売れ残りの神子と悪魔の子

のらねことすていぬ

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1-1.売れ残りの神子

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 この世界では毎年、神子が召喚される。
 それも何人も色んな世界から。
 少なくとも3人。
 多い時には10人以上。

 召喚された神子は誰でも何かしらの特殊な能力を持っている。
 たとえば傷を癒すことができたり、未来を予知できたり、他人の力を増強することができたり。

 それをこの世界にいる『騎士』と呼ばれる男たちが娶っていく。
 男の神子でも娶る、という言葉が正しいのかどうかは分からないけど、こちらでは娶ると言われている。

 騎士は神子の生活全般の面倒を見る代わりに、神子の能力を娶った騎士だけが専属で使えるようになる。
 だから見た目が良くて強い力を持っている神子は、騎士同士で争いがおこる事すらある。


 俺も召喚されたうちの一人だ。
 もう召喚されて5年ほど経って、こちらの生活にも大分慣れてきた。


 だが、まだ娶られてはいない。
















 こちらの世界で騎士になれる男と言うのは、高潔な精神と強靭な肉体を持ち、身分も高い男だけだ。
 来たばかりの頃に騎士の演習場に連れていかれ、神官たちにそう説かれた。
 そんな騎士たちは多少能力や見た目が劣っても、差別することなく手を差し伸べてくれるはずだ、と。

 そのはず、だったんだが。


 俺の『お披露目』がされた後に、俺を娶りたいという騎士は一人も現れなかった。

 誰も娶りたがらないなんて前代未聞だったらしく、俺を召喚した神官たちは大分うろたえていた。
 騎士としては比較的身分の低い人、高齢な人や、もともと娶っていた神子を亡くした人なんかに声をかけて嫁ぎ先を探してくれたらしいが、一向に俺を欲しいという騎士は見つからなかった。
 神子の数の倍以上いるらしい騎士の誰も手を挙げなかった。

 破滅的な不細工ではないと思いたいんだが……誰にも欲しがられないということが何よりも物語っているだろう。

 俺には欲しがられるような魅力がない。

 まず年齢がまずい。
 他の神子たちはそれこそ若ければ中学生、年嵩でもせいぜい20代前半くらいなのに、俺はそれを余裕で超えた年齢だ。
 俺の半分くらいの年齢の子すら居て、一緒にいると嫌でも俺がいかに年寄りかと際立つ。
 顔も体も日本人としては平均的だけど、洋風な顔立ちの人の多いこの世界では地味で埋もれてしまう。

 さらに能力だってパッとしなかった。
 俺の能力は魔力を『貯める』ということらしい。
 無尽蔵に貯めて、必要とされれば返す。
 ただそれだけだ。

 貯めることはできても作ることはできないから、誰かに入れてもらわなきゃいけない。
 貯められるほど強い魔力を持っている人間は騎士の中でも一握りで、そんな一流の騎士たちは既に優秀で美しい神子を娶っている。


 歳も顔も能力も全てが微妙。
 いくら神子の方が騎士より数が少ないとはいえ、こんな俺を娶って金も時間も使うよりも、もっとマシな神子を娶る機会を待った方がいいとどの騎士も思っているんだろう。
 確かにその通りだ。


 そう頭では理解できるが__俺は自分がまるでペットショップで売れ残りの犬になった気分だった。
 こんな感情、大人なのに情けないとは思う。
 だけど他の神子より劣っていると高らかに言われているようで、そのことは俺の心を抉った。


 さらに言うと娶られていないということは、こちらの世界で後見人がいないということで生活が大変に不利だ。

 娶られれば能力の対価として騎士から金を支払われるし、騎士がバックにつくことで安全も保障される。
 神殿から出て騎士の目の届くところに家を与えられ、騎士が任務の時は寄り添い、それ以外では自由気ままに暮らす。
 人によっては自分の能力や才能を使って仕事をして稼ぐ人もいるようだ。

 だけどもちろん俺にはそれはできない。
 騎士がいないから金はないし住む場所もない。

 今は神殿に簡易な部屋を与えられているがいつまで居られることか。
 なにも持たずにここから追い出されたらと考えるだけで恐ろしい。
 ここは治安も良くてブラック企業だったらなんとか就職口にもありつける日本と違って、異世界なのだから。


 俺は神官たちの腫れ物に触るような態度も、騎士たちの憐れむような眼差しも、他の神子のあざ笑うような視線も全てが嫌でどうにかしなくてはとただ心に焦燥が募る。



 __俺の人生、どうしてこうなったんだ。

 こちらに召喚された時の記憶はいまだはっきりと覚えている。
 俺は日本で家族もいなくて学もなくただ漫然と日々を送るだけの存在だった。
 ゲイだっていうのは自覚していたけれど別に恋人もいたことはなかった。
 俺は自分から行動しない男だったから、誰かに愛された経験なんてなかった。

 そんな生活の中で『あなたを必要としている人がいる。』と異世界から囁かれたら、その手を取ってしまうだろう。
 だけど……まさか日本と同じく俺のことを誰も必要としていないとは夢にも思わなかった。

 騎士に娶られないのは俺を呼び寄せた神官のせいじゃない。
 俺自身にたまたま、この世界で求められる能力がなくて、外見的にも魅力がなかった。

 嘆いても能力は変わらないし若返らないし、美少年になれるわけでもない。
 だから娶られないのは誰のせいでもない。

 そう分かっているのに……胸の内にどろどろと黒いものが溜まっていく。
 先の見えない生活に俺はすっかり煮詰まっていた。


 だから。

 俺はその日、普段はあまり近寄らない神官長の部屋の扉を叩くのにも躊躇をしなかった。


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