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後朝
しおりを挟むぐっすりと眠る、可愛らしい黒猫。
寝息もたてずに眠る彼はあまり顔色が良くない気がする。
なにしろ体格差がありすぎるから、彼には辛い思いをさせてしまったかもしれない。
それこそ明け方近くまで後ろをほぐして、ようやくだった。
本当に男娼なのかと思いたくなるくらい、彼の後ろは頑なで初々しかった。
だが最後には、気持ちいいと泣きながら何度も求めて来てくれた。
ベッドでぴくりとも動かずに眠るサタを見つめて、俺は何度目になるか分からないため息をついた。
……そろそろ行かないとな。
まだ情交の痕を色濃く残すサタと違い、俺はすでに騎士団服に着替えている。
団長という立場にあるからこそ私用で仕事を放りだすことはできない。
いままでは何の感慨もなく、誰かと夜を共にした後でも仕事にでていたが……今はどうにも後ろ髪をひかれて困る。
朝食用の軽食はもう部屋に用意させたし、ここには風呂もトイレもある。
昼過ぎにはもっと温かい食事を用意するよう言いつけてあって、その時に給仕に渡すためのチップも置いた。
俺が帰ってくるまで、退屈かもしれないが不便はしない筈だ。
『無理をさせて済まなかった。部屋から出ないで待っていてくれ。―――アズラーク・イサウロス』
デスクの上の便箋に走り書く。
それにしてもどうやら、俺はそうとうこの少年を囲い込みたくて仕方ないらしい。
結局サタは首筋を噛み返して……番になると了承してくれなかった。
もし互いの事をよく知らないから、という理由だったら、これからいくらでも時間を掛けてお互いを知ればいい。
だが……やはり番か恋人がいるんだろうか。
番や恋人がいても、奪い取るつもりはある。
なにしろこれほどか弱いサタに男娼をさせている相手だ。碌な相手ではない。
昨夜だってあばらの浮いた細い体を撫でながら、俺ならこんな目にあわせないと何度も思っていた。
獣人の執着心の激しさは知っているつもりだった。
だが、頭で知っているのと感じるのは別物のようだ。
この細い体が他の獣人に弄ばれるところなんて、想像しただけではらわたが煮えくり返りそうだ。
とりあえず今日は彼を帰さないし、もう春を売ることもさせない。
市井で番が心変わりしただの、番に手を出されただので刃傷沙汰が起きるたびに、よく他人にそこまで入れ込めるなと思っていたが、今ならよく分かる。
それこそ、もし今サタの番が目の前に現れたら、自分が何をしでかすか分からない。
今までサタを買った男たちを一人一人嬲り殺しにしてやりたい。
冷静だと言われていたはずなのに歯止めのきかない衝動に、小さく舌打ちする。
『逃げたら許さない』
思わず便箋に書き足してしまった言葉に、自分のことながらため息を落とした。
とりあえず仕事を早くかたずけて日が落ちる前には迎えにこよう。
口説き落とすのは彼の目が覚めてからだ。
そう思いながら馬車を駆けさせた。
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