12 / 47
第一章 魔法の剣
11
しおりを挟む
家の中は暖かかった。入って直ぐに見えるのは大きなテーブルに、奥には棚とその中には沢山の瓶が並んでおり、瓶には薬草だと思われるものが入っていた。
「誰だい?」
しゃがれた女性の声でそう聞いてきたので振り向くと、本当に白髪の老婆がグツグツ煮えたぎる黒い鍋のそばに立っていた。
まさに魔女のようだ。
「誰だと聞いたんだが、聞こえなかったのかい? それとも口がきけないのかい?」
「あ、いえ……僕はエドと言います」
「エド……随分若いもんが迷いこんだもんだねぇ」
「あの……」
「いちいち言わなくても分かってるよ。イエティから逃げてきたんだね」
「あ、はい。そうです」
「ここに逃げ込めたのは運が良かったんだね。でなきゃ、霧の森で迷子になっているかイエティに殺されてたね。この森の木はじっとはしてくれないさ。魔法でこの森は動いているのさ。まぁ、当然だね。この森は生きているから」
「生きている?」
妙な表現だった為、エドは老婆に聞いた。
「ああ、そうさね。この大地の森以外に生きている森はあるかい? ほとんどは枯れ、人間によって太古からある木は切り倒されてきた。神が住み着いていない森なんて森とは呼べんよ。太古の神は滅んでしまった。いくら森を蘇らそうとしても滅んだものは蘇らない」
「この森に神が住み着いているのですか!?」
「神は今の人間にはちと見分けがつかんだろうね。神は自然に溶け込んでいるし、大きな動物でもあったんだ。イエティはね、ここの自然を守る守護者だよ。人間がこの残された自然を汚さないようガーディアンとして君臨している。人間にとっては怪物に見えても、イエティはこの森や自然を人間のように破壊したりはしない。さて、どっちが悪党なんだろうね」
「……」
「イエティは不死身なんかじゃない。この自然がなくなれば、イエティは存在意義を失い、奴自身も消失するだろう。この大地が太古のままであり続ける限り、イエティは存在する。イエティを殺そうと人間は挑み武器を向けてきた。イエティがどんな役割かを知らずにね。お前もその一人だろ、坊や」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。皆、知らないのさ。知らずして、後悔する。それが人間なのさ」
「お婆さんは魔女なんですか?」
「なんだね、急に。私を魔女呼ばわりかい」
「いや、ごめ」
「そうさね。私が魔女さ」
「え!?」
「しかし、魔女と言ってもほとんどの人間は知らんだろうね。世界で魔女はもう私くらいさ。この大地以外では魔女も活動できないだろうし」
「魔女ってことは魔法が使えるんですか」
「魔法というのはね、水が欠かせないんだよ。その鍋の中を覗いてごらん。食ったりはしないから」
そう言われると余計こわいのだが…… 。
エドは恐る恐る近づき鍋を覗いた。そこには薄緑色がグツグツ鳴っている。
「それは薬草をすり潰し、煮込んだものさ。他にも植物の中にある水分を取り出したり、雪を溶かしてそれを水にしている。だが、雪を溶かした水は魔法としては使えない。いいかい、この大地はまだ魔法があってもこの上の空は汚れているのさ。空にも、神は存在したのさ。しかし、人間の長きに渡る戦で、空気は汚れ、神は姿を消した。だから、雪の水は汚れている。魔法にとって水は不可欠だ。だが、汚れのない水でなければ効力は発揮しない。教会で神父さんが聖水を使うだろ? その聖水は不思議な効力をもたらした。しかし、それは神父さんの日々の修行やお祈りからではない。その水が特別だからなんだ。しかし、今の世界、ほとんど水は汚れてしまった。いくら科学で綺麗にしたところで、その水に魔法は宿らない。海までもが汚れてしまったのだ。この大地からとれる地下水ならば、まだ汚れはしていないがそれは貴重過ぎて、普段は使わないのだ」
「僕はてっきり魔女というのは杖を使って魔法を使うものだと思っていました」
「いや、原理は魔法の剣と同じ大地から魔力を吸い上げ杖に魔力を宿らせるのさ。しかし、杖で魔法を使う魔女なんて私は見なかったけどね。それより、あんたその若さで旅人かい?」
「はい」
「こりゃまた若いもんが来たもんだ。それじゃ、先へ行きたいんだね?」
「はい。ですが」
「イエティだね。あれは夜は活動しないんだよ」
「そうなんですか!?」
「だが、夜になると門は閉ざされる。具体的には日中にしか門は現れないのさ」
「そんな!」
「しかし、私なら案内できる。どうする? ついてくるかい?」
「誰だい?」
しゃがれた女性の声でそう聞いてきたので振り向くと、本当に白髪の老婆がグツグツ煮えたぎる黒い鍋のそばに立っていた。
まさに魔女のようだ。
「誰だと聞いたんだが、聞こえなかったのかい? それとも口がきけないのかい?」
「あ、いえ……僕はエドと言います」
「エド……随分若いもんが迷いこんだもんだねぇ」
「あの……」
「いちいち言わなくても分かってるよ。イエティから逃げてきたんだね」
「あ、はい。そうです」
「ここに逃げ込めたのは運が良かったんだね。でなきゃ、霧の森で迷子になっているかイエティに殺されてたね。この森の木はじっとはしてくれないさ。魔法でこの森は動いているのさ。まぁ、当然だね。この森は生きているから」
「生きている?」
妙な表現だった為、エドは老婆に聞いた。
「ああ、そうさね。この大地の森以外に生きている森はあるかい? ほとんどは枯れ、人間によって太古からある木は切り倒されてきた。神が住み着いていない森なんて森とは呼べんよ。太古の神は滅んでしまった。いくら森を蘇らそうとしても滅んだものは蘇らない」
「この森に神が住み着いているのですか!?」
「神は今の人間にはちと見分けがつかんだろうね。神は自然に溶け込んでいるし、大きな動物でもあったんだ。イエティはね、ここの自然を守る守護者だよ。人間がこの残された自然を汚さないようガーディアンとして君臨している。人間にとっては怪物に見えても、イエティはこの森や自然を人間のように破壊したりはしない。さて、どっちが悪党なんだろうね」
「……」
「イエティは不死身なんかじゃない。この自然がなくなれば、イエティは存在意義を失い、奴自身も消失するだろう。この大地が太古のままであり続ける限り、イエティは存在する。イエティを殺そうと人間は挑み武器を向けてきた。イエティがどんな役割かを知らずにね。お前もその一人だろ、坊や」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。皆、知らないのさ。知らずして、後悔する。それが人間なのさ」
「お婆さんは魔女なんですか?」
「なんだね、急に。私を魔女呼ばわりかい」
「いや、ごめ」
「そうさね。私が魔女さ」
「え!?」
「しかし、魔女と言ってもほとんどの人間は知らんだろうね。世界で魔女はもう私くらいさ。この大地以外では魔女も活動できないだろうし」
「魔女ってことは魔法が使えるんですか」
「魔法というのはね、水が欠かせないんだよ。その鍋の中を覗いてごらん。食ったりはしないから」
そう言われると余計こわいのだが…… 。
エドは恐る恐る近づき鍋を覗いた。そこには薄緑色がグツグツ鳴っている。
「それは薬草をすり潰し、煮込んだものさ。他にも植物の中にある水分を取り出したり、雪を溶かしてそれを水にしている。だが、雪を溶かした水は魔法としては使えない。いいかい、この大地はまだ魔法があってもこの上の空は汚れているのさ。空にも、神は存在したのさ。しかし、人間の長きに渡る戦で、空気は汚れ、神は姿を消した。だから、雪の水は汚れている。魔法にとって水は不可欠だ。だが、汚れのない水でなければ効力は発揮しない。教会で神父さんが聖水を使うだろ? その聖水は不思議な効力をもたらした。しかし、それは神父さんの日々の修行やお祈りからではない。その水が特別だからなんだ。しかし、今の世界、ほとんど水は汚れてしまった。いくら科学で綺麗にしたところで、その水に魔法は宿らない。海までもが汚れてしまったのだ。この大地からとれる地下水ならば、まだ汚れはしていないがそれは貴重過ぎて、普段は使わないのだ」
「僕はてっきり魔女というのは杖を使って魔法を使うものだと思っていました」
「いや、原理は魔法の剣と同じ大地から魔力を吸い上げ杖に魔力を宿らせるのさ。しかし、杖で魔法を使う魔女なんて私は見なかったけどね。それより、あんたその若さで旅人かい?」
「はい」
「こりゃまた若いもんが来たもんだ。それじゃ、先へ行きたいんだね?」
「はい。ですが」
「イエティだね。あれは夜は活動しないんだよ」
「そうなんですか!?」
「だが、夜になると門は閉ざされる。具体的には日中にしか門は現れないのさ」
「そんな!」
「しかし、私なら案内できる。どうする? ついてくるかい?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜
HY
ファンタジー
主人公は伯爵子息[レインズ・ウィンパルト]。
国内外で容姿端麗、文武両道と評判の好青年。
戦場での活躍、領地経営の手腕、その功績と容姿で伯爵位ながら王女と婚約し、未来を約束されていた。
しかし、そんな伯爵家を快く思わない政敵に陥れられる。
政敵の謀った事故で、両親は意識不明の重体、彼自身は片腕と片目を失う大ケガを負ってしまう。
その傷が元で王女とは婚約破棄、しかも魔族が統治する森林『大魔森林』と接する辺境の地への転封を命じられる。
自身の境遇に絶望するレインズ。
だが、ある事件をきっかけに再起を図り、世界を旅しながら、領地経営にも精を出すレインズ。
その旅の途中、他国の王女やエルフの王女達もレインズに興味を持ち出し…。
魔族や他部族の力と、自分の魔力で辺境領地を豊かにしていくレインズ。
そしてついに、レインズは王国へ宣戦布告、王都へ攻め登る!
転封伯爵子息の国盗り物語、ここに開幕っ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
姫君は、鳥籠の色を問う
小槻みしろ
ファンタジー
「時が何を運ぶかなんて、誰にもわからない、僕も知らない。けれどね、可愛い子、お前はいつか知る時が来る。それだけは、僕にもわかっているんだよ。」
ネヴァエスタは、一度迷い込んだら出られない、魔性の森。
ラルはそのネヴァエスタで、青年・シルヴィアスと共に穏やかに暮らしていた。
しかし16の歳、ラルは闖入者に強引に攫われる。
ラルを攫った者たちは、口々に言った。
「お待ち申しておりました、姫」
流行病や不可思議な死により世継ぎを次々失ったカルデニェーバ王国の、最後の希望だと。
そして、シルヴィアスが、ラルを攫い隠した大罪人であると――
自分は何者なのか?
自分は王となるのか?
――シルヴィアスは本当に自分を攫ったのか?
――何故?
シルヴィアスにもう一度会いたい。
その為にラルは、自分を攫った一行と王都を目指す旅にでる。
乱暴ながら腕の立つアーグゥイッシュ。
紳士的ながら読めないエレンヒル。
明朗快活なエルガと、知者のジアン。
人間に虐げられながら生きる獣人たち――
初めて知る外の世界と、多くの出会いに、ラルの世界は、大きくひらけていく。
また王宮では、マルフィウスとフォクスラゴーナ、二大貴族の権力争いが繰り広げられていた。
世継ぎ騒動に、貴族の陰謀。
全てが終わるとき、ラルのくだす決断とは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる