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おまけ 2 アスファーが庭園で土竜と話していたこと
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アスファーが庭園で土竜と話していたこと。
※情けないアスファー注意
「あれ、アスファー?どうしたんだよ、こんなところで暗い顔して。番が見つかったって言ってなかったっけ?」
庭園の東屋で頭を抱えるアスファーに、土竜のルスはのんびりと声を掛けた。
同じ竜人族のアスファーとは腐れ縁で、彼がついこの間ようやく番が見つかったと満面の笑みを浮かべていたのに……。
今はまるで地獄を垣間見たかのような憔悴しきった表情をしている。
心なしか顔色も悪い。
ただの腐れ縁ではあるがそれなりに心配になり隣に腰掛け顔を覗き込むと、いつもは闊達なアスファーの目が死んでいる。
振られでもしたんだろうか。
でも振られたって諦めることができないのが竜人族だ。
振られたなら今頃、拉致監禁して相手に幻術でもかけている。
じゃあなんだろうかと思いを巡らせていると、おもむろにアスファーが口を開いた。
「ルス……俺は今まで番の存在を甘く見ていた。どうせ番と言っても、ただの繁殖相手だろう、と。……だがまったく違った………‥ウィチは、ウィチは、可愛すぎる!」
くっ、と苦し気にアスファーが呻き、その胸を抑える。
「彼が落ちてきた日、あれはまさに天使と出会った日だった。ウィチは涎を垂らす俺の横で無防備に眠って、悩ましく寝がえりなんかうって……! しかも握った手を放そうとすると、まるで寂しがるように眉を寄せるんだ! あれほど理性が試された夜はない。
彼が子供だと知って、俺がどれほど落胆したと思う! いや、幼い時から見守れるのは嬉しいし、本当なら生まれた時からそばに居たかったが。ともかく、あれほど可愛いウィチを目の前にして手を出せないなんて……! すぐにでも名実共に番にしたいのに! なのにウィチは俺の邪な想いに気づきもしないで、王やら教育係やらと親し気に話して嫉妬を煽るし、外に連れ出せば子供らしくキラキラした目で喜ぶし……。まだ幼いから、外の世界を見せてあげた方がいいのは分かっているんだが、もう一刻も早く閉じ込めてしまいたい。他の雄どもがウィチの可愛さに目が眩むかもしれん。
しかも俺がこんなに必死で手を出さないようにしているのに、ウィチはまったく気が付かない。さっきだって聖堂に連れていったら、なにやら俺の顔に顔を近づけて来て……まるでキスを強請るみたいな仕草で……
……って、ヤバい。翼が出そうだ」
アスファーは言葉を切ると、体を前屈させて背中にを回す。
「ぇえ!ヤバいじゃん!僕が番に会って翼出しちゃったとき、めっちゃ笑ってたのに」
「うるさい。番がこんなに破壊力があるとは思わなかった……抑えられん」
「翼出すのって、人間だったら勃起してるような発情の証だもんね~。もしくは激怒だけど、竜人族って番に手を出されない限り本気では怒らないからねぇ」
「だから、黙れ」
「はいはい、背中抑えててあげるから、早めに引っ込めてね」
「頼む……このままでは、ウィチの前に戻れん」
「分かるよ、恥ずかしいよね」
「恥ずかしさはいいが、怖がられたら立ち直れない……あの可愛い顔が、恐怖に歪んだら……」
「えー、僕の番は平気だったよ?」
「ウィチは繊細なんだ」
「え?なに、僕の番が繊細じゃないって言ってる?あんなに美しくて格好良くてでも純粋な少年の心を忘れない番なのに?」
「だが騎士だろう。竜人族のお前よりも強そうだ」
「騎士でも、か弱い人間だし、綺麗だし、優しいし最高なの!」
番をけなすのなら、普段いくら温厚でも怒るよ、とルスが噛みつくように言葉を尖らせる。
だがアスファーはいつの間にかルスから意識を逸らし、視線をあたりに彷徨わせていた。
「……今、ウィチの気配がした」
あたりをきょろきょろと伺い、暫くしてから、その視線が高台の方へ向けられる。
目の焦点が高台に合った……と思ったら、アスファーの体から一気に強い怒気が漏れだして。ルスが背中を抑えていた手を跳ねのけて、ぶわりと、深い緑色の翼が広がる。そのまま彼の体は強い風に包まれて、一気に空高くへと飛び立った。
「あー、完全に翼出てる。……って、あれは激怒の方の翼だなぁ」
光を受けて輝く緑の翼が、あたりに小さな竜巻を起こしながら去って行く。
その進行方向には、高台の上で大人の雄に抱き寄せられる、どこか頼りなさげな人影。
あれがきっとアスファーの番なんだろう。
怒りを露わにした後ろ姿を見ながら、ルスは呆れたようにため息をついた。
「番君もご愁傷様。僕ら竜人族は嫉妬深いし、長い生の中でも番はたった一人だし。怒りのまま子供に無理やり手を出したりなんてしないといいんだけど。あー、でも僕も、自分の番に会いに行こう。心配になってきた」
いそいそと自分も番のところへ行こうと、庭園から足を踏み出して、ふと疑問が頭に浮かぶ。
「……あれ、そう言えばアスファーの番っていくつなんだろ」
まあどうでもいいか。どうせ、いくつでも逃げられないんだから。
そんな呟きだけを残して、ルスは庭園を後にした。
※情けないアスファー注意
「あれ、アスファー?どうしたんだよ、こんなところで暗い顔して。番が見つかったって言ってなかったっけ?」
庭園の東屋で頭を抱えるアスファーに、土竜のルスはのんびりと声を掛けた。
同じ竜人族のアスファーとは腐れ縁で、彼がついこの間ようやく番が見つかったと満面の笑みを浮かべていたのに……。
今はまるで地獄を垣間見たかのような憔悴しきった表情をしている。
心なしか顔色も悪い。
ただの腐れ縁ではあるがそれなりに心配になり隣に腰掛け顔を覗き込むと、いつもは闊達なアスファーの目が死んでいる。
振られでもしたんだろうか。
でも振られたって諦めることができないのが竜人族だ。
振られたなら今頃、拉致監禁して相手に幻術でもかけている。
じゃあなんだろうかと思いを巡らせていると、おもむろにアスファーが口を開いた。
「ルス……俺は今まで番の存在を甘く見ていた。どうせ番と言っても、ただの繁殖相手だろう、と。……だがまったく違った………‥ウィチは、ウィチは、可愛すぎる!」
くっ、と苦し気にアスファーが呻き、その胸を抑える。
「彼が落ちてきた日、あれはまさに天使と出会った日だった。ウィチは涎を垂らす俺の横で無防備に眠って、悩ましく寝がえりなんかうって……! しかも握った手を放そうとすると、まるで寂しがるように眉を寄せるんだ! あれほど理性が試された夜はない。
彼が子供だと知って、俺がどれほど落胆したと思う! いや、幼い時から見守れるのは嬉しいし、本当なら生まれた時からそばに居たかったが。ともかく、あれほど可愛いウィチを目の前にして手を出せないなんて……! すぐにでも名実共に番にしたいのに! なのにウィチは俺の邪な想いに気づきもしないで、王やら教育係やらと親し気に話して嫉妬を煽るし、外に連れ出せば子供らしくキラキラした目で喜ぶし……。まだ幼いから、外の世界を見せてあげた方がいいのは分かっているんだが、もう一刻も早く閉じ込めてしまいたい。他の雄どもがウィチの可愛さに目が眩むかもしれん。
しかも俺がこんなに必死で手を出さないようにしているのに、ウィチはまったく気が付かない。さっきだって聖堂に連れていったら、なにやら俺の顔に顔を近づけて来て……まるでキスを強請るみたいな仕草で……
……って、ヤバい。翼が出そうだ」
アスファーは言葉を切ると、体を前屈させて背中にを回す。
「ぇえ!ヤバいじゃん!僕が番に会って翼出しちゃったとき、めっちゃ笑ってたのに」
「うるさい。番がこんなに破壊力があるとは思わなかった……抑えられん」
「翼出すのって、人間だったら勃起してるような発情の証だもんね~。もしくは激怒だけど、竜人族って番に手を出されない限り本気では怒らないからねぇ」
「だから、黙れ」
「はいはい、背中抑えててあげるから、早めに引っ込めてね」
「頼む……このままでは、ウィチの前に戻れん」
「分かるよ、恥ずかしいよね」
「恥ずかしさはいいが、怖がられたら立ち直れない……あの可愛い顔が、恐怖に歪んだら……」
「えー、僕の番は平気だったよ?」
「ウィチは繊細なんだ」
「え?なに、僕の番が繊細じゃないって言ってる?あんなに美しくて格好良くてでも純粋な少年の心を忘れない番なのに?」
「だが騎士だろう。竜人族のお前よりも強そうだ」
「騎士でも、か弱い人間だし、綺麗だし、優しいし最高なの!」
番をけなすのなら、普段いくら温厚でも怒るよ、とルスが噛みつくように言葉を尖らせる。
だがアスファーはいつの間にかルスから意識を逸らし、視線をあたりに彷徨わせていた。
「……今、ウィチの気配がした」
あたりをきょろきょろと伺い、暫くしてから、その視線が高台の方へ向けられる。
目の焦点が高台に合った……と思ったら、アスファーの体から一気に強い怒気が漏れだして。ルスが背中を抑えていた手を跳ねのけて、ぶわりと、深い緑色の翼が広がる。そのまま彼の体は強い風に包まれて、一気に空高くへと飛び立った。
「あー、完全に翼出てる。……って、あれは激怒の方の翼だなぁ」
光を受けて輝く緑の翼が、あたりに小さな竜巻を起こしながら去って行く。
その進行方向には、高台の上で大人の雄に抱き寄せられる、どこか頼りなさげな人影。
あれがきっとアスファーの番なんだろう。
怒りを露わにした後ろ姿を見ながら、ルスは呆れたようにため息をついた。
「番君もご愁傷様。僕ら竜人族は嫉妬深いし、長い生の中でも番はたった一人だし。怒りのまま子供に無理やり手を出したりなんてしないといいんだけど。あー、でも僕も、自分の番に会いに行こう。心配になってきた」
いそいそと自分も番のところへ行こうと、庭園から足を踏み出して、ふと疑問が頭に浮かぶ。
「……あれ、そう言えばアスファーの番っていくつなんだろ」
まあどうでもいいか。どうせ、いくつでも逃げられないんだから。
そんな呟きだけを残して、ルスは庭園を後にした。
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