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3 浮気?
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『悪い六原、今日帰るの遅くなりそう』
ついこの間、俺にバイトをし過ぎだと言った弥田は、今度は自分の方が忙しく働いているようだった。
ヴ、と軽く震えたスマホに表示された言葉に、俺は少しだけ眉を顰めた。
「またかよ……そんな金困ってたっけ、あいつ」
普段のレギュラーバイトに加えて、単発のバイトも入れているらしい。
それでも夜は会うことが多かったんだけど、お人よしの性格のせいかシフトが終わっても残ってくれと言われると断り切れずに働いてしまうとか。
付き合う前から貰っていた合鍵を使って勝手に部屋に入って、こたつに潜り込んでいた俺は仕方のないことだと思いつつもため息をついた。
実家への帰省もあるし、金はいくらあっても困らない。
ましてや大学生なんだから欲しい物もやりたいことも無限にあるだろう。
分かっているけれどなんとなく寂しい気がして、俺はその場にごろりと転がった。
……一応、俺は恋人なんだよな?
冬休みにこれだけ放っておかれて、普通の女の子だったら拗ねるくらいじゃ済まないだろ。
普段は思わないような不満が腹の中でぞわぞわと動き回って飲み込まれそうになる。
いけない。
こんなこと考えても無駄どころかマイナスなだけだ。
ネガティブな気持ちを振り払うように一度大きく深呼吸して腕を伸ばすと、こつりと手の先がベッドの下の引き出しにぶつかった。
収納スペースの少ない狭い部屋にありがちな、ベッド下が物入になっている引き出しだ。
なにか慌てて仕舞いでもしたのだろう。
その隙間にベッドのシーツが挟まっている。
そう言えば、弥田は大掃除がてら着ない服を整理したいと言っていたな。
そんなことをつらつらと考えていたせいだろう。
もし俺の頭が暗い考えに覆われていなかったら、弥田が大掃除したいなんて言わなかったら、……俺はそこを開けるなんてことしなかった。
どれだけ近い存在でもプライバシーはあるし勝手に物を漁るような真似しなかった、のに。
軽く力を入れるだけでするりとスライドした引き出し。
そこから挟まったシーツを引っ張り出して……俺は目を見開いた。
「え……?」
どうせ汚く服でも詰め込まれているんだろうと思ったそこは、意外にもすっきりと整理されていて、大事そうに小さな紙袋が鎮座していた。
駅ビルなんかにも入っている、少し有名なジュエリーショップ。
明らかにクリスマスを意識した、どこか甘くファンシーな包装。
心臓が嫌な音をたてる。
は、と自分の吐いた息が部屋に響いた気がした。
いや、だってこれは。
こんな、あからさまにクリスマスプレゼントを意識した包みは。
……明らかに女の子向けじゃないか。
その明白な答えを脳みそが勝手に導き出して、体が小さく震えた。
だけどこれは、少なくとも俺に渡すようなものじゃない。
どう考えても違う。
散々ほったらかしにしておいて、キスもセックスもしない俺に渡すものじゃない。
プレゼントなんてありえない。
しかもこんな、可愛さだけでできた物、どう考えてもありえない。
そんな甘い間柄じゃない。
つまり、それは、弥田には。
「他に女の子、いたってこと……?」
自分の口から零れ出たその台詞が耳に入って、その死にたくなるような響きに胸が詰まる。
中途半端に開かれた引き出しの奥には、まだ何か入っていて。
ダメだ。
見ちゃいけない。
そう思いながらも震える手で引っ張ると、かたりと軽い音とともに目に飛び込んできたのは、小さな箱に入った避妊具。
……まぁ、クリスマスだもんな。
つい先日、俺も同じもの買ってたよ。
呆然と座り込んだまま、頭の隅でいやに冷静な自分がそう呟いた。
ついこの間、俺にバイトをし過ぎだと言った弥田は、今度は自分の方が忙しく働いているようだった。
ヴ、と軽く震えたスマホに表示された言葉に、俺は少しだけ眉を顰めた。
「またかよ……そんな金困ってたっけ、あいつ」
普段のレギュラーバイトに加えて、単発のバイトも入れているらしい。
それでも夜は会うことが多かったんだけど、お人よしの性格のせいかシフトが終わっても残ってくれと言われると断り切れずに働いてしまうとか。
付き合う前から貰っていた合鍵を使って勝手に部屋に入って、こたつに潜り込んでいた俺は仕方のないことだと思いつつもため息をついた。
実家への帰省もあるし、金はいくらあっても困らない。
ましてや大学生なんだから欲しい物もやりたいことも無限にあるだろう。
分かっているけれどなんとなく寂しい気がして、俺はその場にごろりと転がった。
……一応、俺は恋人なんだよな?
冬休みにこれだけ放っておかれて、普通の女の子だったら拗ねるくらいじゃ済まないだろ。
普段は思わないような不満が腹の中でぞわぞわと動き回って飲み込まれそうになる。
いけない。
こんなこと考えても無駄どころかマイナスなだけだ。
ネガティブな気持ちを振り払うように一度大きく深呼吸して腕を伸ばすと、こつりと手の先がベッドの下の引き出しにぶつかった。
収納スペースの少ない狭い部屋にありがちな、ベッド下が物入になっている引き出しだ。
なにか慌てて仕舞いでもしたのだろう。
その隙間にベッドのシーツが挟まっている。
そう言えば、弥田は大掃除がてら着ない服を整理したいと言っていたな。
そんなことをつらつらと考えていたせいだろう。
もし俺の頭が暗い考えに覆われていなかったら、弥田が大掃除したいなんて言わなかったら、……俺はそこを開けるなんてことしなかった。
どれだけ近い存在でもプライバシーはあるし勝手に物を漁るような真似しなかった、のに。
軽く力を入れるだけでするりとスライドした引き出し。
そこから挟まったシーツを引っ張り出して……俺は目を見開いた。
「え……?」
どうせ汚く服でも詰め込まれているんだろうと思ったそこは、意外にもすっきりと整理されていて、大事そうに小さな紙袋が鎮座していた。
駅ビルなんかにも入っている、少し有名なジュエリーショップ。
明らかにクリスマスを意識した、どこか甘くファンシーな包装。
心臓が嫌な音をたてる。
は、と自分の吐いた息が部屋に響いた気がした。
いや、だってこれは。
こんな、あからさまにクリスマスプレゼントを意識した包みは。
……明らかに女の子向けじゃないか。
その明白な答えを脳みそが勝手に導き出して、体が小さく震えた。
だけどこれは、少なくとも俺に渡すようなものじゃない。
どう考えても違う。
散々ほったらかしにしておいて、キスもセックスもしない俺に渡すものじゃない。
プレゼントなんてありえない。
しかもこんな、可愛さだけでできた物、どう考えてもありえない。
そんな甘い間柄じゃない。
つまり、それは、弥田には。
「他に女の子、いたってこと……?」
自分の口から零れ出たその台詞が耳に入って、その死にたくなるような響きに胸が詰まる。
中途半端に開かれた引き出しの奥には、まだ何か入っていて。
ダメだ。
見ちゃいけない。
そう思いながらも震える手で引っ張ると、かたりと軽い音とともに目に飛び込んできたのは、小さな箱に入った避妊具。
……まぁ、クリスマスだもんな。
つい先日、俺も同じもの買ってたよ。
呆然と座り込んだまま、頭の隅でいやに冷静な自分がそう呟いた。
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