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第1章 カントン
12 塔の地下
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「まさかあの塔にこんな地下があるなんて……」
円形の壁沿いに取り付けられた螺旋階段を一段一段を降りていく一人の影。そこは神の世界に届いたとされる例の世界一高い塔、その地下深くだった。
ランタンの僅かな明かりを頼りに落っこちないよう気をつけながら進んでいく。手すりもなければ、階段の石は所々崩れている。階段の中央は広く。真下を覗いても、そこは深い闇だった。
壁は人の頭蓋骨が埋められており、まるで墓地のよう。
塔の最上階が神の世界だとしたら、最深部は地獄なのだろうか。
神の世界があるなら地獄もありそうだが、恐らく多くが想像するような地獄ではないだろう。推測するに、真下に何かがある。
嫌な寒気がビンビンと背筋を震わす。
ああ、多分予感は当たった。
ランタンの明かりに照らされるのは、ピンク色のローブと、それだけではなくその下にある……いや、いると言った方が適切か。そこに、いたのは角を生やした巨大な黒い鬼が深い眠りについていた。
魔人だ。
魔人といっても姿は統一されてはおらず、ただ、分かっていることはバカでかい。それは人間が何かに化けるよりも規模が大きいものだった。
「あの市長、とんでもないもん隠していやがった」
これで納得した。何故、あの場にドラゴンが現れたのか。目的はこれだったんだ。
これを隠す為にこいつの上に塔を築きいつでも監視できるようにしたんだ。そして、世間には知られないよう塔の目的はあくまでも神の世界に到達した唯一の塔としたんだ。
その時だった。一斉に地下の電気がつき、壁沿いの白い電球が地下を照らした。
「誰!?」
電気は使えなくなっていた筈。誰かが直したのか?
ピンクのローブを着たその人物は、フードを被った頭を上げる。
「お前は!?」
階段の上にいたのは上半身裸で、自分の筋肉を見せつけるその男は、同じく驚きの反応を見せた。
「驚いた。俺はあの世にいるのか? お前は俺が確実に殺した筈だが、グリフォン」
「それはこっちのセリフだ、オスマン」
グリフォンと呼ばれたピンク色のローブを着た少女はフードを外した。
「あと、私の名前はルルーだ」
「そりゃ失礼、お嬢ちゃん。しかしあれだな、お嬢ちゃんが俺の名前を知っているとは」
「黒いドラゴンを知らない者はいない。あれにおびえる人は多い」
オスマンは笑みを見せた。
「力ある者はそれを行使したくて仕方がない。力無き者はただ従うかやられるかだ」
弱肉強食の野蛮な考え方だが、それは正しい。虎が獲物を目の前にしても襲わなければ虎が死ぬだけだ。だが、人間は虎ではない。人は人だ。
「お前は死んだ筈だ。それに、目も失った筈だ」
オスマンは誰かは知らないがロック鳥との戦いで両目を失い、更に死んだように見えた。
しかし、奴の両目はちゃんと此方を見ていた。
「あんなんで俺は死なん。ドラゴンだぜ。それに、不死鳥でもある」
「不死鳥……再生したのか。ドラゴンに不死鳥、随分とお前だけずるいな」
「世の中平等にあらず。それより、お前が生きていたことが驚きだ。どうやった? グリフォンにそんな効果はない筈だ。それとも、お前も不死鳥とか言うんじゃないだろうな?」
「かもね」
「ふざけるな。不死鳥ならグリフォンに変身したりしない。最初から不死鳥で戦ってた筈だ。そしたら俺も相手が悪いと諦めがつく。不死鳥相手じゃ殺せないからな」
「それより、あんたが現れたってことはやっぱりこれが目当てなんでしょ」
ルルーは目線を黒い鬼のような姿をした怪物、魔人に向けた。照らされた照明で奴の腕が6本あることが確認出来た。下半身は更に下に行かなければここからではよく見えない。
「お前は知りすぎた」
「なら、また殺す?」
「今度は殺し損ねない。ついでに生き延びたカラクリも知れる」
「本気?」
「ここで戦うことがか? それとも魔人を起こさせることか?」
「両方」
「そうか。残念だな、俺はそこまでお喋りじゃなくて」
そう言うと、オスマンはドラゴンに変身した。
重みで階段が崩れ落ちた。
今度はルルーが変身する。ピンク色が光ると、黒猫に変身し階段を素早く降りていった。
「黒猫だと!? それがお前のもう一つの変身か」
それは決して見下して笑っているわけではなく、黒猫に変身できたことにオスマンは驚愕したのだ。
例え変身できても、その中にも相性や上下関係が存在する。
だが、黒猫だとは。
「なるほど、納得した。お前があの状況で助かった理由がな! どんな方法を使ったって驚きはせん。黒猫ならな! まさか、お前もあの魔女集団の一人だったとは」
オスマンは嬉しくて大笑いした。
「魔女とは一度やりたかったんだ」
「一度はもう済んだでしょ」
「まさかあれで満足するわけないだろ。むしろ、せっかくの選ばれし者同士の戦闘なのにあっさりし過ぎてつまらなかったぞ」
ドラゴンは次々と階段を破壊していきながらルルーを追いかけていった。だが、ルルーが降りていく途中、小さな穴があり、ルルーはその穴の中に飛び込んだ。奥に細い通り道があった。ルルーはその中に逃げていった。
「クソッ! 逃げるなぁ! 俺と戦え!!」
オスマンの怒号が響くのが聞こえるが、ルルーは構わず逃げた。
「不死身な奴と戦う馬鹿がいるか」
円形の壁沿いに取り付けられた螺旋階段を一段一段を降りていく一人の影。そこは神の世界に届いたとされる例の世界一高い塔、その地下深くだった。
ランタンの僅かな明かりを頼りに落っこちないよう気をつけながら進んでいく。手すりもなければ、階段の石は所々崩れている。階段の中央は広く。真下を覗いても、そこは深い闇だった。
壁は人の頭蓋骨が埋められており、まるで墓地のよう。
塔の最上階が神の世界だとしたら、最深部は地獄なのだろうか。
神の世界があるなら地獄もありそうだが、恐らく多くが想像するような地獄ではないだろう。推測するに、真下に何かがある。
嫌な寒気がビンビンと背筋を震わす。
ああ、多分予感は当たった。
ランタンの明かりに照らされるのは、ピンク色のローブと、それだけではなくその下にある……いや、いると言った方が適切か。そこに、いたのは角を生やした巨大な黒い鬼が深い眠りについていた。
魔人だ。
魔人といっても姿は統一されてはおらず、ただ、分かっていることはバカでかい。それは人間が何かに化けるよりも規模が大きいものだった。
「あの市長、とんでもないもん隠していやがった」
これで納得した。何故、あの場にドラゴンが現れたのか。目的はこれだったんだ。
これを隠す為にこいつの上に塔を築きいつでも監視できるようにしたんだ。そして、世間には知られないよう塔の目的はあくまでも神の世界に到達した唯一の塔としたんだ。
その時だった。一斉に地下の電気がつき、壁沿いの白い電球が地下を照らした。
「誰!?」
電気は使えなくなっていた筈。誰かが直したのか?
ピンクのローブを着たその人物は、フードを被った頭を上げる。
「お前は!?」
階段の上にいたのは上半身裸で、自分の筋肉を見せつけるその男は、同じく驚きの反応を見せた。
「驚いた。俺はあの世にいるのか? お前は俺が確実に殺した筈だが、グリフォン」
「それはこっちのセリフだ、オスマン」
グリフォンと呼ばれたピンク色のローブを着た少女はフードを外した。
「あと、私の名前はルルーだ」
「そりゃ失礼、お嬢ちゃん。しかしあれだな、お嬢ちゃんが俺の名前を知っているとは」
「黒いドラゴンを知らない者はいない。あれにおびえる人は多い」
オスマンは笑みを見せた。
「力ある者はそれを行使したくて仕方がない。力無き者はただ従うかやられるかだ」
弱肉強食の野蛮な考え方だが、それは正しい。虎が獲物を目の前にしても襲わなければ虎が死ぬだけだ。だが、人間は虎ではない。人は人だ。
「お前は死んだ筈だ。それに、目も失った筈だ」
オスマンは誰かは知らないがロック鳥との戦いで両目を失い、更に死んだように見えた。
しかし、奴の両目はちゃんと此方を見ていた。
「あんなんで俺は死なん。ドラゴンだぜ。それに、不死鳥でもある」
「不死鳥……再生したのか。ドラゴンに不死鳥、随分とお前だけずるいな」
「世の中平等にあらず。それより、お前が生きていたことが驚きだ。どうやった? グリフォンにそんな効果はない筈だ。それとも、お前も不死鳥とか言うんじゃないだろうな?」
「かもね」
「ふざけるな。不死鳥ならグリフォンに変身したりしない。最初から不死鳥で戦ってた筈だ。そしたら俺も相手が悪いと諦めがつく。不死鳥相手じゃ殺せないからな」
「それより、あんたが現れたってことはやっぱりこれが目当てなんでしょ」
ルルーは目線を黒い鬼のような姿をした怪物、魔人に向けた。照らされた照明で奴の腕が6本あることが確認出来た。下半身は更に下に行かなければここからではよく見えない。
「お前は知りすぎた」
「なら、また殺す?」
「今度は殺し損ねない。ついでに生き延びたカラクリも知れる」
「本気?」
「ここで戦うことがか? それとも魔人を起こさせることか?」
「両方」
「そうか。残念だな、俺はそこまでお喋りじゃなくて」
そう言うと、オスマンはドラゴンに変身した。
重みで階段が崩れ落ちた。
今度はルルーが変身する。ピンク色が光ると、黒猫に変身し階段を素早く降りていった。
「黒猫だと!? それがお前のもう一つの変身か」
それは決して見下して笑っているわけではなく、黒猫に変身できたことにオスマンは驚愕したのだ。
例え変身できても、その中にも相性や上下関係が存在する。
だが、黒猫だとは。
「なるほど、納得した。お前があの状況で助かった理由がな! どんな方法を使ったって驚きはせん。黒猫ならな! まさか、お前もあの魔女集団の一人だったとは」
オスマンは嬉しくて大笑いした。
「魔女とは一度やりたかったんだ」
「一度はもう済んだでしょ」
「まさかあれで満足するわけないだろ。むしろ、せっかくの選ばれし者同士の戦闘なのにあっさりし過ぎてつまらなかったぞ」
ドラゴンは次々と階段を破壊していきながらルルーを追いかけていった。だが、ルルーが降りていく途中、小さな穴があり、ルルーはその穴の中に飛び込んだ。奥に細い通り道があった。ルルーはその中に逃げていった。
「クソッ! 逃げるなぁ! 俺と戦え!!」
オスマンの怒号が響くのが聞こえるが、ルルーは構わず逃げた。
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