42 / 47
第二章 新世界
38
しおりを挟む
ミアの目の前に広がるのは、永遠に続く暗闇だった。寒さも暑さも感じず、風すらない。生物はおろか、植物の気配はなく、明かりがないせいで星星すら確認出来ない。むしろ、そこにはなにもない世界が広がっているようだ。
そんな世界に放り出されたのは、ミア以外にもキルケやエドがいる。しかし、エドはキマイラの爪により背中に傷を負っており、うつ伏せの状態でキルケが看病をしていた。
傷口に魔力の水を垂らし魔法を唱えている。
あのキマイラはというと、どこを見回してみても、その姿は見当たらなかった。
「ここはどこ?」
ミアが言うと、キルケは看病をしながら知っていることだけを答えた。
「忘れたの? 私達はローレンスによって消されたの。つまりここは」
「死後の世界」そう突然声がしたのは、ここにいる三人以外の老人の声だった。
キルケは「誰」と声をあげた。
現れたのは、白く濁った両目の老人だった。麦藁色の着物姿で杖無しで立ってる老人の目は明らかに失明していた。
「ここの世界については様々な呼び名がある。先程言った死の他に闇、虚無、そんな呼ばれ方もある。どれも正しいだろう。ここではなにも無い。だが、お前達はこうして『有る』わけだが、それは君達の生命力、生きたいという強い執着が未だこの世界で原形を留めている理由だろう。しかし、それも時間の問題だ。長くこの世界に留まれたものはいない」
「お前は死だな」とキルケは言った。
「いかにも。私は四騎士の中で死を担当している」
「また四騎士!?」とミアは驚く。だが、四騎士は「何故驚く」と言った。
「驚くことはない。四騎士と人間は深い関係にあり、それは罪同様切っても切り離せれるものではない。死は自然界なら当然として存在するもの。人が争うのは強欲故。しかし、人間に強欲を切り離すことは不可能。永遠に幸福に満たされることがないよう神が与えた罰だからだ。それは罪。強欲が誕生したと同時に戦争の騎士は誕生した。人間は必要以上に生に執着し死を恐れる。死を軽んじず恐れることは生存本能であるが、必要以上、本能以上に人は死を恐れ死を克服しようと不老不死を求める。哀れで滑稽ではないか。神を越えようというのか。生物の域を越えるか。小心者め。有限の中で生きようとしない愚かな生物は人間くらいだ。全く、怠惰だな。お前達の人生ならとっくに終わっている。それを続けようと抗うだけ無駄だ。私がそれを阻止する」
老人は大きな鎌を出現させた。死神の鎌だ。
「時(有限)が誕生した時、私は生まれた。お前達にとって、時は切っても切り離せれないだろ? それがなきゃ、お前達は時を歩めず、生きられないからな」
すると、ミアは呪文を唱えだした。
「簡単に諦めてたまるかよ」
しかし、ミアの呪文は反応を起こさなかった。
「また……」
「ほら、そうこうしているうちに少年はもう消えそうだぞ」
ハッとしてミアはエドの方を見ると、彼の両足か先から徐々に消えかけていた。
「エド!」
しかし、エドは痛みと戦っており、顔には苦痛の表情と大量の汗が流れていた。
すると今度はキルケが呪文を唱えだした。
「どうか光よ、答えて。もし、私の声が届いたなら反応して。そして、直ちに私達三人を救いなさい」
「それは人間語じゃない!」
「自然語でなくても呪文は使えるのよ」
キルケはそう言った直後に、光が答えた。
それに気づいた老人は慌てた。
「待て。行くな。勝手には許さんぞ」
しかし、老人の鎌が届く前に三人は瞬間的に消えてしまった。
◇◆◇◆◇
ミアが気づいた時には、森の中にいた。
土があり、木は立派に育っている。その周りの植物は禍々しくなく、魔力の影響を受けてはいなかった。いや、違う。
「ここ一帯、魔力が感じられない」
「それはそうよ。だって、ここはローレンスがつくり変えた世界なんだから」
「まさか、本当にそんなことが」
「私なら分かる。ローレンスならやりかねないわ。そういう男だから。それより厄介なことがあるわ」
「なによ」
キルケは自分についている枷を見た。
「私が死から脱出できここに来れたということは、ローレンスに伝わってしまった」
「服従の呪いね。それ、どうにかならならないの?」
「魔法の剣なら枷を破壊できるかも。でも、無理よ。魔法の剣はもうここにはない。あるのは、既に魔法の剣を手にした、ノアの箱舟の乗船者に選ばれし者だけ」
「なら、その人を探しましょう」
「彼はどうするの?」
キルケは地面で深い眠りについているエドに目線をやった。
「出血はなんとか止めたわ。今は眠っていた方がいい。傷は流石に残るけど」
「私がおぶっていくわ」
「あなたが?」
「弟子の時、よく丸太を運ばされたわ。魔法によっては鍛えることも必要だって言われてね」
「筋力?」
「呪文を唱えることばかりが魔法ではないわ」
「まぁ、それは知らないけど、今のあんたは魔法すら使えないじゃない」
「ええ……どうしてかしら」
「そりゃ、あんたには迷いがあるからさ。自分の力を信じられなくなったんだ。自然の言葉を覚えていても、あんたの言葉はもう届いちゃいないんだよ」
「私、魔法が本当に使えなくなったんだね」
「いいじゃない。どうせ、魔力のない世界だ。魔女はもうこの世界じゃただの人間だよ」
「そう言えばあなた、人間語で魔法を使っていたけど」
「忘れないで、私達は仲間じゃないのよ。ただ、目的があって一緒にいるの。あなたにそんな大事な話をするわけないじゃない」
それもそうだった。魔法の研究を簡単に無条件で教えるわけもない。私が逆の立場でもそうしていた。
「とにかく、行くわよ」とキルケは言う。
今はキルケに任せるしかなかった。
そんな世界に放り出されたのは、ミア以外にもキルケやエドがいる。しかし、エドはキマイラの爪により背中に傷を負っており、うつ伏せの状態でキルケが看病をしていた。
傷口に魔力の水を垂らし魔法を唱えている。
あのキマイラはというと、どこを見回してみても、その姿は見当たらなかった。
「ここはどこ?」
ミアが言うと、キルケは看病をしながら知っていることだけを答えた。
「忘れたの? 私達はローレンスによって消されたの。つまりここは」
「死後の世界」そう突然声がしたのは、ここにいる三人以外の老人の声だった。
キルケは「誰」と声をあげた。
現れたのは、白く濁った両目の老人だった。麦藁色の着物姿で杖無しで立ってる老人の目は明らかに失明していた。
「ここの世界については様々な呼び名がある。先程言った死の他に闇、虚無、そんな呼ばれ方もある。どれも正しいだろう。ここではなにも無い。だが、お前達はこうして『有る』わけだが、それは君達の生命力、生きたいという強い執着が未だこの世界で原形を留めている理由だろう。しかし、それも時間の問題だ。長くこの世界に留まれたものはいない」
「お前は死だな」とキルケは言った。
「いかにも。私は四騎士の中で死を担当している」
「また四騎士!?」とミアは驚く。だが、四騎士は「何故驚く」と言った。
「驚くことはない。四騎士と人間は深い関係にあり、それは罪同様切っても切り離せれるものではない。死は自然界なら当然として存在するもの。人が争うのは強欲故。しかし、人間に強欲を切り離すことは不可能。永遠に幸福に満たされることがないよう神が与えた罰だからだ。それは罪。強欲が誕生したと同時に戦争の騎士は誕生した。人間は必要以上に生に執着し死を恐れる。死を軽んじず恐れることは生存本能であるが、必要以上、本能以上に人は死を恐れ死を克服しようと不老不死を求める。哀れで滑稽ではないか。神を越えようというのか。生物の域を越えるか。小心者め。有限の中で生きようとしない愚かな生物は人間くらいだ。全く、怠惰だな。お前達の人生ならとっくに終わっている。それを続けようと抗うだけ無駄だ。私がそれを阻止する」
老人は大きな鎌を出現させた。死神の鎌だ。
「時(有限)が誕生した時、私は生まれた。お前達にとって、時は切っても切り離せれないだろ? それがなきゃ、お前達は時を歩めず、生きられないからな」
すると、ミアは呪文を唱えだした。
「簡単に諦めてたまるかよ」
しかし、ミアの呪文は反応を起こさなかった。
「また……」
「ほら、そうこうしているうちに少年はもう消えそうだぞ」
ハッとしてミアはエドの方を見ると、彼の両足か先から徐々に消えかけていた。
「エド!」
しかし、エドは痛みと戦っており、顔には苦痛の表情と大量の汗が流れていた。
すると今度はキルケが呪文を唱えだした。
「どうか光よ、答えて。もし、私の声が届いたなら反応して。そして、直ちに私達三人を救いなさい」
「それは人間語じゃない!」
「自然語でなくても呪文は使えるのよ」
キルケはそう言った直後に、光が答えた。
それに気づいた老人は慌てた。
「待て。行くな。勝手には許さんぞ」
しかし、老人の鎌が届く前に三人は瞬間的に消えてしまった。
◇◆◇◆◇
ミアが気づいた時には、森の中にいた。
土があり、木は立派に育っている。その周りの植物は禍々しくなく、魔力の影響を受けてはいなかった。いや、違う。
「ここ一帯、魔力が感じられない」
「それはそうよ。だって、ここはローレンスがつくり変えた世界なんだから」
「まさか、本当にそんなことが」
「私なら分かる。ローレンスならやりかねないわ。そういう男だから。それより厄介なことがあるわ」
「なによ」
キルケは自分についている枷を見た。
「私が死から脱出できここに来れたということは、ローレンスに伝わってしまった」
「服従の呪いね。それ、どうにかならならないの?」
「魔法の剣なら枷を破壊できるかも。でも、無理よ。魔法の剣はもうここにはない。あるのは、既に魔法の剣を手にした、ノアの箱舟の乗船者に選ばれし者だけ」
「なら、その人を探しましょう」
「彼はどうするの?」
キルケは地面で深い眠りについているエドに目線をやった。
「出血はなんとか止めたわ。今は眠っていた方がいい。傷は流石に残るけど」
「私がおぶっていくわ」
「あなたが?」
「弟子の時、よく丸太を運ばされたわ。魔法によっては鍛えることも必要だって言われてね」
「筋力?」
「呪文を唱えることばかりが魔法ではないわ」
「まぁ、それは知らないけど、今のあんたは魔法すら使えないじゃない」
「ええ……どうしてかしら」
「そりゃ、あんたには迷いがあるからさ。自分の力を信じられなくなったんだ。自然の言葉を覚えていても、あんたの言葉はもう届いちゃいないんだよ」
「私、魔法が本当に使えなくなったんだね」
「いいじゃない。どうせ、魔力のない世界だ。魔女はもうこの世界じゃただの人間だよ」
「そう言えばあなた、人間語で魔法を使っていたけど」
「忘れないで、私達は仲間じゃないのよ。ただ、目的があって一緒にいるの。あなたにそんな大事な話をするわけないじゃない」
それもそうだった。魔法の研究を簡単に無条件で教えるわけもない。私が逆の立場でもそうしていた。
「とにかく、行くわよ」とキルケは言う。
今はキルケに任せるしかなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる