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知りたくなかった
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アスファーに恋人がいるのなんて当たり前で、俺が愛されないのも当たり前だ。
分かりきっていたことのはずなのに……俺の足は弾かれたようにその場を駆け出していた。
見たくない。
知りたくなかった。
胸が苦しい。
さっきまで走って汗まみれになっていたはずなのに、手足の先が凍えそうに冷たい。
は、は、と犬のような、俺のやけに荒い呼吸が耳につく。
行く宛てなんてないくせに手足を必死で動かして逃げ出して、人気のないところを探す。
どこまでも遠くに行ってしまいたかったけど、足元がぐらりと揺れた。
だめだ__気持ち悪い。
普段運動なんてしていないくせに走り回ったせいか、それとも一人前にショックなんて受けているせいか。
貧血のように血の気が引いて目の前が霞んで、こみあげてくる吐き気に俺は蹲った。
いつの間にか高台にまで戻ってきていた俺は、石でできた階段に抱き着くように座り込んだ。
冷たくて埃っぽい階段に、額を乗せる。
さっき、あの美青年はアスファーに抱き着いていた。
俺が抱き着けるのは、アスファーじゃなくて、石の階段だけかと思ったら惨めで目元にじわりと涙が膨れ上がった。
もう嫌だ。
なんで、なんでいつもこうなるんだ。
俺は誰にも大事になんてされない。
幸せにはなれない。
恋愛なんて無理だって分かっていた。
分かっていたつもりだったけど苦しい。
番にすら迷惑だと思われているんだったら……もう居場所なんてないじゃないか。
どうして愛してくれないんだ。
あんな恋人がいるんなら、最初から教えて欲しかった。
俺みたいな男、番にしたくないならそう言って欲しかった。
周りが、番だなんて言ってもて囃さなければ、俺だって淡い期待なんて持たなかったのに。
暗い思考が頭に渦巻く。
絶望がともすれば怒りに変わりそうで、俺は自分の体を抱きしめた。
こんなことを考えたらだめだと分かっていて、暴れ出しそうな心のうちを必死で宥める。
アスファーを恨んでも、セッテや他の良くしてくれた人を恨んでもしょうがない。
初めから要らない存在として打ち捨てられるよりも、少しの間でも幸せな夢を見せてくれたんだと思わなければ。
最初から分かっていたし、期待するなと自分に言い聞かせていたのにこのザマだ。
ただ、俺が気が付いていなかっただけ。
他の誰でもない俺が、勝手に期待して失望しただけ。
俺以外は誰も悪くない。
シャツの胸元を強く握りしめて、熱くなる目元を抑えた。
もう誰にも会わず、消えてしまいたい。
そう思ったけど、蹲る俺の前に大きな体の影が伸びた。
アスファーに恋人がいるのなんて当たり前で、俺が愛されないのも当たり前だ。
分かりきっていたことのはずなのに……俺の足は弾かれたようにその場を駆け出していた。
見たくない。
知りたくなかった。
胸が苦しい。
さっきまで走って汗まみれになっていたはずなのに、手足の先が凍えそうに冷たい。
は、は、と犬のような、俺のやけに荒い呼吸が耳につく。
行く宛てなんてないくせに手足を必死で動かして逃げ出して、人気のないところを探す。
どこまでも遠くに行ってしまいたかったけど、足元がぐらりと揺れた。
だめだ__気持ち悪い。
普段運動なんてしていないくせに走り回ったせいか、それとも一人前にショックなんて受けているせいか。
貧血のように血の気が引いて目の前が霞んで、こみあげてくる吐き気に俺は蹲った。
いつの間にか高台にまで戻ってきていた俺は、石でできた階段に抱き着くように座り込んだ。
冷たくて埃っぽい階段に、額を乗せる。
さっき、あの美青年はアスファーに抱き着いていた。
俺が抱き着けるのは、アスファーじゃなくて、石の階段だけかと思ったら惨めで目元にじわりと涙が膨れ上がった。
もう嫌だ。
なんで、なんでいつもこうなるんだ。
俺は誰にも大事になんてされない。
幸せにはなれない。
恋愛なんて無理だって分かっていた。
分かっていたつもりだったけど苦しい。
番にすら迷惑だと思われているんだったら……もう居場所なんてないじゃないか。
どうして愛してくれないんだ。
あんな恋人がいるんなら、最初から教えて欲しかった。
俺みたいな男、番にしたくないならそう言って欲しかった。
周りが、番だなんて言ってもて囃さなければ、俺だって淡い期待なんて持たなかったのに。
暗い思考が頭に渦巻く。
絶望がともすれば怒りに変わりそうで、俺は自分の体を抱きしめた。
こんなことを考えたらだめだと分かっていて、暴れ出しそうな心のうちを必死で宥める。
アスファーを恨んでも、セッテや他の良くしてくれた人を恨んでもしょうがない。
初めから要らない存在として打ち捨てられるよりも、少しの間でも幸せな夢を見せてくれたんだと思わなければ。
最初から分かっていたし、期待するなと自分に言い聞かせていたのにこのザマだ。
ただ、俺が気が付いていなかっただけ。
他の誰でもない俺が、勝手に期待して失望しただけ。
俺以外は誰も悪くない。
シャツの胸元を強く握りしめて、熱くなる目元を抑えた。
もう誰にも会わず、消えてしまいたい。
そう思ったけど、蹲る俺の前に大きな体の影が伸びた。
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