ジョンの歴史探求の旅

アズ

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1週目 巨樹ユグドラシルと炎の剣

23 神

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 博士……いや、この世界の神と今は呼ぶべきだろうか。そのハイボトムは最終目標を語る前に、過去から時系列に語り出した。
〈技術革新とも呼べる最高潮の時代、私は生まれた。その影響からか私はその開発者の一員になる夢を抱いた。
 私は技術者として大学へ行き、主にエンジニアとして学ぶことに専念した。そのうち、自分のシステムを開発してみたいという願望だけが私の中に募り、しかし、その目標だけが空白のままただ願望だけが強くなっていった。この世に役立つ何かを生み出したい、そんな感情だけが先行し色々試してみたが、結果は上手くいかなかった。私の中で圧倒的にアイデアが不足し、常に私の頭の中は漠然としていた。ただ、欲望というエネルギーだけがあって、しかし、その使い道を見つけられないでいた。私には友人が必要だと思った。私にアドバイスをくれる友人が。だが、私にそのような友人は一人もいなかった。代わりに頼ったのが恩師だった。恩師は社会問題にとても関心ある方で、私はそれを見習うことにした。
 そして分かったことは、いくら文明が発達した世の中でも人々は何故か幸福に至っていないということだ。原因は何故か?
 私は自分に問いかけた。
 この世の幸福とは何か?
 私はその答えを求め、アランやラッセル、ヒルティの他にもある幸福論を読み漁り、時に仏教にも手を出した。こうして色々見聞し私なりの答えに辿りついた。
 一つは物質との関係性を考えてみた。それはマルクスの言う唯物論であるが、彼の主張は全て同意するつもりはないにしても、幸福を考える上で物質との差が幸福の差にも影響することは完全否定出来ないとみたからだ。
 しかし、物質が満たされても人の心は必ずしも満たされるわけではない。それに、全ての人に満足するだけの物質を与えてはこの地球は直ぐに資源不足に陥るであろう。
 そもそも、この世界にこだわる理由はなんだ?というのも私は肉体というのも物質であり、物質から解放されること、つまり、肉体を取り除いた意識、仏教では魂、そこに着目したからである。それは一つのひらめきであった。
 意識をフルダイブさせる仮想世界の現実は人々の理想郷になり得るのではないのか? こうして生み出されたのが『ツリー』だった。
 だが、政治家連中はそれを利用した。仮想世界を外部から人間が自己の利益の為に干渉、不正する時点でそれは理想とはならない。
 となれば外部との接触を断つ他にない〉




「それは多くの人々を仮想世界に閉じ込めるということだ。それは現実世界の人々にとっては死と同じだ」


〈否! 魂は不滅だ。仮想世界の中で生き続けるのだからな 人々が外の世界の記憶を忘れ、この世界が本物だと思えばいいだけのこと。お前達が外部と干渉する度にこの世界の幸福は下がっていく一方だ。これでは『ツリー』の本来の力が発揮しない。お前達がこの世界の住人となるならそれも受け入れようと考えたが、どうやらそれは上手くいかないようだな〉


「全員を仮想世界に閉じ込める前に自分自身を実験体として立証したわけだ」


〈私の自殺の意味に辿り着いたのは君ぐらいだろう。あぁ、その通りだ。私が成功例だ。それを目の前にしておきながら何が不満だと言うのか。いや、恐らく私と君とでは相容れぬ思想ということだろう。ならば、君達を排除するまでだ〉


「何をするつもりだ博士!?」


〈なに、お前達はフルダイブでこの世界にいるに過ぎない。お前達の意識を現実に押し戻すまでだ〉


「まさか!?」



 その瞬間、視界が真っ白になった。意識は徐々に遠のいていく……


〈愚かなジョンよ、さらばだ。この世界にお前は必要ない。現実じごくに帰れ〉



◇◆◇◆◇



 現実世界に戻ったジョンの意識はフルダイブ装置で眠っていた自分本体に戻り目が覚める。それを出迎えたのは白衣を着た男だった。それは夢の中で見たスキンヘッドの中年男性だった。
「博士には会えたみたいだな」
「あの人は現実世界で何が起きているのか全く分かっていない。干渉だけが理由じゃない。あの仮想世界を維持出来る電力はもうこの世界は厳しいというのに……」
「政府は君がフルダイブしている間にも新たな法案を閣議決定したぞ」
「え?」
「内容は暴走したシステムの稼働を停止。政府は大勢の国民を見捨てることを決断した」
「何故!?」
「人間が減れば電力は充分に足りる。システムを再起動させればエラーは消えるし、その方が確実だからな」
「人間の命だぞ」
「それがあと少しで仮想世界の住人と変わらなくなるんだ。君が言っていることはAIに人格を与えるべきだと語る連中と同じことなんだ。政府はそれを決して認めない。連中は頭が古いからね、生物学的という条件を絶対として考える。分からないって顔だからもっと簡単に説明してやる。ようは、人間は人間という枠から抜け出せない生き物なんだ。その枠からはみ出た奴を人間は同類として見れないってことさ。それでいくと博士の魂は不滅でも肉体が滅びれば法律上は死だ。その時点で博士に人権はなく、同じくフルダイブしている人々も博士のせいでそうなるってことだ。司法は役にも立たないだろうな。でなければ根本的に死という概念を考え直す必要があるからだ。しかし、それをするにも法改正が必要だ。今の法律では肉体が死ねばそれは死だ。意識があろうと、魂というものは今の司法では扱えんよ」
「もう一度、フルダイブ出来ませんか?」
「邪魔が入るだけだろうな。例え入れても直ぐに押し戻されるだけだろう。ジョン、私達は負けたのだ。博士は目的を果たす。その瞬間に『ツリー』は電源を落とされる。残念だが」
「まだ、時間はある」
「仮想世界の状況は此方も把握している。残念ながら、これ以上の干渉は『ツリー』が保たなくなる」
「あと一度でいいんです」
「それで何が出来るというんだ」
 ジョンは自分の頭を指さした。
「私の頭のチップを使って下さい」
 男はそれでジョンの言おうとしていることを理解した。
「馬鹿な……死ぬぞ」
「覚悟の上でお願いしてるんです」
「……言っとくがそれは私の責任問題にもなる。まぁ、それぐらいは負ってやろう」
「すまない……」
「君が万が一博士を止めれるとしたら、チャンスはおそらくフルダイブ中の全員の意識と肉体の遮断の間際だろう。その時が一番エネルギーを使う。お前に構う程のエネルギーはない筈だ。だが、それをしくじれば全員が博士のようになる。言っとくがフルダイブ中の君を此方から助けに行くことは出来ない。もし、仮想世界の住人になりたくなければその前に君のフルダイブ中の電源を此方から切ることも出来るが(肉体に意識が戻る前にするということは死を意味する)」
「ありがとう。でも、必要ない。絶対にやり遂げて見せる」
 ジョンはそう言ってフルダイブの準備に入った。
「ジョン、また会おう」
 ジョンは振り向く。
「あぁ、会おう」
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