魔法の剣とエド

アズ

文字の大きさ
上 下
24 / 47
第一章 魔法の剣

23

しおりを挟む
「あの巨大な鳥がこっちに来るぞ! なんとかしろ!」
「こっちはあんた達を飛ばしているのに必死なんだよ!」
 サイモンは慌てて腰にあるピストルを抜き、巨大な鳥に向かって発砲した。しかし、届く筈もない。
「な、なんとか逃げろ!」
 三人は燃える山に向かいながら、飛んでくる巨大な鳥から距離をとろうとするも、あの巨大な鳥の方がスピードがあり、徐々に距離が縮まっていく。
「ああ、ダメだ!!」
「勝手に決めつけるな!」
 ミアは弱音を吐くサイモンに吠えた。
 燃える山に近づくにつれ、暑く感じる。
 よく見ると、山の様子がおかしい。なにか、嫌な音がするのだ。
「ねぇ、ミア! なんか変だよ、あの山」
 ミアは「まさか!」と叫ぶ。
「火山にもレベルがある。最大レベルの噴火が起きようとしてるんだ」
「それってどれぐらいやばいの?」
「気温が5度以上下がるぐらいに」
「そんなに!?」
「なんで今、そんな噴火が起きそうなんだよ」とサイモンは言った。
 サイモンの言う通り今のタイミングというのはミアもおかしいと感じていた。
 あの山が最大レベルで大噴火を起こしたのは人間がまだ誕生していない年数になる。あれからは、あの山が大噴火を起こしたことはない。
 日常的な噴火を起こすこの山にとって、魔女や旅人にとっては今までの噴火など珍しい光景ではない。それはここ以外の山でも日常的な噴火をしている山があるぐらいだ。
 無論、日常的だからといって油断してはならないこともある。
 それがこの山だった。大噴火で温暖化にブレーキをかけ不作となった事例がある山が実在するように、この山の大噴火がもたらす影響もそれに達すると言われている。無論、その近くにいれば我々だって無事ではすまされない。
 山は自然界でも恐ろしものだ。単に雪山で遭難させたり、雪崩を起こすだけが山の脅威ではないのだ。
「ミアの魔法で噴火をどうにかすることは出来ないの」
 エドは思いつきで提案した。それを聞いていたサイモンは答えを知っていた。エドが知らないのは無理もなかった。ちゃんと教育を受ける環境に今の子どもらにはなかったからだ。
「魔法じゃ無理よ」
「そんな!」
「少年、火山についてはいくら人間の科学が進歩したからといってもまだまだ解明できていないことはあるし、コントロールできる科学はないんだ。大噴火ってなると、そりゃ莫大なエネルギーってことだ。その巨大なエネルギーに対抗するには、此方もそれなりのエネルギーを必要とする。噴火を止めることは人間の科学では出来ないんだ。コントロールでさえな。それは魔法も同じことだろう。魔法という言葉を聞くと、便利な道具と考えちまう奴もいるが、なんでもできるわけじゃない。そうだろ、ミア?」
「ええ、そうよ」
 目の前には大噴火を今にも起こしそうな山、後方には巨大生物が三人を挟み撃ちにしている。
 鳥をどうにかしたところで、噴火を止められなければまず助からない。
 突如、巨大生物が方向を変え、山の頂上へ向かって飛び始めた。
「あの鳥、どうするつもりだ!?」
 サイモンは驚いた。
 あの鳥も山の異変に気づいたのだろう。だが、そうであれば山から遠ざかるものだ。なのに、真逆のことを……何故?
 しかし、ミアはあの鳥の今からやろうとしていることを理解したのか、涙を流していた。
 何故、僕らを襲っていたあの生物に涙を流せるのか。
 その時、僅かにミアの小さな声が聞こえた。
「……行ってしまうのね」
 それはとても悲しそうな声だった。悲痛な叫びのように。まさか、あの鳥に言っているのか!?
 あの巨大生物は噴火口の真上にきて、翼を広げ、蓋をするかのように噴火口を塞いだのだ。
 そして、あの生物が持っている魔力をもって、あの山の怒りをおさえようとしていた。
 直後、白い光りが三人の視界を襲い、耳鳴りで聴覚を奪った。
 朦朧とする意識は三人をそのまま夢の中へと導いていった。



◇◆◇◆◇



 ミアは夢をみていた。
 自分の目の前には老婆がいた。山姥と違い優しい目をした老婆だ。灰色の目をしており、髪は美しい雪のような白い髪だった。ミアはそれが好きだった。
「お前を魔女の弟子にするのを反対する魔女がいるが、私はお前を弟子にすると決めた」
 老婆は魔女だった。そして、私の師匠だ。
 私はこの人から魔法を教わり、自然を学んだ。
 魔女にとって自然の知識は重要だった。それだけ、魔女にとって魔法を使うのに自然が重要な意味を持つということだ。
「どうして師匠は私を弟子としてとってくれるんですか? 他の魔女は反対してるんですよね」
「魔女はずっと使い魔を持たない。昔はいたんだ。だが、ある時をさかいに魔女は動物と会話が出来なくなった。それは自然を守る役目である魔女にとって致命的だ」
「魔女は動物とお話できないんですか」
「そうだ。魔女は昔、やってはならない禁忌を犯したのだ。ミアよ、禁忌を犯せば取り返すことは不可能だ。だから、禁忌なのだ。そのこと、絶対に忘れるでないぞ」
「はい」



◇◆◇◆◇



 ミアはゆっくりと目を開けた。いつの間にか眠っていた。体は痛いが、地面が柔らかい場所に墜落したようで、大きな怪我には至っていなかった。
 腕と足が擦りむいて血が出てはいるが。
 まだ、耳は元に戻らない。時間がかかりそうだ。
 山の天辺を見ると、巨大な鳥は燃えていた。
「起きたか」
 そう言ったのはサイモンだった。近くにいたエドはまだ意識を失っていた。どうやら彼が先に目覚めたようだ。
「あの鳥に感謝しなきゃな」
「全ての魔力で噴火をおさえていた。自らを犠牲にして、あの鳥は最後まで守り主としての役目を果たしたのよ。おかげで、山の怒りはあの生物の死をもっておさまった」
「……なんでそんな悲しそうなんだ」
「あの噴火は自然ではなかった」
「なんだって!?」
「意識を失う前、魔法を使用したあとに出る魔力痕を感じた。あなたの言う通り確かに魔法では噴火は止められないわ。でも噴火を引き起こすなら話は別よ」
「まさか……」
「噴火に水は大きな関係を持つわ。その水は汚れがない。この土地の持つ水なのだから。これは、誰かの仕業よ」
「どうしてそんな馬鹿なことをする奴がいるんだ」
「決まってるでしょ。あの巨大生物を始末する為に。こうなることを誰かが計算し実行に移した」
「一歩間違えれば死んでいたかもしれないのにか」
「人間はいつだって傲慢で愚かよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜

HY
ファンタジー
主人公は伯爵子息[レインズ・ウィンパルト]。 国内外で容姿端麗、文武両道と評判の好青年。 戦場での活躍、領地経営の手腕、その功績と容姿で伯爵位ながら王女と婚約し、未来を約束されていた。 しかし、そんな伯爵家を快く思わない政敵に陥れられる。 政敵の謀った事故で、両親は意識不明の重体、彼自身は片腕と片目を失う大ケガを負ってしまう。 その傷が元で王女とは婚約破棄、しかも魔族が統治する森林『大魔森林』と接する辺境の地への転封を命じられる。 自身の境遇に絶望するレインズ。 だが、ある事件をきっかけに再起を図り、世界を旅しながら、領地経営にも精を出すレインズ。 その旅の途中、他国の王女やエルフの王女達もレインズに興味を持ち出し…。 魔族や他部族の力と、自分の魔力で辺境領地を豊かにしていくレインズ。 そしてついに、レインズは王国へ宣戦布告、王都へ攻め登る! 転封伯爵子息の国盗り物語、ここに開幕っ!

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

姫君は、鳥籠の色を問う

小槻みしろ
ファンタジー
「時が何を運ぶかなんて、誰にもわからない、僕も知らない。けれどね、可愛い子、お前はいつか知る時が来る。それだけは、僕にもわかっているんだよ。」 ネヴァエスタは、一度迷い込んだら出られない、魔性の森。 ラルはそのネヴァエスタで、青年・シルヴィアスと共に穏やかに暮らしていた。 しかし16の歳、ラルは闖入者に強引に攫われる。 ラルを攫った者たちは、口々に言った。 「お待ち申しておりました、姫」 流行病や不可思議な死により世継ぎを次々失ったカルデニェーバ王国の、最後の希望だと。 そして、シルヴィアスが、ラルを攫い隠した大罪人であると―― 自分は何者なのか? 自分は王となるのか? ――シルヴィアスは本当に自分を攫ったのか? ――何故? シルヴィアスにもう一度会いたい。 その為にラルは、自分を攫った一行と王都を目指す旅にでる。 乱暴ながら腕の立つアーグゥイッシュ。 紳士的ながら読めないエレンヒル。 明朗快活なエルガと、知者のジアン。 人間に虐げられながら生きる獣人たち―― 初めて知る外の世界と、多くの出会いに、ラルの世界は、大きくひらけていく。 また王宮では、マルフィウスとフォクスラゴーナ、二大貴族の権力争いが繰り広げられていた。 世継ぎ騒動に、貴族の陰謀。 全てが終わるとき、ラルのくだす決断とは――

処理中です...