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第一章 魔法の剣
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女性の名はエリー。黒髪で小顔な彼女はこの山に2年は既に住んでいると言う。理由は登山中に足を痛めてしまい、そんな中この場所を偶然見つけたのだと。彼女は長ズボンだった為分からなかったが、彼女の右足は義足になっていた。しかも、手製である。
右足は登山中に獣にやられ失ったのだと言う。
この場所にたどり着けなければ間違いなく死んでいたとその時の状況を説明してくれた。
「この足じゃ、もう旅を続けるのは無理さ。空を飛べない限りは」
彼女は暖炉の前でそう言う。暖炉というのは石造りの建物の中にある暖炉である。部屋は一つしかなく、暖炉の熱はどこにいても届いた。
壁が断熱材を使用してもいないのに壁が冷たくならないのは不思議だった。そんなエドの心が読めてしまったのか、エリーは「特殊な透明な塗料を両側から塗っているから」とわざわざ教えてくれた。
「そもそもここはなに?」
「そりゃ、さっき見たでしょ?」
「緑の毛のもじゃもじゃか?」
「そう。彼らの住処よ。それとも魔物は知らない?」
「だいたいは……でも、見るのは初めてです」
「彼らは人類と同じことをしているのよ。家を建ててその中に暮らしている。彼らの毛は自分の体の熱を逃さない為だから、本当は家がなくても彼らは十分にこの山の寒さを耐えられるわ」
「ではどうしてですか?」
「人間の真似事をしているのよ、きっと」
「知らないんですか?」
「だって確認のしようがないでしょ。彼らの言葉を知らないんだから」
そうか、魔物も元は獣だ。人間とは違う。犬や猫が人間にどう訴えかけているのかがもどかしくも伝わらないように、魔物とコミュニケーションがとれるわけもなかった。
そんな当たり前をあろうことか忘れていた。
「しかし、2年もその……謎の生物といたんですよね? 因みになんですけど、彼らって名前なんですか?」
「知らないわ。そもそも魔物なんて生まれてもちょっとしたら滅びてしまうものなのよ。周りの凶暴な獣に襲われてね。ここでは生存競争が存在するわ。当然、その中に人間が飛び込めば、否応なしにその競争の中に入ってしまう。だから、生半可な覚悟でこの世界には入ってはいけない」
まるで、最後の言葉はどこか自分自身に向かって言ってもいるように聞こえた。
エドは一瞬だけ、彼女の足を見た。
「悪いことは言わない。引き返しな。今なら五体満足ですむわよ」
「僕はここで諦めるつもりはありません。旅を続けたいです」
「……なら、イエティにだけは遭遇しないことね」
「イエティ……やはり存在するんですね」
「ええ。その証拠ならあるわ。獣除けの塔を見てきたでしょ?」
「あ、はい。ほーほーと音が鳴っていました」
かと言って梟のような鳴き声ではない。
「あれはイエティの鳴き声よ」
「え!? それって」
「凶暴化した獣でさえイエティを恐れているってことよ」
ドアが開いた。寒い空気がその間だけ入ってくるが、ドアは再び閉じた。中に入ってきたのは、緑の毛の獣だ。その手には首の長い鳥をニ羽、長い首の部分を掴んで持っていた。
部屋にある調理場に行くと、木のまな板の上に鳥をニ羽揃えて乗せると、ぶら下げてある大きな包丁を掴みそれを振り下ろすと、首を切り落とした。
なんか凄い光景を見ているようだが、エドはエリーの方を見た。
「まさか、料理している?」
「それはそうよ。彼らも食事はするわ」
「君もか?」
「ええ。私はこの足だからもう自力で山を降りられない。降りられたとしても、獣から戦うことも逃げることも出来ないわ」
「獣除けの霧吹きがある」
それを聞いてエリーは少し驚いた表情をした。
「それ、珍しいわよ」
「え? そうなの」
「大抵、イエティの鳴き声を真似てやり過ごすか戦うしかないわ。でも、獣は鳴き声に慣れてしまうと、その効果もなくなる。イエティは恐ろしいけど、それは巨大で強いから。私達のような人間ではまるで違う。いずれは気づかれる。獣除けの霧吹きを売っている商人がいるのは知っているわ。でも、中々会えるものじゃない」
「サムを知っているの?」
「サム? 知らないわ。多分、商人の一人ね。旅人向けに商売する一団よ。と言っても、ここの土地の特性状、バラバラに散って行動しているみたいだけど」
サムもその一人というのだろうか?
「彼らが売る物は特殊でどこで仕入れているかは不明。まぁ、その方が高値で売れるからっていうのもあるかもね」
「君にそれをふりかけたら、山を降りられるかい?」
「そうね。そしたらやってみるかも。でも、気をつけて。さっきも言ったけど、商人に会いたくても会えないのがほとんど。どこにいるか分からないし、探し回ると獣に遭遇するリスクが出てしまう。だから、その特別なアイテムを奪おうとする旅人が出てくるかも。だから、伏せておくのよ。そのことは絶対に誰かに喋っちゃだめ」
「うん、分かった」
「外の吹雪がおさまったらまた旅を続けるの?」
エドは頷いた。
「そう。なら、もう少しで晴れるわ」
「分かるの?」
「ええ。ずっと山で過ごしてたら分かるようになるわ」
それは羨ましい特技だ。
「ねぇ、どうやって緑の毛の生物と一緒に暮らしていけたの? 言葉が分からないんでしょ?」
「言葉がね分からなくても、それが全く伝わらないってことにはならないのよ。多分、相手には伝わっている。私もなんとなくだけど理解しようとはしている。なんとかなったのはそういうことでしょ?」
◇◆◇◆◇
エリーの言う通り、確かに吹雪は止んだ。
「色々教えてくれてありがとう」
「頑張ってね」
エドはエリーに別れを言って、再び山を登り始めた。
右足は登山中に獣にやられ失ったのだと言う。
この場所にたどり着けなければ間違いなく死んでいたとその時の状況を説明してくれた。
「この足じゃ、もう旅を続けるのは無理さ。空を飛べない限りは」
彼女は暖炉の前でそう言う。暖炉というのは石造りの建物の中にある暖炉である。部屋は一つしかなく、暖炉の熱はどこにいても届いた。
壁が断熱材を使用してもいないのに壁が冷たくならないのは不思議だった。そんなエドの心が読めてしまったのか、エリーは「特殊な透明な塗料を両側から塗っているから」とわざわざ教えてくれた。
「そもそもここはなに?」
「そりゃ、さっき見たでしょ?」
「緑の毛のもじゃもじゃか?」
「そう。彼らの住処よ。それとも魔物は知らない?」
「だいたいは……でも、見るのは初めてです」
「彼らは人類と同じことをしているのよ。家を建ててその中に暮らしている。彼らの毛は自分の体の熱を逃さない為だから、本当は家がなくても彼らは十分にこの山の寒さを耐えられるわ」
「ではどうしてですか?」
「人間の真似事をしているのよ、きっと」
「知らないんですか?」
「だって確認のしようがないでしょ。彼らの言葉を知らないんだから」
そうか、魔物も元は獣だ。人間とは違う。犬や猫が人間にどう訴えかけているのかがもどかしくも伝わらないように、魔物とコミュニケーションがとれるわけもなかった。
そんな当たり前をあろうことか忘れていた。
「しかし、2年もその……謎の生物といたんですよね? 因みになんですけど、彼らって名前なんですか?」
「知らないわ。そもそも魔物なんて生まれてもちょっとしたら滅びてしまうものなのよ。周りの凶暴な獣に襲われてね。ここでは生存競争が存在するわ。当然、その中に人間が飛び込めば、否応なしにその競争の中に入ってしまう。だから、生半可な覚悟でこの世界には入ってはいけない」
まるで、最後の言葉はどこか自分自身に向かって言ってもいるように聞こえた。
エドは一瞬だけ、彼女の足を見た。
「悪いことは言わない。引き返しな。今なら五体満足ですむわよ」
「僕はここで諦めるつもりはありません。旅を続けたいです」
「……なら、イエティにだけは遭遇しないことね」
「イエティ……やはり存在するんですね」
「ええ。その証拠ならあるわ。獣除けの塔を見てきたでしょ?」
「あ、はい。ほーほーと音が鳴っていました」
かと言って梟のような鳴き声ではない。
「あれはイエティの鳴き声よ」
「え!? それって」
「凶暴化した獣でさえイエティを恐れているってことよ」
ドアが開いた。寒い空気がその間だけ入ってくるが、ドアは再び閉じた。中に入ってきたのは、緑の毛の獣だ。その手には首の長い鳥をニ羽、長い首の部分を掴んで持っていた。
部屋にある調理場に行くと、木のまな板の上に鳥をニ羽揃えて乗せると、ぶら下げてある大きな包丁を掴みそれを振り下ろすと、首を切り落とした。
なんか凄い光景を見ているようだが、エドはエリーの方を見た。
「まさか、料理している?」
「それはそうよ。彼らも食事はするわ」
「君もか?」
「ええ。私はこの足だからもう自力で山を降りられない。降りられたとしても、獣から戦うことも逃げることも出来ないわ」
「獣除けの霧吹きがある」
それを聞いてエリーは少し驚いた表情をした。
「それ、珍しいわよ」
「え? そうなの」
「大抵、イエティの鳴き声を真似てやり過ごすか戦うしかないわ。でも、獣は鳴き声に慣れてしまうと、その効果もなくなる。イエティは恐ろしいけど、それは巨大で強いから。私達のような人間ではまるで違う。いずれは気づかれる。獣除けの霧吹きを売っている商人がいるのは知っているわ。でも、中々会えるものじゃない」
「サムを知っているの?」
「サム? 知らないわ。多分、商人の一人ね。旅人向けに商売する一団よ。と言っても、ここの土地の特性状、バラバラに散って行動しているみたいだけど」
サムもその一人というのだろうか?
「彼らが売る物は特殊でどこで仕入れているかは不明。まぁ、その方が高値で売れるからっていうのもあるかもね」
「君にそれをふりかけたら、山を降りられるかい?」
「そうね。そしたらやってみるかも。でも、気をつけて。さっきも言ったけど、商人に会いたくても会えないのがほとんど。どこにいるか分からないし、探し回ると獣に遭遇するリスクが出てしまう。だから、その特別なアイテムを奪おうとする旅人が出てくるかも。だから、伏せておくのよ。そのことは絶対に誰かに喋っちゃだめ」
「うん、分かった」
「外の吹雪がおさまったらまた旅を続けるの?」
エドは頷いた。
「そう。なら、もう少しで晴れるわ」
「分かるの?」
「ええ。ずっと山で過ごしてたら分かるようになるわ」
それは羨ましい特技だ。
「ねぇ、どうやって緑の毛の生物と一緒に暮らしていけたの? 言葉が分からないんでしょ?」
「言葉がね分からなくても、それが全く伝わらないってことにはならないのよ。多分、相手には伝わっている。私もなんとなくだけど理解しようとはしている。なんとかなったのはそういうことでしょ?」
◇◆◇◆◇
エリーの言う通り、確かに吹雪は止んだ。
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