30 / 56
再会
しおりを挟む
-
犬獣人のお兄さんことイレリオは頑健だった。
それはもう恐ろしいほど。
俺もこの世界では小柄とは言え成人男子だし、抱えて走ってもらうのはちょっとどうなのかと困っていると、彼はピンと立っていた耳を垂れさせた。
その捨てられた犬のような姿がどうにも罪悪感を煽るものだったから、無理しないで欲しいと伝えて、お願いしますと伝えた瞬間子供のように抱き上げられた。
俺は負ぶってもらうつもりだったのに。
そして彼は軽快に走り出して、10分も経たないうちにルアンの家らしき邸宅にたどり着いて。
俺はその立ちはだかるように聳えたつ門を見上げて、間抜けに口を開いた。
「マジで……ここ?」
「ええ、そうですよ」
アズラークの家もとてつもなくデカい。
俺は日本にいるときはずっとマンション暮らしだったから一軒家のことはよく分からないけど、それでもめちゃくちゃデカいし、綺麗だ。
あんまり外から見てはいないけど、いくつも客間があることや窓が見上げるように大きいこと、それからその窓から見渡せる広い庭なんかで、一般庶民の家じゃないことは分かった。
あんなところはそうないと思っていたけど……ルアンの家も口を開けるほど大きかった。
アズラークの屋敷がどっしりと重厚な趣があるのに比べて、ルアンの家は白を基調にしていて軽やかで華やか。
だけどその大きな門の隙間から見える前庭には繊細に彫り込まれた彫刻が立ち並ぶ。
よく手入れされた芝生も花壇も、どれもがここがただの男の住む家じゃないことを表している。
「う、うう……せっかく連れてきてもらったけど、帰りたい……」
痛むような気がする胃を抑えて小さく呟く。
俺の予定では、普通のアパートかなにかに住んでるルアンの家に行って、たぶん一人で待っているだろうレオンに会う、それだけのつもりだったのに。
あんな軽そうな男だったのに、さすが近衛師団長っていうことか。
俺をここまで抱えて走ったというのに、汗ひとつかいていないイレリオは、俺の言葉に眉をしかめた。
「体調が悪いのですか? でしたら医者に行きましょう。連れて行きますよ」
「いや、違います。大丈夫。ただ……想像とちょっと違ったから」
はは、と誤魔化すように笑う。
イレリオは『無理はいけません』とか『大病だったらどうするんですか』とか言っていたけれど適当に宥めて大きすぎる扉のドアノッカーを鳴らした。
屋敷の主人に似たのだろうか、陽気な様子の従僕が出て来て、レオンに会いに来たというと今度は執事らしい男が代わりに現れた。
そのままイレリオが先に立ってルアンの屋敷に入り、階段を上り、当たり前のようにいるメイドさんにどこか私的な空間、そう誰かの寝室のようなところに通してもらって……。
そして、大きな猫に飛び掛かられた。
「サタァッ……!!」
ソファに座った俺に、覆いかぶさるようにして飛びついてきたのはレオンだった。
相変わらず、金の混じったような三毛。
でも前から俺よりもずっと大きかったのに更に成長している気がする。
とても支えきれなくて俺は押されるがままにソファにごろりと寝そべってしまう。
その大きな身体に圧し掛かられて腕でぎゅうぎゅうと締め付けられて苦しい。
だけどそれ以上に再会できたことが嬉しくて、その背中に腕を回した。
「うわっ……! レ、レオン、無事で良かった!」
「それはこっちの台詞だよ。あのアズラーク団長に連れ去られたって聞いて、俺、もう二度と会えないかと思った……!」
すんすんと鼻を鳴らしてレオンは俺の頬や方に頭を擦り付けてくる。
まるで匂いを付ける猫みたいだ。
若干の涙声のレオン。
やっぱり心配をかけてしまったんだと罪悪感が胸にこみ上げた。
「心配かけてごめん。ずっと連絡もできなくて……でも大丈夫だよ、別に牢屋に放り込まれたわけじゃないし。俺よりもレオンの方が大変だっただろ?」
アズラークは騎士団長だけど、俺を牢屋に放り込むことも、ニンゲンだと王族に差し出すこともしなかった。
俺よりも一人でいなくなってしまったレオンの方が生活は苦労しただろう。
もともと親もいなくて一人で生計を立てていたのに、娼婦狩りの混乱であの家からもいなくなってしまったレオン。
それなのに俺の心配をしてくれていたのかと思うと心が痛む。
子供の彼にいらない心労をかけてしまって申し訳ないと、その頭を撫でようと手を伸ばすと……その腕を掴まれた。
「そういう意味じゃないよ」
「え?」
「サタ、あの男に捕まった日の前日まで相手した客って、アズラーク団長でしょ?」
犬獣人のお兄さんことイレリオは頑健だった。
それはもう恐ろしいほど。
俺もこの世界では小柄とは言え成人男子だし、抱えて走ってもらうのはちょっとどうなのかと困っていると、彼はピンと立っていた耳を垂れさせた。
その捨てられた犬のような姿がどうにも罪悪感を煽るものだったから、無理しないで欲しいと伝えて、お願いしますと伝えた瞬間子供のように抱き上げられた。
俺は負ぶってもらうつもりだったのに。
そして彼は軽快に走り出して、10分も経たないうちにルアンの家らしき邸宅にたどり着いて。
俺はその立ちはだかるように聳えたつ門を見上げて、間抜けに口を開いた。
「マジで……ここ?」
「ええ、そうですよ」
アズラークの家もとてつもなくデカい。
俺は日本にいるときはずっとマンション暮らしだったから一軒家のことはよく分からないけど、それでもめちゃくちゃデカいし、綺麗だ。
あんまり外から見てはいないけど、いくつも客間があることや窓が見上げるように大きいこと、それからその窓から見渡せる広い庭なんかで、一般庶民の家じゃないことは分かった。
あんなところはそうないと思っていたけど……ルアンの家も口を開けるほど大きかった。
アズラークの屋敷がどっしりと重厚な趣があるのに比べて、ルアンの家は白を基調にしていて軽やかで華やか。
だけどその大きな門の隙間から見える前庭には繊細に彫り込まれた彫刻が立ち並ぶ。
よく手入れされた芝生も花壇も、どれもがここがただの男の住む家じゃないことを表している。
「う、うう……せっかく連れてきてもらったけど、帰りたい……」
痛むような気がする胃を抑えて小さく呟く。
俺の予定では、普通のアパートかなにかに住んでるルアンの家に行って、たぶん一人で待っているだろうレオンに会う、それだけのつもりだったのに。
あんな軽そうな男だったのに、さすが近衛師団長っていうことか。
俺をここまで抱えて走ったというのに、汗ひとつかいていないイレリオは、俺の言葉に眉をしかめた。
「体調が悪いのですか? でしたら医者に行きましょう。連れて行きますよ」
「いや、違います。大丈夫。ただ……想像とちょっと違ったから」
はは、と誤魔化すように笑う。
イレリオは『無理はいけません』とか『大病だったらどうするんですか』とか言っていたけれど適当に宥めて大きすぎる扉のドアノッカーを鳴らした。
屋敷の主人に似たのだろうか、陽気な様子の従僕が出て来て、レオンに会いに来たというと今度は執事らしい男が代わりに現れた。
そのままイレリオが先に立ってルアンの屋敷に入り、階段を上り、当たり前のようにいるメイドさんにどこか私的な空間、そう誰かの寝室のようなところに通してもらって……。
そして、大きな猫に飛び掛かられた。
「サタァッ……!!」
ソファに座った俺に、覆いかぶさるようにして飛びついてきたのはレオンだった。
相変わらず、金の混じったような三毛。
でも前から俺よりもずっと大きかったのに更に成長している気がする。
とても支えきれなくて俺は押されるがままにソファにごろりと寝そべってしまう。
その大きな身体に圧し掛かられて腕でぎゅうぎゅうと締め付けられて苦しい。
だけどそれ以上に再会できたことが嬉しくて、その背中に腕を回した。
「うわっ……! レ、レオン、無事で良かった!」
「それはこっちの台詞だよ。あのアズラーク団長に連れ去られたって聞いて、俺、もう二度と会えないかと思った……!」
すんすんと鼻を鳴らしてレオンは俺の頬や方に頭を擦り付けてくる。
まるで匂いを付ける猫みたいだ。
若干の涙声のレオン。
やっぱり心配をかけてしまったんだと罪悪感が胸にこみ上げた。
「心配かけてごめん。ずっと連絡もできなくて……でも大丈夫だよ、別に牢屋に放り込まれたわけじゃないし。俺よりもレオンの方が大変だっただろ?」
アズラークは騎士団長だけど、俺を牢屋に放り込むことも、ニンゲンだと王族に差し出すこともしなかった。
俺よりも一人でいなくなってしまったレオンの方が生活は苦労しただろう。
もともと親もいなくて一人で生計を立てていたのに、娼婦狩りの混乱であの家からもいなくなってしまったレオン。
それなのに俺の心配をしてくれていたのかと思うと心が痛む。
子供の彼にいらない心労をかけてしまって申し訳ないと、その頭を撫でようと手を伸ばすと……その腕を掴まれた。
「そういう意味じゃないよ」
「え?」
「サタ、あの男に捕まった日の前日まで相手した客って、アズラーク団長でしょ?」
185
お気に入りに追加
1,308
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。
婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。
元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。
だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。
先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。
だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。
ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。
(……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)
家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。
だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。
そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。
『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる