トレードオフ!

隠岐 旅雨

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終章 オレらのこれから。

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 そして翌日。コータの家には、どこかで見たような自転車が停められていた。まあ予想はしていたが、特別講師というのは上総のことらしい。オレの中学の同級生でコータにとっては幼馴染、この三人が集まるのは二年生になってから、というよりそもそも・・・・初めてかもしれない。

「あ、鷹也たかなりだ。遅かったね」
 コータの部屋、どこから持ってきたか分からない丸机に正座している上総は、中学まではボサボサの髪に野暮やぼったいメガネというえない感じだったのだが、高校からはコンタクトレンズにして髪も明るい茶髪と完全にイメチェンしている。男子校で高校デビューとか変わったヤツだな、とからかったものだが本人はまるで動じずに微笑ほほえんでいた。
「今日は悪ぃな、チハ。オレけっこう危機的クライシスレベルでバカだから、見捨てられる覚悟も出来てる」
 智治ちはるというのは女子っぽい響きということで、昔から上総は「チハ」と呼ばれている。本人もそれでいいらしい。
「文系教科は後でおれが教えられるからさ、チハは理系教科をタカに教えてやってくれよ。おれも横で見てるから」
「了ー解。てかタカの苦手教科なんて、どうせ去年から変わってないでしょ。俺に任せてよ」

 クーラーのきいた部屋で。チハのノートには、教師があえて言わなくても出題可能性の高い問題には目立つように黄色いマーカーで星が書いてある。このノートには一年のときからコピーが出回るほどの人気があったが、あまりにも教師の出題傾向を的中させるのでコピーが見つかると没収されるようになるレベルの「禁書きんしょ」でもある。
「とりあえず全ページ、スキャナで取り込んで電子データにしてるから。クラウドにファイルは突っ込んであるしパスワードはさっき送ったけど、印刷はしないでね」
「マジで神だな、おまえ……」
 イメチェンしたとはいっても、眠たそうな目でボケーっとした印象は変わらない。

「じゃあ物理と数学を中心に解いてってねー。三分くらい考えてダメそうなら時間のムダだから俺が教えるよ」
 なかなかのプレッシャーである。結果的にほぼすべての問題で、チハのとんでもなく分かりやすい解説をコータと聞きながら、時間はあっという間に過ぎていく。

「……それにしても、なんかうまく行ってるみたいでよかったよ」
 帰り際にチハはオレたちを振り返り、意地悪そうに笑う。
「ん、なにが?」
「とぼけなくていーよ。一年のときからキミらさ、なんか意識し合ってるのにまったくみ合ってなかったけど。今はもう心配なさそうだよね」
 油断した──チハは自分の興味のあることにはものすごい集中力を発揮はっきするけど、他人の人間関係にはあまり関心がないと思っていたから。
「あのさ、ちなみに『どっち・・・どっち・・・』なの──?」
「って、おいっ……!」
 そのセリフにコータは赤面し、オレはチハの背中に手を伸ばしたがあっさりかわされてしまった。

「じゃあ、お先に。ちゃんと『ふたりで続き』やるんだよ? あ、タカは俺に今度ラーメンおごってねー」
 チハは自転車でサーッと坂を下っていき、姿を消した。
「……戻るか」
 コータは左手で顔を隠し、うつむき気味にそうつぶやく。
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