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2-2.出会い

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「すみません。」

「いいんですよ、呉木さん。あなたに非はありません。ただ、自衛はしないといけませんけどね」


俺の手を引いて廊下を進んだ先輩は、にっこりと笑って俺の方を振り返った。

__なぜかこの王宮の人たちは変なことをしてくることが多い。
午前中だけでも尻を触られたり首筋を撫でられたり、物陰に連れ込まれそうになったり。
そのたびに先輩たちが助けてくれたのだが、自衛と言われても良く分からない。
眉を下げて困っている俺のことを見ると、笑顔は苦笑に変化した。


「あなたは、こんなに無防備で今までよく無事でしたね……誰か守ってくれる人がいたのですかね? ここでは、あんまり隙は見せないようにしてくださいね」


俺には守ってくれる人なんていたことはない。
理解できないことを呟かれるが、先輩の言うことには黙って首を縦に振る。

だがとりあえず先輩に迷惑をかけないように、ここの王宮の人たちに捕まらないようにしなくては。
どこぞの貴族の不興を買って、それが理由で解雇されたら次の仕事のあてもない。

俺は意志を固くして掃除用具をぎゅっと握りしめ帽子を深く被り直した。


「ここから先は人が立ち入りませんから、大丈夫ですよ。じゃあ私は南棟の方へ行っていますね。廊下が終わったら今日は帰って結構です」


先輩の言葉に俺は、隅々まで綺麗にしようと心に決めて廊下の先へと進んでいった。









廊下をひとしきり掃除し終わり、先ほど『人が立ち入らない』と聞いた回廊の奥へと足を向ける。
光が差し込む回廊には、手の込んだ造りの彫刻がいくつも立ち並び異様な雰囲気だ。

その奥に重厚な扉があり、俺はそっとその奥へと進んだ。




扉の奥はまるで花園だった。

天井はドーム状のガラス張りになっていて、サンルームのように暖かい。
広い部屋の中には木々が生い茂り、色とりどりの花が咲き乱れて甘い匂いに包まれている。
木々の足元には人工の小川が流れてさらさらと爽やかな音がした。

美しく囀る小鳥や小さなクジャクに似た生き物も優雅に歩いているが、きっとあれらは魔獣だ。
だけどそうとは感じさせないくらいに大人しくのんびりと小さな楽園を彩っている。

白い床にはいくつも魔石が埋め込まれ輝いていて、この部屋が魔力で維持されていることが分かった。
魔石は一つ作るだけでもとてつもない魔力が必要とされるものだが、この部屋ではふんだんにちりばめられている。



__まさか、こんなに美しい部屋が王宮の奥に隠れているなんて。

ここが人工的につくられたものであることは分かるが、それでも感嘆せずにはいられない。
しばらく感動して惚けたように口を開けて上を向いていると。

不意に後ろから鈴が鳴るような声がした。





「ねぇ、あなた。そこで何をしているの?」

「うわ!」


驚いて振り向くと、そこに立っていたのは目を見張るような美少年で、俺は二重の驚きに仰け反った。

濡れたような漆黒の髪。
同じ色の瞳はまるで深淵を覗き込んでいるかのように深く、その瞳に見られていると考えるだけで逃げ出したくなりそうだ。
少し長めの髪が白い首筋を際立たせて、まだ子供だというのにゾクリとする色気を醸し出している。
背は俺より少し低くて、体は若木のように細くしなやか。
なのに圧倒的な存在感を感じさせる美しい少年だった。


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