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エピローグ
①
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『タカ。なぁ、あのさぁ……』
その日、オレは自室にいて、とりあえずは定休日なんで夏休みの課題なんかを片付けていた。一応は進路も意識しつつ──とはいってもオレはまだ自分が文系なのか理系なのかもよくわかっていなかったけど。兄貴も弟も文系寄りなんで「たぶん文系なんじゃないかな」と思うっていう、その程度のふんわりした認識だった。
そんなふうに机に向かっていたとき、スマホに着信があった。発信者はコータ、メッセージなしでいきなりの着信というのもめずらしい。
「おっす。めずらしーな、どうかしたんか──?」
『おまえさ、来週土曜の夏祭りの日とか、予定空いてたりする、……かなって』
これは本人もやや諦めムードで聞いてるんだろうな。何しろ夏祭りなんだから、うちみたいな飲食店は焼き鳥やらビールの出店とかで忙しい、それはたぶん分かってるんだろうけど。
『べつにずーっとってわけでもねーんだ、一時間とかそんくらい、スケジュール調整できねえか──?』
「……まぁ、母さんと兄貴と総司と、それからじーちゃんとばーちゃんにも聞いてみないとわかんねーけど」
『できれば調整してくれよ、頼むッ!』
「……でもさ、祭りの日にオレらだけで一緒にいると目立つぞたぶん。二学期にヘンなウワサ立てられたりしたらどうするよ」
そこで沈黙があったが、すぐにコータは答えた。
『ウワサなんてもんは好きにやらせときゃいーだろ、おれはおまえとちょっと、夏ならではの楽しみ? みてーのを実感したいだけだよ』
「付き合ってるとかホモだとか言われんのも、おまえには怖くねーのかよ……」
『べつに? 高校生のうちに楽しめるモンは楽しんだヤツ勝ちだろ、こういうのってさ。来年は受験でそれどころじゃないかもしんねーんだし』
コータは強い、とあらためて思う。オレは高校生活のすべてを擲ってでも自身の正体をバラしたくなかったし、すべてを隠し続けようとしていたのに。コータだって「最初はそうだった」と言っていたがすぐに方針を変えたみたいで、今やもう何も恐れてはいないように見える。強心臓というかなんというか、本当に凄いヤツだと思う。
『そらまあ、いろんなヤツはいるよ。ロコツに嫌悪感丸出しにしてきたり、差別的とか同情的な目で見たり、そういうのは教職員も同じだろーな。けどさ、ひとりだけならともかくタカ、おまえと一緒ならおれはぜんぜん大丈夫だけどな』
「そういう言い方されると、なんかオレがただの臆病モンみてーじゃねーか……」
『うん、タカがそういうヤツじゃないってのはおれ、充分に知ってっからさ。だからいいだろ──?』
全面的に味方になってくれる存在。去年は遠かったけど、今は恋人──それらしいことは何も出来ていないけど、だけど。
「……わかったよ。ちゃんと時間は作るように調整してみるから、ちょっと待っててくれ」
『了ー解。楽しみにしとくぜ!』
その日、オレは自室にいて、とりあえずは定休日なんで夏休みの課題なんかを片付けていた。一応は進路も意識しつつ──とはいってもオレはまだ自分が文系なのか理系なのかもよくわかっていなかったけど。兄貴も弟も文系寄りなんで「たぶん文系なんじゃないかな」と思うっていう、その程度のふんわりした認識だった。
そんなふうに机に向かっていたとき、スマホに着信があった。発信者はコータ、メッセージなしでいきなりの着信というのもめずらしい。
「おっす。めずらしーな、どうかしたんか──?」
『おまえさ、来週土曜の夏祭りの日とか、予定空いてたりする、……かなって』
これは本人もやや諦めムードで聞いてるんだろうな。何しろ夏祭りなんだから、うちみたいな飲食店は焼き鳥やらビールの出店とかで忙しい、それはたぶん分かってるんだろうけど。
『べつにずーっとってわけでもねーんだ、一時間とかそんくらい、スケジュール調整できねえか──?』
「……まぁ、母さんと兄貴と総司と、それからじーちゃんとばーちゃんにも聞いてみないとわかんねーけど」
『できれば調整してくれよ、頼むッ!』
「……でもさ、祭りの日にオレらだけで一緒にいると目立つぞたぶん。二学期にヘンなウワサ立てられたりしたらどうするよ」
そこで沈黙があったが、すぐにコータは答えた。
『ウワサなんてもんは好きにやらせときゃいーだろ、おれはおまえとちょっと、夏ならではの楽しみ? みてーのを実感したいだけだよ』
「付き合ってるとかホモだとか言われんのも、おまえには怖くねーのかよ……」
『べつに? 高校生のうちに楽しめるモンは楽しんだヤツ勝ちだろ、こういうのってさ。来年は受験でそれどころじゃないかもしんねーんだし』
コータは強い、とあらためて思う。オレは高校生活のすべてを擲ってでも自身の正体をバラしたくなかったし、すべてを隠し続けようとしていたのに。コータだって「最初はそうだった」と言っていたがすぐに方針を変えたみたいで、今やもう何も恐れてはいないように見える。強心臓というかなんというか、本当に凄いヤツだと思う。
『そらまあ、いろんなヤツはいるよ。ロコツに嫌悪感丸出しにしてきたり、差別的とか同情的な目で見たり、そういうのは教職員も同じだろーな。けどさ、ひとりだけならともかくタカ、おまえと一緒ならおれはぜんぜん大丈夫だけどな』
「そういう言い方されると、なんかオレがただの臆病モンみてーじゃねーか……」
『うん、タカがそういうヤツじゃないってのはおれ、充分に知ってっからさ。だからいいだろ──?』
全面的に味方になってくれる存在。去年は遠かったけど、今は恋人──それらしいことは何も出来ていないけど、だけど。
「……わかったよ。ちゃんと時間は作るように調整してみるから、ちょっと待っててくれ」
『了ー解。楽しみにしとくぜ!』
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