状態にあります。それは最近増え始め、同時に異常気象も問題視されるようになりました。しかし、国はそのような事態になっているにも関わらず、戦争の為にお金をつぎ込んでいます。この街だって食料問題は他人事ではございません。私は農業にさらなる支援が必要だと考えます」
その後もシェフェールの演説は続いた。
すると、一人の少年が演説中のシェフェールに向かって「何が平和だ! お前は嘘つきだ!」と叫んだ。
全員が少年に目を向けた。シェフェールはその少年に怒ることなく、むしろ、少年の話に耳を傾けた。
「どうしてそう思うの?」
「僕のパパはお前は兵士になって国の為に戦えって言った。パパはおばさんのことを嫌ってるから」
「そう。どうやら私はお父さんによっぽど嫌われているようね。でも、もし戦争に行く必要がないって言われたらどう?」
少年は答えに困った。
「戦争は有害無益でしかない。誰もが気づくべきことで全員が戦争をやめれば、愚かな行いを続ける必要がなくなる。国はあなたた達に嘘をついている。本当は戦争をやめることは出来る。全ての大国が長期の戦争によって疲弊し国内がボロボロであることは同じなの。であるならば、全ての国が同時に停戦を持ちかけることは可能な筈。まさにそれが平和への一歩になる。平和を知らない私達は残念ながら平和へのイメージを持つことは難しい。しかし、昔はその平和が存在していた。なら、その平和はどこへ行ってしまったのか? そうじゃない。私達人間が平和を遠くへとやったのよ。なら、自分達でその平和を取りに行くしかない。平和は勝手に私達のところへ現れたりはしないのだから。行動するのみよ」
すると、一斉に拍手が起こった。
その近くを少佐が乗る黒いバイクが通った。
あの女は何も知らない。あの女の言った通りにしたところでどうもならない。身近に脅威が存在する限り。
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