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私と私
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怒涛のような一年を終え、新年はせめて今はより楽になって欲しいと願うのは、28の看護師だ。彼女が働く職場はまるで戦場で、常に戦いだった。それだけに疲労困憊で辞めていく人も続出した。正直、割に合わない給料にもっと貰ってもいい筈なのに、家に帰ってテレビをつけると政治家の逮捕の速報が流れ、ため息を思わず漏らす。
看護師を夢見てみ勉強も頑張ってここまできたし、看護師以外の道は全く考えていないが、今の職場が自分に合っているかは正直自信はない。かと言って病院を変えたところで待遇が変わるだろうか? どこも大変だということは頭では分かっていた。分かっていたが、時々嫌になる自分がいた。もう少し、せめて待遇なり環境なりが変わってくれればと思うが、それは叶わぬ望みになるんだろう。
ようやくの休み、その間友人達はというと仕事中だ。土日休みの友人と違い土日関係ない職業だと中々スケジュールも合わせにくい。職場に休みをとりたいなんて自分からは中々言い出せにくい。友人はその間にも遊びに出掛けていた。正直、戦場から一時帰宅が許された兵士が望むのは睡眠であって出掛けて遊ぶことではなかった。これをあと何十年と続けなきゃいけないのかと思うと気が重くなる。一方世間は人生百年時代だとかぬかす。ふざけんな。その前に疲労でくたばってるわ。そんな怒りをぶつける場所もなく、私は午前中を睡眠で潰れた。
せっかくの休みを睡眠で潰れるのはなんだか勿体ない気がしなくもないけど、午前中にどこかに出ようと体がまず思わなかった。昼近くになってようやく体が起き上がり、着替えたり顔を洗ったり化粧をしたりし始める。昼食は買ってあったパンとインスタントスープを食べて済ませる。午後は買い物に行く必要があり、出掛けなきゃいけない。それ以外に要というものもない。
中古の白い車に乗り込みエンジンをかけ近くのスーパーへ向かった。その道中、錆びれたビルが一つあって、ほとんどは空きで唯一入っているのが塩谷探偵事務所だった。裏の顔は心霊探偵。塩谷を知る人は口々に彼を裏の呼び名で呼んだ。その当人は自称しているわけでもなければ、その名で呼ぶなと言う。事実なのに、心霊探偵なんて呼び名じゃむしろ客が遠退くと怒るのだ。確かに、心霊探偵を自称してきたら一年前の私なら信用しなかったと思う。
◇◆◇◆◇
あれは一年前のこと。
私は自分に出会った。自分そっくりとかでなく、鏡に映るように自分を見たのだ。外で出掛けているところで。その前からも友人が自分を見かけたと言う話しを何度か聞いて、その度に私じゃないよと否定してきたが、これは間違いなく自分である。小柄という背格好、丸い感じの輪郭、自分で言うのも恥ずかしい童顔……あ、私だ。双子じゃない私は自分を見て戸惑った。これってもしかするとドッペルゲンガー?
ドッペルゲンガーなんて迷信だと思っていたし、もしそうだとしたら私は死んじゃうの!?
もし、自分のドッペルゲンガーを見た者は死ぬ。
オカルトに興味の無い私でも知っていることだ。と言うか唯一だ。
すると、そっくりな私は私を見て「もしかしてあなたは……」と指差しながら「ドッペルゲンガー?」と訊いてきた。
「いや、あなたが私のドッペルゲンガー……」
こうして、私達は出会ったのだ。
◇◆◇◆◇
私達はそれから近くの喫茶店で話し合うことになった。ドッペルゲンガーと話しをするというのも変な感じだが、いや滅茶苦茶変であるが、ドッペルゲンガーの方から話し合おうと言い出したのだ。それで、喫茶店に入ったはいいが店員も客も私達を見て目が点になっていたが、私だって同じ気分だ。それから暫く沈黙が続き、ようやく口を開いたのはドッペルゲンガーの方だった。
開口一番に聞かれたのは「あなた本物?」だった。
「本物って……」
私そっくりで記憶も共有されていて、そんな私があなた本物かと聞かれたら私はどう説明すればいいのか分からなかった。感情的に否定しようにも、戸惑っている自分そっくりを見ると、こっちまで混乱する。まさか、自分はドッペルゲンガーじゃないよね? と一周して考えが過るが、いや、私は本物だと答えに落ち着く。
「私は本物よ」
「でも、私も本物よ」
「いや、あなたはドッペルゲンガーよ」
「いや、あなたがドッペルゲンガーよ」
「……」
「……」
「えー」
「えー」
私と、私そっくりは同時に頭を抱えた。ややこしいことになった。てか、なんでこんな事になるんだ??
それから私とそっくりは手をどけ顔を上げて、お互いの顔を見つめる。
どうするの、これ…… 。
看護師を夢見てみ勉強も頑張ってここまできたし、看護師以外の道は全く考えていないが、今の職場が自分に合っているかは正直自信はない。かと言って病院を変えたところで待遇が変わるだろうか? どこも大変だということは頭では分かっていた。分かっていたが、時々嫌になる自分がいた。もう少し、せめて待遇なり環境なりが変わってくれればと思うが、それは叶わぬ望みになるんだろう。
ようやくの休み、その間友人達はというと仕事中だ。土日休みの友人と違い土日関係ない職業だと中々スケジュールも合わせにくい。職場に休みをとりたいなんて自分からは中々言い出せにくい。友人はその間にも遊びに出掛けていた。正直、戦場から一時帰宅が許された兵士が望むのは睡眠であって出掛けて遊ぶことではなかった。これをあと何十年と続けなきゃいけないのかと思うと気が重くなる。一方世間は人生百年時代だとかぬかす。ふざけんな。その前に疲労でくたばってるわ。そんな怒りをぶつける場所もなく、私は午前中を睡眠で潰れた。
せっかくの休みを睡眠で潰れるのはなんだか勿体ない気がしなくもないけど、午前中にどこかに出ようと体がまず思わなかった。昼近くになってようやく体が起き上がり、着替えたり顔を洗ったり化粧をしたりし始める。昼食は買ってあったパンとインスタントスープを食べて済ませる。午後は買い物に行く必要があり、出掛けなきゃいけない。それ以外に要というものもない。
中古の白い車に乗り込みエンジンをかけ近くのスーパーへ向かった。その道中、錆びれたビルが一つあって、ほとんどは空きで唯一入っているのが塩谷探偵事務所だった。裏の顔は心霊探偵。塩谷を知る人は口々に彼を裏の呼び名で呼んだ。その当人は自称しているわけでもなければ、その名で呼ぶなと言う。事実なのに、心霊探偵なんて呼び名じゃむしろ客が遠退くと怒るのだ。確かに、心霊探偵を自称してきたら一年前の私なら信用しなかったと思う。
◇◆◇◆◇
あれは一年前のこと。
私は自分に出会った。自分そっくりとかでなく、鏡に映るように自分を見たのだ。外で出掛けているところで。その前からも友人が自分を見かけたと言う話しを何度か聞いて、その度に私じゃないよと否定してきたが、これは間違いなく自分である。小柄という背格好、丸い感じの輪郭、自分で言うのも恥ずかしい童顔……あ、私だ。双子じゃない私は自分を見て戸惑った。これってもしかするとドッペルゲンガー?
ドッペルゲンガーなんて迷信だと思っていたし、もしそうだとしたら私は死んじゃうの!?
もし、自分のドッペルゲンガーを見た者は死ぬ。
オカルトに興味の無い私でも知っていることだ。と言うか唯一だ。
すると、そっくりな私は私を見て「もしかしてあなたは……」と指差しながら「ドッペルゲンガー?」と訊いてきた。
「いや、あなたが私のドッペルゲンガー……」
こうして、私達は出会ったのだ。
◇◆◇◆◇
私達はそれから近くの喫茶店で話し合うことになった。ドッペルゲンガーと話しをするというのも変な感じだが、いや滅茶苦茶変であるが、ドッペルゲンガーの方から話し合おうと言い出したのだ。それで、喫茶店に入ったはいいが店員も客も私達を見て目が点になっていたが、私だって同じ気分だ。それから暫く沈黙が続き、ようやく口を開いたのはドッペルゲンガーの方だった。
開口一番に聞かれたのは「あなた本物?」だった。
「本物って……」
私そっくりで記憶も共有されていて、そんな私があなた本物かと聞かれたら私はどう説明すればいいのか分からなかった。感情的に否定しようにも、戸惑っている自分そっくりを見ると、こっちまで混乱する。まさか、自分はドッペルゲンガーじゃないよね? と一周して考えが過るが、いや、私は本物だと答えに落ち着く。
「私は本物よ」
「でも、私も本物よ」
「いや、あなたはドッペルゲンガーよ」
「いや、あなたがドッペルゲンガーよ」
「……」
「……」
「えー」
「えー」
私と、私そっくりは同時に頭を抱えた。ややこしいことになった。てか、なんでこんな事になるんだ??
それから私とそっくりは手をどけ顔を上げて、お互いの顔を見つめる。
どうするの、これ…… 。
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