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2.ハーフオーク
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男はただ巨体なだけじゃない。
緑と、肌色の入り混じった皮膚。
瞳の片方は澄んだ湖のような青色、そしてももう片方は濁った黒。
パサついてごわごわしていそうだけど、明るい金髪。
野獣のような筋肉に包まれた体だけど、そのはるか上にある顔立ちは端正で男らしい。
ハーフオークだ……!
噂には聞いたことがあるけれど初めて見るその存在に思わず一歩後ずさる。
頑健な体から強い魔力がにじみ出ている。
その恐ろしいほど大きな男は、少し困ったような顔をしてこちらを覗き込んでいた。
「ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ」
ビビった俺に気が付いたのか、ハーフオークの男は少しだけ屈むと、何も持っていないと表すかのように手を上げる。
にこりとオークは頬を吊り上げ、低い声で言葉を重ねた。
「君、さっきからずっと掲示板見てるよね?どこのパーティーにも所属してないなら、俺のところに来ないかと思って。一人でクエスト消化するよりも効率良いと思うんだけど……嫌、かな?」
「嫌じゃない」
嫌じゃない。
嫌なわけないだろう。
俺はついさっきパーティーから追い出された身だ。
どこのパーティーも回復係やら魔導士やらを優先して、シーフを積極的に欲しがってくれるところは少ないから、クビになった当日に次の当てが見つかるなんてあり得ないくらい幸運だ。
どんなパーティーなのかとか仲間は誰かとか聞かなきゃいけないけど、それでも俺はやや食い気味に答えた。
俺の応えに、男はどこかほっとしたように息を吐く。
「良かった。俺はウォーレン。君の名前は?」
俺がロルド、と小さく呟くと、彼は本当に心底嬉しそうに笑った。
握手のために差し出された掌に、俺の手が包まれる。
その大人と子供ほど大きさの違う手に少し腰が引けた。
握手した手をそのまま引かれて、ウォーレンは俺を彼のパーティーまで連れていってくれた……のだけれど。
「本当にそんな弱そうなシーフ、使えるのかい?」
「つーか、もうちょっとマシなの居なかったのかよ」
ギルドの奥に部屋を取っていたらしいパーティーの面子は、俺の顔を見るなり口々に悪態をつき出した。
顔色が悪い魔術師の男は冷たい視線で俺を頭からつま先までじろじろと見ている。
街中なのに甲冑に身を包んだ戦士は、あからさまに大きなため息をつく。
それを横目に見ている回復係らしい僧侶は、温厚そうな顔に苦笑いを浮かべていた。
明らかに歓迎されていない。
どれだけ鈍い人間でも分かるほどの態度。
強そうな男たちの厳しい視線に晒されて俺が顔を強張らせると、ウォーレンが俺を庇うように一歩前へ出た。
「おい、そんな言い方するな」
「だってこいつまともに戦えないだろ?装備もボロいし」
「装備は俺が買う。それにシーフなんだから、戦わなくても俺が守る」
「はぁ?そこまでしてそいつ入れる必要あるのかよ?」
どうやらリーダーらしい戦士が立ち上がって呆れたように声を上げる。
俺の頭の上でしばらく揉めているような雰囲気が続いたが、ウォーレンは太い腕を組むと落ち着いてはいるが一際大きな声をだした。
「次の遺跡は必ず鍵開けが上手いシーフが必要だ。ただ敵を倒せばいいってもんじゃない。それともなんだ、お前たちがやってくれるのか?遺跡の宝を探したいと言ったのは、お前だろう」
どうやらシーフはこの先の旅に不可欠なようで、そのウォーレンの一言に、戦士はぴたりと体の動きを止める。
もごもごと口の中でなにやら言いづらそうに言葉を転がしている。
「いや、それは……できない、けど、」
「それに別の人間がいいっていうのか?彼はシルバーバッジを付けているだろう。次にフリーのシーフを見つけられるのは、いつになるか分からないぞ」
シルバーバッジは、同じ職に5年以上就いていないと付与されない。
全ての冒険者はギルドに所属しているから、経歴は一切誤魔化すことができないのだ。
そして戦士は俺の胸に輝くバッジをちらりと見て、諦めたように口を噤んだ。
立ち上がっていた戦士が乱雑な音を立てて椅子に腰かけるのを見て、ウォーレンはこちらを振り返った。
「決まりだな。じゃあ、ロルド。これからよろしく」
緑の入り混じった肌。
青と黒の瞳。
整った容姿と、不気味なまでの筋肉に覆われた体。
全てが混沌とした男は、さっきまで戦士に対峙していた時とは打って変わって、穏やかで優しい笑みを浮かべて俺を見つめた。
緑と、肌色の入り混じった皮膚。
瞳の片方は澄んだ湖のような青色、そしてももう片方は濁った黒。
パサついてごわごわしていそうだけど、明るい金髪。
野獣のような筋肉に包まれた体だけど、そのはるか上にある顔立ちは端正で男らしい。
ハーフオークだ……!
噂には聞いたことがあるけれど初めて見るその存在に思わず一歩後ずさる。
頑健な体から強い魔力がにじみ出ている。
その恐ろしいほど大きな男は、少し困ったような顔をしてこちらを覗き込んでいた。
「ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ」
ビビった俺に気が付いたのか、ハーフオークの男は少しだけ屈むと、何も持っていないと表すかのように手を上げる。
にこりとオークは頬を吊り上げ、低い声で言葉を重ねた。
「君、さっきからずっと掲示板見てるよね?どこのパーティーにも所属してないなら、俺のところに来ないかと思って。一人でクエスト消化するよりも効率良いと思うんだけど……嫌、かな?」
「嫌じゃない」
嫌じゃない。
嫌なわけないだろう。
俺はついさっきパーティーから追い出された身だ。
どこのパーティーも回復係やら魔導士やらを優先して、シーフを積極的に欲しがってくれるところは少ないから、クビになった当日に次の当てが見つかるなんてあり得ないくらい幸運だ。
どんなパーティーなのかとか仲間は誰かとか聞かなきゃいけないけど、それでも俺はやや食い気味に答えた。
俺の応えに、男はどこかほっとしたように息を吐く。
「良かった。俺はウォーレン。君の名前は?」
俺がロルド、と小さく呟くと、彼は本当に心底嬉しそうに笑った。
握手のために差し出された掌に、俺の手が包まれる。
その大人と子供ほど大きさの違う手に少し腰が引けた。
握手した手をそのまま引かれて、ウォーレンは俺を彼のパーティーまで連れていってくれた……のだけれど。
「本当にそんな弱そうなシーフ、使えるのかい?」
「つーか、もうちょっとマシなの居なかったのかよ」
ギルドの奥に部屋を取っていたらしいパーティーの面子は、俺の顔を見るなり口々に悪態をつき出した。
顔色が悪い魔術師の男は冷たい視線で俺を頭からつま先までじろじろと見ている。
街中なのに甲冑に身を包んだ戦士は、あからさまに大きなため息をつく。
それを横目に見ている回復係らしい僧侶は、温厚そうな顔に苦笑いを浮かべていた。
明らかに歓迎されていない。
どれだけ鈍い人間でも分かるほどの態度。
強そうな男たちの厳しい視線に晒されて俺が顔を強張らせると、ウォーレンが俺を庇うように一歩前へ出た。
「おい、そんな言い方するな」
「だってこいつまともに戦えないだろ?装備もボロいし」
「装備は俺が買う。それにシーフなんだから、戦わなくても俺が守る」
「はぁ?そこまでしてそいつ入れる必要あるのかよ?」
どうやらリーダーらしい戦士が立ち上がって呆れたように声を上げる。
俺の頭の上でしばらく揉めているような雰囲気が続いたが、ウォーレンは太い腕を組むと落ち着いてはいるが一際大きな声をだした。
「次の遺跡は必ず鍵開けが上手いシーフが必要だ。ただ敵を倒せばいいってもんじゃない。それともなんだ、お前たちがやってくれるのか?遺跡の宝を探したいと言ったのは、お前だろう」
どうやらシーフはこの先の旅に不可欠なようで、そのウォーレンの一言に、戦士はぴたりと体の動きを止める。
もごもごと口の中でなにやら言いづらそうに言葉を転がしている。
「いや、それは……できない、けど、」
「それに別の人間がいいっていうのか?彼はシルバーバッジを付けているだろう。次にフリーのシーフを見つけられるのは、いつになるか分からないぞ」
シルバーバッジは、同じ職に5年以上就いていないと付与されない。
全ての冒険者はギルドに所属しているから、経歴は一切誤魔化すことができないのだ。
そして戦士は俺の胸に輝くバッジをちらりと見て、諦めたように口を噤んだ。
立ち上がっていた戦士が乱雑な音を立てて椅子に腰かけるのを見て、ウォーレンはこちらを振り返った。
「決まりだな。じゃあ、ロルド。これからよろしく」
緑の入り混じった肌。
青と黒の瞳。
整った容姿と、不気味なまでの筋肉に覆われた体。
全てが混沌とした男は、さっきまで戦士に対峙していた時とは打って変わって、穏やかで優しい笑みを浮かべて俺を見つめた。
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