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序章 存在感トレードオフ
①
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オレには存在感がない。
そんなことを周囲のヤツらによく言われるけど。だとしたらオレの高校生活は、二年生になっても「計画通り」に進んでるわけで、問題なんてどこにもなかった。
オレの席は、どこから見てもクラスのど真ん中にある。できれば窓か廊下側の後ろあたりがよかったなと思うけど、クジ運の悪さもあってか、逃げ場のないポジションになってしまった。
問題は、オレの真後ろの席にいるヤツだ。相模宏大、水泳部にいるわりには、あまりそんなふうにも見えないタイプだった。色素が薄いのか、あまり黒く日焼けしたところを見たことがないからだろうか。前流しの短めの髪型で、人の良さそうなタレ目をしている。身長は180センチくらいで、オレよりやや高いくらいだ。相模はクラス、学校内外に幅広い交友関係があり、他校の女子にもモテているらしい。まぁ、ウワサしか知らないんだけど。
オレはまわりの事情にあまり詳しくないので、実際どこまでなのかはよくわからない──まあ、世の中に「陽キャ」だとか「陰キャ」というキャラクター分類があるとしたら相模は「圧倒的陽キャ」で、オレは「圧倒的陰キャ」なんだろう。
そう、この相模が「真後ろの席にいる」のが厄介だった。いるだけならべつにいいが、こいつの周囲には人がいつも集まってくる。だから休み時間とか昼休みには騒々しさに巻き込まれないように距離を置きオレは、テキトーに渡り廊下や図書館、屋上なんかで時間をつぶす。
そんな学校生活を続けていたある日、オレはちょうど休み時間に入るタイミングで相模に話しかけられてしまった。
「なぁ、武蔵。おまえ休み時間とか、すぐどっか行っちまうけど、どこ行ってんの──?」
おまえには関係ないだろ──と表面的には思っていたが、内心では完全に「おまえのせいだよ」とも思っている。
「いや、べつに……」
「あー悪ィ。ムリに聞きたいとか、知りたいってわけでもなかったわ」
相模はすぐに興味を失ったようで、スポーツバッグの中をゴソゴソとあさっている。ちなみにうちの学校は私服通学も許されていて校則もゆるいが、相模は暑苦しくいつでも学ラン姿だった。学校に着ていくものに選択肢がないっていうのもラクでいいのかもしれないとオレもたまには思うけど。
「なんかおまえって、部活やってないわりには体格いいよな──?」
興味を失ったように見えた相模は、バッグからなにか取り出してまた話しかけてくる。
「体格がいいと何か悪いの……」
「いや、何も悪くねーけどよ?」
しまった、余計なことを言ったな──とは思ったが相模はとくに気にした様子もなかった。だから視線をそらして前を向いたオレに、いきなり相模はコンビニでよく見かける、ちいさな正方形のチョコレートを突きつけてきた。なんだこいつ、餌付けでもしてるつもりなのか──意味がわからん。
受け取ろうとしないオレの後ろ襟の隙間に、背後からそれを突っ込むと相模はそのまま席を立ち、窓ぎわにいる連中のところへと向かった。去り際には、どこか楽しげな笑顔を残して。
不意をつかれてオレは、強引に突っ込まれたチョコを手にとって下向き、それを眺めていた。あまりにも突然なその行動にオレは結局、意味もわからず席に残って放心している。相模はオレみたいなヤツ相手でもごく普通に接触してくるタイプだ──それは入学時から知っている。
オレが自分の「存在感を消す」ようにしていること。そこには、はっきりした理由があった。
そんなことを周囲のヤツらによく言われるけど。だとしたらオレの高校生活は、二年生になっても「計画通り」に進んでるわけで、問題なんてどこにもなかった。
オレの席は、どこから見てもクラスのど真ん中にある。できれば窓か廊下側の後ろあたりがよかったなと思うけど、クジ運の悪さもあってか、逃げ場のないポジションになってしまった。
問題は、オレの真後ろの席にいるヤツだ。相模宏大、水泳部にいるわりには、あまりそんなふうにも見えないタイプだった。色素が薄いのか、あまり黒く日焼けしたところを見たことがないからだろうか。前流しの短めの髪型で、人の良さそうなタレ目をしている。身長は180センチくらいで、オレよりやや高いくらいだ。相模はクラス、学校内外に幅広い交友関係があり、他校の女子にもモテているらしい。まぁ、ウワサしか知らないんだけど。
オレはまわりの事情にあまり詳しくないので、実際どこまでなのかはよくわからない──まあ、世の中に「陽キャ」だとか「陰キャ」というキャラクター分類があるとしたら相模は「圧倒的陽キャ」で、オレは「圧倒的陰キャ」なんだろう。
そう、この相模が「真後ろの席にいる」のが厄介だった。いるだけならべつにいいが、こいつの周囲には人がいつも集まってくる。だから休み時間とか昼休みには騒々しさに巻き込まれないように距離を置きオレは、テキトーに渡り廊下や図書館、屋上なんかで時間をつぶす。
そんな学校生活を続けていたある日、オレはちょうど休み時間に入るタイミングで相模に話しかけられてしまった。
「なぁ、武蔵。おまえ休み時間とか、すぐどっか行っちまうけど、どこ行ってんの──?」
おまえには関係ないだろ──と表面的には思っていたが、内心では完全に「おまえのせいだよ」とも思っている。
「いや、べつに……」
「あー悪ィ。ムリに聞きたいとか、知りたいってわけでもなかったわ」
相模はすぐに興味を失ったようで、スポーツバッグの中をゴソゴソとあさっている。ちなみにうちの学校は私服通学も許されていて校則もゆるいが、相模は暑苦しくいつでも学ラン姿だった。学校に着ていくものに選択肢がないっていうのもラクでいいのかもしれないとオレもたまには思うけど。
「なんかおまえって、部活やってないわりには体格いいよな──?」
興味を失ったように見えた相模は、バッグからなにか取り出してまた話しかけてくる。
「体格がいいと何か悪いの……」
「いや、何も悪くねーけどよ?」
しまった、余計なことを言ったな──とは思ったが相模はとくに気にした様子もなかった。だから視線をそらして前を向いたオレに、いきなり相模はコンビニでよく見かける、ちいさな正方形のチョコレートを突きつけてきた。なんだこいつ、餌付けでもしてるつもりなのか──意味がわからん。
受け取ろうとしないオレの後ろ襟の隙間に、背後からそれを突っ込むと相模はそのまま席を立ち、窓ぎわにいる連中のところへと向かった。去り際には、どこか楽しげな笑顔を残して。
不意をつかれてオレは、強引に突っ込まれたチョコを手にとって下向き、それを眺めていた。あまりにも突然なその行動にオレは結局、意味もわからず席に残って放心している。相模はオレみたいなヤツ相手でもごく普通に接触してくるタイプだ──それは入学時から知っている。
オレが自分の「存在感を消す」ようにしていること。そこには、はっきりした理由があった。
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