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1巻
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その砦の足元では、高い塀がぐるりと庶民のための街を囲んでいる。街は広々としており、市場や店が通りに並んでいた。
庶民の家は地味な色合いだが頑丈そうで、密集して建てられており、人口の多さを表している。
寒い北の街だ、何もない所だろうとジューダスは侮っていたが、ザカリアは繁栄していた。
そのザカリア領の砦に、治癒魔術師団は年に一度、春に王都から派遣される。そのまま夏まで留まり、砦の治癒魔術師では診きれない患者を治癒したり、薬品の補充をしたりして、王都に戻っていくのだ。
治癒魔術師は稀有な存在だ。現にこの砦は前線であるにもかかわらず、治癒魔術師が二人しか常駐していない。この年に一回派遣される治癒魔術師団の治癒魔術をあてにしていた。
そのあてになるべき治癒魔術師団なのだが……
「どうぞ! 止血の薬です!」
「早くしてくれ! こちらだ!」
「す、すみません、私一人ですと手が回らなくて……!」
「御託はいい! とにかく早く!」
薬を兵士に手渡すと、乱暴にひったくられる。メリルの言葉を最後まで聞くこともなく兵士は扉から外へ駆けていった。
その背中を見て、思わず大きなため息が出る。メリルは今回派遣された治癒魔術師団で一番下っ端の、助手だ。だが治癒魔術師団の中で唯一、ばたばたと忙しなく走り回っている。
ザカリアの砦では日々の訓練、敵との小競り合い、山から出てくる獣の退治などで怪我人が絶えない。
しかし、だ。メリルが後ろを振り返ると、治癒魔術師たちが立派な椅子に座って各々書物を読んだり、窓の外を眺めたりと、こちらを見もしないでくつろいでいた。魔力には限りがある。大怪我でないのなら、一般の兵士は適当な傷薬を使えばいいと思っているのだ。
メリルは意を決して、その中でも一番若い治癒魔術師に声をかける。
「すみません。えっと、ウィリアムさん、ですよね。薬の補充、一緒にしてもらえませんか?」
まだ魔術学院を卒業したばかりの青年だ。細身の体に、ふわふわ柔らかそうな金髪。治癒魔術師のローブの下に、庶民でも分かるほどの上質な服を纏っている。有力な貴族の子息かもしれない。
彼は読んでいる書物から顔を上げることもなく、ひらひらと手を振った。
「薬? 僕、薬のことはまだ勉強中だから知らないんだよね」
「そうですか……」
あっさりと取り付く島もなく断られる。
(……王宮でも冷たかったけど、ここだと余計に酷いな)
繰り返しとなるが、治癒魔術師は稀有な存在だ。魔力持ちは貴族が多いし、王宮勤めならば尚更に自尊心が高い。彼らにとって傷薬程度で治る一兵卒の怪我なら、治癒魔術をかけるに値しないのだろう。それどころか視線を向ける価値すらないようだった。
この砦にもともといる治癒魔術師や、今回派遣された治癒魔術師団の中にも庶民派の人はいるらしいが、彼らは大怪我をした患者を診ていた。そうなると、必然的にメリルが残りすべての怪我人の相手をすることになる。おかげでここに赴任して早十日。朝から晩までクタクタになるほど働いていた。息をつく暇もない。
(こんな状態で、サディアス将軍に催眠術をかけるなんて無理じゃないか!)
サディアスの顔は、このザカリアの砦に入った時に見られた。馬車に乗ってやってきた治癒魔術師団全員を、彼は正門で出迎えたのだ。
冷えた風が頬を打ち、遠くで狼の鳴き声がする日だった。震え上がりそうな鳴き声が響く中、彼はそれを意に介する様子もなく、じっとこちらを睨みつけていた。
その姿は、まさに英雄に相応しい堂々たる立ち姿だ。身長は大柄ぞろいのザカリア兵の中でも飛び抜けて大きく、メリルと並んだら頭一つ、いや二つ分も違うかもしれない。腕も胸も太く厚く、鎧越しでも分かるほど逞しい体躯をしている。
髪は漆黒で短髪。瞳も同じ色だろう。固く引き結ばれた唇が男臭さを醸し出していたが、すっと通った鼻筋や彫りの深い目元は美形と言って差し支えないほど整っていた。もし、こんな状況でなく、たとえば式典で彼の姿を初めて見たとしたら、ハッとするほどの美丈夫だと思っただろう。
それがサディアス・ハイツィルト将軍だった。
王女は獣だのおぞましいだの言っていたが、メリルの目から見た将軍はとてもそんな野蛮なものではない。まさにこの砦を守る軍神といった風情で、恐ろしいながらも静かな知性を感じさせる佇まいだった。
(でもあんな怖い顔なのに、マリアローズ王女に一目惚れしたんだよな……)
マリアローズはたしかに美しい。精巧な人形だと言われたら信じてしまいそうなほど、完璧な容貌をしている。豊かな金髪も、白い肌も、細すぎるほど細い腰も、すべてが女性として魅力的だ。
だがあんな威圧感があり冷静そうな顔をした、にこりとも笑わない男が、美しくても我儘なマリアローズを欲しがるのはどこか意外な気がする……
(好みというのは、分からないものだな)
メリルは恋人がいたこともなければ、恋に落ちたこともない。ずっと魔術の勉強しかしてこなかったから知らないが、きっと恋とは、理論的なものではないのだろう。あの血まみれ将軍が、うら若き花を欲しがるように……
その恋路を、命に代えてでも邪魔しなければいけない。
そこまで考えて、肩に圧し掛かる荷の重さに、メリルは陰鬱なため息を吐いた。その時、扉が再び音を立てて開き、若い兵士が室内に入ってくる。
「失礼しまーす」
「はい! ……って、あ、カルロスくん」
「お疲れ様です。メリル先生、今って大丈夫っすか?」
顔を上げると、そこにいたのは顔見知りの若い兵士だった。
この砦では珍しい日に焼けた浅黒い肌と、くるくると軽く縮れた黒髪。カルロスというこの青年は、まだここに来て三年程度、二十代半ばの若い兵士だ。
先輩兵士のお使いで頻繁に医務室を訪れるようになり、メリルと同じ寒がりだということが判明してから親しくしてくれている。カルロスは温暖な土地出身らしく、震えるメリルに親近感を持ったらしいのだ。
「ここの人間は荒っぽいのばかりですみません、驚かれたでしょう。俺も来たばっかりの頃、嫌でしょうがなかったです」
唇を尖らせるカルロスに、メリルは首を横に振る。
本当なら治癒魔術師も物資ももっと支援すべきだ。不足しているから、兵士たちは苛立っているのだろう。などとは言えない。
「はは。いや……その、たしかに驚いたけど、大丈夫。私こそあまりお役に立てなくて申し訳ない」
「いえ、とんでもない!」
カルロスは大げさに手を振ると、メリルに顔を近づけて声を潜めた。
「治癒魔術師様たちは大怪我でもしない限り診てくれないでしょう? メリル先生が来てくれて凄く助かっています」
「たいしたことはしていないよ」
「何言ってるんですか。メリル先生の催眠術のお陰で、俺、最近かなり疲労が取れてるんです」
「ありがとう。……じゃあ今日も施術しようか」
「いいんですか? お願いします!」
効き目がほとんどないと言われている催眠術を、この砦でメリルは大っぴらに施術していない。
催眠術は患者と施術者の信頼関係が大切。王都から来たばかりの自分では、ここの兵士は癒せないだろうと踏んでのことだ。
だがカルロスと親しくなり、偶然、彼が慢性疲労と倦怠感に悩まされていると知って、催眠術をかけてあげたのだ。
(人懐こい彼ならすぐに効きそうだとは思ったけれど、本当に予想以上に効いたみたいだな)
短期間でメリルを信頼したらしいカルロスは、しっかりと催眠術にかかった。ぐるぐると腕を振り回して元気なことをアピールする青年に、思わす頬が緩む。
さすがに催眠術は、他の治癒魔術師のいる医務室ではできない。薬品を貰いに来る兵士が途切れたことだしと、彼を伴ってメリルは医務室を抜け出した。
「私の部屋でいいかな?」
「どこでもいいっす!」
くつろぐことができる個室というと、この砦では他にない。子犬のように尻尾を振ってついてくるカルロスと一緒に廊下を進む。
メリルのあてがわれている部屋は医務室に程近い場所だ。まぁ往復してもそれほど時間はかからないだろう……と思って足を進めていたその時、後ろから野太い声に引き止められた。
「おい、カルロス。お前こんな所で何やってんだ?」
「ぐぇっ!」
隣を歩いていたカルロスの首根っこを、誰かが掴んでいる。背後に全く気配を感じなかったのに、一体誰が。そう思って振り返ると、そこには山のような大男が二人並んで立っていた。
「将軍! 副将軍!」
「え!? 将軍と副将軍!?」
カルロスが悲鳴を上げ、メリルも驚きに声をひっくり返らせる。
将軍と副将軍。この砦のまとめ役の二人が、こんな廊下で、しかも一兵卒を捕まえるなんて。
将軍になんとか近づかないと、と思っていたが、メリルには心の準備ができていなかった。
「その先は個室しかないぞ。お前、昼間っからそんな場所で何する気?」
「あ、い、いえ! その……」
「何、言えないこと?」
「いえ、自分は、決してやましいことは!」
カルロスを捕まえた、副将軍、レイノルド・クロムウェルがじろりと彼を睨む。
レイノルドは、将軍であるサディアスの腹心の部下だ。サディアスと同い年で、乳兄弟らしい。女性に人気がありそうな甘い顔立ちに、柔らかな栗毛色の髪。顔だけ見たら軟派な印象を受けるが、サディアスが一番に信用しているというのだから、温和なだけの男ではないのだろう。実際に、今もカルロスを問いただす口調は軽薄だが、その体からは迫力が滲み出ている。
そしてその後ろには――将軍、サディアス・ハイツィルトがいた。
遠くから見た時も恐ろしいほど威圧感のある男だったが、近くに来られるとますます威厳がある。厳しく引きしまった頬。背の高いレイノルドより、更に大きな体。だが巨体の者特有ののっそりとした動きはせず、研ぎ澄まされた雰囲気を持っている。
雪原の上に立つ狼のように静かな空気を体に纏わせた男が、すぐ傍にいた。
(サディアス将軍まで……)
思考の読めない、吸い込まれるような黒い瞳が、カルロスをじっと見つめている。
将軍と副将軍。普段会話なんてしない相手に詰め寄られて、カルロスの顔が青くなった。あわあわと言い訳すらできていないのを見て、メリルは彼を庇い一歩、進み出る。
「す、すみません……いえ、誤解を招くようなことをして申し訳ありません。治癒魔術師団として派遣されました、メリル・オールディスと申します。カルロスさんの慢性疲労を治療しに行こうとしていました。決して不当な休憩をとろうとはしていません」
「慢性疲労?」
「はい。兵士には傷を癒す権利があります。ですので、彼は職務を放棄していたわけではありません」
じっとレイノルドに見つめられる。迫力のある瞳でまじまじと顔を見られて、どきりとメリルの胸が嫌な音を立てる。
目を逸らせずに突っ立っていると、……レイノルドはふ、と息を吐いた。
「職務を放棄……って、俺が言ってるのはそういう意味じゃないんだけどね」
「え?」
「いや、こっちの話」
ぷらぷらと掌を目の前で振られる。恐ろしげな雰囲気をひっ込めたレイノルドに、メリルは少し安心した。
「メリルさん、だっけ? 治療魔術師様? そうは見えないけど」
「いえ、私は……催眠術師です」
「催眠術? 催眠術って、あの? 街角でおばーちゃんとかがやってる、占いみたいなやつ?」
「そうです」
「マジで? そんな仕事でよく治療魔術師団に入れたね。催眠術でできることなんて、ちょっと痛みや不安を和らげるとかでしょ。ほとんど気のせいみたいな」
わざと馬鹿にしたというよりも、本心から驚いたのだろう。レイノルドは目を丸くし、自分の顎を撫でた。
こんな言葉は言われ慣れている。もっと心ない言葉を沢山投げかけられてきた。
しかし、「よく言われます」と苦く笑って誤魔化そうとすると、後ろで直立していたカルロスが声を上げる。
「あ、あの! お言葉ですが、メリル先生の催眠術は、街角のものとはわけが違います」
「え、ちょ、カルロスくん」
「へぇ? どういうこと? 教えてよ」
突然喋り出したカルロスに、今度はメリルがぎょっと目を開く。だがレイノルドに促された彼は、言葉を続けた。
「自分、このザカリアに来てから寒くて、怠さに悩んでいたんです。それで、メリル先生にこの間、たまたまそのことを言ったら、催眠術で治せるかもって言ってくれて」
カルロスは暖かな土地の出身で、そこから急に北の大地に赴任したせいで、軽い抑うつ状態になっていたのだ。彼の明るい性格のために周囲は気が付かなかったようだが、不慣れな環境で少しずつ弱っていた。
そこでメリルは、催眠術で彼の無意識下にある『ここは故郷とは違う』という思い込みを取り去ってあげたのだ。それでカルロスはザカリアの気候も食事も、慣れ親しんだものだと勘違いし、不必要に緊張しなくなった。
「自分も気休め程度に思っていたのですが、一度で怠さが吹き飛んで、この砦に来てから一番体調がいいっす!」
「カルロスくん……」
彼が催眠術にかかりやすい性格だったこともあるだろう。だが、隠すことなく感謝を伝えてくれるカルロスに、じわりと心が温かくなる。たいしたことはしていないが、役に立てて嬉しい。そう言おうと思ったその時、レイノルドの横に立っていた巨体がゆらりと動いた。
「……おい、俺は行くぞ」
低く唸るような声を出したのはサディアスだ。
彼の気迫のある声に、メリルは肩をびくりと跳ねさせる。戦の時には何百という数の兵士を束ねる、恐ろしい男。その人の静かな声に、思わず背筋が伸びた。
そっと声のほうを見ると、真っ黒な瞳と目が合って……そして逸らされる。
(え……?)
ペラペラと喋るレイノルドとは違い、静かにたたずんでいるだけだったサディアスだが、ふい、と顔まで逸らした。
その強面と迫力から、メリルこそ目を逸らしそうなものなのに、何故サディアスのほうが、まるで「見ていなかった振り」をするように視線を外したのだろうか。
そもそもカルロスではなく、自分を見ていたのも驚きだ。疑問が頭に浮かぶが、当然それに答えてくれる人はいない。メリルがサディアスに話しかけられるわけもない。
視線を逸らしたままサディアスはメリルに背を向け、大股に足を踏み出してしまった。その背中にレイノルドが声をかける。
「え~? もう少し話、聞いていこうよ。催眠術だって」
「時間の無駄だ」
「あらら」
さっさと進んでいくサディアス。その様子を見て、レイノルドはちらりとメリルたちを振り返ると、ひらひらと手を振った。
「じゃあ、俺も行かないと。カルロス、メリルさん、またね」
「失礼します!」
「あ、はい。失礼します」
去っていく二人を、カルロスがびしりと直立して見送る。メリルは軽く腰を折った。彼らの姿が完全に見えなくなり、ようやくメリルとカルロスは体の力を抜く。
「うわ~、びっくりしました! サディアス将軍がこんな所にいるの、珍しいっすね」
「そうだよね。私は、彼らを見るのはまだ二回目だ」
「将軍って迫力ありますよね。でかいですし。レイノルド副将軍は一兵卒にも気さくですけど……たまに怖いところもありますし」
間近で見たサディアスは、少し顔色が悪いが、逞しく得体の知れない迫力を持った男だった。
血まみれ将軍などというあだ名から、野蛮な男、もしくは血も涙もない冷酷な男かと思っていた。だがレイノルドの横で静かにたたずんでいた様子からは、腕っぷしだけでなく知略にも長けていそうだと感じる。それは味方としては心強いが……
(……やっぱり催眠術なんて、かけられる気がしない)
あの男のどこに隙があるというのだ。籠絡するのはあまりに難しすぎる。傍にも寄らせてくれそうにない。
(私から目を逸らしたということは、意外と人見知りとか……? いや、偶然かもしれない)
カルロスに気が付かれないように、メリルはこっそりとため息を吐いた。
一日の仕事を終え、医務室を後にする頃には深夜になっていた。立ちっぱなしのせいで痛む足を引き摺って、よろめきながら与えられた部屋に戻る。
他の治癒魔術師たちは広い貴賓室が与えられているが、下っ端という立場のメリルの部屋はやや狭くて質素だ。
簡素な備え付けの家具しかない部屋に入ると、メリルはどさりとベッドに飛び込んだ。
「……疲れた」
呻き声が漏れる。
ここでの仕事は、王都での仕事と全く違う。違いすぎる。朝から晩まで、薬の準備に処方、それから怪我をした兵士の応急処置。王都で文官たちに嫌味を言われながら、それでものんびりと治療をしていた時が優雅だったと思えるほどだ。王都では文官だって治癒魔術師に治療してもらえていて、メリルは補助だったし、怪我人なんて滅多にいなかった。
「薬も人手も足りなすぎる……これで戦が始まったらどうするんだ」
ため息を吐きながら独り言つ。小康状態の今でさえこれほど忙しいのなら、もし敵が攻め入ってきたらどうなるのか……もはや考えたくなくて、メリルは指で眉間を揉んだ。
「それより早く寝ないと……体がバキバキだ」
忙しなく走り回るせいで毎日筋肉痛だ。それに、兵士たちの大きな声に体が無意識に緊張してしまって、固くなっている。今日は強めに自己催眠をかけて深く眠ろう。疲れている時は睡眠が何よりも大事だ。
はぁ、と息を吐いてのろのろとローブを脱ぐ。だけど、部屋の中とはいえやや寒く、このまま寝てしまいたい。体がベッドに留まりたがっている。どうしようかうだうだ迷っていると、部屋の扉が静かに叩かれた。
「……え?」
こんな時間に誰だろうか。まさか急病人?
繰り返されるノックに、慌ててベッドから起き上がり勢いよく扉を開いた。
「はい、どうしました!」
すると、そこに立っていたのは一般の兵士ではなく、栗色の髪に緑の瞳の甘い美形。レイノルドだ。
「やぁ、メリルさん」
「レイノルド副将軍?」
昼間は革の鎧を着込んでいた彼は、今は少しくだけた服装をしている。とはいっても帯剣はしていた。
なんでこんな所に。誰かの部屋と間違えたのだろうか。一瞬そう思うけど、メリルの名前を出したということは人違いではないようだ。
「お休み中すみませんね」
「いえ、まだ眠ってはいませんでしたので。あの、どうぞ。よろしければ中へ」
「それは大丈夫。……実は、一緒に来てほしくって」
悪いと思っていないだろう謝罪を口にしたレイノルドは、にこにことしながら、困惑することを言った。こんな夜中についてこいと言われて、警戒しないわけがない。
「え?」
「頼みがあるんですよ。でも、ちょっとここだと言えないから、ついてきてくれません?」
もしかして王女の命令がもうバレてしまったのだろうか。ひやりと背筋が凍る。
だが、この砦の副将軍を相手に、逆らうことも、逃げることも無理だろう。
「駄目かな?」
「えっと……」
企みがバレているのか、違うのか。もし違うなら、なんの用なのか。一瞬にして頭の中にぐるぐると考えが浮かび消えていくが、答えが出ることはない。
圧をかけるようにずいと一歩近寄られて「駄目?」と再度聞かれ、メリルは渋々頷いた。
「……分かりました」
「助かるよ~。ありがとう」
渋面で頷いていることは分かっているだろうに、レイノルドは大げさに笑みを作ってみせる。胡散臭い笑顔だ。
室内に戻り一番厚手のローブを羽織ると、メリルは彼に連れられて廊下を進むこととなった。
(どうしよう……詰問されたら、なんて答えれば……)
軽い足取りで歩く彼の後をついて、ひょこひょこと進んでいく。もし決定的な証拠があるなら、こんなに悠長に廊下を歩かせたりしないはず。そう信じようとするが、緊張に胃がきゅうと縮む。
ぎくしゃくと歩くメリルに、レイノルドはのんびりと話を振った。
「ここでの生活には慣れた? 王都と違って寒いでしょう」
「そうですね……寒さは、少し応えます」
寒さは辛いけど、それ以上に気になることがこの砦にはある。本当のことを言ってしまっていいのか迷い、メリルは口を噤むことを選んだ。それなのにメリルが呑み込んだ言葉を、レイノルドはあっさりと口にする。
「まぁ寒さよりも飯の不味さと、医療品の少なさのほうがキツイかな? あと人手不足も」
「……そうですね」
分かっていたのか。
少し驚いて見上げると、レイノルドは思ったよりも穏やかな顔でこちらを見ていた。
「あの後、カルロスから詳しく聞いたよ。お高くとまっている治癒魔術師団の中で、一人だけ頑張ってくれているって。カルロス以外の兵士の怪我や病気の治療もしてもらっているって、他の奴らから聞いた」
「当然のことです。それに、私は治癒魔術が使えないので、簡単なことしかできていません」
「いやいや。凄く助かっているよ。何しろここの兵士たち、怪我は唾つけておけば治るって思っているから。馬鹿だよね~」
笑いながら言われるが、それはあながち冗談ではない。本当に彼らは、ちょっとした怪我ならば気にせず、放っておくのだ。
「大変でしょ? ほとんどメリルさん一人で診ているみたいだし」
「まだ平気です」
「まだ、ね。やっぱり正直でいいね」
にこにこ笑いながら、レイノルドは長い足で先に進んだ。
(あれ? ……ここ、どこだ?)
躊躇なく進む彼に、疑問が湧く。話に乗せられて道をよく覚えていないけど、随分とメリルの部屋から離れてしまった。
夜中の砦は静まり返っていて、時折、窓を風が揺らす音がするだけだ。廊下に置かれた魔石が光り足元を照らしているが、帰り道が分からないというのは無性に不安を駆り立てる。
前を見ると少し離れた所に、兵士が二人、扉を守るようにして立っていた。どっしりとした黒光りする木材でできた、重たそうな扉だ。
レイノルドはその二人のもとへと歩いていくと、扉の前でメリルのほうを振り返った。
「あの、副将軍……? ここで、ですか……?」
レイノルドが顎をしゃくると、兵士二人はスッと横にずれた。「失礼するよ」という、レイノルドののんびりとした声と共に扉が開かれ、それにつられてメリルもその部屋に入った。
室内はメリルの部屋の三倍はありそうなほど広い。扉をくぐった先はまず客間になっていて、重厚な机とソファが置いてある。壁際には背の高い書棚が置かれ、古い蔵書がびっしりと収められていた。天井から下がるシャンデリアは控えめで、今は小さな灯りがいくつか灯されているだけだ。どれも歴史がありそうだが華美ではない。部屋全体も濃い茶色を基調に、落ち着いた色合いにまとめられていた。
「ここは……」
きょろきょろと辺りを窺うと、爽やかな香の匂いが鼻をくすぐる。
どこかで嗅いだことのある匂い。確かこれは……。メリルが思い出そうと記憶の中を探っていると、客間の奥、おそらく寝室に繋がっている扉から、低い声が響いた。
「レイノルド……どういうつもりだ」
不機嫌そうな、まるで寝起きの熊のような低い声。
その声はまさに今日、一度聞いた。サディアスだ。ゆらりと大きな体がこちらに近づいてくる。寝間着代わりなのだろう。簡素なズボンだけを身に纏い、その上半身は晒されていた。
「そう睨むなって、サディアスのために連れてきたんだ」
顔を顰めるサディアスに、レイノルドが口を尖らせる。そしてメリルの両肩を両手でがしりと掴んだ。真剣な瞳に覗き込まれる。
「いい? メリルさん、これは他言無用だ」
「は、はい」
「サディアスはね、……不眠症なんだ」
レイノルドの口から出てきた言葉に、メリルは首を捻る。
「不眠症? ってあの、眠れなくなる不眠症ですよね」
王都で文官を癒した際に、何度か似た症状の人に会ったことがある。
だが、今までの不眠症の患者は繊細そうな人。とくに内勤の人間がほとんどで、逞しいサディアスと不眠症が結びつかず、確認してしまう。そんなメリルにレイノルドは頷いた。
「ああ。サディアスがぐっすりと眠れたことは、俺が見た限りだとほとんどない。将軍はこの砦の指令の要。絶対に倒れられちゃあ困る。それに、血まみれ将軍に弱点があるなんて、敵国には知られたくない。いや、王家にも知られたくないな」
「……私に話していいのでしょうか」
「もし誰かに漏らそうとしたら、悪いけど死んでもらうよ。北の砦で下っ端が一人消えたとしても、誰も気にしないでしょ。逃げ出そうとして熊にでも食われたことにするよ。ちょうど春だし」
「ひっ」
さらりと残酷なことを言われるが、それが本心なのだろう。彼にとっては部外者のメリルを消すなんて、容易なことだ。
「レイノルド、やめろ」
脅すようなレイノルドの言葉を止めたのは、意外にもサディアスだった。ずかずかと大股でレイノルドに近づき、メリルの肩を掴んでいた手を引き剥がす。そして突っ立っているメリルにじろりと視線を送った。
「あなたもだ、部屋に戻れ。催眠術なんてまじないで治るものじゃない」
ぴしゃりと催眠術はまじないだと言い捨てられる。だが、腕を掴まれたレイノルドは諦めきれないようだった。
「えーでも、そろそろ本当にヤバいんじゃない? 日中ぶっ倒れて大騒ぎになったらどうすんの」
「その時は将軍をお前が代われ」
「それは無理だって」
「なら覚醒薬でも使う」
「いやいや、そんなの早死にするだけでしょ。使わせないよ」
言い争う巨体の二人。サディアスが言った覚醒薬の言葉に、レイノルドは派手に顔を顰めた。
「そんなの使うなら、催眠術を試してみればいいだろ? 催眠術って、失敗したらしっぺ返しとかあるの?」
二人の視線がメリルに降り注ぐ。その圧に押され思わず後ずさるが、メリルはなんとか細い声を上げた。
「催眠術は、強い力を持ったものではありません」
サディアスの視線が、ほらそうだろうと言わんばかりに、レイノルドに戻る。
このまま口を噤み話を終えれば、メリルはお役御免で部屋に帰れるだろう。この気まずい空気から逃げ出せる。だが……、催眠術師として最後まで言わなくては、とメリルは口を開いた。
「作用が穏やかだからこそ、患者の体の負担にならず施術できます。効かなかったとしても、体を害することはありません。眠りを齎す催眠術は一番基本的なものですし……施術に、それほど時間はかかりません」
治癒魔術は体の機能を強制的に活性化させて怪我や病気を治すもの。神経を高ぶらせてしまうし、効力は強いけれど、その分、体の負担も大きい。
催眠術は違う。心に効くものだからこそ、気持ちを落ち着けて穏やかに変化を齎す。
薄暗い部屋でも分かるほど、悪い顔色。本当に、このままでは、サディアスは倒れてしまうんじゃないか。そんな心配がメリルの胸に湧き上がった。
喉を鳴らして唾を呑み込む。
「……よろしければ、一度試させてもらえませんか?」
呟いた声は掠れて空気に溶けてしまいそうだ。今まで生きてきて、一番緊張したと思う。
サディアスの瞳が、メリルにじっと向けられた。鋭い視線に少し怖さを感じながら、足を踏ん張る。漆黒の瞳に見つめられて、心の中まで見透かされている気分だ。
「効かないと思うぞ」
暫くの沈黙の後、サディアスは唸るように呟いた。
やっぱり駄目か。そうメリルが思った時、彼がゆっくりと体を寝室のほうに向ける。
「眠らなくても、恨み言を言わないでくれ」
その言葉に、思わずメリルは目を見開いた。
「……え? いいんですか?」
駄目だと突っぱねられると予想していたのに。もしかして、怪しいと思っている催眠術にも縋りたいほど、切迫しているのかもしれない。
「あ、俺も念のため見張っておくよ。それならサディアスも心配ないだろうし」
庶民の家は地味な色合いだが頑丈そうで、密集して建てられており、人口の多さを表している。
寒い北の街だ、何もない所だろうとジューダスは侮っていたが、ザカリアは繁栄していた。
そのザカリア領の砦に、治癒魔術師団は年に一度、春に王都から派遣される。そのまま夏まで留まり、砦の治癒魔術師では診きれない患者を治癒したり、薬品の補充をしたりして、王都に戻っていくのだ。
治癒魔術師は稀有な存在だ。現にこの砦は前線であるにもかかわらず、治癒魔術師が二人しか常駐していない。この年に一回派遣される治癒魔術師団の治癒魔術をあてにしていた。
そのあてになるべき治癒魔術師団なのだが……
「どうぞ! 止血の薬です!」
「早くしてくれ! こちらだ!」
「す、すみません、私一人ですと手が回らなくて……!」
「御託はいい! とにかく早く!」
薬を兵士に手渡すと、乱暴にひったくられる。メリルの言葉を最後まで聞くこともなく兵士は扉から外へ駆けていった。
その背中を見て、思わず大きなため息が出る。メリルは今回派遣された治癒魔術師団で一番下っ端の、助手だ。だが治癒魔術師団の中で唯一、ばたばたと忙しなく走り回っている。
ザカリアの砦では日々の訓練、敵との小競り合い、山から出てくる獣の退治などで怪我人が絶えない。
しかし、だ。メリルが後ろを振り返ると、治癒魔術師たちが立派な椅子に座って各々書物を読んだり、窓の外を眺めたりと、こちらを見もしないでくつろいでいた。魔力には限りがある。大怪我でないのなら、一般の兵士は適当な傷薬を使えばいいと思っているのだ。
メリルは意を決して、その中でも一番若い治癒魔術師に声をかける。
「すみません。えっと、ウィリアムさん、ですよね。薬の補充、一緒にしてもらえませんか?」
まだ魔術学院を卒業したばかりの青年だ。細身の体に、ふわふわ柔らかそうな金髪。治癒魔術師のローブの下に、庶民でも分かるほどの上質な服を纏っている。有力な貴族の子息かもしれない。
彼は読んでいる書物から顔を上げることもなく、ひらひらと手を振った。
「薬? 僕、薬のことはまだ勉強中だから知らないんだよね」
「そうですか……」
あっさりと取り付く島もなく断られる。
(……王宮でも冷たかったけど、ここだと余計に酷いな)
繰り返しとなるが、治癒魔術師は稀有な存在だ。魔力持ちは貴族が多いし、王宮勤めならば尚更に自尊心が高い。彼らにとって傷薬程度で治る一兵卒の怪我なら、治癒魔術をかけるに値しないのだろう。それどころか視線を向ける価値すらないようだった。
この砦にもともといる治癒魔術師や、今回派遣された治癒魔術師団の中にも庶民派の人はいるらしいが、彼らは大怪我をした患者を診ていた。そうなると、必然的にメリルが残りすべての怪我人の相手をすることになる。おかげでここに赴任して早十日。朝から晩までクタクタになるほど働いていた。息をつく暇もない。
(こんな状態で、サディアス将軍に催眠術をかけるなんて無理じゃないか!)
サディアスの顔は、このザカリアの砦に入った時に見られた。馬車に乗ってやってきた治癒魔術師団全員を、彼は正門で出迎えたのだ。
冷えた風が頬を打ち、遠くで狼の鳴き声がする日だった。震え上がりそうな鳴き声が響く中、彼はそれを意に介する様子もなく、じっとこちらを睨みつけていた。
その姿は、まさに英雄に相応しい堂々たる立ち姿だ。身長は大柄ぞろいのザカリア兵の中でも飛び抜けて大きく、メリルと並んだら頭一つ、いや二つ分も違うかもしれない。腕も胸も太く厚く、鎧越しでも分かるほど逞しい体躯をしている。
髪は漆黒で短髪。瞳も同じ色だろう。固く引き結ばれた唇が男臭さを醸し出していたが、すっと通った鼻筋や彫りの深い目元は美形と言って差し支えないほど整っていた。もし、こんな状況でなく、たとえば式典で彼の姿を初めて見たとしたら、ハッとするほどの美丈夫だと思っただろう。
それがサディアス・ハイツィルト将軍だった。
王女は獣だのおぞましいだの言っていたが、メリルの目から見た将軍はとてもそんな野蛮なものではない。まさにこの砦を守る軍神といった風情で、恐ろしいながらも静かな知性を感じさせる佇まいだった。
(でもあんな怖い顔なのに、マリアローズ王女に一目惚れしたんだよな……)
マリアローズはたしかに美しい。精巧な人形だと言われたら信じてしまいそうなほど、完璧な容貌をしている。豊かな金髪も、白い肌も、細すぎるほど細い腰も、すべてが女性として魅力的だ。
だがあんな威圧感があり冷静そうな顔をした、にこりとも笑わない男が、美しくても我儘なマリアローズを欲しがるのはどこか意外な気がする……
(好みというのは、分からないものだな)
メリルは恋人がいたこともなければ、恋に落ちたこともない。ずっと魔術の勉強しかしてこなかったから知らないが、きっと恋とは、理論的なものではないのだろう。あの血まみれ将軍が、うら若き花を欲しがるように……
その恋路を、命に代えてでも邪魔しなければいけない。
そこまで考えて、肩に圧し掛かる荷の重さに、メリルは陰鬱なため息を吐いた。その時、扉が再び音を立てて開き、若い兵士が室内に入ってくる。
「失礼しまーす」
「はい! ……って、あ、カルロスくん」
「お疲れ様です。メリル先生、今って大丈夫っすか?」
顔を上げると、そこにいたのは顔見知りの若い兵士だった。
この砦では珍しい日に焼けた浅黒い肌と、くるくると軽く縮れた黒髪。カルロスというこの青年は、まだここに来て三年程度、二十代半ばの若い兵士だ。
先輩兵士のお使いで頻繁に医務室を訪れるようになり、メリルと同じ寒がりだということが判明してから親しくしてくれている。カルロスは温暖な土地出身らしく、震えるメリルに親近感を持ったらしいのだ。
「ここの人間は荒っぽいのばかりですみません、驚かれたでしょう。俺も来たばっかりの頃、嫌でしょうがなかったです」
唇を尖らせるカルロスに、メリルは首を横に振る。
本当なら治癒魔術師も物資ももっと支援すべきだ。不足しているから、兵士たちは苛立っているのだろう。などとは言えない。
「はは。いや……その、たしかに驚いたけど、大丈夫。私こそあまりお役に立てなくて申し訳ない」
「いえ、とんでもない!」
カルロスは大げさに手を振ると、メリルに顔を近づけて声を潜めた。
「治癒魔術師様たちは大怪我でもしない限り診てくれないでしょう? メリル先生が来てくれて凄く助かっています」
「たいしたことはしていないよ」
「何言ってるんですか。メリル先生の催眠術のお陰で、俺、最近かなり疲労が取れてるんです」
「ありがとう。……じゃあ今日も施術しようか」
「いいんですか? お願いします!」
効き目がほとんどないと言われている催眠術を、この砦でメリルは大っぴらに施術していない。
催眠術は患者と施術者の信頼関係が大切。王都から来たばかりの自分では、ここの兵士は癒せないだろうと踏んでのことだ。
だがカルロスと親しくなり、偶然、彼が慢性疲労と倦怠感に悩まされていると知って、催眠術をかけてあげたのだ。
(人懐こい彼ならすぐに効きそうだとは思ったけれど、本当に予想以上に効いたみたいだな)
短期間でメリルを信頼したらしいカルロスは、しっかりと催眠術にかかった。ぐるぐると腕を振り回して元気なことをアピールする青年に、思わす頬が緩む。
さすがに催眠術は、他の治癒魔術師のいる医務室ではできない。薬品を貰いに来る兵士が途切れたことだしと、彼を伴ってメリルは医務室を抜け出した。
「私の部屋でいいかな?」
「どこでもいいっす!」
くつろぐことができる個室というと、この砦では他にない。子犬のように尻尾を振ってついてくるカルロスと一緒に廊下を進む。
メリルのあてがわれている部屋は医務室に程近い場所だ。まぁ往復してもそれほど時間はかからないだろう……と思って足を進めていたその時、後ろから野太い声に引き止められた。
「おい、カルロス。お前こんな所で何やってんだ?」
「ぐぇっ!」
隣を歩いていたカルロスの首根っこを、誰かが掴んでいる。背後に全く気配を感じなかったのに、一体誰が。そう思って振り返ると、そこには山のような大男が二人並んで立っていた。
「将軍! 副将軍!」
「え!? 将軍と副将軍!?」
カルロスが悲鳴を上げ、メリルも驚きに声をひっくり返らせる。
将軍と副将軍。この砦のまとめ役の二人が、こんな廊下で、しかも一兵卒を捕まえるなんて。
将軍になんとか近づかないと、と思っていたが、メリルには心の準備ができていなかった。
「その先は個室しかないぞ。お前、昼間っからそんな場所で何する気?」
「あ、い、いえ! その……」
「何、言えないこと?」
「いえ、自分は、決してやましいことは!」
カルロスを捕まえた、副将軍、レイノルド・クロムウェルがじろりと彼を睨む。
レイノルドは、将軍であるサディアスの腹心の部下だ。サディアスと同い年で、乳兄弟らしい。女性に人気がありそうな甘い顔立ちに、柔らかな栗毛色の髪。顔だけ見たら軟派な印象を受けるが、サディアスが一番に信用しているというのだから、温和なだけの男ではないのだろう。実際に、今もカルロスを問いただす口調は軽薄だが、その体からは迫力が滲み出ている。
そしてその後ろには――将軍、サディアス・ハイツィルトがいた。
遠くから見た時も恐ろしいほど威圧感のある男だったが、近くに来られるとますます威厳がある。厳しく引きしまった頬。背の高いレイノルドより、更に大きな体。だが巨体の者特有ののっそりとした動きはせず、研ぎ澄まされた雰囲気を持っている。
雪原の上に立つ狼のように静かな空気を体に纏わせた男が、すぐ傍にいた。
(サディアス将軍まで……)
思考の読めない、吸い込まれるような黒い瞳が、カルロスをじっと見つめている。
将軍と副将軍。普段会話なんてしない相手に詰め寄られて、カルロスの顔が青くなった。あわあわと言い訳すらできていないのを見て、メリルは彼を庇い一歩、進み出る。
「す、すみません……いえ、誤解を招くようなことをして申し訳ありません。治癒魔術師団として派遣されました、メリル・オールディスと申します。カルロスさんの慢性疲労を治療しに行こうとしていました。決して不当な休憩をとろうとはしていません」
「慢性疲労?」
「はい。兵士には傷を癒す権利があります。ですので、彼は職務を放棄していたわけではありません」
じっとレイノルドに見つめられる。迫力のある瞳でまじまじと顔を見られて、どきりとメリルの胸が嫌な音を立てる。
目を逸らせずに突っ立っていると、……レイノルドはふ、と息を吐いた。
「職務を放棄……って、俺が言ってるのはそういう意味じゃないんだけどね」
「え?」
「いや、こっちの話」
ぷらぷらと掌を目の前で振られる。恐ろしげな雰囲気をひっ込めたレイノルドに、メリルは少し安心した。
「メリルさん、だっけ? 治療魔術師様? そうは見えないけど」
「いえ、私は……催眠術師です」
「催眠術? 催眠術って、あの? 街角でおばーちゃんとかがやってる、占いみたいなやつ?」
「そうです」
「マジで? そんな仕事でよく治療魔術師団に入れたね。催眠術でできることなんて、ちょっと痛みや不安を和らげるとかでしょ。ほとんど気のせいみたいな」
わざと馬鹿にしたというよりも、本心から驚いたのだろう。レイノルドは目を丸くし、自分の顎を撫でた。
こんな言葉は言われ慣れている。もっと心ない言葉を沢山投げかけられてきた。
しかし、「よく言われます」と苦く笑って誤魔化そうとすると、後ろで直立していたカルロスが声を上げる。
「あ、あの! お言葉ですが、メリル先生の催眠術は、街角のものとはわけが違います」
「え、ちょ、カルロスくん」
「へぇ? どういうこと? 教えてよ」
突然喋り出したカルロスに、今度はメリルがぎょっと目を開く。だがレイノルドに促された彼は、言葉を続けた。
「自分、このザカリアに来てから寒くて、怠さに悩んでいたんです。それで、メリル先生にこの間、たまたまそのことを言ったら、催眠術で治せるかもって言ってくれて」
カルロスは暖かな土地の出身で、そこから急に北の大地に赴任したせいで、軽い抑うつ状態になっていたのだ。彼の明るい性格のために周囲は気が付かなかったようだが、不慣れな環境で少しずつ弱っていた。
そこでメリルは、催眠術で彼の無意識下にある『ここは故郷とは違う』という思い込みを取り去ってあげたのだ。それでカルロスはザカリアの気候も食事も、慣れ親しんだものだと勘違いし、不必要に緊張しなくなった。
「自分も気休め程度に思っていたのですが、一度で怠さが吹き飛んで、この砦に来てから一番体調がいいっす!」
「カルロスくん……」
彼が催眠術にかかりやすい性格だったこともあるだろう。だが、隠すことなく感謝を伝えてくれるカルロスに、じわりと心が温かくなる。たいしたことはしていないが、役に立てて嬉しい。そう言おうと思ったその時、レイノルドの横に立っていた巨体がゆらりと動いた。
「……おい、俺は行くぞ」
低く唸るような声を出したのはサディアスだ。
彼の気迫のある声に、メリルは肩をびくりと跳ねさせる。戦の時には何百という数の兵士を束ねる、恐ろしい男。その人の静かな声に、思わず背筋が伸びた。
そっと声のほうを見ると、真っ黒な瞳と目が合って……そして逸らされる。
(え……?)
ペラペラと喋るレイノルドとは違い、静かにたたずんでいるだけだったサディアスだが、ふい、と顔まで逸らした。
その強面と迫力から、メリルこそ目を逸らしそうなものなのに、何故サディアスのほうが、まるで「見ていなかった振り」をするように視線を外したのだろうか。
そもそもカルロスではなく、自分を見ていたのも驚きだ。疑問が頭に浮かぶが、当然それに答えてくれる人はいない。メリルがサディアスに話しかけられるわけもない。
視線を逸らしたままサディアスはメリルに背を向け、大股に足を踏み出してしまった。その背中にレイノルドが声をかける。
「え~? もう少し話、聞いていこうよ。催眠術だって」
「時間の無駄だ」
「あらら」
さっさと進んでいくサディアス。その様子を見て、レイノルドはちらりとメリルたちを振り返ると、ひらひらと手を振った。
「じゃあ、俺も行かないと。カルロス、メリルさん、またね」
「失礼します!」
「あ、はい。失礼します」
去っていく二人を、カルロスがびしりと直立して見送る。メリルは軽く腰を折った。彼らの姿が完全に見えなくなり、ようやくメリルとカルロスは体の力を抜く。
「うわ~、びっくりしました! サディアス将軍がこんな所にいるの、珍しいっすね」
「そうだよね。私は、彼らを見るのはまだ二回目だ」
「将軍って迫力ありますよね。でかいですし。レイノルド副将軍は一兵卒にも気さくですけど……たまに怖いところもありますし」
間近で見たサディアスは、少し顔色が悪いが、逞しく得体の知れない迫力を持った男だった。
血まみれ将軍などというあだ名から、野蛮な男、もしくは血も涙もない冷酷な男かと思っていた。だがレイノルドの横で静かにたたずんでいた様子からは、腕っぷしだけでなく知略にも長けていそうだと感じる。それは味方としては心強いが……
(……やっぱり催眠術なんて、かけられる気がしない)
あの男のどこに隙があるというのだ。籠絡するのはあまりに難しすぎる。傍にも寄らせてくれそうにない。
(私から目を逸らしたということは、意外と人見知りとか……? いや、偶然かもしれない)
カルロスに気が付かれないように、メリルはこっそりとため息を吐いた。
一日の仕事を終え、医務室を後にする頃には深夜になっていた。立ちっぱなしのせいで痛む足を引き摺って、よろめきながら与えられた部屋に戻る。
他の治癒魔術師たちは広い貴賓室が与えられているが、下っ端という立場のメリルの部屋はやや狭くて質素だ。
簡素な備え付けの家具しかない部屋に入ると、メリルはどさりとベッドに飛び込んだ。
「……疲れた」
呻き声が漏れる。
ここでの仕事は、王都での仕事と全く違う。違いすぎる。朝から晩まで、薬の準備に処方、それから怪我をした兵士の応急処置。王都で文官たちに嫌味を言われながら、それでものんびりと治療をしていた時が優雅だったと思えるほどだ。王都では文官だって治癒魔術師に治療してもらえていて、メリルは補助だったし、怪我人なんて滅多にいなかった。
「薬も人手も足りなすぎる……これで戦が始まったらどうするんだ」
ため息を吐きながら独り言つ。小康状態の今でさえこれほど忙しいのなら、もし敵が攻め入ってきたらどうなるのか……もはや考えたくなくて、メリルは指で眉間を揉んだ。
「それより早く寝ないと……体がバキバキだ」
忙しなく走り回るせいで毎日筋肉痛だ。それに、兵士たちの大きな声に体が無意識に緊張してしまって、固くなっている。今日は強めに自己催眠をかけて深く眠ろう。疲れている時は睡眠が何よりも大事だ。
はぁ、と息を吐いてのろのろとローブを脱ぐ。だけど、部屋の中とはいえやや寒く、このまま寝てしまいたい。体がベッドに留まりたがっている。どうしようかうだうだ迷っていると、部屋の扉が静かに叩かれた。
「……え?」
こんな時間に誰だろうか。まさか急病人?
繰り返されるノックに、慌ててベッドから起き上がり勢いよく扉を開いた。
「はい、どうしました!」
すると、そこに立っていたのは一般の兵士ではなく、栗色の髪に緑の瞳の甘い美形。レイノルドだ。
「やぁ、メリルさん」
「レイノルド副将軍?」
昼間は革の鎧を着込んでいた彼は、今は少しくだけた服装をしている。とはいっても帯剣はしていた。
なんでこんな所に。誰かの部屋と間違えたのだろうか。一瞬そう思うけど、メリルの名前を出したということは人違いではないようだ。
「お休み中すみませんね」
「いえ、まだ眠ってはいませんでしたので。あの、どうぞ。よろしければ中へ」
「それは大丈夫。……実は、一緒に来てほしくって」
悪いと思っていないだろう謝罪を口にしたレイノルドは、にこにことしながら、困惑することを言った。こんな夜中についてこいと言われて、警戒しないわけがない。
「え?」
「頼みがあるんですよ。でも、ちょっとここだと言えないから、ついてきてくれません?」
もしかして王女の命令がもうバレてしまったのだろうか。ひやりと背筋が凍る。
だが、この砦の副将軍を相手に、逆らうことも、逃げることも無理だろう。
「駄目かな?」
「えっと……」
企みがバレているのか、違うのか。もし違うなら、なんの用なのか。一瞬にして頭の中にぐるぐると考えが浮かび消えていくが、答えが出ることはない。
圧をかけるようにずいと一歩近寄られて「駄目?」と再度聞かれ、メリルは渋々頷いた。
「……分かりました」
「助かるよ~。ありがとう」
渋面で頷いていることは分かっているだろうに、レイノルドは大げさに笑みを作ってみせる。胡散臭い笑顔だ。
室内に戻り一番厚手のローブを羽織ると、メリルは彼に連れられて廊下を進むこととなった。
(どうしよう……詰問されたら、なんて答えれば……)
軽い足取りで歩く彼の後をついて、ひょこひょこと進んでいく。もし決定的な証拠があるなら、こんなに悠長に廊下を歩かせたりしないはず。そう信じようとするが、緊張に胃がきゅうと縮む。
ぎくしゃくと歩くメリルに、レイノルドはのんびりと話を振った。
「ここでの生活には慣れた? 王都と違って寒いでしょう」
「そうですね……寒さは、少し応えます」
寒さは辛いけど、それ以上に気になることがこの砦にはある。本当のことを言ってしまっていいのか迷い、メリルは口を噤むことを選んだ。それなのにメリルが呑み込んだ言葉を、レイノルドはあっさりと口にする。
「まぁ寒さよりも飯の不味さと、医療品の少なさのほうがキツイかな? あと人手不足も」
「……そうですね」
分かっていたのか。
少し驚いて見上げると、レイノルドは思ったよりも穏やかな顔でこちらを見ていた。
「あの後、カルロスから詳しく聞いたよ。お高くとまっている治癒魔術師団の中で、一人だけ頑張ってくれているって。カルロス以外の兵士の怪我や病気の治療もしてもらっているって、他の奴らから聞いた」
「当然のことです。それに、私は治癒魔術が使えないので、簡単なことしかできていません」
「いやいや。凄く助かっているよ。何しろここの兵士たち、怪我は唾つけておけば治るって思っているから。馬鹿だよね~」
笑いながら言われるが、それはあながち冗談ではない。本当に彼らは、ちょっとした怪我ならば気にせず、放っておくのだ。
「大変でしょ? ほとんどメリルさん一人で診ているみたいだし」
「まだ平気です」
「まだ、ね。やっぱり正直でいいね」
にこにこ笑いながら、レイノルドは長い足で先に進んだ。
(あれ? ……ここ、どこだ?)
躊躇なく進む彼に、疑問が湧く。話に乗せられて道をよく覚えていないけど、随分とメリルの部屋から離れてしまった。
夜中の砦は静まり返っていて、時折、窓を風が揺らす音がするだけだ。廊下に置かれた魔石が光り足元を照らしているが、帰り道が分からないというのは無性に不安を駆り立てる。
前を見ると少し離れた所に、兵士が二人、扉を守るようにして立っていた。どっしりとした黒光りする木材でできた、重たそうな扉だ。
レイノルドはその二人のもとへと歩いていくと、扉の前でメリルのほうを振り返った。
「あの、副将軍……? ここで、ですか……?」
レイノルドが顎をしゃくると、兵士二人はスッと横にずれた。「失礼するよ」という、レイノルドののんびりとした声と共に扉が開かれ、それにつられてメリルもその部屋に入った。
室内はメリルの部屋の三倍はありそうなほど広い。扉をくぐった先はまず客間になっていて、重厚な机とソファが置いてある。壁際には背の高い書棚が置かれ、古い蔵書がびっしりと収められていた。天井から下がるシャンデリアは控えめで、今は小さな灯りがいくつか灯されているだけだ。どれも歴史がありそうだが華美ではない。部屋全体も濃い茶色を基調に、落ち着いた色合いにまとめられていた。
「ここは……」
きょろきょろと辺りを窺うと、爽やかな香の匂いが鼻をくすぐる。
どこかで嗅いだことのある匂い。確かこれは……。メリルが思い出そうと記憶の中を探っていると、客間の奥、おそらく寝室に繋がっている扉から、低い声が響いた。
「レイノルド……どういうつもりだ」
不機嫌そうな、まるで寝起きの熊のような低い声。
その声はまさに今日、一度聞いた。サディアスだ。ゆらりと大きな体がこちらに近づいてくる。寝間着代わりなのだろう。簡素なズボンだけを身に纏い、その上半身は晒されていた。
「そう睨むなって、サディアスのために連れてきたんだ」
顔を顰めるサディアスに、レイノルドが口を尖らせる。そしてメリルの両肩を両手でがしりと掴んだ。真剣な瞳に覗き込まれる。
「いい? メリルさん、これは他言無用だ」
「は、はい」
「サディアスはね、……不眠症なんだ」
レイノルドの口から出てきた言葉に、メリルは首を捻る。
「不眠症? ってあの、眠れなくなる不眠症ですよね」
王都で文官を癒した際に、何度か似た症状の人に会ったことがある。
だが、今までの不眠症の患者は繊細そうな人。とくに内勤の人間がほとんどで、逞しいサディアスと不眠症が結びつかず、確認してしまう。そんなメリルにレイノルドは頷いた。
「ああ。サディアスがぐっすりと眠れたことは、俺が見た限りだとほとんどない。将軍はこの砦の指令の要。絶対に倒れられちゃあ困る。それに、血まみれ将軍に弱点があるなんて、敵国には知られたくない。いや、王家にも知られたくないな」
「……私に話していいのでしょうか」
「もし誰かに漏らそうとしたら、悪いけど死んでもらうよ。北の砦で下っ端が一人消えたとしても、誰も気にしないでしょ。逃げ出そうとして熊にでも食われたことにするよ。ちょうど春だし」
「ひっ」
さらりと残酷なことを言われるが、それが本心なのだろう。彼にとっては部外者のメリルを消すなんて、容易なことだ。
「レイノルド、やめろ」
脅すようなレイノルドの言葉を止めたのは、意外にもサディアスだった。ずかずかと大股でレイノルドに近づき、メリルの肩を掴んでいた手を引き剥がす。そして突っ立っているメリルにじろりと視線を送った。
「あなたもだ、部屋に戻れ。催眠術なんてまじないで治るものじゃない」
ぴしゃりと催眠術はまじないだと言い捨てられる。だが、腕を掴まれたレイノルドは諦めきれないようだった。
「えーでも、そろそろ本当にヤバいんじゃない? 日中ぶっ倒れて大騒ぎになったらどうすんの」
「その時は将軍をお前が代われ」
「それは無理だって」
「なら覚醒薬でも使う」
「いやいや、そんなの早死にするだけでしょ。使わせないよ」
言い争う巨体の二人。サディアスが言った覚醒薬の言葉に、レイノルドは派手に顔を顰めた。
「そんなの使うなら、催眠術を試してみればいいだろ? 催眠術って、失敗したらしっぺ返しとかあるの?」
二人の視線がメリルに降り注ぐ。その圧に押され思わず後ずさるが、メリルはなんとか細い声を上げた。
「催眠術は、強い力を持ったものではありません」
サディアスの視線が、ほらそうだろうと言わんばかりに、レイノルドに戻る。
このまま口を噤み話を終えれば、メリルはお役御免で部屋に帰れるだろう。この気まずい空気から逃げ出せる。だが……、催眠術師として最後まで言わなくては、とメリルは口を開いた。
「作用が穏やかだからこそ、患者の体の負担にならず施術できます。効かなかったとしても、体を害することはありません。眠りを齎す催眠術は一番基本的なものですし……施術に、それほど時間はかかりません」
治癒魔術は体の機能を強制的に活性化させて怪我や病気を治すもの。神経を高ぶらせてしまうし、効力は強いけれど、その分、体の負担も大きい。
催眠術は違う。心に効くものだからこそ、気持ちを落ち着けて穏やかに変化を齎す。
薄暗い部屋でも分かるほど、悪い顔色。本当に、このままでは、サディアスは倒れてしまうんじゃないか。そんな心配がメリルの胸に湧き上がった。
喉を鳴らして唾を呑み込む。
「……よろしければ、一度試させてもらえませんか?」
呟いた声は掠れて空気に溶けてしまいそうだ。今まで生きてきて、一番緊張したと思う。
サディアスの瞳が、メリルにじっと向けられた。鋭い視線に少し怖さを感じながら、足を踏ん張る。漆黒の瞳に見つめられて、心の中まで見透かされている気分だ。
「効かないと思うぞ」
暫くの沈黙の後、サディアスは唸るように呟いた。
やっぱり駄目か。そうメリルが思った時、彼がゆっくりと体を寝室のほうに向ける。
「眠らなくても、恨み言を言わないでくれ」
その言葉に、思わずメリルは目を見開いた。
「……え? いいんですか?」
駄目だと突っぱねられると予想していたのに。もしかして、怪しいと思っている催眠術にも縋りたいほど、切迫しているのかもしれない。
「あ、俺も念のため見張っておくよ。それならサディアスも心配ないだろうし」
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