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誤解
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広すぎる玄関を抜け、大階段を上る。
長い廊下には敷き詰められた美しい深紅の絨毯。その上をアスファーは音もなく進んでいった。
あちこちで誰かが動くような気配はするのに人影は見られない。
大の男が抱きかかえられているところを見られなくて良かったと考えるべきなんだろうが、少しの不気味さを感じた。
俺も成人男子だしそこそこ重いのに、腕が疲れないんだろうかと思っているうちに、アスファーは大きな扉の前で足を止めた。
手を触れることなく強い風がその扉を押し開く。不思議な光景に、彼が確かに人とは違うんだと改めて見せつけられて小さく身震いした。
抱えられたまま入った部屋は、アスファーの瞳の色と同じグリーンの壁紙が美しい部屋だった。
緑色の壁と天井には、金の繊細な細工が施され、大きな窓から陽の光が明るく差し込んでいる。豪奢なのに華美ではなく、どこか落ち着く雰囲気を持っている。
その室内に入ってもアスファーは俺を腕から解放することなく足を進める。部屋の中を突っ切り、さらにもう一つの部屋に入って、そこに鎮座している大きなベッドの上にようやく俺を下ろした。
肩を押され転がされて、背中に当たる柔らかい感触。間抜けにアスファーを見上げると、彼の顔が近づいてきた。
「ん、っ、……!」
驚きに目を見開いたまま俺は固まってしまって、それをアスファーは気にする様子もなく、何度も唇を触れ合わせてくる。
軽く啄むように触れられるだけなのに、そこからびりびりしたような刺激を感じる。
「ちょ、……、ぁ、」
「ウィチ、怖いことはしないから。大人しくしてくれ」
「ぅ、あ……、ん」
顔を背けようとすると指先で顎を掴んで引き戻されて、今度は舌でぺろりと唇を舐められる。
待ってくれと抗議するために開いた口に舌が潜り込んでくる。そのまま咥内をねっとりと舐められて、ぶるりと背中が震えた。
「っ、は、ぁ、」
長く濃厚なキスに体の力が抜ける。舌を吸われ唾液を啜られ、ようやく口づけが止んだ時には、俺の頭はすっかり靄がかっていた。
何なんだ。
あんな綺麗な恋人がいるくせに、俺のことも摘まみ食いしてみる気にでもなったのか。彼のことは好きでもそんなのは酷すぎる。
「も、やめ、……」
緩慢な仕草でアスファーの腕から逃れようとするが、腰を掴んで引き戻された
大きな体に乗り上げられて身動きが取れない。
「ウィチ、怒らないから教えて欲しい。今まで、こういうことを誰かにされたことがあるね?」
涙目でベッドに沈められている俺に、覆いかぶさったアスファーがそっと囁く。どこか押し殺す怒りのような気配を感じさせる声に、俺は何でそんなことを聞かれているのかも分からず頷いた。あまりに地味すぎて、経験が欠片もないように見えたんだろうか。
肯定する俺を見て、アスファーは顔を苦しそうに歪めて、絞り出すような声で呟いた。
「そうか。だからお前は恋愛経験だなんて言って…………殺してくるから、相手の名前と特徴を教えてくれるか?」
「は? い、いや、それは、」
殺すって、何言っているんだ。
いくらモテなくても俺だって大人だし、付き合っている人がいたらセックスもする。
デニスを吹き飛ばした時もそうだったけど、アスファーは一体何に対して怒っているんだ。まさか昔の巫女みたいに、番は穢れていたらいけないとかいう決まりでもあるのか。だからって殺すなんて言い過ぎだろう。
だがアスファーが次に呟いた言葉に、俺は目を見開いた。
「そいつは、まだ子供のお前を、恋人だなんて言って手籠めにしたんだろう? 庇う必要なんてない」
子供の、……俺?
それに手籠めって、あれだよな。
レイプ的な意味だよな? 別に無理やりされたことはないんだけど。
俺、まさか自己紹介の時に29歳じゃなくて9歳とか言ってたか?でも言い間違いにしたって変だって気が付くだろう。
「いや、アスファー……? 俺、29歳って言った、よな?」
「ッ! ……まだウィチが幼いのは分かっている。今まで怖かったな? 俺は優しくするから、怯えなくていい」
アスファーが言いながら、俺の体をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
「済まない。本当なら俺もまだ子供のウィチに手を出すつもりはなかったが、他の雄に触られたなら、上書きしないと我慢できないんだ」
耳元で優しく囁かれて、耳朶に口づけられる。それだけでぞくぞくしたものが腰を痺れさせるけど、俺はアスファーの顔を引っぺがした。
「いや、だから、俺が子供って! んなわけあるかよ!」
「まだ子供だろう。100……いや、50歳にも届かないのに。今までの雄は、お前を大人だと言って弄んだのか?」
50歳って。
俺の歳が子供なら、世の中は子供だらけになってしまう。なんでこうも会話がかみ合わないんだ。
「は? アスファー、何言ってるんだ! 成人は俺の国なら20歳だよ! 俺はとっくに大人だ!」
思わず喚くように叫ぶ。
その言葉を聞いてアスファーは、秀麗な眉を不可解だとでも言いたげに顰めた。
「20歳……? そんなの、生まれたてと変わらないじゃないか」
生まれたて。
20歳で、生まれたて?
おかしい。
もしかして、と嫌な予感が頭によぎる。
「アスファー……もしかして……その、今、いくつなんだ?」
俺が恐る恐る尋ねると。アスファーは、まるで見たら分かるだろうとでも言いたげに、口を開いた。
「俺は、3100を少し過ぎたところだ」
広すぎる玄関を抜け、大階段を上る。
長い廊下には敷き詰められた美しい深紅の絨毯。その上をアスファーは音もなく進んでいった。
あちこちで誰かが動くような気配はするのに人影は見られない。
大の男が抱きかかえられているところを見られなくて良かったと考えるべきなんだろうが、少しの不気味さを感じた。
俺も成人男子だしそこそこ重いのに、腕が疲れないんだろうかと思っているうちに、アスファーは大きな扉の前で足を止めた。
手を触れることなく強い風がその扉を押し開く。不思議な光景に、彼が確かに人とは違うんだと改めて見せつけられて小さく身震いした。
抱えられたまま入った部屋は、アスファーの瞳の色と同じグリーンの壁紙が美しい部屋だった。
緑色の壁と天井には、金の繊細な細工が施され、大きな窓から陽の光が明るく差し込んでいる。豪奢なのに華美ではなく、どこか落ち着く雰囲気を持っている。
その室内に入ってもアスファーは俺を腕から解放することなく足を進める。部屋の中を突っ切り、さらにもう一つの部屋に入って、そこに鎮座している大きなベッドの上にようやく俺を下ろした。
肩を押され転がされて、背中に当たる柔らかい感触。間抜けにアスファーを見上げると、彼の顔が近づいてきた。
「ん、っ、……!」
驚きに目を見開いたまま俺は固まってしまって、それをアスファーは気にする様子もなく、何度も唇を触れ合わせてくる。
軽く啄むように触れられるだけなのに、そこからびりびりしたような刺激を感じる。
「ちょ、……、ぁ、」
「ウィチ、怖いことはしないから。大人しくしてくれ」
「ぅ、あ……、ん」
顔を背けようとすると指先で顎を掴んで引き戻されて、今度は舌でぺろりと唇を舐められる。
待ってくれと抗議するために開いた口に舌が潜り込んでくる。そのまま咥内をねっとりと舐められて、ぶるりと背中が震えた。
「っ、は、ぁ、」
長く濃厚なキスに体の力が抜ける。舌を吸われ唾液を啜られ、ようやく口づけが止んだ時には、俺の頭はすっかり靄がかっていた。
何なんだ。
あんな綺麗な恋人がいるくせに、俺のことも摘まみ食いしてみる気にでもなったのか。彼のことは好きでもそんなのは酷すぎる。
「も、やめ、……」
緩慢な仕草でアスファーの腕から逃れようとするが、腰を掴んで引き戻された
大きな体に乗り上げられて身動きが取れない。
「ウィチ、怒らないから教えて欲しい。今まで、こういうことを誰かにされたことがあるね?」
涙目でベッドに沈められている俺に、覆いかぶさったアスファーがそっと囁く。どこか押し殺す怒りのような気配を感じさせる声に、俺は何でそんなことを聞かれているのかも分からず頷いた。あまりに地味すぎて、経験が欠片もないように見えたんだろうか。
肯定する俺を見て、アスファーは顔を苦しそうに歪めて、絞り出すような声で呟いた。
「そうか。だからお前は恋愛経験だなんて言って…………殺してくるから、相手の名前と特徴を教えてくれるか?」
「は? い、いや、それは、」
殺すって、何言っているんだ。
いくらモテなくても俺だって大人だし、付き合っている人がいたらセックスもする。
デニスを吹き飛ばした時もそうだったけど、アスファーは一体何に対して怒っているんだ。まさか昔の巫女みたいに、番は穢れていたらいけないとかいう決まりでもあるのか。だからって殺すなんて言い過ぎだろう。
だがアスファーが次に呟いた言葉に、俺は目を見開いた。
「そいつは、まだ子供のお前を、恋人だなんて言って手籠めにしたんだろう? 庇う必要なんてない」
子供の、……俺?
それに手籠めって、あれだよな。
レイプ的な意味だよな? 別に無理やりされたことはないんだけど。
俺、まさか自己紹介の時に29歳じゃなくて9歳とか言ってたか?でも言い間違いにしたって変だって気が付くだろう。
「いや、アスファー……? 俺、29歳って言った、よな?」
「ッ! ……まだウィチが幼いのは分かっている。今まで怖かったな? 俺は優しくするから、怯えなくていい」
アスファーが言いながら、俺の体をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
「済まない。本当なら俺もまだ子供のウィチに手を出すつもりはなかったが、他の雄に触られたなら、上書きしないと我慢できないんだ」
耳元で優しく囁かれて、耳朶に口づけられる。それだけでぞくぞくしたものが腰を痺れさせるけど、俺はアスファーの顔を引っぺがした。
「いや、だから、俺が子供って! んなわけあるかよ!」
「まだ子供だろう。100……いや、50歳にも届かないのに。今までの雄は、お前を大人だと言って弄んだのか?」
50歳って。
俺の歳が子供なら、世の中は子供だらけになってしまう。なんでこうも会話がかみ合わないんだ。
「は? アスファー、何言ってるんだ! 成人は俺の国なら20歳だよ! 俺はとっくに大人だ!」
思わず喚くように叫ぶ。
その言葉を聞いてアスファーは、秀麗な眉を不可解だとでも言いたげに顰めた。
「20歳……? そんなの、生まれたてと変わらないじゃないか」
生まれたて。
20歳で、生まれたて?
おかしい。
もしかして、と嫌な予感が頭によぎる。
「アスファー……もしかして……その、今、いくつなんだ?」
俺が恐る恐る尋ねると。アスファーは、まるで見たら分かるだろうとでも言いたげに、口を開いた。
「俺は、3100を少し過ぎたところだ」
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