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四章 アンチキャスト
①
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中間テストも終わり、今年の梅雨はすぐに明けて初夏になっていた。来週からの体育は「水泳」だという──去年のオレが徹底的に避けてサボっていた授業内容だった。あのころ、同級生の裸なんて見たくなかった。健全に伸びやかに育って、いかにも楽しそうにしてる同級生の身体を目で「追わないという自信がなかった」し、そんな後ろめたい気持ちで平然と混ざって授業をやり過ごせるなんて思えなかったから。
だけど──、今年はぜんぜん事情が違うんだ。
まだ梅雨のころ、とある定休日。オレはコータの家に誘われた。あいつの家はシックな色調の、まだ新しそうな一軒家だった。リフォームでもしたのかもしれない。
「──おじゃまします」
「なんか礼儀正しいのな、けどウチ、今は誰もいねーよ?」
どすどすと荒い足音で先に廊下を踏みしめるコータの後を、遠慮がちに靴を脱いで揃えて、緊張しながら追う。
「共働きだからな、あと姉貴は九州の大学に行ってて今はいない」
つまり二人っきりってヤツなのか。家に呼ばれた時点で少し緊張していたが、やはり簡単に応じたのは考えが足りていなかったか──。
「おれの部屋、二階の奥だから。先に上がっといて」
少しためらったが階段を踏み越えて二階へ。まっすぐな廊下の両脇にも部屋がある、だがコータは「二階の奥」と言った。直線を描くはずの廊下がゆがんで見える。状況が怖い──どこにも逃げ場が、ない。
「あれ。タカおまえ、おれの部屋わかんなかったか?」
ふたつのグラスとペットボトルを手にして、コータは先導するようにしてまっすぐにその部屋に向かい、ドアを開け放った。手招きされてようやく足が動くが、室内と廊下の境界線を踏んでオレは立ち止まった。振り返るとコータはあっけらかんと笑い、手を差し伸べてくる。
「らしくねーな、はよ入れって」
そうして力強く手を引かれて、反対の手でコータは部屋を閉ざした──まるで退路が絶たれたような気分だった。
だけど──、今年はぜんぜん事情が違うんだ。
まだ梅雨のころ、とある定休日。オレはコータの家に誘われた。あいつの家はシックな色調の、まだ新しそうな一軒家だった。リフォームでもしたのかもしれない。
「──おじゃまします」
「なんか礼儀正しいのな、けどウチ、今は誰もいねーよ?」
どすどすと荒い足音で先に廊下を踏みしめるコータの後を、遠慮がちに靴を脱いで揃えて、緊張しながら追う。
「共働きだからな、あと姉貴は九州の大学に行ってて今はいない」
つまり二人っきりってヤツなのか。家に呼ばれた時点で少し緊張していたが、やはり簡単に応じたのは考えが足りていなかったか──。
「おれの部屋、二階の奥だから。先に上がっといて」
少しためらったが階段を踏み越えて二階へ。まっすぐな廊下の両脇にも部屋がある、だがコータは「二階の奥」と言った。直線を描くはずの廊下がゆがんで見える。状況が怖い──どこにも逃げ場が、ない。
「あれ。タカおまえ、おれの部屋わかんなかったか?」
ふたつのグラスとペットボトルを手にして、コータは先導するようにしてまっすぐにその部屋に向かい、ドアを開け放った。手招きされてようやく足が動くが、室内と廊下の境界線を踏んでオレは立ち止まった。振り返るとコータはあっけらかんと笑い、手を差し伸べてくる。
「らしくねーな、はよ入れって」
そうして力強く手を引かれて、反対の手でコータは部屋を閉ざした──まるで退路が絶たれたような気分だった。
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