ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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再会

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犬獣人のお兄さんことイレリオは頑健だった。
それはもう恐ろしいほど。


俺もこの世界では小柄とは言え成人男子だし、抱えて走ってもらうのはちょっとどうなのかと困っていると、彼はピンと立っていた耳を垂れさせた。
その捨てられた犬のような姿がどうにも罪悪感を煽るものだったから、無理しないで欲しいと伝えて、お願いしますと伝えた瞬間子供のように抱き上げられた。
俺は負ぶってもらうつもりだったのに。

そして彼は軽快に走り出して、10分も経たないうちにルアンの家らしき邸宅にたどり着いて。
俺はその立ちはだかるように聳えたつ門を見上げて、間抜けに口を開いた。


「マジで……ここ?」

「ええ、そうですよ」


アズラークの家もとてつもなくデカい。
俺は日本にいるときはずっとマンション暮らしだったから一軒家のことはよく分からないけど、それでもめちゃくちゃデカいし、綺麗だ。
あんまり外から見てはいないけど、いくつも客間があることや窓が見上げるように大きいこと、それからその窓から見渡せる広い庭なんかで、一般庶民の家じゃないことは分かった。
あんなところはそうないと思っていたけど……ルアンの家も口を開けるほど大きかった。
アズラークの屋敷がどっしりと重厚な趣があるのに比べて、ルアンの家は白を基調にしていて軽やかで華やか。
だけどその大きな門の隙間から見える前庭には繊細に彫り込まれた彫刻が立ち並ぶ。
よく手入れされた芝生も花壇も、どれもがここがただの男の住む家じゃないことを表している。


「う、うう……せっかく連れてきてもらったけど、帰りたい……」


痛むような気がする胃を抑えて小さく呟く。
俺の予定では、普通のアパートかなにかに住んでるルアンの家に行って、たぶん一人で待っているだろうレオンに会う、それだけのつもりだったのに。
あんな軽そうな男だったのに、さすが近衛師団長っていうことか。

俺をここまで抱えて走ったというのに、汗ひとつかいていないイレリオは、俺の言葉に眉をしかめた。


「体調が悪いのですか? でしたら医者に行きましょう。連れて行きますよ」

「いや、違います。大丈夫。ただ……想像とちょっと違ったから」


はは、と誤魔化すように笑う。
イレリオは『無理はいけません』とか『大病だったらどうするんですか』とか言っていたけれど適当に宥めて大きすぎる扉のドアノッカーを鳴らした。

屋敷の主人に似たのだろうか、陽気な様子の従僕が出て来て、レオンに会いに来たというと今度は執事らしい男が代わりに現れた。
そのままイレリオが先に立ってルアンの屋敷に入り、階段を上り、当たり前のようにいるメイドさんにどこか私的な空間、そう誰かの寝室のようなところに通してもらって……。


そして、大きな猫に飛び掛かられた。



「サタァッ……!!」


ソファに座った俺に、覆いかぶさるようにして飛びついてきたのはレオンだった。
相変わらず、金の混じったような三毛。
でも前から俺よりもずっと大きかったのに更に成長している気がする。
とても支えきれなくて俺は押されるがままにソファにごろりと寝そべってしまう。
その大きな身体に圧し掛かられて腕でぎゅうぎゅうと締め付けられて苦しい。
だけどそれ以上に再会できたことが嬉しくて、その背中に腕を回した。


「うわっ……! レ、レオン、無事で良かった!」

「それはこっちの台詞だよ。あのアズラーク団長に連れ去られたって聞いて、俺、もう二度と会えないかと思った……!」


すんすんと鼻を鳴らしてレオンは俺の頬や方に頭を擦り付けてくる。
まるで匂いを付ける猫みたいだ。
若干の涙声のレオン。
やっぱり心配をかけてしまったんだと罪悪感が胸にこみ上げた。


「心配かけてごめん。ずっと連絡もできなくて……でも大丈夫だよ、別に牢屋に放り込まれたわけじゃないし。俺よりもレオンの方が大変だっただろ?」


アズラークは騎士団長だけど、俺を牢屋に放り込むことも、ニンゲンだと王族に差し出すこともしなかった。

俺よりも一人でいなくなってしまったレオンの方が生活は苦労しただろう。
もともと親もいなくて一人で生計を立てていたのに、娼婦狩りの混乱であの家からもいなくなってしまったレオン。
それなのに俺の心配をしてくれていたのかと思うと心が痛む。
子供の彼にいらない心労をかけてしまって申し訳ないと、その頭を撫でようと手を伸ばすと……その腕を掴まれた。


「そういう意味じゃないよ」

「え?」

「サタ、あの男に捕まった日の前日まで相手した客って、アズラーク団長でしょ?」





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