魔法の剣とエド

アズ

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第一章 魔法の剣

08

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 山を登りだしてから約20分、ようやく山の天辺が見えだしてきた。
 希望が見えだした瞬間、大きな影がエドのいる場所を通り過ぎていった。
 それは雲の仕業ではなかった。巨大なワシのような鳥がエドの上空を通り過ぎていったのだ。翼の横の長さだけでも100メートル以上はありそうだ!
 あんな巨大生物までもが生息しているのか、この場所は!?
 巨大な鳥はエドには気づかなかったようで、通り過ぎて山を越えていってしまった。
 イエティも大きいと聞いたが、あんなのがまだ他にもいるとしたらとんでもない場所だ。
 それでもエドは引き返したりはしなかった。どこかうまくやり過ごせてしまうのではないかという希望を持って進むことにした。
 魔法の剣を持てば、あの生物にも人間は勝ててしまうのだろうか。
 色々妄想を膨らませながらも、エドはようやく頂上へとたどり着いた。
 頂上は平らと呼べる場所はほとんどなく、ゴツゴツとした岩があるぐらいだが、そこから見える景色は壮大だった。
 山の下りから雪景色は続くが、その先は深い霧によって遮られている。恐らくその霧の中に自分が通らなければならない門がある筈だ。まずはそれを探し見つける。その霧の上が暫く続いてその先には川が見える。川を越えた先は不思議と緑の植物、自然が広がっていた。問題はその先で、意味不明なことに森が燃えており、その炎の壁でその先の地上の様子が見えない。ただ、地上から真っ直ぐ目線を向けた先には空ではなく、もう一つの山がある。
 その山からはマグマが流れ、噴火口からは煙がモクモクと出ている。まさに燃える山だ。
 しかし、あの山を次は越えなければならない。
 普通なら、あんな山に向かって人間が行こうもんなら死んでしまうだろう。だが、これには攻略がある。そのヒントが次の先にある塔に隠されてあるのだ。
 だが、父のメモ帳には塔の場所は示してあるものの、その肝心なヒントが書かれていなかった。なにか理由があるのか。それとも、塔に直接向かう必要があるのか。それは行ってみなければ分からない。
 先程の大きな鳥が遠くで飛んでいた。その燃える山の頂上へ向かっているようだ。
 エドは振り返った。
 自分が登ってきた道を見た。やはり、頂上から見るとかなり高く、それを自分は登ってきたのだと、あとから達成感がわいてきた。
 だが、まだゴールではない。旅はまだまだ先だ。
 エドは再び進行方向へと正面を向けると、下山を始めた。
 頂上で少し休憩もしたかったが、やはり気になるのはイエティの存在だ。
 まだ遭遇していないところ、旅の運は続いていると思う。だが、旅を制覇し無事に生還した旅人の全員がイエティに遭遇している。この確率はおかしいと思う。遭遇はたまたま起こること。なのに、遭遇率百パーセンというのがただならない。
 イエティは複数体存在するという仮設もたててはみたが、遭遇したのは決まって一体のみで、複数体の確認をした者はゼロ。
 これが意味するところからいって、旅人が旅を続けその先へ向かうならその者は必ずイエティに遭遇する。旅人は殺すことの出来ないイエティから逃げ延び先へ行かねばならない。これが試練だと言うのか。避けられない危機。それがイエティ。
 此方がどんなに願ってもイエティは現れてしまう。そういうものなら、問題はどこで遭遇するか。遭遇場所は証言がバラバラでそれは突然やってくるらしい。
 なら、足場の悪い傾斜では出来るだけ遭遇したくはない。
 出来れば森の中で遭遇し、自然のある森をうまく利用して巨体なイエティから逃げ出すというのが自分なりに考えてみ攻略法だ。無論、うまくいくかは分からない。
 因みに、イエティの不死身伝説に疑問を抱いた者はいたが、その者が挑戦してどうなったかは知らない。しかし、イエティの目撃が途絶えていないところをみると、だいたいの予想はつく。
 父はイエティからどう逃げのびたかは書かれてあるが、それはたまたま近くに他の旅人がいて、イエティはそちらに集中していたから自分は無事だったと手帳にはそう書かれてある。
 父の場合は偶然だろうが、自分がそれを狙ってやったら僕は誰かを囮として使うということだ。それは卑怯だ。それに自分の道徳が許してはくれない。一方で、この厳しい旅にはそれは甘い考えなのかも、と思う。炎の狼を自分になすりつけようとしたあの旅人のように卑怯にならなければならないのか。
 しかし、そんな自分を亡き母が見たら悲しむだろう。悲しむようなことはなるべく避けたいところだ。
 無論、遭遇しないのが一番いいのだが。



◇◆◇◆◇



 希望は持ち続けてみるものなのか。それとも、エドの強い願いが叶われたのだろうか。
 エドの下山中イエティに遭遇することはなかった。
 魔法は願いを叶えてくれるというお伽噺を母に読み聞かせてもらったことがあるが、あれは絵本だけのフィクションだと思っていた。
 やはり、運はついている。
 今思えば、獣除けの霧吹きを得たのもこの旅ではかなり影響がでかい。
 旅に運はつきものだ。運を味方につけるのもこの旅を達成する条件なのかもしれない。そんな調子のいいことを思ってしまうと、直ぐにそんな油断は禁物だと脳が警告する。まるで、死亡フラグではないか。そんなことを考えるのはやめて旅に集中すべきだともう一人の自分は語る。
 そんなこんなでエドは森の中に入った。
 森に入ってすぐはなんともなかったのに、森に深く入るにつれ、徐々に霧が現れだしてきた。これは頂上からみた景色のまんまだ。この森のどこかに門があり、それを潜ればイエティに怯えることは多分なくなる筈だ。
 イエティの目撃は寒い場所に限定されているからだ。
 もし、確実に現れるとしたらそろそろの筈だ。
 ふと、エドは疑問に思った。
 獣除けってイエティにも通用するのかな。
 その時だった。希望が絶望に変わり、緊張を与える音がしたのは。
 なにかの足音。そこから推定されるのは二足歩行と、かなり音の響きからして巨体であるということ。
 イエティだ!!
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