別れたいからワガママを10個言うことにした話

のらねことすていぬ

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作戦会議

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俺は焦っていた。
思惑が外れまくっている。

迎えに来て欲しいと言った夜、彼はちゃんと確かに迎えに来てくれた。
そして文句の一つも言わずに彼の部屋まで連れて来てくれて、なぜかその日はいつもよりもゆっくりとセックスをした。
恐ろしいことに、その日の夜も彼の部屋に泊って、また朝ごはんをご馳走にすらなってしまった。





アルジオは冷たい美形な外見に反して、優しくて我慢強くて器が大きい。
そんなところに惹かれて好きになったけど、それにしても優しすぎるし我慢強すぎる。

関係が終わりかかっていた俺にすら、あれこれと注文をされたら応えてしまうくらい、彼は律儀で紳士的だ。
それが彼のどうしようもない魅力だけど、今の状況では辛くてたまらない。

なにせ別れれために最悪な態度をとっている相手に、前よりも更に惹かれてしまうんだ。
アルジオはそんなつもりないんだろうけど、俺が押さえつけていた願望をあっさり叶えてしまう彼に、俺は振り回されっぱなしだ。

どうにかしないと。
彼が、俺にちゃんと嫌気がさすようにしないと。
そして早く決定的な言葉……別れたいと言ってもらわないと。
でないと俺はいつまでも彼の笑顔を奪い続けてしまう。
そんなわけにはいかないのに。







「と、いう訳で。お前に協力を頼みたい」

「いやいやいやいや! 何言ってんだよ馬鹿。そんな自分から馬に蹴られに行く真似できるかよ」


客のいない店で、ちびちびと炭酸水を啜っている男に俺の作戦を告げると、彼は首をぶんぶんと激しく横に振った。

彼__アルカは、この店のすぐ斜め前の鍛冶屋で働く青年だ。
歳は俺よりもちょっと若いけど、身体を動かす仕事をしているだけあって筋肉質で大きくて、俺よりずっと年上に見える。
赤茶けた髪と明るいブラウンの瞳がチャラそうに見えたけど、実際は真面目で良い奴だ。
俺が田舎から出てきたのと同じくらいに、鍛冶屋で働くようになったから、何となくお互いに共感を覚えて仲良くしている。


「大丈夫だよ、ちょっと怒らせて別れるだけだから」


そう。
器が大きすぎて俺のワガママを受け入れてしまうアルジオを、俺は二人がかりで演技をしようと思ってアルカに助けを求めた。

作戦としては、アルジオがこの店に夕飯を食べに来た時に、俺が他の男に媚を売っている姿を見せて幻滅させようというものだ。
頭が悪い感じがするけど、他にいい作戦が思い浮かばないからしょうがない。


俺が誰かに実際に寝取られたら、俺みたいな奴に浮気された、アルカよりも劣るのか……なんていらないショックを受けてしまうと申し訳ないからそれはしない。
真面目で誠実なアルジオのことだから、俺が別の男に無理やりされたんじゃないかって心配をされても困るし。
プライドを傷つけないように、ただ俺が『どこの男でも秋波を送るクソヤロー』だって思わせればいい。

そうすれば、こんな奴と付き合ってられるかってきっと彼も思う。


「アルカは、俺に言い寄られて迷惑している振りをしてくれればいいんだよ」

「それであっちがガチで嫉妬して、俺が切り殺されたらどうすんだよ!?」

「あはは、ないない」


自分の恋人が、他の人に色目使ってたら幻滅しかしないだろ。
しかも俺だよ。
俺がアルジオだったら絶対に速攻捨てる。
不細工の分際で何様のつもりだ見苦しい、くらいは言うかもしれない。
そう思って笑うけど、アルカは机に疲れたように突っ伏した。


「親友を助けると思ってさー……な、お願い!」

「いや、でもなぁ……」

「この間、鍛冶屋の親父さんに怒られてた時に助けたじゃん。その前に遅刻した時も、いいわけ一緒に言ってあげたし。そういえば、アルカが給料使い果たしちゃった時に飯も奢ってたよな……。な、たまには俺も助けてよ」

「う、うう……俺が殴られたり殺されそうになったら、お前、命張って助けろよ……?」


ううう、とうなり続ける声が響いてきて、それに俺は『もちろん!』と力強く答えた。
アルジオがもしムカついても、殴るなら俺を殴るだろう。

それぐらいに、俺が悪いのがちゃんと分かるように演技する。

そう思って頷くけど、アルカはなかなか机から顔を上げてくれなかった。





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