俺が竜人の番に抱いてもらえない話する?

のらねことすていぬ

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1.愛されない

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俺、昼井 宇一(ひるい ういち)は昔から「恋人に大事にされない人間」だった。
別にウジウジしているとか、凄い我が儘とか壊滅的な不細工とかでは多分ないと思う。

普通の性格で、まあまあ大人で、平均的な体に平凡な顔。
ついでに言うと3流大学を出て中小企業に就職してそれほど好きでもない仕事についている。

どこにでもいて他の奴だったら普通に幸せになりそうなのに、でもなぜか俺は大事にされない。
愛されない。

それは俺が男しか好きになれないっていうせいかもしれないけど……それにしても、俺は恋人運が皆無だった。
その原因は俺が見る目がないのか、それとも生まれ持った業でもあるのだろうか。
分からないけど、その日も俺は苦い気持ちを噛みしめながら立っていた。







◇◇◇◇◇






バタン、と大きな音を立ててマンションの扉を開く。

築20年だけど鉄筋コンクリートで、そこそこ綺麗。
駅から徒歩10分で、スーパーや薬局が近くて通勤にも便利。
その分ちょっと家賃は高かったけど、不動産屋に任せっきりにせずに足を棒にして探したお気に入りの部屋だった。
その部屋に、二人で住めば毎日会える、そういって転がり込んできた彼の笑顔が好きだった。

だけど今日ですっかり嫌な記憶がついてしまった。
ため息をつきつつ、わざと大きな足音をたてて廊下を進む。

俺の足音に呼応するようにバタバタとベッドルームから音がする。
覚悟を決めて扉を開けると、中には半裸の男が二人、ベッドの上で慌てて服を身に着けている。
一人は豊かな黒髪にしっかりとした体つき……一応、俺の彼氏だ。
もう一人は線が細くて整った顔立ちをした茶髪の若い男だった。


「……ここ、俺のマンションなんだけど」


俺は声が震えそうになるのを必死でこらえて、喉の奥から声を絞り出す。
俺の言葉に、黒髪の男はわざとらしいため息をついた。


「今日は帰ってこないって言ってただろ?」


男……いや、恋人の言葉に目の前がカッと赤くなる。
ごめんでもなく、言い訳でもなく、俺が非難されるのか。
わなわなと震える手を握りしめて冷静になれと自分に言い聞かせる。


「予定が変わったって連絡しただろ。既読、つかなかったけどな」

「あー、そうだっけ?」


言い訳するのも面倒だとでも言いたいんだろうか。
彼はベッドの下に落ちていた服から煙草を取り出すと火をつけ、俺の言葉をかき消すように煙を吐いた。


「まぁ、どっちでもいいや」

「っ、どっちでもって……!」


あまりに冷たい言葉に、俺はまさかと喉を詰まらせた。

熱のこもらない視線。
白けたような空気。
少し前までは確かに恋人だった男が、とんでもなく遠く感じられる。

そして俺は、ああ、またかと奥歯を噛みしめた。



「宇一、別れよう」


しんとした部屋に、男の言葉だけが響く。
男が吐いた煙と共にその言葉は部屋中に溶けて充満して、俺を窒息死させてしまいそうだ。

俺は恋人に大事にされない。
ずっと、ずっとそうだ。
大学に入ってはじめてできた恋人も、社会人になって必死になって付き合ってもらった人も、長いことただの知り合いで内面が気に入ったと言ってようやく付き合い始めたこの男も。

俺が付き合う男は全員、付き合うまではそれなりに優しくて甘い言葉を囁いて俺の心を奪っていくのに。
付き合って体を繋げてしばらくたつと、俺に飽きたと公言して他を探し始める。
そして最終的に俺のことをあっさり捨てて去っていく。

中には殴ったり金の無心をしてきたりする奴もいた。
それに比べれば、この男はマシだ。

そう思おうとするけど、鼻の奥がツンとして、胸がつまって息ができない。
内面を好きだと言ってくれた。
平均的でなにも突出したところのない俺でも好きだと言ってくれた彼は違うと思っていたのに。
他にふらふらよそ見をしても、いつかは大事にしてくれると思っていたのに。

どろどろと黒い感情が胸の内から膨れ上がる。
それと同時に、酷いことを言っている男の膝に縋りついて、捨てないでと泣き叫びたい。
こんな男ダメだと分かっているのに、別れることがどうしようもなく苦しい。

最後の理性を振り絞って、俺はくるりと二人から背を向けた。


「分かった。鍵はポストに入れておいて」

「……あ? どこ行くんだよ?」

「俺はちょっと頭冷やしてくる。戻ってくるまでに消えてくれ。次の部屋が決まるまでは、荷物は置いておいてやるよ」



ふたたび足音荒く部屋を出て、がちゃりとドアを閉める。
そこで、ようやく涙がにじみ出てきた。


「………っ、ぃ、!」


好きだったのに。
長いことただの知り合いでも、整った顔立ちの彼にときめかなかったわけじゃない。
でもその頃は恋心なんてなかった。

だけど恋人と別れた俺に優しくしてきて、地味な俺でも内面が好きだって何度も言ってくれて。
好きになってしまったのに。
彼が俺に手を伸ばさなければ、好きなんてならなかったのに。
こんなにあっさり捨てるなら、最初から好きにならなかったのに。


しゃくり上げながら非常階段を下りる。
こんな顔じゃあエレベーターも乗れない。
涙はちっとも止まらなくて、ハンカチなんて持っていないから袖で何度もぬぐう。


その時俺は、涙で前が見えていなかった。
ずるりと足が滑ったと思ったら、……後頭部に強い衝撃を受けた。


薄れゆくた意識の中、俺はぼんやりと思う。

ああ、もしこれで死んでしまうなら、次は俺のことだけを大事にしてくれる人がいる世界がいいなぁ。
恋人として情熱的に愛してほしいなんて言わない。
ただ側にいてくれるだけでもいいから。


冷たい床の上で、俺はそのまま意識を失った。


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