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竜人

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「で、では!よろしくお願い申し上げます!このセッテ、命に代えても教育係を務めあげさせていただきます!」

「それは、……まあ、あの、お手柔らかにお願いします。」


まだ甲高い声が広い室内に響く。




ワハシュ王と話をしたもう翌日には、教育係が俺の部屋へとやってきた。

最初、俺の教育係は60歳をすぎたおじさんが任命されかけた。
だけどなぜかアスファーが、それを嫌がって、次に70歳を過ぎたおじいちゃんになりかけた。
なのに、その人も嫌だと聞かず、結局選任されたのはなんとまだ18歳の少年だった。


相当優秀らしく、セッテと名乗った少年は、日本で言うところの大学を今年卒業して王宮で文官として働く予定だったらしい。
それはエリート街道を邪魔して悪かったな、と謝ったけど、本人は「とんでもない、身に余る光栄です。」となぜか恐縮しきりだ。
しかもしきりに、俺のことを素晴らしい、謙虚だなんだと褒めてくる。

……こんな可愛い子のお世辞だと、信じちゃいそうになるな。

すべすべの頬を紅潮させて目を輝かせている少年を前に、授業の前からくたびれた気がする。
それでも向かい合わせに行儀よく席に腰掛ける。


「では番様、本日はこの世界の成り立ちから……」

「あ、その前に。その『番』ってなにかな?俺のこと?」

「番様の世界には、『番』はなかったのですね。では、番様の世界に『結婚』はございましたか?」

「ああ。結婚はあった。」

「番、というのは結婚と似たものでございます。ただし結びつきの強さが違います。番、というのは魂と魂が惹かれあう、唯一の相手で生涯でただ一人。それから番というのは竜人様と一部の獣人族にしか存在しません。」

「りゅうじん、と、じゅうじん。」

「はい。アスファー様は竜人様でございます。竜人様は、竜神様とも呼ばれます。その名の通り、竜であり人であり、神でもある存在です。大気を操り、優れた知恵と強い魔力、それから長い寿命をお持ちの、我々ただ人とは違った存在です。この国ができる前からこの大陸で神の種族として君臨しておられました。」


__竜人。


にこにこと相好を崩すアスファーは、たしかに壮絶な美形だったけど人にしか見えなかった。
竜っぽさなんて全然なかったじゃないか。鱗だってなかった。

にわかには信じられないけど、俺がこの世界にいることも信じられない。
飲み込めないものを無理やり飲み込もうと大きく息を吐く。


「ちょっと待ってくれ。じゃあアスファーはただの人じゃなくって竜で、俺がアスファーの番ってこと?その結婚相手、みたいな。」


目の前の少年は、ニッコリ笑ってこくりと頷いた。


「アスファー様に番様が現れたことを、この国中が喜んでおります。」

「……マジか。」


あんだけ美形の男が、俺と魂で惹かれあう?
結婚と似たものって、そもそも彼は今まで誰とも結婚してなかったのか?
いや恋人とかはいただろうけど、それにしたって引く手あまただろう。

確かに俺は一目で彼に惹かれた。
それは本当だ。
彼のなにもかもが好ましく感じる。
だけどあれだけのイケメンで、しかも優しくあれこれ世話を焼いてくれる。
ただ単に惚れっぽい俺が落ちただけかもしれない。

あんな一流の男と番だと言われても、簡単にそうなんだとは言えない。


「何か悩まれることがございますか?」

「もう悩みしかないよ……理解しきれなくって」


俺は日本でもモテなかったし大事にされなかった。
そうなれば嫌でも俺は平均以下の魅力しかないんだと思い知っている。

そんな俺があの美丈夫と番になる?
いくらなんでも無理がありすぎる。
俺なんかじゃつまみ食いとして弄ばれるどころか、歯牙にもかけられないんじゃないか。
不釣り合いにも程がある。

それに、こんな俺が番だなんて……彼にとってはとんだ外れクジだ。
わざわざ異世界から来るほどの番なんだから、もう少しマシなのだと思っていたんじゃないか。
だとしたらなんだか申し訳ない気持ちに苛まれる。

だがため息をつく俺に、セッテは朗らかな笑みを深くするばかりだ。


「番様のお悩みはすべてアスファー様にお委ねなさいませ、つつがなく全て進みます」


まだ18歳の彼には分からないのか。
それとも分かっていて気にしないフリをしているのか。
俺がアスファーの番になるなんて不相応すぎる。

だが苛立ちを自分よりずっと年下の少年にぶつけるわけにもいかず、俺は心にもなく『分かった』と頷いた。





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