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鈴の音
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男は暫く通話履歴を見ていた。
俺はいったい誰と繋がっていたのか?
そのモヤモヤの中、時間も迫っていたこともあって急いで出掛ける支度をする。
そして、支度を終えた男は車に乗り込み車道に出ると、昨日タクシーの運転手が使った近道を使ってみることにした。交差点を通過し、例のトンネルが現れた。そのトンネルを通って出ると直ぐに公衆電話がある。その公衆電話に誰かがいた。それはお坊さんだった。
お坊さんがこんなところで電話か? いくらお坊さんでもスマホくらいは持っているだろう。車を運転するお坊さんだっているくらいだ。
ふと、男はあの夜のことを考える。
まさか……な。
◇◆◇◆◇
世間は未解決の無差別連続殺人事件から二年が経過し、記憶から風化した頃になって再び殺人事件が発生し、新たな犠牲者が出たことでまた騒ぎになっていた。子どもが通う学校はまだ休校中であるが新学期が始まる前に犯人が逮捕されることが一番なのだが、二年も捕まらなかった犯人がそう簡単に捕まるだろうか…… 。
加害者と被害者の関連性が見えない事件では警察は相当苦戦しているようだが。
不要の外出を控えるよう注意喚起がなされ、街の風景は寂しいものになっていた。
最近は物騒な事件が続いている気がする。勿論、昔から世間を震撼させるような物騒な事件というものはあったであろうが、この平和な日本で残酷な事件が続くというのは悲しいものがある。
男が勤務する会社でも帰宅中には注意をし、出来るだけ定時で帰るよう促された。ホワイト社会を目指す意識の流れがようやく出るようになった昨今の日本では、そもそもそれが当たり前化しようとしている。
男も定時で仕事を終え自宅へ向かう。
そして、例の交差点を曲がり近道を使うと、その先で公衆電話とトンネルが見えてきた。公衆電話は無人であの坊さんはいない。それも当然だろう。
公衆電話を過ぎて車はトンネルに入る。トンネルで何か起きるわけもなく出口を出ると、そのまま何事もなく帰宅した。
◇◆◇◆◇
夜の四時。
男は全く同じ時間に目を覚ました。体を動かそうにもやはり、身動きがとれない…… 。
チリン……チリン……
また、あの音だった。これはいよいよ無視出来る状況ではない。心霊現象……しかも、あの近道を使ってからだった。
部屋に誰かいる。そしてあの音が耳元そばまで聞こえた。
チリン……チリン……
男は恐る恐る目線をその先へ向けた。
ベッドのそばにいたのは、お坊さんだった。
チリン……チリン……
男は悲鳴をあげ、それからの記憶を失った。
気づいたら目覚ましが鳴り、空は朝だった。
あのお坊さんはもう部屋にはいない。
男はベッドから起き上がり自分のスマホを見てみるとやはりあの時間、男のスマホは通話していたことになっていた。
男はそれから心霊現象の原因があのトンネルにあると考え、次からはあの近道を使わないことにした。
しかし、その次の夜もまた例の時間帯になると目が覚め、そして金縛りにあった。
その日は二度の夜と違い、足元に冷気を感じ、足首に何か一瞬触れた感触があった。男は悲鳴もあげられず、早く去って欲しいと願い続けた。
その夜はそれでなんとか済んだ。だが、あの何かは徐々に迫っている感じがし、男は自分にはもう猶予は残されていないと感じた。
何か……何か手を打たないと…… 。
幸い、家族はまだ帰って来ていない。だが、これが家族にまで影響するとなると、男には猶予は残されていなかった。
◇◆◇◆◇
「それで、うちに相談しに来たというわけか」
塩谷探偵事務所の塩谷という中年の男からは煙草臭が微かにした。よっぽどのヘビースモーカーなのだろうか。いや、この部屋の臭いかもしれない。事務所には事務員の女性がたった一人だけ。それ以外の従業員は見当たらなかった。男にとって、誰かに心霊現象で相談することも、探偵事務所に寄ることも人生初の出来事だった。それだけに不安もあった。
「あの、それでどうにかなりそうですか?」
「あぁ、今回は難しい話しじゃない。あんたに取り憑いているというお坊さん、あれは悪い霊なんかじゃない」
「え? でも自宅まで襲ってきたんですよ」
「いや、実際あんたは何もされていない。あんたはアレを見て叫んだだけだ」
「だ、だったら何なんだアレは」
「守護霊さ」
「守護霊?」
「流石に名くらいは聞いてるか。その守護霊さ。霊には悪いのと無害のとだいたい2パターンある。今回はあんたはあの霊によって守られていたのさ」
「守られていた?」
「そう、気になるのはそこだろう。果たして何に? その問いの答えは簡単な話し、お坊さんの霊が現れた時期と重なる」
「タクシーに乗ってあのトンネルを通った?」
「違う。最近、無差別殺人が起きてるだろ? 犯人はまだ捕まっちゃいない」
「あのニュースになっている事件のことか」
「犯人がどうやってターゲットを決めていると思う?」
「まさか……」
「帰宅時間、住所、家族、その他の情報を聞き出せる職業」
「タクシー運転手!? いや、だが俺は運転手とは話しをしていない」
「だが、犯人は帰宅時間帯に明かりがないことから犯人はお前が今は一人であることを知った。それまではまだターゲット選びの最中で、まだお前を狙うつもりじゃなかったんだろう」
「それじゃ……」
「お前を狙っていたのはお坊さんの幽霊じゃなくて人間だったってことだ。まぁ、あとはこちらでやるよ。警察に情報を流せばあんたは殺人鬼に狙われない。あの霊も現れることはなくなるだろう」
「……どうして、あの霊は俺を守ってくれたんでしょう?」
「あのトンネルのある道の近くにはお地蔵様がいるんだ。行く者を守る為にな」
◇◆◇◆◇
夕方、子どもと妻が旅行から戻ってきた。その日のニュースで例の殺人鬼が逮捕れたと報道があった。あの探偵が言っていた通りタクシー運転手が。
「あら、ようやく捕まったのね」と妻がテレビを見ながら言った。
「あぁ、本当に良かったよ」
それから、夜中に目が突然覚めることも、あのお坊さんの霊も見ることはなくなった。
後で調べて分かったことだが、鈴の音には魔除けの意味があるのだとか。自分の不幸をあのお坊さんは祓おうとしていただけなのかもしれない。
俺はいったい誰と繋がっていたのか?
そのモヤモヤの中、時間も迫っていたこともあって急いで出掛ける支度をする。
そして、支度を終えた男は車に乗り込み車道に出ると、昨日タクシーの運転手が使った近道を使ってみることにした。交差点を通過し、例のトンネルが現れた。そのトンネルを通って出ると直ぐに公衆電話がある。その公衆電話に誰かがいた。それはお坊さんだった。
お坊さんがこんなところで電話か? いくらお坊さんでもスマホくらいは持っているだろう。車を運転するお坊さんだっているくらいだ。
ふと、男はあの夜のことを考える。
まさか……な。
◇◆◇◆◇
世間は未解決の無差別連続殺人事件から二年が経過し、記憶から風化した頃になって再び殺人事件が発生し、新たな犠牲者が出たことでまた騒ぎになっていた。子どもが通う学校はまだ休校中であるが新学期が始まる前に犯人が逮捕されることが一番なのだが、二年も捕まらなかった犯人がそう簡単に捕まるだろうか…… 。
加害者と被害者の関連性が見えない事件では警察は相当苦戦しているようだが。
不要の外出を控えるよう注意喚起がなされ、街の風景は寂しいものになっていた。
最近は物騒な事件が続いている気がする。勿論、昔から世間を震撼させるような物騒な事件というものはあったであろうが、この平和な日本で残酷な事件が続くというのは悲しいものがある。
男が勤務する会社でも帰宅中には注意をし、出来るだけ定時で帰るよう促された。ホワイト社会を目指す意識の流れがようやく出るようになった昨今の日本では、そもそもそれが当たり前化しようとしている。
男も定時で仕事を終え自宅へ向かう。
そして、例の交差点を曲がり近道を使うと、その先で公衆電話とトンネルが見えてきた。公衆電話は無人であの坊さんはいない。それも当然だろう。
公衆電話を過ぎて車はトンネルに入る。トンネルで何か起きるわけもなく出口を出ると、そのまま何事もなく帰宅した。
◇◆◇◆◇
夜の四時。
男は全く同じ時間に目を覚ました。体を動かそうにもやはり、身動きがとれない…… 。
チリン……チリン……
また、あの音だった。これはいよいよ無視出来る状況ではない。心霊現象……しかも、あの近道を使ってからだった。
部屋に誰かいる。そしてあの音が耳元そばまで聞こえた。
チリン……チリン……
男は恐る恐る目線をその先へ向けた。
ベッドのそばにいたのは、お坊さんだった。
チリン……チリン……
男は悲鳴をあげ、それからの記憶を失った。
気づいたら目覚ましが鳴り、空は朝だった。
あのお坊さんはもう部屋にはいない。
男はベッドから起き上がり自分のスマホを見てみるとやはりあの時間、男のスマホは通話していたことになっていた。
男はそれから心霊現象の原因があのトンネルにあると考え、次からはあの近道を使わないことにした。
しかし、その次の夜もまた例の時間帯になると目が覚め、そして金縛りにあった。
その日は二度の夜と違い、足元に冷気を感じ、足首に何か一瞬触れた感触があった。男は悲鳴もあげられず、早く去って欲しいと願い続けた。
その夜はそれでなんとか済んだ。だが、あの何かは徐々に迫っている感じがし、男は自分にはもう猶予は残されていないと感じた。
何か……何か手を打たないと…… 。
幸い、家族はまだ帰って来ていない。だが、これが家族にまで影響するとなると、男には猶予は残されていなかった。
◇◆◇◆◇
「それで、うちに相談しに来たというわけか」
塩谷探偵事務所の塩谷という中年の男からは煙草臭が微かにした。よっぽどのヘビースモーカーなのだろうか。いや、この部屋の臭いかもしれない。事務所には事務員の女性がたった一人だけ。それ以外の従業員は見当たらなかった。男にとって、誰かに心霊現象で相談することも、探偵事務所に寄ることも人生初の出来事だった。それだけに不安もあった。
「あの、それでどうにかなりそうですか?」
「あぁ、今回は難しい話しじゃない。あんたに取り憑いているというお坊さん、あれは悪い霊なんかじゃない」
「え? でも自宅まで襲ってきたんですよ」
「いや、実際あんたは何もされていない。あんたはアレを見て叫んだだけだ」
「だ、だったら何なんだアレは」
「守護霊さ」
「守護霊?」
「流石に名くらいは聞いてるか。その守護霊さ。霊には悪いのと無害のとだいたい2パターンある。今回はあんたはあの霊によって守られていたのさ」
「守られていた?」
「そう、気になるのはそこだろう。果たして何に? その問いの答えは簡単な話し、お坊さんの霊が現れた時期と重なる」
「タクシーに乗ってあのトンネルを通った?」
「違う。最近、無差別殺人が起きてるだろ? 犯人はまだ捕まっちゃいない」
「あのニュースになっている事件のことか」
「犯人がどうやってターゲットを決めていると思う?」
「まさか……」
「帰宅時間、住所、家族、その他の情報を聞き出せる職業」
「タクシー運転手!? いや、だが俺は運転手とは話しをしていない」
「だが、犯人は帰宅時間帯に明かりがないことから犯人はお前が今は一人であることを知った。それまではまだターゲット選びの最中で、まだお前を狙うつもりじゃなかったんだろう」
「それじゃ……」
「お前を狙っていたのはお坊さんの幽霊じゃなくて人間だったってことだ。まぁ、あとはこちらでやるよ。警察に情報を流せばあんたは殺人鬼に狙われない。あの霊も現れることはなくなるだろう」
「……どうして、あの霊は俺を守ってくれたんでしょう?」
「あのトンネルのある道の近くにはお地蔵様がいるんだ。行く者を守る為にな」
◇◆◇◆◇
夕方、子どもと妻が旅行から戻ってきた。その日のニュースで例の殺人鬼が逮捕れたと報道があった。あの探偵が言っていた通りタクシー運転手が。
「あら、ようやく捕まったのね」と妻がテレビを見ながら言った。
「あぁ、本当に良かったよ」
それから、夜中に目が突然覚めることも、あのお坊さんの霊も見ることはなくなった。
後で調べて分かったことだが、鈴の音には魔除けの意味があるのだとか。自分の不幸をあのお坊さんは祓おうとしていただけなのかもしれない。
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