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最初の恋
3-2. 現実逃避
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「差山くん、アパートってここ? 何階?」
……低い声が頭の上から降ってくる。
肩を抱かれて……というよりも、ほぼ引きずられながら、俺は動きの鈍くなった頭を縦に振った。
部屋で一人で呑んでもきっとうじうじと考えてしまうばかりで辛いだけだ。
現実逃避のために向かった先は、最寄り駅の近くの立ち飲みバーだった。
昔の立ち飲み屋と違ってそこそこオシャレで、だが敷居は低く手っ取り早く呑めて酔える。
出会いを求めるタイプの飲み屋じゃないけど、偶然隣に立った、一人で来たらしい亜人の青年と喋りながら飲んでいるうちに俺は酩酊していた。
空きっ腹に酒を流し込んで酔わない筈がない。
よく考えたら分かるけど、なぜか俺はひたすら喉にアルコールを流し込んでいた。
何で俺は二日連続でこんなになるまで呑んでるんだ。
それは偏に俺が悪いんだけど、自問自答せずにはいられない。
俺ってこんなに酒癖が悪かったっけ?
嫌なことがあるたびに酒に逃げるって、将来的にこれはまずいんじゃないか。
「もう着くから、部屋の鍵出して」
のんびりした青年の声が響いて、俺はポケットから鍵を引っ張り出して掌に握りしめた。
彼は『亜人を好きになってしまうんだ』と酔った勢いで呟いた俺を面白いと思ったのか、色々と話を聞いてくれた。
実らない恋は辛いだろうと言われて、不覚にも少し涙が滲んだ。
そうだ、それで足元の危なくなった俺を送ってくれることになったんだ。
良い奴だなって言ったら、なぜか彼は苦い顔で笑っていた。
そう言えばゼンもいつも優しかった。
顔はちょっと怖い感じの男前なのに、さりげない気遣いとか柔らかい目線とか。
でも、ゼンの優しさはもう俺には与えられないんだろうな。
「……ん? あれ、差山くん。誰かいるけど」
うとうとしながらゼンの顔を頭に思い描いていると、戸惑ったような声が零された。
その声につられて顔を上げる。
ぼやける視界でもなんとか目を開けるけど……なぜだろうか。
筋肉質な巨大な体の、ゼンがいるように見える。
……これは幻覚か?
「おい、何している」
不機嫌そうな声の幻聴もする。
いやいやそれとも、ゼンそっくりな他人の空似な亜人だろうか。
だってゼンが俺に会いに来る理由はないはず。
家だって知らないはずだ。
それだったらこれは夢で、目の前のゼンは幻覚だな。
俺は思考を止めると目を閉じる。
だが、亜人の青年はなぜか幻覚であるはずのゼンと何やら話し始めた。
「は?いや、何してるってこっちのセリフなんだけど。そこ、この人の部屋の前だよね?」
「彼を酔わせてどうするつもりだ」
「酔わせてって、差山くんが勝手に呑んだだけだよ。大体俺は亜人だから、どうもこうもあるわけないし。あんただって亜人だろ?」
「付き合っているわけではないんだな?」
「だから当たり前だろ」
「じゃあ、こっちに寄こせ」
「わ、ちょっと待てよ……あんた、まさか」
俺の体が強い力で引っ張られる。
ふわりと体が浮いたと思ったら、握りしめていた鍵が取り去られて、ガチャガチャと鍵が回される音。
それからバタリと扉が閉まる音がした。
……あれ、これはもしかして。
もしかして夢じゃないんじゃないだろうか。
変な汗が背中を伝う。
じわりじわりと嫌な予感を感じるけれど、目を開けることもできなくて固まっていると。
「……差山。起きろ」
低い声が静かに響いた。
……低い声が頭の上から降ってくる。
肩を抱かれて……というよりも、ほぼ引きずられながら、俺は動きの鈍くなった頭を縦に振った。
部屋で一人で呑んでもきっとうじうじと考えてしまうばかりで辛いだけだ。
現実逃避のために向かった先は、最寄り駅の近くの立ち飲みバーだった。
昔の立ち飲み屋と違ってそこそこオシャレで、だが敷居は低く手っ取り早く呑めて酔える。
出会いを求めるタイプの飲み屋じゃないけど、偶然隣に立った、一人で来たらしい亜人の青年と喋りながら飲んでいるうちに俺は酩酊していた。
空きっ腹に酒を流し込んで酔わない筈がない。
よく考えたら分かるけど、なぜか俺はひたすら喉にアルコールを流し込んでいた。
何で俺は二日連続でこんなになるまで呑んでるんだ。
それは偏に俺が悪いんだけど、自問自答せずにはいられない。
俺ってこんなに酒癖が悪かったっけ?
嫌なことがあるたびに酒に逃げるって、将来的にこれはまずいんじゃないか。
「もう着くから、部屋の鍵出して」
のんびりした青年の声が響いて、俺はポケットから鍵を引っ張り出して掌に握りしめた。
彼は『亜人を好きになってしまうんだ』と酔った勢いで呟いた俺を面白いと思ったのか、色々と話を聞いてくれた。
実らない恋は辛いだろうと言われて、不覚にも少し涙が滲んだ。
そうだ、それで足元の危なくなった俺を送ってくれることになったんだ。
良い奴だなって言ったら、なぜか彼は苦い顔で笑っていた。
そう言えばゼンもいつも優しかった。
顔はちょっと怖い感じの男前なのに、さりげない気遣いとか柔らかい目線とか。
でも、ゼンの優しさはもう俺には与えられないんだろうな。
「……ん? あれ、差山くん。誰かいるけど」
うとうとしながらゼンの顔を頭に思い描いていると、戸惑ったような声が零された。
その声につられて顔を上げる。
ぼやける視界でもなんとか目を開けるけど……なぜだろうか。
筋肉質な巨大な体の、ゼンがいるように見える。
……これは幻覚か?
「おい、何している」
不機嫌そうな声の幻聴もする。
いやいやそれとも、ゼンそっくりな他人の空似な亜人だろうか。
だってゼンが俺に会いに来る理由はないはず。
家だって知らないはずだ。
それだったらこれは夢で、目の前のゼンは幻覚だな。
俺は思考を止めると目を閉じる。
だが、亜人の青年はなぜか幻覚であるはずのゼンと何やら話し始めた。
「は?いや、何してるってこっちのセリフなんだけど。そこ、この人の部屋の前だよね?」
「彼を酔わせてどうするつもりだ」
「酔わせてって、差山くんが勝手に呑んだだけだよ。大体俺は亜人だから、どうもこうもあるわけないし。あんただって亜人だろ?」
「付き合っているわけではないんだな?」
「だから当たり前だろ」
「じゃあ、こっちに寄こせ」
「わ、ちょっと待てよ……あんた、まさか」
俺の体が強い力で引っ張られる。
ふわりと体が浮いたと思ったら、握りしめていた鍵が取り去られて、ガチャガチャと鍵が回される音。
それからバタリと扉が閉まる音がした。
……あれ、これはもしかして。
もしかして夢じゃないんじゃないだろうか。
変な汗が背中を伝う。
じわりじわりと嫌な予感を感じるけれど、目を開けることもできなくて固まっていると。
「……差山。起きろ」
低い声が静かに響いた。
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