魔法の剣とエド

アズ

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第二章 新世界

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 ミアの目の前に広がるのは、永遠に続く暗闇だった。寒さも暑さも感じず、風すらない。生物はおろか、植物の気配はなく、明かりがないせいで星星すら確認出来ない。むしろ、そこにはなにもない世界が広がっているようだ。
 そんな世界に放り出されたのは、ミア以外にもキルケやエドがいる。しかし、エドはキマイラの爪により背中に傷を負っており、うつ伏せの状態でキルケが看病をしていた。
 傷口に魔力の水を垂らし魔法を唱えている。
 あのキマイラはというと、どこを見回してみても、その姿は見当たらなかった。
「ここはどこ?」
 ミアが言うと、キルケは看病をしながら知っていることだけを答えた。
「忘れたの? 私達はローレンスによって消されたの。つまりここは」
「死後の世界」そう突然声がしたのは、ここにいる三人以外の老人の声だった。
 キルケは「誰」と声をあげた。
 現れたのは、白く濁った両目の老人だった。麦藁色むぎわらいろの着物姿で杖無しで立ってる老人の目は明らかに失明していた。
「ここの世界については様々な呼び名がある。先程言った死の他に闇、虚無、そんな呼ばれ方もある。どれも正しいだろう。ここではなにも無い。だが、お前達はこうして『有る』わけだが、それは君達の生命力、生きたいという強い執着が未だこの世界で原形を留めている理由だろう。しかし、それも時間の問題だ。長くこの世界に留まれたものはいない」
「お前は死だな」とキルケは言った。
「いかにも。私は四騎士の中で死を担当している」
「また四騎士!?」とミアは驚く。だが、四騎士は「何故驚く」と言った。
「驚くことはない。四騎士と人間は深い関係にあり、それは罪同様切っても切り離せれるものではない。死は自然界なら当然として存在するもの。人が争うのは強欲故。しかし、人間に強欲を切り離すことは不可能。永遠に幸福に満たされることがないよう神が与えた罰だからだ。それは罪。強欲が誕生したと同時に戦争の騎士は誕生した。人間は必要以上に生に執着し死を恐れる。死を軽んじず恐れることは生存本能であるが、必要以上、本能以上に人は死を恐れ死を克服しようと不老不死を求める。哀れで滑稽ではないか。神を越えようというのか。生物の域を越えるか。小心者め。有限の中で生きようとしない愚かな生物は人間くらいだ。全く、怠惰だな。お前達の人生ならとっくに終わっている。それを続けようと抗うだけ無駄だ。私がそれを阻止する」
 老人は大きな鎌を出現させた。死神の鎌だ。
「時(有限)が誕生した時、私は生まれた。お前達にとって、時は切っても切り離せれないだろ? それがなきゃ、お前達は時を歩めず、生きられないからな」
 すると、ミアは呪文を唱えだした。
「簡単に諦めてたまるかよ」
 しかし、ミアの呪文は反応を起こさなかった。
「また……」
「ほら、そうこうしているうちに少年はもう消えそうだぞ」
 ハッとしてミアはエドの方を見ると、彼の両足か先から徐々に消えかけていた。
「エド!」
 しかし、エドは痛みと戦っており、顔には苦痛の表情と大量の汗が流れていた。
 すると今度はキルケが呪文を唱えだした。
「どうか光よ、答えて。もし、私の声が届いたなら反応して。そして、直ちに私達三人を救いなさい」
「それは人間語じゃない!」
「自然語でなくても呪文は使えるのよ」
 キルケはそう言った直後に、光が答えた。
 それに気づいた老人は慌てた。
「待て。行くな。勝手には許さんぞ」
 しかし、老人の鎌が届く前に三人は瞬間的に消えてしまった。



◇◆◇◆◇



 ミアが気づいた時には、森の中にいた。
 土があり、木は立派に育っている。その周りの植物は禍々しくなく、魔力の影響を受けてはいなかった。いや、違う。
「ここ一帯、魔力が感じられない」
「それはそうよ。だって、ここはローレンスがつくり変えた世界なんだから」
「まさか、本当にそんなことが」
「私なら分かる。ローレンスならやりかねないわ。そういう男だから。それより厄介なことがあるわ」
「なによ」
 キルケは自分についている枷を見た。
「私が死から脱出できここに来れたということは、ローレンスに伝わってしまった」
「服従の呪いね。それ、どうにかならならないの?」
「魔法の剣なら枷を破壊できるかも。でも、無理よ。魔法の剣はもうここにはない。あるのは、既に魔法の剣を手にした、ノアの箱舟の乗船者に選ばれし者だけ」
「なら、その人を探しましょう」
「彼はどうするの?」
 キルケは地面で深い眠りについているエドに目線をやった。
「出血はなんとか止めたわ。今は眠っていた方がいい。傷は流石に残るけど」
「私がおぶっていくわ」
「あなたが?」
「弟子の時、よく丸太を運ばされたわ。魔法によっては鍛えることも必要だって言われてね」
「筋力?」
「呪文を唱えることばかりが魔法ではないわ」
「まぁ、それは知らないけど、今のあんたは魔法すら使えないじゃない」
「ええ……どうしてかしら」
「そりゃ、あんたには迷いがあるからさ。自分の力を信じられなくなったんだ。自然の言葉を覚えていても、あんたの言葉はもう届いちゃいないんだよ」
「私、魔法が本当に使えなくなったんだね」
「いいじゃない。どうせ、魔力のない世界だ。魔女はもうこの世界じゃただの人間だよ」
「そう言えばあなた、人間語で魔法を使っていたけど」
「忘れないで、私達は仲間じゃないのよ。ただ、目的があって一緒にいるの。あなたにそんな大事な話をするわけないじゃない」
 それもそうだった。魔法の研究を簡単に無条件で教えるわけもない。私が逆の立場でもそうしていた。
「とにかく、行くわよ」とキルケは言う。
 今はキルケに任せるしかなかった。
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