クリスマスとか奇跡とか

4 バイト

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「ごめんね～、クリスマスイブなのに！バイトの子みんな予定入ってるし普段より忙しいしで、六原君が来てくれて本当に助かる～！」

「いえ、いつもより時給いいんで俺も嬉しいです」


今にも抱き着かんばかりの勢いで、バイト先の店長が明るく両手を合わせる。
その、有名な黄色の熊に少し似た顔にへらりと笑顔を返して、やたらと重たいジョッキを両手でつかんだ。

コミュ障が少しはマシになるかもしれないと始めた居酒屋でのバイト。
はたしてコミュ障がマシになったかは分からないけど、常に人手不足の店で俺はクリスマス当日もただひたすら忙しなく動き回っていた。

途切れることのない注文に、みんなクリスマスイブくらいもっとオシャレな店に行ってくれ、と恨みがましく思いつつ、暇よりはマシかと思いなおす。
あまり時間があると弥田ことを……今頃あいつ彼女と何しているのかな、そろそろプレゼント渡したのかな、とか考えてしまうから、忙しいほうが有難い。

もし一人で家に居たら、みっともなく泣きわめいていただろう。
なんで、去年は俺と過ごしてくれたじゃないかとか。
ちゃんと俺のこと振ってから次にいってくれとか、……自分勝手なことを叫びながら弥田に取り縋っていたかもしれない。

どこまでも情けない自分の姿が容易に想像できて、苦い思いがせり上がってきた。
バカみたいだな。

迷惑をかけたかったわけじゃない。
困らせたかったわけでもない。

去年のクリスマス、あの時の俺は、本当にただ気持ちを伝えたかっただけだったんだ。
強いて言うならお前の手で裁いてもらって楽になりたかった。
光の中で笑う男には手が届かないんだと思い知って、綺麗に諦めたかった。

なのに結局ずるずると好きで生殺しのまま一年経って、こんなにぼんやりとした幕引きになるなんて。
頭で思い描いたようにはいかないらしい。

それでも……別にあいつが残酷だなんて思わない。
悪いのは俺だ。
冬の寒さで冷えた頭で考えると、ゆっくりだけれどそう思えるようになった。

優しくてお人よしな男が、友人……しかも親友ポジションにいる俺に告白されて胸を痛めるのは当然だし想像できた。
だというのに自分勝手に気持ちを告げたいんだと押し付けて、あいつにも要らない気を遣わせて。
普通に彼女できたって言われたら、今の俺ならちゃんとおめでとうって返せるのかな。

結局今年は連絡を取らないままクリスマスを迎えてしまった。
弥田からは何度かスマホに連絡が入っていたけど既読無視してしまったし。
学校でも逃げ回って、俺は一体どうするつもりだ。

……このクリスマスが終わったらもうちょっと冷静になれるかな。
この一年がなかったみたいに、あいつの隣でずっとただの友達でしたみたいな顔して、また。
恋人だなんて思い上がってたことをおくびにも出さずに笑えるようになるのかな。

未だに弥田の顔を思い浮かべるだけで胸はずきずきと痛んで、とても平気な顔ができる気がしないけれど。
クリスマスが終わってお正月も終わって、もう少しだけ時間が経てば……。


「六原君！これ、お願い！」

「あ、すみません、すぐ行きます」


忙しいから平気だと思っていたのに、心は勝手に弥田のことを考えてしまっていたみたいで、キッチンから響いてきた声に慌てて意識を取り戻す。
できるだけ意識してきびきびと体を動かすと、呼吸がいつの間にか浅くなっていたことに気が付いて苦い笑いが漏れた。