【BL】寸劇

のらねことすていぬ

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6.幸せ

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くっついてしまいそうな瞼を必死に持ち上げて、俺は裸の伊佐島さんの胸に額を擦り付けた。


あの後、伊佐島さんはやたらとねちっこく俺を弄んだ。
丁寧な愛撫……と言えばいいのかもしれないけど、長く長く続く快感に、経験値の足りない俺の体はおかしくなってしまいそうだった。

後は、俺がいままでおざなりに慣らしていたのと違ってとろとろに蕩かされて、挿れられた時にはそれだけでイってしまいそうだったし。
しかもそれからも長くて、挿れながらも乳首や陰茎にいたずらを散々されて。
たくさん噛んで舐めてしゃぶられた乳首はぷっくりと赤く腫れていてシーツに擦れるだけで体が震えるし、ローションをたっぷりつけて弄ばれた陰茎はもう一滴も出ないほど搾り取られた。

体力の限界がきてベッドで呆然としている俺を、伊佐島さんは濡れたタオルで拭った。
優しい。
だけどその時に俺の頭に浮かんだのは『確かに泊まっていったら酷いことになっていたかもしれない』ということだった。
初めてセックスした時の消極さはなんだったんだろうと言うくらいに貪られた。

伊佐島さんは、熱いため息をついた俺のつむじに唇を落とすと、いつも通りの感情の読めない低い声で呟く。



「これからは、色々ちゃんと言えよ。俺もしたいこと言うから」

「あ……うん、……そうします」


本当に、話し合わないと分からないことばかりだ。
彼が俺を好きだっていうことも。
こんなに情熱的だということも。

ふふ、と嬉しさに頬を緩めていると、伊佐島さんは驚くようなことを口にした。


「じゃあ、とりあえずここに引っ越してこい。いいな」

「……へ?引っ越し?」


引っ越しって。
突拍子もなく何を言い出すんだろうか。
狭いし汚いところだから伊佐島さんを招いたことはないけど俺も自分の金でアパート借りられているし。
目を瞬かせていると、彼は俺の顔を覗き込んできた。


「鍵渡したときにお前が言っただろ。引っ越してくるって」

「え、でも、でも、あれは……」


あれはほんの冗談。
調子に乗ったふりをして、彼に少しでも『傍にいていい』『部屋に来てもいい』って言って欲しかっただけだ。
実際に引っ越してくるなんて大それたことを望んだわけじゃない。
夢見たけれど、本当に要求していたわけじゃないのだ。

あれは冗談なんです。

そう言おうとした俺の口が言葉を零す前に、彼は大きな掌で俺の口をふさぐ。
そしてじっと俺の瞳を見ると低い声で囁いた。


「お前がそう言ってからずっと期待してたんだ。今更、嘘だなんて言わないよな?」


少し強引な、それどころか脅すような響きさえもっている言葉。
他の人だったら眉をしかめるかもしれない。

だけど俺は。
どこまでも臆病な俺は、その言葉に背中を押されるようにして、頷いた。


口をふさがれているから声が出ない。
だけど、瞳からいくつも涙の筋を作りながら何度も頷く。

これが俺の寸劇の、幸せな幕引けだ。
はたから見たら滑稽かもしれないけど、生まれて初めて誰かを好きになって、苦しんで何度も泣いて、一人で空回りして。
そうして最後に彼を手に入れた。

幸せに震える心でそう思った。












◇◇◇◇◇
本編終了です。あと番外編が少し続きます。
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