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桂慈朗

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サンタクロースという企み

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 こんなことを言っても誰も耳を傾けてくれるはず無いことを、私は嫌と言うほど知っている。その無力感を知りながら、それでも誰かに人に向かって言わずに入られない時がある。私が人に向かって話すことで世界が変わるわけではないし、自分自身が置かれた状況に変化が訪れるわけでもない。ただ、少なくとも私の精神が、、、狂ってしまうことも、逃避してしまうこともできない私の心が、ほんの少し安まるような気がしているのだ。
 間違いなく錯覚であるだろうことは承知している。でも今の私にはこうするしかないのであって、今は誰かに向かって話すべきだと感じている。だから、奇跡でも良いので私の言葉を感じることのできる人がいるならば応えなくて良いので聞いていて欲しい。

 つまらない前置きはこのあたりにして本題に入ろう。あのサンタクロースを知っているだろうか。
もちろんのことだが、今の日本でそれを知らない人を探す方が難しいだろう。クリスマスという記念日とサンタクロースは一対の存在として認識されている。特に、子供達にとっては非常に重要な人物になっている。
 そして、サンタクロースなど本当はいないのだと気づくのは、遅くても中学校に上がる前というのが一般的なものだと思う。かくいう私も、まだ幼かった頃に友達が自慢げに話しているのを聞いて内心大きなショックを受けた。当時のショックの感覚は今でも明確に覚えている。それだけサンタクロースの存在を楽しみにしていたのだ。これは子供が抱く純真な夢と言うほどピュアであるものとも言いきれないのだが、それでも幼いながらに普段の生活に欠けている何かをそれが埋めてくれるような気がしていた。
 だから、友達の自慢げな話を聞いても心の内では信じたくない面が非常に強かった。思い当たるフシがなかったわけではない。どちらかと言えば両親の態度から薄々は気づいていたという方が正確な表現になるだろう。それでも、両親のためではなく自分のためにサンタクロースという存在が必要だったのだ。両親のために演じるのではなく、自分自身のためにサンタクロースを信じるという自分を演じるようになったのはいつ頃からだっただろうか。もちろん、サンタクロースがサンタクロースであり得る所以は、プレゼントをくれることにある。

 こうして考えると、一年のうちの一時期ではあるが子供の頃の私の生活はサンタクロースという存在を大きく意識せざるを得なかった。これが全ての子供達がそう考えるとすれば、その累計はとんでもない量になるのではないだろうか。おそらく、世界的な大企業が莫大な資金を出して特定のキャンペーンを張ったとしても、これだけの注目度を得ることは不可能に違いない。それだけ多くの子供達の思考の一部を占有する存在なのである。

 なぜ、サンタクロースの話をするのか不思議に思うのは当然だ。あまりに唐突だし、それに話の先が見えないのだから疑念を抱くのはごく普通のことだろう。それでも、今しばらくご容赦願いたい。
そもそも私がこんな話をするのには訳がある。。。。
もったいぶった言い方は止めよう。内容こそ違うけれど今のように誰にも聞かれることのない話したことは数え切れないほどある。私自身、いったいどれだけの話をしてきたかを数える気もないし、そのこと自体が無力な自分の境遇を思い出させるので触れたくない。私は情けない存在だ。
にも関わらず、今回もまたこのような話をしている自分を笑ってくれてもいい。もし誰かが少しでも気づいて考えてくれるのであれば。

 サンタクロースとは作られた存在である。その由来は4世紀頃の東ローマ帝国に実在した聖ニコラオスと言われているが、その昔からサンタクロース伝説があったわけではない。14世紀頃からそれは宗教的信仰と相まって育まれ、17世紀頃からアメリカで徐々にサンタクロースとして知られるようになった。ただ、これらはあくまで聖者に対する信仰の一環であった。
 その信仰が、子供達へのプレゼントへ変化したのには大きな訳がある。それは私の先人の一人がそのように仕向けたことによる。なぜそんなことをしなければならなかったかについては、おいおい説明するとしよう。ただ、これは推測ではない。書物として文章化されているわけではないが、私にはその事実がわかってしまうのだ。

 サンタクロースが子供達にプレゼントを渡すように仕向けたのは、何も慈善の気持ちによる行為ではないし、子供に対する愛情によるものでもない。単に子供の頃から、モノに対する執着心を高めさせるが故の方策なのだ。考えてみれば不思議ではないか。モノへの執着をどちらかと言えば否定する宗教が、ここでは子供達に対してモノへの執着心を植え付けているのである。
 それは、形ないモノよりも即物的なモノを心に刻み込む行為ではないか。サンタクロースがあのようにユーモラスだがおおらかな姿となったのは、その卑しさを覆い隠すためでもあったのである。そして、その教えは宗教という最大の伝達装置を利用して大きく広がっていく。

 その昔からモノの奪い合いは幾多の戦争を引き起こし、多くの人の命を奪ってきた。潜在的に人々は宗教により争いの無意味さを学習しようとしてきたが、私の先人はそれを利用して逆にモノへの執着心を高める操作を行おうとしていたのである。
 サンタクロースの前には、別の伝説などを利用して同じように争いを発生させて多くの命を奪わせる仕掛けを行ってきたが、サンタクロースほどいいタイミングで子供時代に広く浅くモノへの執着心を植え付ける方法は私は他には知らない。それは争いの素地を作る。
 先人はサンタクロースで素地を作り、そこに個人を焚き付けることで自らの目的を達した。長く難しい道のりではあるが、人間社会に諍いを起こさせるもっともよい方法は差に執着させることである。そうすれば放っておいても流れが決まる。彼は大きな戦争を導き目的を達したのだ。私はそれを成し遂げた先人がうらやましい。

 先人も私も確固たる存在がありながら、人間とは直接触れることも話すこともできない。さらに言えば人間達は私のことを認知することもできないのである。知られなければ存在しないのも同じ。それでも微妙な接点を探し、間接的に人々に少しずつの影響を与えることはできる。
 強引なことをすれば、私は人を消すことも生み出すことさえ可能である。その力のみで言えば私は人間にとって神にも近い存在であるが、人が消えたことも生まれたことも私の力であると認知されなければ、それは無いのも同然である。
 現実には、自身に多大な苦痛を与えるため人に大きく関わることなど今では行いたいとも思わない。だから、このような回りくどい方法を取って人々を諍いに導くべく努力をしている。人類を減らそうとするという意味において私は人間にとって悪魔に近い存在でもある。
 かつてこのような力を得たときに大いに悩むこととなったが、現在あくまで利己的な理由でこの行為に荷担している。誰にも認知されず誰とも交われない、その孤独から脱出するために。

 仮に私という存在が神の子であるならば、皮肉なものだと思う。私達は、人を堕落させその数を減じるためにその存在が許されているのだから。それでも、人間という存在も全く持って侮れない。モノに執着して堕落させるはずが、モノを増やすことで執着心を弱めてしまった。かつては、あと少しの刺激を加えることで戦争を引き起こせたのではあるが、今では同じ方法を利用することはできない。先人の時代を懐かしみながら、もう私にとってあまり役立たないサンタクロースに関わることはないだろう。
 今、私が取りかかっているのはサンタクロースよりももっと大きな仕掛けである。サンタクロースほど愛される仕掛けにはなりようがないが、これがうまくいけば私も現在の奴隷のような状態から解放されるだろう。人類にとっては悲劇そのものであろうが、私にはそれが待ち遠しい。
 だから、サンタクロースは今やかつての役割からは解放されている。私よりも先に解放されたことはある意味うらやましい限りではある。何も変わらないはずではあるが、実はその果たす役割が大きく変わったサンタクロースに乾杯しよう。
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