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告白
しおりを挟む乱れたシーツの上で、淡い間接照明に照らされた天井を見上げる。
腰が立たなくてベッドの上で寝転がったままの俺を清めたマティアスが、そっと俺の腕を撫でた。
「・・・・痛むか。」
シャツでとはいえなかなかの時間にわたって縛られて、さらに体重までかかった腕にはくっきりと痣が付いている。
それを痛まし気な目で見たマティアスは重ねて『すまない』と苦しそうに呟く。
「いや、大丈夫だ。それほど痛みはないよ。俺も鍛えてるし。」
まだ若干痺れる腕を伸縮させて、問題はないと苦笑した。
そんな俺を見下ろしたマティアスは・・・弱々しく言葉を吐きだす。
「こんなこと、するつもりじゃなかったんだ・・・本当にすまない。」
「気にするなって。まぁ、俺も確かに驚いたけど。」
どう表情を取り繕っても、頬が引き攣って声が震える。
するつもりじゃなかったって。
まぁそうだろうな。
結婚相手である俺が他の男とセックスするのがマティアスの貞操観に反していて、それを止めようとしたら、売り言葉に買い言葉でヤっちまったってだけだ。
大丈夫だ。
お互いに不本意だった、あれは事故だったと言って笑えば、また明日からいつも通りに戻れる。
手が届かないはずの惚れた男と結婚できて、更にセックスまでできたんだ。
俺はラッキーとでも思わなきゃいけないだろう。
後悔しているお前を見て、傷ついた顔なんてしちゃいけない。
「こんなのは間違えているっていうのは、分かっていたんだ。お前を抱いたことだけじゃなくて、この結婚自体が、だ。」
深く沈むような暗いマティアスの声に、ずきりと胸が痛む。
やっぱりそもそも俺と結婚したことを後悔してるのか。
上司命令とは言え、それはそうだろうな。
マティアスならいくらでももっとマシな相手を選べただろうし、好きな子だっているらしいし。
「・・・うん、まあ、そうだよな。」
目を掌で覆って、ぼそぼそと呟く。
ずっとずっと好きだったマティアス。
俺の気持ちなんて一生言わないつもりだったし、匂わせもしないつもりだった。
付き合いたいどころか気が付かれさえしないでいいと思ってた。
いつかこいつは出世して地球に帰っちゃうだろうから、そうしたらきっと忘れられるだろうと思ってた。
・・・なのにうっかり抱いたりなんかしやがって。
愛だの恋だので抱かれたんじゃないって分かってるのに、これじゃあ忘れられなくなりそうだ。
きっとこの仮初の結婚生活ももうダメだろうな。
それどころか別れたって、今まで通り友人としてなんて側にいられない。
きっとマティアスだって俺みたいなのに付きまとわれたら嫌だろう。
無理やり笑みの形に吊り上げていた唇が震えて、じわりと目元に涙が滲む。
「だから半年だけで、我慢するつもりだった。・・・・・半年お前を口説いて、ダメなら解放しようと思っていた。」
「ああ、もう無理だよな・・・・・って、口説く?」
てっきり早めに出ていくように言われると思って、そう身構えていたのに。
想像していた終わりの言葉とまったく違う言葉がマティアスの口から紡がれて脳みそが処理しきれなくて、俺は目を覆っていた掌の隙間からマティアスを思わず見上げる。
今、俺をこいつ口説くって言わなかったか?
幻聴か。
そうだよな。
だってマティアスは好きな相手がいるんだし、ノンケだし、俺になんて興味ないはずだし。
「ああ。だが3ヶ月経ってもお前は何の反応もない。それどころか他の男に抱かれようとするから・・・はらわたが煮えくり返りそうだった。」
「え、いや、ちょっと待てよ。何言ってるんだ。」
「お前が過去に恋人がいたことは責めない。だが、婚姻している限りは俺だけにしてくれ・・・あと3ヶ月しかないとしても。性欲だけなら、俺でも処理できるだろう?」
ベッドの端に座ったマティアスの掌が伸びてきて、そっと俺の手をつかむ。
そのまま指先に口づけられて俺は思わず叫んでしまった。
「だからちょっと待てって!マティアス・・・・・それだと、その、勘違いだとは思うけど、お前が俺のことを好きみたいに聞こえるんだが。」
「何言ってるんだ。ずっと好きだしアプローチしていただろう。食事に誘ったり休日にデートに連れ出したり、家に呼んだり。」
いや、それ普通に友達だってするだろ。
誰が同性の同僚に仕事後に飯に誘われて、口説かれてると思うよ。
しかも一緒に飯に行っても休日に会ってもマティアスはいたって普通な感じだったし。
それに、こいつは結婚を考えるほど好きな奴がいるんじゃなかったのか。
「ユーリエ嬢に、『結婚を考えている相手がいる』って言ったんだろ!?」
「そうだ。お前と付き合っていなくても結婚を考えたら悪いか。」
別に悪くはない。
考えることは個人の自由でたとえ俺とこいつの間にそれまで恋愛的な関係性が一切なくても、悪いことではない。
だからマティアスの言っていることは何一つとして間違ってはいないのだけど・・・抱えきれなくなってきた話に、俺はため息をついて目を閉じた。
突然すぎることに頭がパンクしそうだ。
こいつに抱かれたことだって俺の中では一大事件だっていうのに、まさか同じ想いを持っていたというのか。
黙りこくった俺の頬に、マティアスがそっと手を滑らせる。
「レイン。いくら上司命令でも、俺は好きでもない男と婚姻はしない。お前と違って、そこまでお人よしじゃない。」
目を開くと、いつもの無表情だけど美形な顔が俺のことを覗き込んでいる。
・・・・この無表情から、こいつの感情が読み取れるようになったのは、いつの頃だっただろうか。
いつもと変わらない冷たい瞳が、少しだけ不安に揺れている。
だけど同時に酷く真剣で___情熱的な炎が奥に潜んでいるようだ。
そのことに勇気づけられて俺は彼の手に自分の手を乗せた。
「俺だってそうだよ・・・マティアス、お前だから結婚したんだ」
俺がほほ笑むと、彼の目が僅かに見開かれる。
その顔に俺は思わず小さく噴き出した。
「なんで俺ら、好きだって言う前に結婚してるんだろうな?」
__そうして長年封じ込めていた好きだという言葉を、彼に耳に甘く囁いた。
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