売れ残りの神子と悪魔の子

のらねことすていぬ

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1-2.売れ残りの神子

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「王宮の……掃除夫になりたい?」

「はい」


 俺を部屋に招き入れた神官長は、俺の要求をまるで聞き間違いではないかというように繰り返して、額に手を当ててこちらを見た。
 広くて白を基調に整えられた神官長の部屋の中で、黒髪で疲れた顔の俺は異物のようだ。


「待ちなさい、呉木(くれき)殿。あなたは神子だ。衣食住で不満なことでも?」

「衣食住には大変満足しています。ですが、私がもう5年もここに住んでいることは神官長もお気づきでしょう。このまま何もせずに永遠にここにいるわけにはいかないでしょう」


 衣食住は何もしていない俺なんかには分不相応なほどだ。
 どれも高級というわけではないが、ただ一日部屋にいるだけで食べさせて貰えるなんて日本にいたら夢のようだ。

 だけどそれだっていつまで続くか分からないだろう。
 俺が死ぬまで誰にも娶られずにここにいる可能性もあるだろう、と示唆する。

 いざもっと歳をとって、娶られないからと神殿から放り出される可能性だってあるのだ。
 それだったら俺が職を見つけることは自衛にもつながる。

 そしてこちらの世界で働くことに慣れたら、少しずつ生活の基軸を神殿の外に移していきたい。
 あいにく前の世界での知識は使えない上に、この世界の男たちは日本人とは比べ物にならないくらい屈強で、頭脳労働も肉体労働の職も得られそうもない。
 そう考えると、今は王宮の掃除夫が俺にとっては一番理想的な職に思えた。
 もちろん体力はいるしおおざっぱな俺の性格だと苦労するだろうが、それでも実直に働くつもりだ。


「……それは、許可できない。前例がない」


 まるで政治家のようなことを呟いて神官長はよろよろと椅子に腰かける。
 位の割にまだ若く凛々しい顔立ちをした彼は、眉間を揉むと口を開いた。


「たしかに呉木殿は娶られていない……だがそんなはずはないんだ! 今までだって能力が劣る神子も年嵩の神子もいた。だが誰もが幸せに貰われていった」


 それでも俺が誰にも求められていないってことは、それほど俺は外れクジなんだろう。
 誰もが押し付け合って結局誰も手を挙げなかった。
 無意識に俺の心にダメージを与えることを言う神官長は、俺に視線を向けると「そうだ」と椅子から立ち上がった。


「せめて、もう少しだけ待ってみないか? あと半月もしたら新しい騎士が叙任される。もしかしたら……」

「半月後に叙任されるのは、成人したての貴族の子息でしょう。彼らに俺が選ばれるとでも?」



 金も地位も不自由しない、若い貴族。
 そんな彼らはいつだって自分に釣り合う極上の神子を娶っていく。
 売れ残りの俺を欲しがる可能性は、万に一つもない。

 こちらでの成人年齢は日本よりもずっと若いから、いくら俺が娶られる立場でもまるで犯罪だ。

 冷ややかな視線を神官長に向けると唸り声が。
 そしてしばらくした後に『分かった』という消え入りそうな声がした。




 そうして俺は、翌日、王宮の掃除夫としての口利きをしてもらえることとなった。



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