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2-4.出会い
しおりを挟む個人的には衝撃的だった彼との出会いから、どれくらいが経っただろうか。
長く感じるけれど実際はまだ半月程度だ。
だけど……その半月の間に、彼は俺の心の中の大部分を占めるようになっていた。
「レーン様、あんまり近くに居られると仕事がしにくいのですが。」
「え? いいじゃないか。本当ならもっと近くに居たいくらいなのに。それから、様ってつけないで。敬語もやめて」
回廊の奥で見つけた、楽園のような部屋は本当に圧倒されるものだった。
だがその分、掃除の手間もかかった。
植物からは葉が落ちるし花もしおれる。
水回りは汚れが付きやすいから念入りに磨かなければいけない。
ある意味これ以上ないくらいにやりがいのある場所だ。
そしてそこに掃除のために日参するようになって。
ただ粛々と掃除をするだけのつもりだった俺は、なぜかこの美少年に懐かれているようだった。
今だって彼は俺の後ろをついて回って、髪を撫でてきたり袖を引っ張ったりと悪戯をしかけてくる。
恐らく貴族の子弟なんだろう。
彼はまるで友人のように__いや、友人以上に親し気に振る舞ってくる。
いくら子供とはいえ、ぞんざいな口をきいて後から問題になるのは困る。
「それは……」
「様ってつけないんだったら、今日はちょっとだけ離れてあげるよ」
彼は悪戯っ子のように笑って瞳を輝かせる。
それに俺は降参だと、ため息をついた。
「レーン、離れてくれ」
いつの間にか後ろから抱きつくように腕を回され、これではタメ口が不敬だのなんだのの前に、他の問題が出てきそうだ。
彼の望むように彼の名前を口にすると、レーンはようやく腕を解いて離れていった。
だがその唇は少し不満げに尖っている。
「呉木はここの掃除が終わったらさっさと帰っちゃうだろ? 寂しくって。ここの掃除だけに変えて貰えないの?」
「人手不足なんです。我が儘は言えないよ」
「呉木は真面目だねえ。それが前に言ってたニホンジンの国民性?」
「そうです。レーンは記憶力がいいね」
「やった。褒められた」
無邪気に笑う姿は、たしかに少年そのものだ。
その滴るような美貌と、有り余る魔力さえなければ俺からもう少し近づけただろうか……と思って、俺は馬鹿なことを考えるなと自嘲した。
いくら親し気だとは言え、彼は貴族で魔力持ちだ。
神子としても外れクジの俺とは土台が違う。
「呉木、でも真面目に働きすぎて体を壊さないでね。ただでさえあなたは華奢なんだから」
一人で思考の波に囚われた俺にレーンが優し気に囁く。
俺の歳で痩せているのは、華奢じゃなくて痩せぎすと言うんだ。
何を言っているんだ。
「これぐらいの労働なら大丈夫だよ。心配いらない」
「心配するよ。呉木はこんなに可愛いんだから」
「何言ってるんだ。変な冗談はやめてくれ」
あり得ないレーンの言葉に、それでも思わず顔に朱が昇る。
これではまるで口説かれているみたいだ。
そんなわけない、ただの社交辞令みたいなものだ。
そう自分に言い聞かせるけど、自分より遥かに若い少年の言葉に心が跳ねた。
とっさに顔を背けると、彼の手が伸びて来てそっと頬を撫でられる。
その低い体温に肌が粟立つのを感じた。
「冗談なんかじゃないよ。……僕はいつだって本気だよ」
そう囁いた彼の顔は、子供とは思えないほどの色気を孕んでいた。
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