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終章 オレらのこれから。
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「なぁタカ、チハってあんなヤツだったっけ──?」
「まあ変わったよな。イメチェンしたとはいっても、ああいうこと平気で聞いてくるタイプじゃなかった気がするんだけど」
お互いに少し気まずい空気のまま、今は英語の長文読解をやっていた。これもチハの指示通り、事前に購入していた問題集の指定ページをお互いに半分ずつ分担して進めている。
「……ああ、そろそろ母親が帰ってきちまうな。どうする? 頼めば夕飯くらい出してくれると思うけど」
「ああ、そうだな──急な感じで悪いしいいよ、今日は帰る」
「そっか、わかった。期末が終われば夏休みだけど、水泳部は『夏がシーズン』だからな……」
言われてみればそうだ。ちなみに体育がプールの授業でも去年とは違い、オレはサボることなくちゃんと参加していた。普通の生徒が身につけるダサい学校指定のボックス型とは違い、水泳部のコータは競泳用の水色のスパッツ姿で、最初はちょっと目のやり場に困っていたが、逆に不自然だろうと開き直った今はとりあえずなるべく見ないようにして耐えている。
「大会とかあるんなら応援、行くぞ?」
「マジか! 嬉しい、かな──おまえ目立つかもだけど」
「ははっ、オレの存在感コントロール能力なめんじゃねーよ!」
笑って部屋を出ようとするオレの後ろから、コータは両腕にオレを抱き込んできた。
「……親が帰ってくるんだろ?」
「うん。だから、あとほんの少しだけ」
両腕はただ固くオレを抱き、顎をオレの肩に乗せてくる。
それだけで恥ずかしくて緊張して、鼓動が早くなる。背中越しに感じる体温がなんだか切ない。
「キス、してもいいか──?」
「や、やめとこーぜ、なんか止まんなくなったらどうするよ」
「──そうだなッ」
コータの手が強引にオレの首を振り向かせ、唇がオレの口許に触れたあたりでオレは反射的に肘鉄を食らわせていた。打撃はまともにみぞおちに入ったらしく、コータはダメージ箇所に両手をあてて屈み気味になる。
「……タカ、なんで」
ちょっと涙目のコータ。オレは自分がわりと怪力なのを忘れていた。
「悪ぃ、ごめんな、親が帰ってきたとき『なんか不自然』な空気になってんのマズいだろ、とりあえずお互い期末試験がんばろーぜ!」
階段を焦りつつ降りる。靴を履いていると、追いついてきたコータは復活したようで、穏やかに笑った。
「──じゃあな。また明日、学校で」
「おー、また明日なぁ」
そうしてオレもまた、自転車で走り出す。
互いに忙しい夏とはいえ夏祭りだとか花火だとか、楽しみもあるんだろう。きっと。なんだか自分の思考回路の楽観論とあまりの単純さに苦笑して、それからオレはじんわりと、その先の未来に「不安も何もない」ことを夜道の中で、どこか誇らしくも思ってたんだ。
「まあ変わったよな。イメチェンしたとはいっても、ああいうこと平気で聞いてくるタイプじゃなかった気がするんだけど」
お互いに少し気まずい空気のまま、今は英語の長文読解をやっていた。これもチハの指示通り、事前に購入していた問題集の指定ページをお互いに半分ずつ分担して進めている。
「……ああ、そろそろ母親が帰ってきちまうな。どうする? 頼めば夕飯くらい出してくれると思うけど」
「ああ、そうだな──急な感じで悪いしいいよ、今日は帰る」
「そっか、わかった。期末が終われば夏休みだけど、水泳部は『夏がシーズン』だからな……」
言われてみればそうだ。ちなみに体育がプールの授業でも去年とは違い、オレはサボることなくちゃんと参加していた。普通の生徒が身につけるダサい学校指定のボックス型とは違い、水泳部のコータは競泳用の水色のスパッツ姿で、最初はちょっと目のやり場に困っていたが、逆に不自然だろうと開き直った今はとりあえずなるべく見ないようにして耐えている。
「大会とかあるんなら応援、行くぞ?」
「マジか! 嬉しい、かな──おまえ目立つかもだけど」
「ははっ、オレの存在感コントロール能力なめんじゃねーよ!」
笑って部屋を出ようとするオレの後ろから、コータは両腕にオレを抱き込んできた。
「……親が帰ってくるんだろ?」
「うん。だから、あとほんの少しだけ」
両腕はただ固くオレを抱き、顎をオレの肩に乗せてくる。
それだけで恥ずかしくて緊張して、鼓動が早くなる。背中越しに感じる体温がなんだか切ない。
「キス、してもいいか──?」
「や、やめとこーぜ、なんか止まんなくなったらどうするよ」
「──そうだなッ」
コータの手が強引にオレの首を振り向かせ、唇がオレの口許に触れたあたりでオレは反射的に肘鉄を食らわせていた。打撃はまともにみぞおちに入ったらしく、コータはダメージ箇所に両手をあてて屈み気味になる。
「……タカ、なんで」
ちょっと涙目のコータ。オレは自分がわりと怪力なのを忘れていた。
「悪ぃ、ごめんな、親が帰ってきたとき『なんか不自然』な空気になってんのマズいだろ、とりあえずお互い期末試験がんばろーぜ!」
階段を焦りつつ降りる。靴を履いていると、追いついてきたコータは復活したようで、穏やかに笑った。
「──じゃあな。また明日、学校で」
「おー、また明日なぁ」
そうしてオレもまた、自転車で走り出す。
互いに忙しい夏とはいえ夏祭りだとか花火だとか、楽しみもあるんだろう。きっと。なんだか自分の思考回路の楽観論とあまりの単純さに苦笑して、それからオレはじんわりと、その先の未来に「不安も何もない」ことを夜道の中で、どこか誇らしくも思ってたんだ。
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