俺が竜人の番に抱いてもらえない話する?

のらねことすていぬ

文字の大きさ
上 下
4 / 27

翌朝

しおりを挟む
-







目が覚めたらなんと翌日だった。
そしてさらに驚いたことに、アスファーはまだ俺のベッドサイドに座っていた。


「えっ、なんで……?って、ごめん!」


一晩付きっ切りでいるなんて、家族の看病だって辛い。
なのに全くの他人の俺のために起きてるなんて。
『そばに居る』と言ってくれたのは優しい方便みたいなものだと思っていた。
だってまさか本当に起きるまでいるなんて思わないだろう。


「ちょっと寝ないくらい、別に大したことない。」


首を横に振ってそう言ってはいるが、アスファーはどこか疲れたような……いや、苦しそうな顔だ。
俺がのそのそ起きだすと、そっと手助けしてくれるけど、どうにも弱ったような顔が痛々しい。


「疲れただろ?ほんとごめん。ちょっと電話だけ貸してくれたら、あとは何とかするから寝ててよ」


そう言ってやんわりと手を押し戻そうとするけど、予想以上に力強い手に逆に捕まえられた。
熱い手のひらに、不謹慎だけどどきりと心臓が高鳴る。


「弱っているお前を一人にしろと言うのか?」


いや、べつに一人になっても大丈夫でしょ。
打ったはずの頭も今はもう別に痛くないし。
なぜか全身が怠いけど、それだって寝たきりになるほどじゃない。
一人じゃ眠れないような歳でもない。

だが彼からはまるで信じられないとでも言いたげな雰囲気が漂っていて、恩人と口論になるのは嫌だな、と思っていると。
コンコン、と軽やかにノックが響いた。



「風竜アスファー様ならびにその番様、国王のワハシュでございます。恐れながら入室の許可を頂きたく」


厳かな声が扉の外から聞こえてくる。

その声に俺は半分寝てたような脳みそが一気に目覚めるのを感じた。

……今、なんていった?
国王?え、聞き間違い?

混乱する俺をよそに、アスファーは不機嫌そうな声で応える。


「ならん。まだウィチは起きたばかりだ」

「大変失礼いたしました。では、また改めて」


扉の外の「国王」はあっさりと諦めていなくなろうとする。
それに俺は慌てて声を上げた。


「や、いやいやいやいや! 俺のタイミングとか全然大丈夫です! どうぞ、お入りください!」


嫌な予感しかしないけど、昨日から感じている妙な違和感。
いやに広くて豪華な部屋。
日本とどこか違う雰囲気のする空気。
そして、どこか話の通じない目の前の美形。

それが、この「国王」とかに会えば解消される気がする。

そう思って慌てて引き留めた。
そんな俺に、アスファーは大きなため息をついた。

そして俺を扉から隠すように、俺を背後にベッドの上に横向きに腰掛けた。


「ウィチがそう言うなら許す、入ってこい。だが目線は上げないように」


尊大にも聞こえる言葉に俺は目を剥く。
アスファーとこの国王との力関係ってどうなってるんだ。
そう思ってる間に大きな扉が開かれて、俺の親父より年上だろう男が入ってきた。

真っ白い髪に同じ色の髭、そして豪華なマント。
少し太って体格がいい。
顔は伏せられて造作は見えないけど、おそらくアスファーと同じ外国人の彫の深さのある顔。

その後ろにずらりと控えるやっぱり壮年の男性たち。

その姿に俺は顔が引きつるのを感じる。
……これは、聞き間違えじゃなく国王っぽい。
そして昨日からずっと感じ続けてる違和感が、じわじわと俺の頭の中でリアルになってくる。

死んだかもと思った後なのに全然違う場所で起きたこと。
明らかに外国人顔で日本語ペラペラの男たち。
見たこともない服装。

そして国王という言葉。
これはもしかして、……もしかするんじゃないのか。


「アスファー様、ついに番様を得られたとのことお慶び申し上げます」

「ああ。番の体調が整い次第、巣を作る。その間、彼を煩わせないように」

「もちろんでございます」


部屋に入った国王は、視線を下げたまま口上を述べる。
それに鷹揚に頷いたアスファーは、俺には意味の分からないことを言うが、国王はそれに深く頷いた。

しばらく会話が続くかな、と思って観察していたら、アスファーはくるりと此方を向いた。


「ウィチ。ほんの暫くの間、ここで暮らして欲しいんだが……いいか?」


ここ。
ここって、このやたらとデカい部屋か。庶民の俺に、ここで暮らさせてもらえと言うのか。
部屋代いくらになるんだよ。
俺は別にそんなに重病人じゃないし、すぐにだって出ていける。
だけど今ここで放り出されたら……そう考えると彼の提案を無下にするのも戸惑われる。
分かったと応えるわけにはいかなくてどう応えるか考えあぐねていると、アスファーはきゅっと眉を寄せた。


「部屋が気に入らないなら、別の場所を用意する。もしこの国が嫌なら、別の国にしよう」

「いや、いいって言うか、気に入らないとかじゃないよ、別に」

「正直に言ってくれ。お前がここが嫌ならどこへでも行こう」

「本当に嫌じゃないって」


アスファーの別の国って言葉に、おじさんたちの緊張が高まったのか小さなざわめきが聞こえた。
俺はアスファーから視線を外して、まだベッドから遠くで顔を俯けている国王へと向き直る。


「あの、……すみません」


俺の声におじさんたちの意識が一気に俺に集まる。
一回り以上年上のおじさんたちの視線が殺気立っていて怖い。
それに俺がおじさんたちに声を掛けたことに、アスファーもなんだか驚いたように固まって……それから不機嫌そうに眉を吊り上げる。
明らかに歓迎されていない行為っぽいけど、ここで流されるととんでもないことになりそうだと、俺は意を決して口を開いた。


「なんか、俺、この国の……いや、この世界の人間じゃないっぽいんですけど、そこらへん大丈夫ですか?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

処理中です...