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8.勘違い
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金?
金って別に……ああ。そう言えば、さっき木津根がそんなことを伝えてしまっていた。だけどそれだと俺がまるで莫大な借金でも背負っているみたいだ。まぁ面倒だと思って木津根の誤解を解かなかったのは俺なのだけれど。
「いや、えっと、違うんだ。事情があって。長い話になるんだけど、同僚にお金を貸して……」
誤解を解こう。相変わらず俺の押しは弱いけれど、ギャンブルや女で大きな借金を作るほど駄目なわけじゃない。今夜だけピンチに陥っていたわけで、家に帰れば人並みに貯金だってある。
話せばわかるはず、と口を開くと、俺の言葉を途中まで聞いた大神はすごい勢いでこちらを見ると怒鳴りつけてきた。
「金を貸した!?」
「ひっ!」
あまりの迫力にぴょんと尻がシートから飛び上がった。怖い。怖すぎる。
「だから言っただろうが! お人よしが過ぎると酷い目に遭うって!」
「ごめんなさい~!」
心臓が潰されそうな圧力に、体を縮こまらせて謝る。なんで謝っているのか分からないけど、ただ怖くて頭を下げた。だけど彼が続けて言った言葉を飲み込んで……それではたと気が付いた。
「あれ、大神君……覚えてたの? 俺と話したこと」
特に仲が良かったわけでもない同級生。俺は一方的に彼が格好いいと思っていたけど……記憶の片隅にでも、俺は残っていたんだろうか。いやまさか。俺は目立つタイプじゃなかったし、彼と絡んだのはあの日だけだ。
掴みかかりそうな雰囲気を出していた大神は、なぜかぴたりと止まる。再び座席に深く腰掛けると、しばらく黙って……それからおもむろに、運転席を蹴り上げた。
「ひぇ……!」
俺は再びウサギのようにぴょんと飛び上がる。だがそんな俺の方には目もくれず、彼は運転手に短く何かを告げた。その言葉に運転手は短く答え、車は先ほどまでとは違い一気に加速する。
どこへ行くのか。なんで俺は連れて行かれているのか。何も分からないままだ。
「おい」
「はいっ!」
濃すぎるスモークで何も見えない外を眺めていると、ふたたび大神に声を掛けられる。
「いくらだ?」
「へ?」
「いくら貸したんだ。その同僚とやらに」
これは誤解を解くチャンスなんじゃないか? そう思って口を開くけど、過度の緊張が続いていたせいか喉が掠れて声がでない。
……貸した額は一万円です。
出ない声の代わりに指を一本たて、口をぱくぱくしてそう伝える。
が、俺の指先を見た大神にはうまく伝わらなかったみたいだった。
「一千万?」
違う違う!そんな大金貸すわけない、というか貸すことできない。一体どんな世界に住んでいるんだ。
首を横にぶるぶると振ると、彼は一瞬呆れたような顔をして。それからため息をついた。
「一億なんて、よく用意したな」
そんなわけないだろう。一体どこの世界に同僚に一億渡すやつがいるんだ。このままだと話が変な方向に進みそうだ。咳き込みかけながら喉をなんとか潤してていると、車が静かに止まった。
「……俺が、お前を買い取ってやるよ」
「へ?」
金って別に……ああ。そう言えば、さっき木津根がそんなことを伝えてしまっていた。だけどそれだと俺がまるで莫大な借金でも背負っているみたいだ。まぁ面倒だと思って木津根の誤解を解かなかったのは俺なのだけれど。
「いや、えっと、違うんだ。事情があって。長い話になるんだけど、同僚にお金を貸して……」
誤解を解こう。相変わらず俺の押しは弱いけれど、ギャンブルや女で大きな借金を作るほど駄目なわけじゃない。今夜だけピンチに陥っていたわけで、家に帰れば人並みに貯金だってある。
話せばわかるはず、と口を開くと、俺の言葉を途中まで聞いた大神はすごい勢いでこちらを見ると怒鳴りつけてきた。
「金を貸した!?」
「ひっ!」
あまりの迫力にぴょんと尻がシートから飛び上がった。怖い。怖すぎる。
「だから言っただろうが! お人よしが過ぎると酷い目に遭うって!」
「ごめんなさい~!」
心臓が潰されそうな圧力に、体を縮こまらせて謝る。なんで謝っているのか分からないけど、ただ怖くて頭を下げた。だけど彼が続けて言った言葉を飲み込んで……それではたと気が付いた。
「あれ、大神君……覚えてたの? 俺と話したこと」
特に仲が良かったわけでもない同級生。俺は一方的に彼が格好いいと思っていたけど……記憶の片隅にでも、俺は残っていたんだろうか。いやまさか。俺は目立つタイプじゃなかったし、彼と絡んだのはあの日だけだ。
掴みかかりそうな雰囲気を出していた大神は、なぜかぴたりと止まる。再び座席に深く腰掛けると、しばらく黙って……それからおもむろに、運転席を蹴り上げた。
「ひぇ……!」
俺は再びウサギのようにぴょんと飛び上がる。だがそんな俺の方には目もくれず、彼は運転手に短く何かを告げた。その言葉に運転手は短く答え、車は先ほどまでとは違い一気に加速する。
どこへ行くのか。なんで俺は連れて行かれているのか。何も分からないままだ。
「おい」
「はいっ!」
濃すぎるスモークで何も見えない外を眺めていると、ふたたび大神に声を掛けられる。
「いくらだ?」
「へ?」
「いくら貸したんだ。その同僚とやらに」
これは誤解を解くチャンスなんじゃないか? そう思って口を開くけど、過度の緊張が続いていたせいか喉が掠れて声がでない。
……貸した額は一万円です。
出ない声の代わりに指を一本たて、口をぱくぱくしてそう伝える。
が、俺の指先を見た大神にはうまく伝わらなかったみたいだった。
「一千万?」
違う違う!そんな大金貸すわけない、というか貸すことできない。一体どんな世界に住んでいるんだ。
首を横にぶるぶると振ると、彼は一瞬呆れたような顔をして。それからため息をついた。
「一億なんて、よく用意したな」
そんなわけないだろう。一体どこの世界に同僚に一億渡すやつがいるんだ。このままだと話が変な方向に進みそうだ。咳き込みかけながら喉をなんとか潤してていると、車が静かに止まった。
「……俺が、お前を買い取ってやるよ」
「へ?」
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