魔法の剣とエド

アズ

文字の大きさ
上 下
10 / 47
第一章 魔法の剣

09

しおりを挟む
 父は冒険家だった。その前は兵士として国に尽くしていた。しかし、戦争もなくなれば、兵士としての仕事もなくなる。戦争時はほとんどが志願兵で、父もそうだったが、その後の仕事先に父同様男性は困ったという。特に若いうちから戦争に出ていたものはろくに学校教育というものを受けてはこなかった世代となる。国の為に尽くした男達が戦争が終わると露頭に迷う。そんなことがあってはならないと、政府もそれなりに救済措置を行ってきた。それが約2年だ。それが終わると、いよいよ生活に困るわけだが、父はお金にはあまり執着するような人ではなかった。自給自足暮らしなら父一人、十分にできた人だ。冒険家となり、あちこちへ旅をする道中、エドの母親にあたる女性に出会う。それから二人は結ばれ、自分が生まれることになる。
 母の死後、とりつかれるかのように未だ現存する魔法の地へ旅立つ為、日々鍛えていた。
 自分は父の真似をするかのように隣で一緒に鍛えることもあった。
 最終的に、父は全ての山を制覇出来なかった。そんな過酷な旅に自分は本当に達成できるのかという不安がなかったわけではない。それでも、父を越えたい自分にとっては、既に亡き父に勝つ方法は父が達成出来なかったことを成し遂げることしか思いつかなかった。
 男子にとって父の背中は壁であり、山であり、のり越えたい存在なのだ。



◇◆◇◆◇



 エドは足音のする方角から隠れるように木の影に隠れた。
 徐々に足音が大きくなるにつれ、その正体があらわになる。
 それは目撃情報通り巨体で、白い毛が全身を覆っており、両手の五本の爪は黒色をしていた。
 イエティの顔は何故かエドのいる方角を向いている。
 すると「ウォォォ!!」と声を張り上げると、突然走り出した。
 視覚で僕の居場所が知れたのではない。エドは咄嗟に頭をフル回転させながら走りだした。
 恐らくは嗅覚かなにかで察知したんだ。だとしたら森の中で隠れようとしても駄目ってことじゃないか!
 ついでに言うと、獣除けが通じないことも判明した。
 イエティが追いかけだすと、地面が揺れた。
 イエティは「ほーほー」鳴くんじゃなかったのか!? 全然、怪物みたいに声をあげているぞ。
 イエティの巨体さじゃ、この森の木は邪魔になるだろうと思ってみたが、振り返ってみると、木が動きだし、イエティの動きに合わせて森が移動しているではないか。
「なんだよそれ!? アリなのか」
 アリかナシかを議論している場合でないのは分かっているが、イエティにそんな能力があるなんて知らなかったぞ。
 それとも、これも魔法なのか?
 エドは全速力で森の中をとりあえず走り続けた。そして、走りながらなにかないか周りを見ながらヒントを探した。
 いや、待てよ。
 ヒントを探している間にあることに気づく。
 いつの間にか霧が晴れていたのだ。
 しかし、まだ森の中。山からは離れている筈だ。一様、迷わないよう方角を気にしながら走ってはいるつもりだ。
 なら、何故? イエティの仕業か? それとも単に霧が晴れただけなのか? この大地に踏み入れてから本当に疑問が多い。
 足も限界だからこのまま門が見つかればいいなと思っていると、森の中に本当にエドの近くにそれが現れた。それというのは、残念ながら門ではなかったが、白い天使の彫刻が柱になっている『天使の塔』がそこにあったのだ。
「そんな……天使の塔は父の手帳では」
 それとも、父が見つけていない塔が他にもあったということなのか!? だとしたら、本当は幾つ存在するんだ??
 とりあえず『天使の塔』へ逃げ込む。
 すると、イエティの足音とそれに合わせた振動がなくなった。
 多分、イエティは『天使の塔』には近づけないんだ。
 父の手帳にも塔には獣は何故か近づくことが出来ないとあった。それはイエティも同じということか。
 本当にそれで良かったと思う。まだ、状況を脱したわけではないが、とりあえず時間稼ぎはできた。
 さて、塔だが……天使の塔は旅のヒントを記すとあるが。
 塔の壁には絵が直接描かれてあり、赤い文字も入っていた。
 赤い文字を翻訳するとこうなる…… 。



 これより先、燃える山へ向かうには炎に耐える身体が必要。
 その山には恐ろしき空を支配する獣あり。



 空を支配する……まさか、あの鳥のことではないだろうな!?
 まさか、イエティの次はあれということか。
 確かに父の手帳には空から化け物が現れたと書いてあったが、化け物しか書かれていないから、なんのことか想像がつかないでいた。
 父め、もっと具体的に書いてくれてもいいものを。
 だが、とにかく父が言う化け物の正体は分かった。そして、今度は空から襲ってくることも。
 次に絵だが、中心に火があり、その周りに人物達が火に向かってお祈りをしている様子が描かれてある。宗教的な意味合いがありそうだが、火は確かに人類にとっては大きな発明であり、それを神格化した宗教はあったと思った。この先が燃える山だからだろうか? 確か、太古のままの自然には神々が住み着いていたという話しがある。あの場所には火の神がいるのだろうか。それとも魔法による影響なのか。
 もう少し分かりやすいヒントだったらいいのに。
 それに、期待したヒントがこの塔にはなかった。
 イエティが倒せないにしても、どうにか逃げ切れるヒントぐらいあったら良かったのに。それとも、それはヒント無しで乗り越えろということか。
 とにかく、ずっとこの中にいても先へは行けない。
 すべきことは、イエティから逃げならがら先の道を探すことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜

HY
ファンタジー
主人公は伯爵子息[レインズ・ウィンパルト]。 国内外で容姿端麗、文武両道と評判の好青年。 戦場での活躍、領地経営の手腕、その功績と容姿で伯爵位ながら王女と婚約し、未来を約束されていた。 しかし、そんな伯爵家を快く思わない政敵に陥れられる。 政敵の謀った事故で、両親は意識不明の重体、彼自身は片腕と片目を失う大ケガを負ってしまう。 その傷が元で王女とは婚約破棄、しかも魔族が統治する森林『大魔森林』と接する辺境の地への転封を命じられる。 自身の境遇に絶望するレインズ。 だが、ある事件をきっかけに再起を図り、世界を旅しながら、領地経営にも精を出すレインズ。 その旅の途中、他国の王女やエルフの王女達もレインズに興味を持ち出し…。 魔族や他部族の力と、自分の魔力で辺境領地を豊かにしていくレインズ。 そしてついに、レインズは王国へ宣戦布告、王都へ攻め登る! 転封伯爵子息の国盗り物語、ここに開幕っ!

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

姫君は、鳥籠の色を問う

小槻みしろ
ファンタジー
「時が何を運ぶかなんて、誰にもわからない、僕も知らない。けれどね、可愛い子、お前はいつか知る時が来る。それだけは、僕にもわかっているんだよ。」 ネヴァエスタは、一度迷い込んだら出られない、魔性の森。 ラルはそのネヴァエスタで、青年・シルヴィアスと共に穏やかに暮らしていた。 しかし16の歳、ラルは闖入者に強引に攫われる。 ラルを攫った者たちは、口々に言った。 「お待ち申しておりました、姫」 流行病や不可思議な死により世継ぎを次々失ったカルデニェーバ王国の、最後の希望だと。 そして、シルヴィアスが、ラルを攫い隠した大罪人であると―― 自分は何者なのか? 自分は王となるのか? ――シルヴィアスは本当に自分を攫ったのか? ――何故? シルヴィアスにもう一度会いたい。 その為にラルは、自分を攫った一行と王都を目指す旅にでる。 乱暴ながら腕の立つアーグゥイッシュ。 紳士的ながら読めないエレンヒル。 明朗快活なエルガと、知者のジアン。 人間に虐げられながら生きる獣人たち―― 初めて知る外の世界と、多くの出会いに、ラルの世界は、大きくひらけていく。 また王宮では、マルフィウスとフォクスラゴーナ、二大貴族の権力争いが繰り広げられていた。 世継ぎ騒動に、貴族の陰謀。 全てが終わるとき、ラルのくだす決断とは――

処理中です...