2 / 20
序章 存在感トレードオフ
①
しおりを挟む
オレには存在感がない。
そんなことを周囲のヤツらによく言われるけど。だとしたらオレの高校生活は、二年生になっても「計画通り」に進んでるわけで、問題なんてどこにもなかった。
オレの席は、どこから見てもクラスのど真ん中にある。できれば窓か廊下側の後ろあたりがよかったなと思うけど、クジ運の悪さもあってか、逃げ場のないポジションになってしまった。
問題は、オレの真後ろの席にいるヤツだ。相模宏大、水泳部にいるわりには、あまりそんなふうにも見えないタイプだった。色素が薄いのか、あまり黒く日焼けしたところを見たことがないからだろうか。前流しの短めの髪型で、人の良さそうなタレ目をしている。身長は180センチくらいで、オレよりやや高いくらいだ。相模はクラス、学校内外に幅広い交友関係があり、他校の女子にもモテているらしい。まぁ、ウワサしか知らないんだけど。
オレはまわりの事情にあまり詳しくないので、実際どこまでなのかはよくわからない──まあ、世の中に「陽キャ」だとか「陰キャ」というキャラクター分類があるとしたら相模は「圧倒的陽キャ」で、オレは「圧倒的陰キャ」なんだろう。
そう、この相模が「真後ろの席にいる」のが厄介だった。いるだけならべつにいいが、こいつの周囲には人がいつも集まってくる。だから休み時間とか昼休みには騒々しさに巻き込まれないように距離を置きオレは、テキトーに渡り廊下や図書館、屋上なんかで時間をつぶす。
そんな学校生活を続けていたある日、オレはちょうど休み時間に入るタイミングで相模に話しかけられてしまった。
「なぁ、武蔵。おまえ休み時間とか、すぐどっか行っちまうけど、どこ行ってんの──?」
おまえには関係ないだろ──と表面的には思っていたが、内心では完全に「おまえのせいだよ」とも思っている。
「いや、べつに……」
「あー悪ィ。ムリに聞きたいとか、知りたいってわけでもなかったわ」
相模はすぐに興味を失ったようで、スポーツバッグの中をゴソゴソとあさっている。ちなみにうちの学校は私服通学も許されていて校則もゆるいが、相模は暑苦しくいつでも学ラン姿だった。学校に着ていくものに選択肢がないっていうのもラクでいいのかもしれないとオレもたまには思うけど。
「なんかおまえって、部活やってないわりには体格いいよな──?」
興味を失ったように見えた相模は、バッグからなにか取り出してまた話しかけてくる。
「体格がいいと何か悪いの……」
「いや、何も悪くねーけどよ?」
しまった、余計なことを言ったな──とは思ったが相模はとくに気にした様子もなかった。だから視線をそらして前を向いたオレに、いきなり相模はコンビニでよく見かける、ちいさな正方形のチョコレートを突きつけてきた。なんだこいつ、餌付けでもしてるつもりなのか──意味がわからん。
受け取ろうとしないオレの後ろ襟の隙間に、背後からそれを突っ込むと相模はそのまま席を立ち、窓ぎわにいる連中のところへと向かった。去り際には、どこか楽しげな笑顔を残して。
不意をつかれてオレは、強引に突っ込まれたチョコを手にとって下向き、それを眺めていた。あまりにも突然なその行動にオレは結局、意味もわからず席に残って放心している。相模はオレみたいなヤツ相手でもごく普通に接触してくるタイプだ──それは入学時から知っている。
オレが自分の「存在感を消す」ようにしていること。そこには、はっきりした理由があった。
そんなことを周囲のヤツらによく言われるけど。だとしたらオレの高校生活は、二年生になっても「計画通り」に進んでるわけで、問題なんてどこにもなかった。
オレの席は、どこから見てもクラスのど真ん中にある。できれば窓か廊下側の後ろあたりがよかったなと思うけど、クジ運の悪さもあってか、逃げ場のないポジションになってしまった。
問題は、オレの真後ろの席にいるヤツだ。相模宏大、水泳部にいるわりには、あまりそんなふうにも見えないタイプだった。色素が薄いのか、あまり黒く日焼けしたところを見たことがないからだろうか。前流しの短めの髪型で、人の良さそうなタレ目をしている。身長は180センチくらいで、オレよりやや高いくらいだ。相模はクラス、学校内外に幅広い交友関係があり、他校の女子にもモテているらしい。まぁ、ウワサしか知らないんだけど。
オレはまわりの事情にあまり詳しくないので、実際どこまでなのかはよくわからない──まあ、世の中に「陽キャ」だとか「陰キャ」というキャラクター分類があるとしたら相模は「圧倒的陽キャ」で、オレは「圧倒的陰キャ」なんだろう。
そう、この相模が「真後ろの席にいる」のが厄介だった。いるだけならべつにいいが、こいつの周囲には人がいつも集まってくる。だから休み時間とか昼休みには騒々しさに巻き込まれないように距離を置きオレは、テキトーに渡り廊下や図書館、屋上なんかで時間をつぶす。
そんな学校生活を続けていたある日、オレはちょうど休み時間に入るタイミングで相模に話しかけられてしまった。
「なぁ、武蔵。おまえ休み時間とか、すぐどっか行っちまうけど、どこ行ってんの──?」
おまえには関係ないだろ──と表面的には思っていたが、内心では完全に「おまえのせいだよ」とも思っている。
「いや、べつに……」
「あー悪ィ。ムリに聞きたいとか、知りたいってわけでもなかったわ」
相模はすぐに興味を失ったようで、スポーツバッグの中をゴソゴソとあさっている。ちなみにうちの学校は私服通学も許されていて校則もゆるいが、相模は暑苦しくいつでも学ラン姿だった。学校に着ていくものに選択肢がないっていうのもラクでいいのかもしれないとオレもたまには思うけど。
「なんかおまえって、部活やってないわりには体格いいよな──?」
興味を失ったように見えた相模は、バッグからなにか取り出してまた話しかけてくる。
「体格がいいと何か悪いの……」
「いや、何も悪くねーけどよ?」
しまった、余計なことを言ったな──とは思ったが相模はとくに気にした様子もなかった。だから視線をそらして前を向いたオレに、いきなり相模はコンビニでよく見かける、ちいさな正方形のチョコレートを突きつけてきた。なんだこいつ、餌付けでもしてるつもりなのか──意味がわからん。
受け取ろうとしないオレの後ろ襟の隙間に、背後からそれを突っ込むと相模はそのまま席を立ち、窓ぎわにいる連中のところへと向かった。去り際には、どこか楽しげな笑顔を残して。
不意をつかれてオレは、強引に突っ込まれたチョコを手にとって下向き、それを眺めていた。あまりにも突然なその行動にオレは結局、意味もわからず席に残って放心している。相模はオレみたいなヤツ相手でもごく普通に接触してくるタイプだ──それは入学時から知っている。
オレが自分の「存在感を消す」ようにしていること。そこには、はっきりした理由があった。
8
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
手に入らないモノと満たされる愛
小池 月
BL
櫻井斗真は喘息持ちの高校二年生。健康でスポーツが得意な弟と両親の四人家族。不健康な斗真は徐々に家族の中に自分の居場所がなくなっていく。
ある日、登校中に喘息発作で倒れる斗真。そんな斗真を高校三年の小掠隆介が助ける。隆介は小児科医院の息子。喘息発作の治療が必要な斗真は隆介の家で静養することとなる。斗真は隆介の優しさを素直に受け入れられず、自分と比べて惨めな思いに陥っていく。そんな斗真の気持ちを全て受け止めて寄り添う隆介と、徐々に距離を縮める斗真。
斗真に安心できる場所が出来たかと思われた頃、斗真が襲われる事件が起きて……。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……
推しが青い
nuka
BL
僕の推しは、入学した高校で隣の席になった青井くん。青井くんはイケメンな上にダンスがとても上手で、ネットに動画を投稿していて沢山のファンがいる。
とはいえ男子の僕は、取り巻きの女子に混ざることもできず、それどころか気持ち悪がられて、入学早々ぼっちになってしまった。
青井くんにとって僕は迷惑なクラスメイトだろう。ぼっちのくせに、誘いは断るし、その割に図々しくファンサを欲しがる。なぜか僕には青井くんが触れたところがなんでも青く染まって見えるんだけど、僕が一番青い。青井くんにたくさん面倒をかけてる証拠だ。
ダンスの他メンバーと別れて2人きりになった帰り道、青井くんは僕の手を取って─
高校生男子の、甘くて優しくてピュア~なお話です。全年齢。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう
乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。
周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。
初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。
(これが恋っていうものなのか?)
人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。
ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。
※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる