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1週目 巨樹ユグドラシルと炎の剣
19 社会による教育
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『経頭蓋直流電気刺激改良型装置』を頭に装着した子供達が机に向かって永遠と勉強を続けていた。その周りを白衣を着た大人達が子供達の様子を観察しながら手に持っているバインダーに挟んだ紙へメモを記していく。窓のない地下施設では、教室に30人の子供達と白衣姿の大人3人がついており、一番前には大きな振り子時計がある。そろそろ12時間が経過した頃だろう。普通の人であれば、これ程の集中力を維持することは出来ない。だが、この装置の発明は不可能を可能にした。これにより人間は無限の集中力を得た。これがあれば、国は沢山の天才を生み出すことが出来る。一部反発はあった。天才を生み出す為とは言え、装置による脳の負担はむしろまだ発達段階の脳に影響を与えるのではないのかという風潮が出回ったからである。だが、この試みは既に他国でも研究が進められており、出遅れるわけにはいかなかった政府は風潮には科学的根拠は無いと言って研究を押し切ったのだった。
すると、バタンと音がした。一人の子供が鼻血を出し倒れたのだ。実は研究には改良を重ねた装置以外にも謎の投薬を子供達に与えていた。無論、それが何の薬か医者から説明を子供らは受けたわけではない。ただ、大人に従ってその通りに行い、ここまでやってきたのだ。
一人の研究者が少年の頭を鷲掴みにし持ち上げ顔をよく見ると、少年の目は見開いたままになっていた。
「08番はダメだな」
手を離すと、その子の頭が落ちた。
恐ろしいことに、一人の子供が死んだというのに、誰もその子に気にかかることなく、ひたすら机に向かってペンを走らせていた。そのペンの動く音が不気味であった。
制服姿の係員が現れ、一人の遺体を持ち運ぶ。それはまるで壊れたロボットを回収するかのよう。
ここにいるとまるで人とは何だったのかを忘れる。いや、ここに求められるのは人ではない。大人達は僕達に超人を求めている。大人達のエゴで、ずっと勉強を続け、それは壊れるまでずっとだった。
◇◆◇◆◇
「悪夢を見た……」
水の賢者は目を覚ますなりそう都知事に言った。
「……あなたの過去に何があったかは問いません。あなたが世界の危機にその力で守ってくれるのなら私は全力であなたをサポートします」
「社会は時に残酷になる。特に暴走しだした時にだ。都知事、あなたには分かるまい。単なる社会ステータスの為に、社会の歯車であることを望まれ生まれてくる子供の気持ちなんてね。都知事、あなただってそうだ。だが、あなたはそれをよしとしている」
「えぇ、そうです。今はそれで構いません。ですが、今は言い争いをしている場合ではありません。もうじき、見えてきます」
都知事と水の賢者が乗る船は例の滅んだ国へと向かっていた。
その大地は赤々と燃え上がり、上陸出来そうな場所はなかった。
その頃、炎の賢者と雷の賢者はもう一人の来客に気づいていた。
そこへ、大きな津波が押し寄せ、二人の居場所を不自然に避けると海水は赤々と燃え上がる炎を消していった。
「水の賢者か……」と炎の賢者は呟いた。
津波はおさまり、海水は海へ戻る。突如、霧が発生し、その霧深くから二つの青い瞳が光る。
「おい、水の賢者」とまずマグニが言い出す。
「お前は俺の味方か? それとも敵か? 返答次第じゃ容赦しねぇからな」
「私は誰の味方でもない。巨人はどうした?」
「巨人ならさっき突然消えた。透明になってな。まさかそんなことまで出来るとはな。ついでにあれは炎も雷も通用しなかった。実証済みだ」
すると突然、空からカラスの鳴き声が響いた。
「あれは闇の魔女か……」と水の賢者は言う。
カラスの足首にスマートウォッチがついていて、画面は通話中になっていた。
「あら、珍しい。摩天楼から出ないと思っていたけど」
「おい、魔女!」とマグニが大声をあげる。
「てめぇまで何の用だ。お前も巨人か?」
「当たり前でしょ。巨人の復活、それは世界を焼き尽くす前触れ……世界中が大混乱よ。株価は暴落、通貨も不安定、世界の経済は正常ではいられないわ。私のいる国がもうそうだもの。まさに、世界の終末」
「年末みたいな言い方すんな。終末? どこがだ。巨人は暴れ回るどころか消えたんだぞ。その後なにもないじゃないか」
「どうかしら? 各地で異常気象が発生……夏の地域では何故か雪が降り始め寒波到来よ。しかも、前代未聞の最強寒波がね」
「それが巨人とどう関係してるんだ?」
「さぁ? でも、神話では終末前に長い冬が訪れたわ。あなた達も残り僅かな余生、どう過ごすか考えておくことね」
「待て、魔女クラーカ。あの少年の監視をお前なら続けていた筈だ。なにも話さないつもりか?」
「別に。聞かれなかったから。まぁ……情報をタダでやるなんて気乗りしないけど、いいわ。あの巨人の頭部はジョンの元に現れた。あの巨人が今までジョンを引き寄せていたのよ。それを彼の仲間が阻止したから、巨人は消えた」
「少年って誰の話しだ」とマグニが言うと、クラーカは「緑の賢者よ。能力は不明だけど」と答えた。
「スニルと同じ緑……」
「魔女、お前はどうするつもりだ?」と水の賢者は質問した。
「あら、いちいち申告しなきゃいけないのかしら? 理由が見当たらないんだけど」
「世界の終末でも協力する気はないと?」
「あら、逆に訊くけど私達みたいなのが集まって何かするわけ? 上手くいく筈がないと思うのだけど、それとも私だけかしら」
「……」
「そうでしょうね……私達には協調性が足りない。私が見てきた賢者の中で唯一変わっていたのが例の少年、ジョンという賢者よ。彼は自分の仲間と旅をしている。私達じゃあり得ないわね。支配か孤独か、そのどちらしかないのだから」
「……」
「でも、いいわ。隠すことじゃないしね。本当は嫌だけど、光の賢者に会って来る予定よ」
「光の賢者……確か」
「そう、独裁者に反乱の兆しのきっかけを与えた光の賢者は今捕らえられてるの。あの人も黄金の果実を口にして見た目は10代のままなんだけど中身は私と同い年」
「会ってどうする?」と水の賢者は尋ねた。
「透明になった相手を探すには光の賢者の協力が必要よ」
◇◆◇◆◇
クラーカはその光の賢者が今どこに捕らえられているかを知っていた。それが例の人工島、一般的には監獄島と呼ばれ、脱出不可能とされる世界一の監獄と称されている場所だった。周りは海に囲まれ、島の出入りは許可された船のみ。その港から島の中心に向かうとその監獄がある。周辺にはガラスドームハウスがあり、現在は荒れ果てた状態で長らく放棄されている。監獄島には監獄の他に研究施設も存在した。だが、現在は研究施設は移転されており、島は監獄のみ機能している。その監獄にその賢者が囚人として入獄していた。とある独裁国家で反乱を企んだ罪で捕らえられ、後にこの場所へ送り込まれたのだった。
憎き独裁者に目をつけられ、捕らえられた黄色の賢者は、警棒を見せつける看守に「全て脱げ」との命令に従わざるをえなかった。上から脱いでいき異性の目の前で全てを脱がされ見世物にされた。好きでもない男に胸と下半身を見られる屈辱。看守は私の体を舐め回すようにじっくり見てくると、身体検査と称した更なる屈辱が始まる。看守の指示で童顔で小柄な囚人は足首を両手で持って前かがみになるとその後ろでニヤついた看守がゴム手袋をした手を近づける。看守が満足するまで女は看守の指を感じなければならなかった。ようやく終わるとダサい下着と囚人服を与えられ、悪臭漂うこの鉄格子の中へ放り込まれた。能力者という理由で足枷だけが繋がれたまま、女は鉄格子の小さな窓から広い青空を眺める。そこに黒いカラスが覗き込んだ。囚人の瞳は黄色く輝く。
「おい、囚人。尋問の時間だ」
看守がそう言うと、檻から別部屋へ連れていかれ、そこで看守は囚人に尋ねる。
「巨人が突如現れた。だが、その巨人はどこかへと消えてしまった。お前、何か知っているか?」
「……」
「なんだ、答えないつもりか?」
彼らにとって答えなんてどうでもよかった。ただ、口実が欲しいだけ。
「随分反抗的だな。やはり反乱分子は徹底的に教育し直さなければな」
そう言いながらニヤついているのが分かる。
「服を脱げ」
警棒を持ちながら看守は命令した。女はボタンを上から外していく。
男は所詮ケモノなのだ。この後、警棒で殴りつける。誰も止めやしない。
ブラックボックスとされた外から閉ざされた塀の内側では何が起きているのか、いやそもそも知ろうともしない人々にとって囚人の人権を語る思考は持ち合わせていないのだろう。
私は直立不動で男の看守の前に立ち、されるがままにやられ、時々声をあげた。
終わった頃には全身痣だらけで、ヒリヒリと痛みが続く。この国の為をと行動したことなのに、誰も自分を救いにやってこない。何故? 独裁政治に恐れ困っていた皆を救おうと立ち上がった自分をどうしてそう簡単に見捨てる?
結局、自分のしたことは何だったのだろうか。
女は自問自答した。そして、自分達は誰かに救いを求めるだけでいざ自ら行動しようとしない人々に失望した。
ふと、小さな鉄格子の窓を見ると、カラスがまだそこで此方を覗いていた。
「愚かね、全く……信用する相手を間違え、なりすましも出来ず国家に反逆し、結果は目に見えていたのに、それに気づかないなんて」
「クラーカ……私を笑いに来たの? だとしたらタチが悪いわね」
「馬鹿ね、あなたの想像するユートピアは現実世界では幻想だってことよ。いい加減気づきなさい」
「闇に生きるあなたに言われたくはないわ」
「あなたに仲間なんていないじゃない。簡単に見捨てられる存在、ただ利用出来ると思って利用されただけで、連中はあなたにむしろ身勝手に失望しているだけで、最初からあなたを仲間だと認識していなかったんでしょ。だから、本当のあなたはずっと孤独だったじゃない」
「……」
「何故、賢者は共通して孤独なのか……そこには人との境界線がどうしてもあるからでしょ。なら、私はそれを利用し、むしろ連中を道具として扱うわ。あなたはその真逆よ。いい加減、人間の振りは止めなさい」
「私もあなたも人間よ」
「馬鹿ね。人間なんて憧れるようなもんじゃないでしょ」
「用はそれだけ?」
「いいえ。あなたにはやってもらわなきゃならないことがあるの。巨人探しをして欲しい。それにはあなたの能力が必要なのよ」
「無理よ。ここでは能力は使えないの。建物の内側に何か仕掛けがあるみたい。失われた文明の技術なのは確かよ」
「なら、協力を得てみるわ」
クラーカは同時に二箇所にカラスを飛ばしており、クラーカはもう一方の水、雷、そして炎のいる賢者に事情を伝えた。
「ということだから、戦いは一度やめて一時休戦協定といきましょう。お互い、それでいいわね?」
「どうして俺が協力しなきゃならない」と炎の賢者は不満を口にしたが、水の賢者と雷の賢者は魔女からの提案というかたちに不満はありつつも協力に同意した。
結局、炎の賢者は置いて水の賢者が乗ってきた船で雷の賢者を乗せ、監獄島へ光の賢者救出へ向かうこととなった。
すると、バタンと音がした。一人の子供が鼻血を出し倒れたのだ。実は研究には改良を重ねた装置以外にも謎の投薬を子供達に与えていた。無論、それが何の薬か医者から説明を子供らは受けたわけではない。ただ、大人に従ってその通りに行い、ここまでやってきたのだ。
一人の研究者が少年の頭を鷲掴みにし持ち上げ顔をよく見ると、少年の目は見開いたままになっていた。
「08番はダメだな」
手を離すと、その子の頭が落ちた。
恐ろしいことに、一人の子供が死んだというのに、誰もその子に気にかかることなく、ひたすら机に向かってペンを走らせていた。そのペンの動く音が不気味であった。
制服姿の係員が現れ、一人の遺体を持ち運ぶ。それはまるで壊れたロボットを回収するかのよう。
ここにいるとまるで人とは何だったのかを忘れる。いや、ここに求められるのは人ではない。大人達は僕達に超人を求めている。大人達のエゴで、ずっと勉強を続け、それは壊れるまでずっとだった。
◇◆◇◆◇
「悪夢を見た……」
水の賢者は目を覚ますなりそう都知事に言った。
「……あなたの過去に何があったかは問いません。あなたが世界の危機にその力で守ってくれるのなら私は全力であなたをサポートします」
「社会は時に残酷になる。特に暴走しだした時にだ。都知事、あなたには分かるまい。単なる社会ステータスの為に、社会の歯車であることを望まれ生まれてくる子供の気持ちなんてね。都知事、あなただってそうだ。だが、あなたはそれをよしとしている」
「えぇ、そうです。今はそれで構いません。ですが、今は言い争いをしている場合ではありません。もうじき、見えてきます」
都知事と水の賢者が乗る船は例の滅んだ国へと向かっていた。
その大地は赤々と燃え上がり、上陸出来そうな場所はなかった。
その頃、炎の賢者と雷の賢者はもう一人の来客に気づいていた。
そこへ、大きな津波が押し寄せ、二人の居場所を不自然に避けると海水は赤々と燃え上がる炎を消していった。
「水の賢者か……」と炎の賢者は呟いた。
津波はおさまり、海水は海へ戻る。突如、霧が発生し、その霧深くから二つの青い瞳が光る。
「おい、水の賢者」とまずマグニが言い出す。
「お前は俺の味方か? それとも敵か? 返答次第じゃ容赦しねぇからな」
「私は誰の味方でもない。巨人はどうした?」
「巨人ならさっき突然消えた。透明になってな。まさかそんなことまで出来るとはな。ついでにあれは炎も雷も通用しなかった。実証済みだ」
すると突然、空からカラスの鳴き声が響いた。
「あれは闇の魔女か……」と水の賢者は言う。
カラスの足首にスマートウォッチがついていて、画面は通話中になっていた。
「あら、珍しい。摩天楼から出ないと思っていたけど」
「おい、魔女!」とマグニが大声をあげる。
「てめぇまで何の用だ。お前も巨人か?」
「当たり前でしょ。巨人の復活、それは世界を焼き尽くす前触れ……世界中が大混乱よ。株価は暴落、通貨も不安定、世界の経済は正常ではいられないわ。私のいる国がもうそうだもの。まさに、世界の終末」
「年末みたいな言い方すんな。終末? どこがだ。巨人は暴れ回るどころか消えたんだぞ。その後なにもないじゃないか」
「どうかしら? 各地で異常気象が発生……夏の地域では何故か雪が降り始め寒波到来よ。しかも、前代未聞の最強寒波がね」
「それが巨人とどう関係してるんだ?」
「さぁ? でも、神話では終末前に長い冬が訪れたわ。あなた達も残り僅かな余生、どう過ごすか考えておくことね」
「待て、魔女クラーカ。あの少年の監視をお前なら続けていた筈だ。なにも話さないつもりか?」
「別に。聞かれなかったから。まぁ……情報をタダでやるなんて気乗りしないけど、いいわ。あの巨人の頭部はジョンの元に現れた。あの巨人が今までジョンを引き寄せていたのよ。それを彼の仲間が阻止したから、巨人は消えた」
「少年って誰の話しだ」とマグニが言うと、クラーカは「緑の賢者よ。能力は不明だけど」と答えた。
「スニルと同じ緑……」
「魔女、お前はどうするつもりだ?」と水の賢者は質問した。
「あら、いちいち申告しなきゃいけないのかしら? 理由が見当たらないんだけど」
「世界の終末でも協力する気はないと?」
「あら、逆に訊くけど私達みたいなのが集まって何かするわけ? 上手くいく筈がないと思うのだけど、それとも私だけかしら」
「……」
「そうでしょうね……私達には協調性が足りない。私が見てきた賢者の中で唯一変わっていたのが例の少年、ジョンという賢者よ。彼は自分の仲間と旅をしている。私達じゃあり得ないわね。支配か孤独か、そのどちらしかないのだから」
「……」
「でも、いいわ。隠すことじゃないしね。本当は嫌だけど、光の賢者に会って来る予定よ」
「光の賢者……確か」
「そう、独裁者に反乱の兆しのきっかけを与えた光の賢者は今捕らえられてるの。あの人も黄金の果実を口にして見た目は10代のままなんだけど中身は私と同い年」
「会ってどうする?」と水の賢者は尋ねた。
「透明になった相手を探すには光の賢者の協力が必要よ」
◇◆◇◆◇
クラーカはその光の賢者が今どこに捕らえられているかを知っていた。それが例の人工島、一般的には監獄島と呼ばれ、脱出不可能とされる世界一の監獄と称されている場所だった。周りは海に囲まれ、島の出入りは許可された船のみ。その港から島の中心に向かうとその監獄がある。周辺にはガラスドームハウスがあり、現在は荒れ果てた状態で長らく放棄されている。監獄島には監獄の他に研究施設も存在した。だが、現在は研究施設は移転されており、島は監獄のみ機能している。その監獄にその賢者が囚人として入獄していた。とある独裁国家で反乱を企んだ罪で捕らえられ、後にこの場所へ送り込まれたのだった。
憎き独裁者に目をつけられ、捕らえられた黄色の賢者は、警棒を見せつける看守に「全て脱げ」との命令に従わざるをえなかった。上から脱いでいき異性の目の前で全てを脱がされ見世物にされた。好きでもない男に胸と下半身を見られる屈辱。看守は私の体を舐め回すようにじっくり見てくると、身体検査と称した更なる屈辱が始まる。看守の指示で童顔で小柄な囚人は足首を両手で持って前かがみになるとその後ろでニヤついた看守がゴム手袋をした手を近づける。看守が満足するまで女は看守の指を感じなければならなかった。ようやく終わるとダサい下着と囚人服を与えられ、悪臭漂うこの鉄格子の中へ放り込まれた。能力者という理由で足枷だけが繋がれたまま、女は鉄格子の小さな窓から広い青空を眺める。そこに黒いカラスが覗き込んだ。囚人の瞳は黄色く輝く。
「おい、囚人。尋問の時間だ」
看守がそう言うと、檻から別部屋へ連れていかれ、そこで看守は囚人に尋ねる。
「巨人が突如現れた。だが、その巨人はどこかへと消えてしまった。お前、何か知っているか?」
「……」
「なんだ、答えないつもりか?」
彼らにとって答えなんてどうでもよかった。ただ、口実が欲しいだけ。
「随分反抗的だな。やはり反乱分子は徹底的に教育し直さなければな」
そう言いながらニヤついているのが分かる。
「服を脱げ」
警棒を持ちながら看守は命令した。女はボタンを上から外していく。
男は所詮ケモノなのだ。この後、警棒で殴りつける。誰も止めやしない。
ブラックボックスとされた外から閉ざされた塀の内側では何が起きているのか、いやそもそも知ろうともしない人々にとって囚人の人権を語る思考は持ち合わせていないのだろう。
私は直立不動で男の看守の前に立ち、されるがままにやられ、時々声をあげた。
終わった頃には全身痣だらけで、ヒリヒリと痛みが続く。この国の為をと行動したことなのに、誰も自分を救いにやってこない。何故? 独裁政治に恐れ困っていた皆を救おうと立ち上がった自分をどうしてそう簡単に見捨てる?
結局、自分のしたことは何だったのだろうか。
女は自問自答した。そして、自分達は誰かに救いを求めるだけでいざ自ら行動しようとしない人々に失望した。
ふと、小さな鉄格子の窓を見ると、カラスがまだそこで此方を覗いていた。
「愚かね、全く……信用する相手を間違え、なりすましも出来ず国家に反逆し、結果は目に見えていたのに、それに気づかないなんて」
「クラーカ……私を笑いに来たの? だとしたらタチが悪いわね」
「馬鹿ね、あなたの想像するユートピアは現実世界では幻想だってことよ。いい加減気づきなさい」
「闇に生きるあなたに言われたくはないわ」
「あなたに仲間なんていないじゃない。簡単に見捨てられる存在、ただ利用出来ると思って利用されただけで、連中はあなたにむしろ身勝手に失望しているだけで、最初からあなたを仲間だと認識していなかったんでしょ。だから、本当のあなたはずっと孤独だったじゃない」
「……」
「何故、賢者は共通して孤独なのか……そこには人との境界線がどうしてもあるからでしょ。なら、私はそれを利用し、むしろ連中を道具として扱うわ。あなたはその真逆よ。いい加減、人間の振りは止めなさい」
「私もあなたも人間よ」
「馬鹿ね。人間なんて憧れるようなもんじゃないでしょ」
「用はそれだけ?」
「いいえ。あなたにはやってもらわなきゃならないことがあるの。巨人探しをして欲しい。それにはあなたの能力が必要なのよ」
「無理よ。ここでは能力は使えないの。建物の内側に何か仕掛けがあるみたい。失われた文明の技術なのは確かよ」
「なら、協力を得てみるわ」
クラーカは同時に二箇所にカラスを飛ばしており、クラーカはもう一方の水、雷、そして炎のいる賢者に事情を伝えた。
「ということだから、戦いは一度やめて一時休戦協定といきましょう。お互い、それでいいわね?」
「どうして俺が協力しなきゃならない」と炎の賢者は不満を口にしたが、水の賢者と雷の賢者は魔女からの提案というかたちに不満はありつつも協力に同意した。
結局、炎の賢者は置いて水の賢者が乗ってきた船で雷の賢者を乗せ、監獄島へ光の賢者救出へ向かうこととなった。
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