幸か不幸か

のらねことすていぬ

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退助の場合 2

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 恋人である彼、浅見 柊弥(あざみ しゅうや)との出会いは去年の夏の日だった。

 高校に入って初めての夏休み。部活に何も入らなかった僕は暇を持て余していた。当然のように生活は昼夜逆転し、ダラダラと昼過ぎに起きては深夜までゲームをするような毎日だった。共働きで忙しい両親は、宿題だけはするようにと言って大目に見てくれていたのもそんな生活に拍車をかけていた。夏休みが半分ほど終わった夜、深夜にゲームをしていたらお腹が減った。でも家には特に食べるものもなくて、じゃあコンビニに行こうかとこっそりと家から抜け出した。どうせならいつもと違ったコンビニに行こう。暇な僕はそう考えて自転車でいつもは通らない公園をつっきって……そこで、怪我をしてボロボロになった柊弥くんを見つけたんだ。
 119番しようとする僕を抑えて、柊弥くんは平気だってめちゃくちゃ怖い顔で言っていた。平気なわけない。パニック寸前に混乱した頭を回転させて、なんとか彼を自転車の後ろにのっけて彼のマンションまで送り届けた。絶対に病院行った方がいいですよ。そう100回くらい言ったら、彼は大きな声で笑って、それから分かったと言ってくれた。
 意外なほど律儀な彼は、わざわざ僕を探してくれて礼をするって言ってくれた。名前しか言わなかったのに、よく僕の学校や住所が分かったと思う。それからは、ファストフード店でご飯食べたり彼の家でゲームしたり、普通に何度も遊ぶようになった。彼がここからは少し遠くの高校に通っている同じ高校生であることや、両親がそろって海外に行っていて一人暮らしだということ。好きな食べもの、好きな音楽、子供の頃好きだったゲーム。そんなことを少しづつ知っていった。
 思ったほど怖くない。むしろ格好いいな。見た目よりもずっと優しい彼を好きになるのに時間はそれほどかからなかった。最初は同性への憧れなのかと思っていたけど、彼の家にいつもよりも少し遅い時間に行った時にキスをされて、それで僕は彼が好きなんだと自覚した。初めてのキスだったけど、男同士なんてことが全く気にならないくらいに嬉しかったから。
 それで付き合うようになったんだけど……、それでも僕のラッキースケベ体質は治らなかった。そして、それは僕と彼の間にさざ波を起こしている。



「退助。お前、これで浮気何度目だ?」
「ちが、違うんだよ、浮気じゃなくて……!」

 停めてあったバイクに乗せられて、光の速さで彼の家まで連れてこられてしまった。彼は相当怒っているんだろう。綺麗な額に青筋がたっている。ぽいと大きなベッドに投げ捨てられて圧し掛かられて詰問される。

「あ゛あ゛? 俺との待ち合わせすっぽかして他の女の胸触ってんのが浮気じゃねぇってのか?」
「ひぃ! ごめんなさい……!」

 違うんだ。浮気じゃない。けっして他の子なんかにフラフラしてない。僕が好きなのは柊弥くんだけ。そう言いたいけど、彼の言い分もごもっともだ。僕だって、もし柊弥くんが僕以外の女の子の胸を揉んでいたらショックを受けてしまうだろう。しかも、一回だけじゃなくて何度もあちこちで。たとえわざとじゃなくても、許せないって思うのは当然だ。ラッキースケベ体質だから、なんて間抜けな言い訳でしかない。

「本当に、もう気を付けるから……許して……お願い……!」
「気を付ける、ねぇ」
 
 視線で殺されそうなほど睨みつけられる。もし恋人になる前にこんな風に睨まれたら失神していたかもしれない。じっと俺の情けない顔を睨んでいた柊弥くんは、瞳はまだ怒ったまま、口の端を吊り上げた。

「じゃあお仕置きだな」







「ぅつあ、あ、あ、…あ、!」

 ヴィー、と機械の鈍い音が部屋に響く。けれどそれよりも俺の潰れた喘ぎ声が耳に触る。は、は、となんとか息を整えて喘ぎ声を押し殺そうとすると、俺のことを内側から苛んでいた振動が強くなった。

「気持ちよさそうだな」
「あっ、ああ!? な、あっ、や、あぁ!」

 どんどん強くなる振動。やめてほしいと首を横に振るけど、俺をいじめている張本人は涼しい顔だ。

「ローターなんかじゃ物足りねぇかと思ったけど、楽しそうだな」
「ひっ、い、ああ! あ、あ! ゃ、やめ、」

 僕をお仕置きすると言った柊弥くんは、僕をぺろりと裸に剥くと四つん這いにさせた。そして恥ずかしい格好のままの僕にローションを垂らすと、後ろにピンク色をした玩具を突っ込んできたのだ。その時に他のバイブみたいなイロイロが見えたのだけれど、それは見なかったことにしておく。
  いつもはもっと優しく抱いてくれる。でも怒っている時は僕が泣いて許しを乞うても手加減してくれないしやめてくれなくなってしまう。今は……その怒っているときみたいだ。

「ごめ、あ! や、ああ、! っあ!」

 一番強い振動に固定されたローターが僕の中で暴れまわる。腕から力が抜けて腰だけを高く上げたますます情けない格好になってしまう。気持ちいい。だけどイくことができるほどは強くない刺激で、無意識に僕は尻をゆるく振ってしまう。イきたい、でもイけない。気持ちいい。ごめんなさい。色々な感情がまじりあって涙目になる。助けてほしくて柊弥くんを見上げると大きな舌打ちをされた。

「おまえなぁ、ちゃんと反省してんのかよ」

 ぐちゅん、という音とともに彼の長い指が入ってくる。ローターを引き抜かないまま。

「え、や、なに、あ! ああ゛! やだ、や! ひど、ぃ、あ”、あっ!」
「ん? 好きだろここ」

 彼の指先がローターを押し上げる。ローターが僕の性器の裏側にある前立腺にぐりぐりと押しつけられて、濁った汚い悲鳴がでた。

「やぁ、やだぁ! あ゛あっ!」
「は、なにがやだだよ。見ろよ、どろどろ」

 前立腺にローターを押し付けたまま、柊弥くんがもう一つの手で僕の性器を握る。ぬるぬると擦り上げられて腰が震えた。

「ローションいらなかったかもなぁ」
「あっ、あっ、や、あ♡ んああっ、もう、だめ、イっちゃ、」

 ぐち、ぐち、と派手な音をたてて前も後もぐちゃぐちゃにされて、俺はもう快感で脳みそがおかしくなりそうだ。お腹の奥がきゅうきゅうと物欲しげに動く。でも柊弥くんはまだ苛め足りないみたいで、蠕動する後孔を乱暴にかき回してくる。

「あ? まだとぶなよ、退助」
「やっ! あ、あ♡ も、むり、むりぃ゛♡」

 堪えることなんてできなくて、彼の掌に精液がぴゅるぴゅると漏れていく。全身が震えてぎゅっと固くなる。気持ちいい。気持ちが良くてもう何も分からない。精を吐き出しきって体が弛緩する。薄っすらと意識が遠くなって浅い呼吸とともに体をベッドに沈めようとすると。

「まだだめだって言っただろ」
「ああ゛! や、ぁあ゛!」
「お仕置きだっての、忘れんなよ」

 震えたままのローターがもう一度強く体内に押し付けられる。イったばかりの僕の体はその強すぎる刺激に悲鳴を上げて飛び跳ねた。

「他の女見ても勃たないように、最後まで絞りつくしてやるからな」
「ひぎっ♡ あ! や、ああ!」
「もう浮気すんなよ。したらどうなるか、分かってんだろうな?」
「や゛ああ! しな、しないぃ! 好きなの、しゅうやくんだけだからぁ!」
 
 どうなるか。その言葉を聞いて、僕は快感で喘ぐことしかできなかった口を慌てて開いた。情けない声になってしまったけれど、絶対に嫌だ。次に浮気……疑惑だけれど、浮気したらきっと僕は捨てられちゃう。それだけはやだやだと首を横に振る。お願いどうか捨てないで。本当に浮気なんてしてないから。好きなのは柊弥くんだけだから。

 好き、好き、と何度も繰り返す。強引すぎる愛撫、いやお仕置きのせいで気持ちよさに頭が塗りつぶされて、上手く言えているかも分からなくて、僕は好きと壊れた人形みたいに何度も口にする。浮気はしない。なんでも彼の言う通りにするしお仕置きもうけるから一緒にいてほしい。
 だから……。

「そうだな。出歩けなくなったら辛いもんな?」

 彼が囁いたその言葉の意味は分からなかったけど、僕は好きと叫びながら頷いた。








 まさか次に『浮気』をしたら監禁しようとしていたと彼が計画していたとは、知る由もなかった。

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