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「あ、…っ、ああ、」


 ずるりと陰茎を六原から引き抜くと、彼は体をすこし震わせて喘いだ。上気した顔が可愛いしエロい。少し低くて掠れた声もとんでもなくそそる。それだけでもう一度きざしそうになるけれど我慢して、手早くゴムを処理した。全裸で間抜けな格好をしていると自分でも思いつつ、あたりを汚さないようにゴムを片手にティッシュに腕を伸ばす。腹に飛び散った六原の精液をぬぐおうとすると、荒い息を吐いていた六原が、ひょいと俺の手からティッシュを奪い取った。


「……弥田、何考えてた?」

「え、何って?」

「怖い顔してた」


 さっきまで可愛く喘いでいた六原は、あっさりとその煽情的な様子を捨て去って、少し緩慢な仕草で腹を拭う。どこか咎めるような瞳で睨まれると、今までセックスまでしていたっていうのに、初恋の人を前にした少年のように俺の心臓は飛び跳ねた。本当にいつになったら六原と恋人同士だっていうことに慣れるんだろうかと自嘲したい気分だ。


「いや、なんか……六原が好きだなって考えてた」

「はぁ?」


 厳しく眇めていた瞳を丸くした六原から、呆れたような声が聞こえる。付き合い始めてから一年間手を出すこともできずに散々悩んだけれど、それはつまりは……俺は六原が好きすぎて馬鹿みたいにビビッていたせいだ。そのせいで六原を悩ませてしまっていたっていうことを知った時は、申し訳なさと、俺が六原を好きじゃないなんてどうしたら考えられるんだと信じられなかった。むしろ俺の方が好きだと思っていたし一人で浮かれているのも俺だけだと思っていたから。

 慎重に言葉を選んで静かに話すところも、知的で思慮深くて胸の奥がソワソワする。六原本人は自分のことをあまり気に入っていないみたいで、考え過ぎで暗い性格を変えたいと居酒屋なんかでバイトをはじめたりして。その物静かで静謐な雰囲気がいいと何度も言ったけれどお世辞はいらないと言われて聞いてくれない。

 もし六原と出会って付き合えるって知ってたら、俺のファーストキスも童貞も六原にとっておきたかった。いや俺が童貞だったら、六原の裸を見ただけで射精してただろうから、前に彼女がいたのは良かったのかもしれないけど。

 付き合ってもう何度も触れてるのに、隣に座っているだけで勃起しそうになるしいまだに服を脱がせる時は緊張して体から汗が噴き出る。それにちゃんと六原が気持ちいいって思ってるのか不安でしょうがない時もある。俺にとっての本当の意味での初恋は六原だから。


「本当に好き。超好き」


 情けない所を見られたくないとずっと思っていた。でも格好をつけた結果、別れ話になりかけて、それで反省して好きだっていうことも伝えるようになった。

 こんなんで気持ちが伝わっているのかは分からないし、やっぱりいつか捨てられるんじゃないかって不安だけど、甘えるように六原の首筋に鼻先を擦り付けた。ベッドに転がって細い体に腕を回して、苦しくない程度に腕に力を籠めると、呆れたようなため息が聞こえた。


「あ、そうだ。六原、明日はバイトないよな? 買物行こうか」


 ちゅ、と音を立てて吸い付いた首元。そこに光るネックレスに、そう言えばと呟いた。

 店員のお姉さんの『絶対喜びますよ』という言葉に乗せられて買ったクリスマスプレゼント。彼女じゃなくて彼氏だって言えるはずもなくて買ったそれは、華奢な鎖骨によく似合っているけれど、明らかに女物であるアクセサリーは少しだけ違和感がある。
六原もいつまでもこんなの着けているの嫌だろう、と思ってそう言ったけれど、ベッドに寝ころんだまま彼は緩く首を横に振った。


「いらないよ。これ気に入ってるから」


 彼は目を細めて小さく笑うと、指先で光る石を少しだけ撫でた。


「それより俺の方こそ何にもしてないよなぁ」

「別に気にしなくていいよ」


 六原がバイトを増やしているのはお互いにクリスマスのためだと思っていたから、別れるつもりだったって聞いてちょっとショックだった。でもそれ以上にちゃんと恋人同士になれたんだから、それこそこれ以上ないクリスマスプレゼントだ。そんな気持ちで言った俺の言葉に、六原は薄っすらとした笑みを浮かべたまま、ネックレスを撫でていた指を俺の頬へと伸ばした。


「弥田、お正月は実家に帰るんだろ?」

「そのつもり」

「じゃあさ……お正月明けて、ちょっとして観光客のピーク終わったら、土日に一緒に温泉でも行かない? 俺からのクリスマスプレゼント。そんなに高い宿は無理だけど」


 指先でふにふにと俺の頬を押しながら、小声で囁かれる。その内容に、俺はベッドに寝そべっていた上半身を勢いよく起こした。


「行く! 俺も金出す!」

「いいよ。寂しがらせたみたいだから」


 そんなわけにはいかないだろ。そう思ったけど、俺がそう言うよりも早く六原は、それに、と言葉を区切って。照れたように枕を抱きかかえた。


「これからは、俺もちゃんと弥田のこと好きって言うし、嫌なことあったら我慢しないで伝えるし我儘も言う。弥田もそうして欲しい。それから今までよりもずっと大事にする。……だから来年のクリスマスもお正月も、一緒に過ごそうな」


 好きとか無理やり言わせたいわけじゃないし、我儘は言ってくれたら嬉しいけど無理はさせたくない。大事にされてないなんて思ったことない。俺の方がずっともっと頑張って六原のことを大事にしないといけない。そんなことが色々頭の中を駆け巡ったけど、俺はただ間抜けに頷くことしかできなかった。








◇◇◇◇◇






弥田:攻め。明るい普通の青年。六原が好み過ぎて理性と知性がなくなりがち。六原が無防備なのでたまに怒る。
六原:受け。ちょっと人間嫌いだけど根は良い人。友人は深く狭くなタイプ。弥田がモテるのでたまに苛ついている。

就活の頃くらいにまたすれ違ったりして、結局なんやかんやで同棲する未来。
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