魔法の剣とエド

アズ

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第一章 魔法の剣

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「無理です、師匠」
「焦らなくていい。今日はこれくらいにしておこうか」
 二人の前には首輪で繋がれた青い炎を纏った狼が今にも襲いかかりそうな勢いで牙を出していた。
「師匠、私にはできると思いません。動物と魔法生物じゃ違うもの」
「まだ、お前は魔法生物の声が聞こえてないだけだ。今はな」
 師匠はそう言ったが、それはまるでいずれは自分は魔法生物と話せることが確定しているような言い方だった。
「出来なかったら?」
 聞きたくない質問だった。捨てられたらどうしようという不安がずっと胸の中にあった。
「言われた通り続けるんだ。余計な考えは必要ないよ」
「でも、分からないでしょ? 私ができるか」
「それは問題ない」
「へ?」
「占いの魔法を使ったからね」
「占い……」
「お前にも教えてやろう」



 雪山の小さな屋根は石造りで、赤い三角屋根に煙突があるのが特徴的な家だった。
 ずっと外は寒さが続く為、暖をとるために暖炉があると、ここに来た時は思っていた。
 だが、魔女は寒さや暑さを然程感じなくなるのだ。魔女は元は人間だ。今も人間と言う者もいるだろうが、魔女が普通の人と違うのはやはり、歳をとらないことだろう。
 魔法は長い時間研究をし新しい魔法の発明に至る。
 その点で言えば科学に近い。しかし、科学者というのは、魔女程に長くは生きられない。だから、研究は誰かが引き継がれ、その研究は色んな人に渡って発明へと至る。
 魔女は科学者と違い人数に大きな差がある。それに、魔女は基本的に集団行動をとらない。各々が得意とする魔法の研究に没頭した。
 この大地へは、魔女以外にも人間が訪れることがある。旅人と呼ばれる人達だ。彼らは、4つ目の山にある魔法の剣を目指している。だが、大抵は凶暴な魔法生物によって餌になっていた。
 無事に山を越えるのは大変だろう。中には魔女を探して頼る者もいたが、魔女は旅人に協力することはなかった。
 師匠も、旅人を助けたりはしなかった。
 彼らは旅人であって人間なのだ。魔女のように自然を守る使命がない。彼らのせいで、沢山の自然が奪われた。この大地の外では未だ戦争が行われている。
 だから、魔女は彼らに手を貸すことはなかった。
 私は毎日、呪文が書かれてある分厚く古い本を広げてはそれを暗記していた。
 師匠は私のそばでその様子を見ながら、薬草を細かく刻んでいた。
「お前は才能はないかもしれないが、呪文を覚えるのは他より早いようだ」
「師匠、呪文ってなんですか? 魔法を発動させる為の言葉なんですよね」
「昔ね、火や水や風などの自然と会話できる魔女がいたんだ。その魔女が他の魔女にも分かるように残したのがそれだ」
「その魔女はどうしたのですか?」
「最後にその魔女はしてはならないことをしてしまったのだ。踏み入れてはいけない領域だよ。その後にそれは禁忌となった。その魔女は最後に『死』と会話したのだ」
「死?」
「死は魔女に気づき、その時魔女は過ちに気づいたが遅かった。死は魔女を追いかけ、隠れようとも必ず見つけ出した。結局、その魔女は死によって連れ去られてしまったのだ……魔法はね、危険なことが沢山あるんだ。魔法について探究心を持つのは結構だが、出来ないことぐらいは自分で見極めなきゃいけない」
「はい、師匠」
 私はそう言って目線を本に戻した。



◇◆◇◆◇



 師匠との暮らしは楽しかった。私はゆっくりとではあったが、使える魔法を増やしていった。
 だが、一向に出来ないものもあった。それが、魔法生物との会話だった。
「師匠、あの狼は何故燃えているのに灰にならないのですか?」
「ああ、それはあの生き物にとって火は害じゃないんだろう。あの生物にとって火は一部みたいなもので、我々のように火傷を負ったりはしない。自然だってそうだ。人間に牙を向くが、同時に人間に与えているものがある。土があり、水があることで、種は育つ。自然はこの世に生きる生物にギフトをもたらす。だが、それがなんなのか人間は全てを把握できていない。それを知らずして人間は環境を破壊していった。この星は怒っているだろう。人間はなんとかして異常気象をどうにかできないものか考えているようだが、人間の思うようにコントロールできるほど自然の規模は小さくない。人間は滅びるべき種族なのかもしれない。だが、人間は滅びるべきだと神に言われたとしても簡単には滅びん。抗うさ。無謀であれ、例え神が相手だろうと」
 師匠もこれまで行ってきた人間の行いに怒っているようだった。だが、師匠も人間だった。魔女であれ、人である。
 いくら、自然を守ろうと愛そうと、同じ人間が一方で自然を破壊していたのは間違いようがない事実だ。
 人間は過ちを犯した。それはまさに禁忌だ。取り返すことは不可能。それでも諦めが悪いのが人間だ。
 外の世界では平和を訴える民衆がいた。中には家族を敵で失った者もいるだろう。それでも彼らは戦争をやめるべきだと言い続けている。
 私の父は戦場で亡くなった。遺体すら戻ってくることはなかった。そんな余裕なんて戦場にはなかったと怒鳴られた母の顔を思い出す。
 母は私を育てる余裕はなかった。
 母は魔女に私を託すことにした。私はそんな母を恨んだことは一度もない。
 寂しいが、母の為だと思った。
 だが、母と離れようと思い出はいつも自分のそばにあった。
 母が私に子守唄を歌ったあの曲を忘れることはない。私にとってそれは、私だけの思い出のまじないだった。
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