魔法の剣とエド

アズ

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第一章 魔法の剣

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 家の中は暖かかった。入って直ぐに見えるのは大きなテーブルに、奥には棚とその中には沢山の瓶が並んでおり、瓶には薬草だと思われるものが入っていた。
「誰だい?」
 しゃがれた女性の声でそう聞いてきたので振り向くと、本当に白髪の老婆がグツグツ煮えたぎる黒い鍋のそばに立っていた。
 まさに魔女のようだ。
「誰だと聞いたんだが、聞こえなかったのかい? それとも口がきけないのかい?」
「あ、いえ……僕はエドと言います」
「エド……随分若いもんが迷いこんだもんだねぇ」
「あの……」
「いちいち言わなくても分かってるよ。イエティから逃げてきたんだね」
「あ、はい。そうです」
「ここに逃げ込めたのは運が良かったんだね。でなきゃ、霧の森で迷子になっているかイエティに殺されてたね。この森の木はじっとはしてくれないさ。魔法でこの森は動いているのさ。まぁ、当然だね。この森は生きているから」
「生きている?」
 妙な表現だった為、エドは老婆に聞いた。
「ああ、そうさね。この大地の森以外に生きている森はあるかい? ほとんどは枯れ、人間によって太古からある木は切り倒されてきた。神が住み着いていない森なんて森とは呼べんよ。太古の神は滅んでしまった。いくら森を蘇らそうとしても滅んだものは蘇らない」
「この森に神が住み着いているのですか!?」
「神は今の人間にはちと見分けがつかんだろうね。神は自然に溶け込んでいるし、大きな動物でもあったんだ。イエティはね、ここの自然を守る守護者だよ。人間がこの残された自然を汚さないようガーディアンとして君臨している。人間にとっては怪物に見えても、イエティはこの森や自然を人間のように破壊したりはしない。さて、どっちが悪党なんだろうね」
「……」
「イエティは不死身なんかじゃない。この自然がなくなれば、イエティは存在意義を失い、奴自身も消失するだろう。この大地が太古のままであり続ける限り、イエティは存在する。イエティを殺そうと人間は挑み武器を向けてきた。イエティがどんな役割かを知らずにね。お前もその一人だろ、坊や」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。皆、知らないのさ。知らずして、後悔する。それが人間なのさ」
「お婆さんは魔女なんですか?」
「なんだね、急に。私を魔女呼ばわりかい」
「いや、ごめ」
「そうさね。私が魔女さ」
「え!?」
「しかし、魔女と言ってもほとんどの人間は知らんだろうね。世界で魔女はもう私くらいさ。この大地以外では魔女も活動できないだろうし」
「魔女ってことは魔法が使えるんですか」
「魔法というのはね、水が欠かせないんだよ。その鍋の中を覗いてごらん。食ったりはしないから」
 そう言われると余計こわいのだが…… 。
 エドは恐る恐る近づき鍋を覗いた。そこには薄緑色がグツグツ鳴っている。
「それは薬草をすり潰し、煮込んだものさ。他にも植物の中にある水分を取り出したり、雪を溶かしてそれを水にしている。だが、雪を溶かした水は魔法としては使えない。いいかい、この大地はまだ魔法があってもこの上の空は汚れているのさ。空にも、神は存在したのさ。しかし、人間の長きに渡る戦で、空気は汚れ、神は姿を消した。だから、雪の水は汚れている。魔法にとって水は不可欠だ。だが、汚れのない水でなければ効力は発揮しない。教会で神父さんが聖水を使うだろ? その聖水は不思議な効力をもたらした。しかし、それは神父さんの日々の修行やお祈りからではない。その水が特別だからなんだ。しかし、今の世界、ほとんど水は汚れてしまった。いくら科学で綺麗にしたところで、その水に魔法は宿らない。海までもが汚れてしまったのだ。この大地からとれる地下水ならば、まだ汚れはしていないがそれは貴重過ぎて、普段は使わないのだ」
「僕はてっきり魔女というのは杖を使って魔法を使うものだと思っていました」
「いや、原理は魔法の剣と同じ大地から魔力を吸い上げ杖に魔力を宿らせるのさ。しかし、杖で魔法を使う魔女なんて私は見なかったけどね。それより、あんたその若さで旅人かい?」
「はい」
「こりゃまた若いもんが来たもんだ。それじゃ、先へ行きたいんだね?」
「はい。ですが」
「イエティだね。あれは夜は活動しないんだよ」
「そうなんですか!?」
「だが、夜になると門は閉ざされる。具体的には日中にしか門は現れないのさ」
「そんな!」
「しかし、私なら案内できる。どうする? ついてくるかい?」
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