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4-1.悪魔の子
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そっと柔らかいものが唇に押し当てられている。
これは、もしかしなくてもレーンの唇で、俺はキスされているのか。
唇の柔らかい感触と、後頭部に回された大きな手、それから彼からふわりと幽かに香る爽やかな匂い。
そのどれもがリアルなのにまったく現実感がなくて俺の頭の中は真っ白なままだ。
気が動転して固まっていると、唇が一度離れて、顎を掴まれ再び合わせられた。
「……っ、んん、!」
さっきは触れるだけだったキスが、今度は舌で強引に唇を割り開かれた。
ぬめる舌が歯列をなぞり口蓋をくすぐる。
唇を吸われ、唾液を啜られて湿った音がする。
舌を絡めとられて擦り合わされて、ゾクゾクとしたものが背筋に走り全身の力が抜けていく。
あまりのことに腰から力が抜けてその場に頽れる。
そうしてようやく彼から解放されたのだが、息が上がって目に涙が浮かんだ。
今のは、なんだ。
キスのような気はする。
だけどこのタイミングで彼が俺にキスをする意味は分からないし、こんなタイプのからかいかたをするような少年だとは思えない。
「レー、ン、……な、んで、」
レーンの熱い舌に口の中を蹂躙されて溶かされて、体はぐにゃぐにゃだ。
動揺に手が震えて、でもなんとか唾液に濡れた唇を覆った。
恥ずかしいけど、今のは恋人がいたことのなかった俺にとって初めてのキスだ。
戸惑いながら茫洋と彼を見上げると、まだ少年だと思っていたはずの彼の顔から、獲物を食い尽くそうとする大人の雄の匂いを感じた。
「……本当なら神殿に戻らないといけないけど、ごめんね。我慢できない」
そういうが早いか彼は俺を抱き上げる。
どこへ、と思った瞬間に辺りは光に包まれた。
突然の眩い輝きに目をきつく瞑って、再び開いた時には。
俺はレーンに抱き上げられたままあの王宮の回廊の奥の楽園のような部屋にいた。
まさか転移をしたんだろうか。
だけど、それができるのは本当に一部の魔族しかいないはず。
そう思って呆然としていると、彼はどんどんと今まで俺が入ったことのない部屋の奥へ進んでいった。
部屋の奥には扉があり、そこを開けると長く暗い廊下に続いている。
毎日掃除に来ているのにまったく気が付かなかった。
レーンは迷いのない足取りでそこを突き進んでいく。
光の差さない廊下を抜けたと思ったら、そこはどこか豪奢な部屋につながっていた。
広い部屋には高級そうな家具が置かれ、深い緑色の絨毯とカーテンが部屋を落ち着いた雰囲気に彩っている。
その部屋のさらに奥に置かれた巨大なベッドに、レーンは俺を優しく降ろした。
「レーン、ここは、」
どこなんだ、という前に、再び唇が奪われた。
俺の言葉も呼吸すらも吸い取るように合わせられた口づけは、熱くて頭がクラクラする。
そのまま力の入らない体を後ろに押し倒された。
舌が痺れて、なぜこんなことをするのかとすらも聞けずに彼を見上げると。
レーンの真剣な瞳と目が合った。
「呉木、好き」
彼の美しい唇がそっと動き、信じられない言葉を口にする。
ありえない、そんなこと彼が言うはずない。
もしそう言っているとしても、俺の『好き』とはきっと違う意味だ。
そうとっさに心の中で言い聞かせるけど、彼は畳みかけるように言葉を重ねる。
「ずっと呉木が好き。だから今日、呉木を娶りに神殿に来たんだ。……なのに呉木は俺の顔を見るなり逃げるから、てっきり嫌がられてるんだと思った。でも、呉木も俺のことが好きなんだよね?」
本当に?
本当に、俺を娶ろうと思って彼は今日神殿に来たというんだろうか。
あんなに若くて美しくて優秀な神子がたくさんいたのに、俺なんかを選ぼうというのか。
「呉木、うんって言って?」
「その、俺は、確かにレーンが好きだけど、」
でもレーンは本当なのか。
まだ信じられなくてそう呟くと、彼は美しい顔をほころばせるとベッドの上で俺にぎゅっと抱き着いてきた。
「ああ、良かった。じゃあ僕たち両想いだね」
そのまま顔中に唇が落とされる。
くすぐったい感触に、俺は頭の整理ができないまま身をよじらせた。
そっと柔らかいものが唇に押し当てられている。
これは、もしかしなくてもレーンの唇で、俺はキスされているのか。
唇の柔らかい感触と、後頭部に回された大きな手、それから彼からふわりと幽かに香る爽やかな匂い。
そのどれもがリアルなのにまったく現実感がなくて俺の頭の中は真っ白なままだ。
気が動転して固まっていると、唇が一度離れて、顎を掴まれ再び合わせられた。
「……っ、んん、!」
さっきは触れるだけだったキスが、今度は舌で強引に唇を割り開かれた。
ぬめる舌が歯列をなぞり口蓋をくすぐる。
唇を吸われ、唾液を啜られて湿った音がする。
舌を絡めとられて擦り合わされて、ゾクゾクとしたものが背筋に走り全身の力が抜けていく。
あまりのことに腰から力が抜けてその場に頽れる。
そうしてようやく彼から解放されたのだが、息が上がって目に涙が浮かんだ。
今のは、なんだ。
キスのような気はする。
だけどこのタイミングで彼が俺にキスをする意味は分からないし、こんなタイプのからかいかたをするような少年だとは思えない。
「レー、ン、……な、んで、」
レーンの熱い舌に口の中を蹂躙されて溶かされて、体はぐにゃぐにゃだ。
動揺に手が震えて、でもなんとか唾液に濡れた唇を覆った。
恥ずかしいけど、今のは恋人がいたことのなかった俺にとって初めてのキスだ。
戸惑いながら茫洋と彼を見上げると、まだ少年だと思っていたはずの彼の顔から、獲物を食い尽くそうとする大人の雄の匂いを感じた。
「……本当なら神殿に戻らないといけないけど、ごめんね。我慢できない」
そういうが早いか彼は俺を抱き上げる。
どこへ、と思った瞬間に辺りは光に包まれた。
突然の眩い輝きに目をきつく瞑って、再び開いた時には。
俺はレーンに抱き上げられたままあの王宮の回廊の奥の楽園のような部屋にいた。
まさか転移をしたんだろうか。
だけど、それができるのは本当に一部の魔族しかいないはず。
そう思って呆然としていると、彼はどんどんと今まで俺が入ったことのない部屋の奥へ進んでいった。
部屋の奥には扉があり、そこを開けると長く暗い廊下に続いている。
毎日掃除に来ているのにまったく気が付かなかった。
レーンは迷いのない足取りでそこを突き進んでいく。
光の差さない廊下を抜けたと思ったら、そこはどこか豪奢な部屋につながっていた。
広い部屋には高級そうな家具が置かれ、深い緑色の絨毯とカーテンが部屋を落ち着いた雰囲気に彩っている。
その部屋のさらに奥に置かれた巨大なベッドに、レーンは俺を優しく降ろした。
「レーン、ここは、」
どこなんだ、という前に、再び唇が奪われた。
俺の言葉も呼吸すらも吸い取るように合わせられた口づけは、熱くて頭がクラクラする。
そのまま力の入らない体を後ろに押し倒された。
舌が痺れて、なぜこんなことをするのかとすらも聞けずに彼を見上げると。
レーンの真剣な瞳と目が合った。
「呉木、好き」
彼の美しい唇がそっと動き、信じられない言葉を口にする。
ありえない、そんなこと彼が言うはずない。
もしそう言っているとしても、俺の『好き』とはきっと違う意味だ。
そうとっさに心の中で言い聞かせるけど、彼は畳みかけるように言葉を重ねる。
「ずっと呉木が好き。だから今日、呉木を娶りに神殿に来たんだ。……なのに呉木は俺の顔を見るなり逃げるから、てっきり嫌がられてるんだと思った。でも、呉木も俺のことが好きなんだよね?」
本当に?
本当に、俺を娶ろうと思って彼は今日神殿に来たというんだろうか。
あんなに若くて美しくて優秀な神子がたくさんいたのに、俺なんかを選ぼうというのか。
「呉木、うんって言って?」
「その、俺は、確かにレーンが好きだけど、」
でもレーンは本当なのか。
まだ信じられなくてそう呟くと、彼は美しい顔をほころばせるとベッドの上で俺にぎゅっと抱き着いてきた。
「ああ、良かった。じゃあ僕たち両想いだね」
そのまま顔中に唇が落とされる。
くすぐったい感触に、俺は頭の整理ができないまま身をよじらせた。
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