17 / 20
終章 オレらのこれから。
②
しおりを挟む
そして翌日。コータの家には、どこかで見たような自転車が停められていた。まあ予想はしていたが、特別講師というのは上総のことらしい。オレの中学の同級生でコータにとっては幼馴染、この三人が集まるのは二年生になってから、というよりそもそも初めてかもしれない。
「あ、鷹也だ。遅かったね」
コータの部屋、どこから持ってきたか分からない丸机に正座している上総は、中学まではボサボサの髪に野暮ったいメガネという冴えない感じだったのだが、高校からはコンタクトレンズにして髪も明るい茶髪と完全にイメチェンしている。男子校で高校デビューとか変わったヤツだな、とからかったものだが本人はまるで動じずに微笑んでいた。
「今日は悪ぃな、チハ。オレけっこう危機的レベルでバカだから、見捨てられる覚悟も出来てる」
智治というのは女子っぽい響きということで、昔から上総は「チハ」と呼ばれている。本人もそれでいいらしい。
「文系教科は後でおれが教えられるからさ、チハは理系教科をタカに教えてやってくれよ。おれも横で見てるから」
「了ー解。てかタカの苦手教科なんて、どうせ去年から変わってないでしょ。俺に任せてよ」
クーラーのきいた部屋で。チハのノートには、教師があえて言わなくても出題可能性の高い問題には目立つように黄色いマーカーで星が書いてある。このノートには一年のときからコピーが出回るほどの人気があったが、あまりにも教師の出題傾向を的中させるのでコピーが見つかると没収されるようになるレベルの「禁書」でもある。
「とりあえず全ページ、スキャナで取り込んで電子データにしてるから。クラウドにファイルは突っ込んであるしパスワードはさっき送ったけど、印刷はしないでね」
「マジで神だな、おまえ……」
イメチェンしたとはいっても、眠たそうな目でボケーっとした印象は変わらない。
「じゃあ物理と数学を中心に解いてってねー。三分くらい考えてダメそうなら時間のムダだから俺が教えるよ」
なかなかのプレッシャーである。結果的にほぼすべての問題で、チハのとんでもなく分かりやすい解説をコータと聞きながら、時間はあっという間に過ぎていく。
「……それにしても、なんかうまく行ってるみたいでよかったよ」
帰り際にチハはオレたちを振り返り、意地悪そうに笑う。
「ん、なにが?」
「とぼけなくていーよ。一年のときからキミらさ、なんか意識し合ってるのにまったく噛み合ってなかったけど。今はもう心配なさそうだよね」
油断した──チハは自分の興味のあることにはものすごい集中力を発揮するけど、他人の人間関係にはあまり関心がないと思っていたから。
「あのさ、ちなみに『どっちがどっち』なの──?」
「って、おいっ……!」
そのセリフにコータは赤面し、オレはチハの背中に手を伸ばしたがあっさりかわされてしまった。
「じゃあ、お先に。ちゃんと『ふたりで続き』やるんだよ? あ、タカは俺に今度ラーメンおごってねー」
チハは自転車でサーッと坂を下っていき、姿を消した。
「……戻るか」
コータは左手で顔を隠し、うつむき気味にそうつぶやく。
「あ、鷹也だ。遅かったね」
コータの部屋、どこから持ってきたか分からない丸机に正座している上総は、中学まではボサボサの髪に野暮ったいメガネという冴えない感じだったのだが、高校からはコンタクトレンズにして髪も明るい茶髪と完全にイメチェンしている。男子校で高校デビューとか変わったヤツだな、とからかったものだが本人はまるで動じずに微笑んでいた。
「今日は悪ぃな、チハ。オレけっこう危機的レベルでバカだから、見捨てられる覚悟も出来てる」
智治というのは女子っぽい響きということで、昔から上総は「チハ」と呼ばれている。本人もそれでいいらしい。
「文系教科は後でおれが教えられるからさ、チハは理系教科をタカに教えてやってくれよ。おれも横で見てるから」
「了ー解。てかタカの苦手教科なんて、どうせ去年から変わってないでしょ。俺に任せてよ」
クーラーのきいた部屋で。チハのノートには、教師があえて言わなくても出題可能性の高い問題には目立つように黄色いマーカーで星が書いてある。このノートには一年のときからコピーが出回るほどの人気があったが、あまりにも教師の出題傾向を的中させるのでコピーが見つかると没収されるようになるレベルの「禁書」でもある。
「とりあえず全ページ、スキャナで取り込んで電子データにしてるから。クラウドにファイルは突っ込んであるしパスワードはさっき送ったけど、印刷はしないでね」
「マジで神だな、おまえ……」
イメチェンしたとはいっても、眠たそうな目でボケーっとした印象は変わらない。
「じゃあ物理と数学を中心に解いてってねー。三分くらい考えてダメそうなら時間のムダだから俺が教えるよ」
なかなかのプレッシャーである。結果的にほぼすべての問題で、チハのとんでもなく分かりやすい解説をコータと聞きながら、時間はあっという間に過ぎていく。
「……それにしても、なんかうまく行ってるみたいでよかったよ」
帰り際にチハはオレたちを振り返り、意地悪そうに笑う。
「ん、なにが?」
「とぼけなくていーよ。一年のときからキミらさ、なんか意識し合ってるのにまったく噛み合ってなかったけど。今はもう心配なさそうだよね」
油断した──チハは自分の興味のあることにはものすごい集中力を発揮するけど、他人の人間関係にはあまり関心がないと思っていたから。
「あのさ、ちなみに『どっちがどっち』なの──?」
「って、おいっ……!」
そのセリフにコータは赤面し、オレはチハの背中に手を伸ばしたがあっさりかわされてしまった。
「じゃあ、お先に。ちゃんと『ふたりで続き』やるんだよ? あ、タカは俺に今度ラーメンおごってねー」
チハは自転車でサーッと坂を下っていき、姿を消した。
「……戻るか」
コータは左手で顔を隠し、うつむき気味にそうつぶやく。
8
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう
乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。
周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。
初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。
(これが恋っていうものなのか?)
人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。
ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。
※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
推しが青い
nuka
BL
僕の推しは、入学した高校で隣の席になった青井くん。青井くんはイケメンな上にダンスがとても上手で、ネットに動画を投稿していて沢山のファンがいる。
とはいえ男子の僕は、取り巻きの女子に混ざることもできず、それどころか気持ち悪がられて、入学早々ぼっちになってしまった。
青井くんにとって僕は迷惑なクラスメイトだろう。ぼっちのくせに、誘いは断るし、その割に図々しくファンサを欲しがる。なぜか僕には青井くんが触れたところがなんでも青く染まって見えるんだけど、僕が一番青い。青井くんにたくさん面倒をかけてる証拠だ。
ダンスの他メンバーと別れて2人きりになった帰り道、青井くんは僕の手を取って─
高校生男子の、甘くて優しくてピュア~なお話です。全年齢。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる