エレベーター

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エレベーター

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 スピードバンプがある駐車場にとまる一台の白の四輪駆動車から一人の男性が降りてきた。ダークネイビーのスーツ姿に黒の短い髪、背は高く、スリム体型。髭は綺麗に剃られてある。男は掛けていた黒縁眼鏡を外しカバンに入れた。眼鏡はあくまで車用で、普段眼鏡を掛けたりはしなかった。
 駐車場には幾つもの防犯カメラがあり、年齢は二十代後半から三十代前に映っているであろう。それは実年齢と誤差のない範囲だ。男はいつもの癖で黒色のスマホで指紋認証でロックを解除し、慣れた手つきで片手で操作しながら出口に向かって歩き出した。車が近づけばその音で分かる。それだけここは響くし、男にとって普段から使う駐車場だ。そこはオフィスビルの地下駐車場。職場にUSBメモリを忘れ取りにわざわざ戻って来た男はエレベーターのボタンを押した。その間もスマホでネットサーフィンしながら待っていると、エレベーターが中々やってこないことに一分してからようやく気がついた。男は何度もボタンを押すが、何故かエレベーターは4階で止まったままだった。4階と言えば自分の会社が入っているフロアだ。
「はぁ?」
 男は辛抱強くもう暫く待ってみた。だが、エレベーターはいっこうに4階から降りてくる気配がない。老人ホームとかではエレベーターには延長ボタンがあり、そのボタンを解除しないままエレベーターが動かないとかなら分かるが、このエレベーターにはそういったボタンがあるわけではない。つまり、上で誰かが開くボタンを押し続けていない限りはあり得ない。もしくは、それ以外のトラブルか?
 男は遂には観念し、深いため息をしたあと、うんざりしながら階段を使うことにした。
 階段を4階まで登るというのは結構大変で、登りきった頃には疲れきってしまった。男は4階のエレベーターを見ると、エレベーターは一階に降りていた。
「はぁ? おいおいマジかよ」
 なんの悪戯だと思いながら、男は自分のデスクに向かい、忘れ者をカバンに入れるとエレベーターに向かいボタンを押した。だが、今度もまたエレベーターは中々やって来ない。
「クソっ!」
 まさか、4階から地下への階段を往復することになるなんて思いもしなかった。
 息を荒らげながら階段を降りきると、その地下エレベーターの扉が突然開き出した。エレベーター内からキィ……キィ……と音が聞こえだした。そして、エレベーターから出てきたのは錆びついて使い古されたような車椅子だった。ただし、誰も乗っていない車椅子がひとりでに動きエレベーターから降りたのだ。
「な、なんだよ……何の冗談だよ!」
 男はその場から走り出し、自分の車へと全力疾走した。今まで幽霊が出るなんて噂も聞いたことが無ければ、人生で一度も心霊体験をしたことがない男が突然見てはいけないものを見てしまった感覚は、とてもゾッとするような悪寒が背中を襲ってきたようなもので、なんとか安全地帯へ逃げ込もうと車の中に入ると、急いで鍵を閉め、エンジンをかけた。直後、鍵が勝手に開き、かかったエンジンが急に止まりだす。
「おいおいなんでだよ!?」
 男は何度もエンジンをかけ直したが、もうエンジンはかかろうとすらしなかった。
「そうだ鍵!」
 男は鍵をもう一度かけた。だが、男の目の前で鍵が開く。今度は男は鍵をかけたまま手を離さなかった。すると、運転席以外の全てのドアが一斉にひとりでに開き始めた。
 男は悲鳴をあげた。直後、車椅子が飛んできて車のフロントガラスを突き破ってきた。車椅子はそのフロントガラスに挟まれ、男の顔手前で止まる。男は冷や汗を垂らし唾を飲み込んだ。次の瞬間、エンジンがかかりだし、車のドアが一斉に勢いよく閉まった。男は降りようとドアを開けようとするが、鍵が開いているにも関わらず、ドアは微動だにしなかった。エンジン音が唸りだす。


 ブーン、ブーン、ブーン……


「やめろ……やめてくれ……」
 その瞬間、車はスピードをあげて柱に向かって勢いよく激突した。
 エアバッグが衝突と同時に勢いよくでて男の胸を圧迫させた。男はそのまま意識を失った。
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