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冗談?
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「冗談……」
嘘だろう。
番って、それなりに大事な相手なんだろう。
俺がニンゲンだから言ってるのか?
それとも冗談か。
いや、冗談だよな。
そう思って引き攣った笑みを浮かべながら一歩後ずさろうとする。
だけど思った以上に強く掴まれた肩を引き寄せられた。
「いや、本気だよ」
近い。
顔が近い。
ソファの上に乗り上げるように俺の身体はルアンの方へと引っ張られて、顔を覗きこまれている。
ルアンはアップに耐える美形だけど俺はそうじゃないのにこれはキツイ。
いやそんなこと考えてる場合じゃないのかもしれないけど。
「アズラークのこともレオンのことも振るつもりなんでしょ?もうアズラークの番なら我慢しようと思ったんだよ、あいつは強い雄だから。でも違うんでしょ?」
吐息が頬に触れそうな距離でそう囁かれる。
突然のルアンの発言にただただ目を丸くしている俺に、彼は畳みかけるように言葉を重ねた。
「言ったよね、サタ君。君の魅力には本能的に抗えないって。そこら辺の弱い雄は、釣り合わなさ過ぎて求愛すらできないだろうけど。俺も君に会うまではアズラークやレオンの様子を見てて、ニンゲンの何がいいのかなって思ってたよ。痩せた男の子なんて興味なかったのに……悪いけど、君は本当に美味しそうで堪らない」
美味しそうってどういう意味だ。
金の瞳がじわりと熱をともしているのが分かる。
これは、俺が男娼として客を取ってた時に何度も見た光だ。
このままでは取って食われそうな恐怖に、俺は彼の胸に両手を突っぱねる。
「いや、俺、番とかあんまり考えてなくて、」
「じゃあ今考えてよ。俺は近衛師団長だからアズラークと同じくらい強いし金も地位もあるし、サタ君のこと守ってあげられるよ」
「そんな、急にはちょっと……」
「ね、お願い。首筋、噛んでいい?」
今までこの世界に来て誰にも番になって欲しいと言われたことはなかった。
皆俺のことを可愛いだの華奢だの言っていたけど番にしたいとは誰も。
なのに真正面から見つめられてしかもこんな強引に迫られてなんて答えていいのか分からない。
俺は男だし元の世界に戻るつもりだし。
それに特別だと思ったのは相手にされていないアズラークだけだったから、突然のことに頭が付いて行かない。
じわじわと距離を詰められる。
触れそうだった顔が、俺の首元に埋められて。
首筋をぺろりと味見するかのように舐められて。
噛みつかれる、と目を瞑ったら、大きな足音が近づいて来て扉が強く叩かれた。
「ああ、残念。時間切れだ」
扉を壊さんばかりに力強く何度も叩くのは誰だろうか。
重厚な木製の扉が吹き飛ぶ前にのっそりとソファから立ち上がったルアンがその重たそうな扉を開いた。
扉が開くやいなや縞模様の毛玉のように転がり込んできたのは、レオンだった。
その後にイレリオも続いて入ってくる。
そしてソファの上で呆けている俺を見て、レオンがルアンの胸ぐらを掴んで怒鳴り上げた。
「ルアン! テメェ、何してやがる!」
「別に口説くくらいいいだろ。サタ君はレオンの番ってわけじゃないんだから」
至近距離で大声を出すレオンにルアンは飄々とした表情で言葉を返す。
その言葉にレオンは更に顔を怒りに歪めた。
「良くない! サタは俺のだ!」
「は、成獣になってから出直しな」
「クソ、ふざけんな!」
レオンは怒りながらルアンに殴りかかっているが、それを黒豹はやすやすと避けて抑え込もうと取っ組み合う。
俺よりも頭一つ以上大きい二人が揉み合っていてその迫力にのけ反ると、イレリオがそっと俺の傍に膝をついた。
「サタ君、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すみません、平気です」
俺が首を縦に振るとイレリオもほっと息を吐く。
そしてその場に立ち上がると声を張り上げた。
「冗談……」
嘘だろう。
番って、それなりに大事な相手なんだろう。
俺がニンゲンだから言ってるのか?
それとも冗談か。
いや、冗談だよな。
そう思って引き攣った笑みを浮かべながら一歩後ずさろうとする。
だけど思った以上に強く掴まれた肩を引き寄せられた。
「いや、本気だよ」
近い。
顔が近い。
ソファの上に乗り上げるように俺の身体はルアンの方へと引っ張られて、顔を覗きこまれている。
ルアンはアップに耐える美形だけど俺はそうじゃないのにこれはキツイ。
いやそんなこと考えてる場合じゃないのかもしれないけど。
「アズラークのこともレオンのことも振るつもりなんでしょ?もうアズラークの番なら我慢しようと思ったんだよ、あいつは強い雄だから。でも違うんでしょ?」
吐息が頬に触れそうな距離でそう囁かれる。
突然のルアンの発言にただただ目を丸くしている俺に、彼は畳みかけるように言葉を重ねた。
「言ったよね、サタ君。君の魅力には本能的に抗えないって。そこら辺の弱い雄は、釣り合わなさ過ぎて求愛すらできないだろうけど。俺も君に会うまではアズラークやレオンの様子を見てて、ニンゲンの何がいいのかなって思ってたよ。痩せた男の子なんて興味なかったのに……悪いけど、君は本当に美味しそうで堪らない」
美味しそうってどういう意味だ。
金の瞳がじわりと熱をともしているのが分かる。
これは、俺が男娼として客を取ってた時に何度も見た光だ。
このままでは取って食われそうな恐怖に、俺は彼の胸に両手を突っぱねる。
「いや、俺、番とかあんまり考えてなくて、」
「じゃあ今考えてよ。俺は近衛師団長だからアズラークと同じくらい強いし金も地位もあるし、サタ君のこと守ってあげられるよ」
「そんな、急にはちょっと……」
「ね、お願い。首筋、噛んでいい?」
今までこの世界に来て誰にも番になって欲しいと言われたことはなかった。
皆俺のことを可愛いだの華奢だの言っていたけど番にしたいとは誰も。
なのに真正面から見つめられてしかもこんな強引に迫られてなんて答えていいのか分からない。
俺は男だし元の世界に戻るつもりだし。
それに特別だと思ったのは相手にされていないアズラークだけだったから、突然のことに頭が付いて行かない。
じわじわと距離を詰められる。
触れそうだった顔が、俺の首元に埋められて。
首筋をぺろりと味見するかのように舐められて。
噛みつかれる、と目を瞑ったら、大きな足音が近づいて来て扉が強く叩かれた。
「ああ、残念。時間切れだ」
扉を壊さんばかりに力強く何度も叩くのは誰だろうか。
重厚な木製の扉が吹き飛ぶ前にのっそりとソファから立ち上がったルアンがその重たそうな扉を開いた。
扉が開くやいなや縞模様の毛玉のように転がり込んできたのは、レオンだった。
その後にイレリオも続いて入ってくる。
そしてソファの上で呆けている俺を見て、レオンがルアンの胸ぐらを掴んで怒鳴り上げた。
「ルアン! テメェ、何してやがる!」
「別に口説くくらいいいだろ。サタ君はレオンの番ってわけじゃないんだから」
至近距離で大声を出すレオンにルアンは飄々とした表情で言葉を返す。
その言葉にレオンは更に顔を怒りに歪めた。
「良くない! サタは俺のだ!」
「は、成獣になってから出直しな」
「クソ、ふざけんな!」
レオンは怒りながらルアンに殴りかかっているが、それを黒豹はやすやすと避けて抑え込もうと取っ組み合う。
俺よりも頭一つ以上大きい二人が揉み合っていてその迫力にのけ反ると、イレリオがそっと俺の傍に膝をついた。
「サタ君、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すみません、平気です」
俺が首を縦に振るとイレリオもほっと息を吐く。
そしてその場に立ち上がると声を張り上げた。
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