トレードオフ!

隠岐 旅雨

文字の大きさ
上 下
1 / 20

プロローグ

しおりを挟む
 高校に入学して、オレにも人生で初めて好きな人ができた。
 なにもかもが初めてだったんで、自覚するまでにも時間が必要だった。だけど間違いなさそうだ。

 告白──? なんてできるはずがない・・・・・・・・。そんなことをしたら最悪の場合、この先の三年間をオレはしいたげられて過ごすことになるかもしれないから。マイノリティとして堂々と生きる、そんな勇気は、みじめなオレには欠片カケラもなかった。
 仮に、たとえ「あいつ・・・」がどんなにいいヤツだったとしても、三年間も余計な気をつかわせ続けることになるのかもしれない──ムリだ。こういうウワサはすぐにめぐり巡って簡単には消えないものだって、オレにも痛いほどわかってた。

 だから決めた。この想いを、オレは秘めることにする──内に隠してコロすんだ。決して誰にもさとられないように。
 それにしても、こんな結果が待っているなんて知っていれば、オレは進路に「男子校」なんて選ばなかっただろう。
 自分のニブさと愚かさをオレは憎んだ。なんで最初に好きになるのがよりによって同性・・だったんだよ、と。そしてなんでそれに気付けなかったんだよ、と。

 そう、最初の一年をオレは、こうして過ごし続けてきたわけだ。
 それでも、嫌でもあいつを見てしまう。あの存在を感じてしまう。その明るさ、笑顔、落ち着いた声色こわいろ、誰にでも等しくやさしく接する姿だとか──。
 それらを無視し続けることは、オレにとってはただ苦痛・・・・でしかなかった。あえて距離を置いていたんだから、すごく嫌な奴だと思われて当然だとも思ってたし、そのくらいの覚悟はしてたのに。そうして一年間が過ぎて二年生へと、かろうじて時は過ぎたわけだけど。

 だけど学年が変わっても、あいつは同じクラス。そして席はオレの真後まうしろに決まった。

 そう、この時点でオレの高校生活、二年目は「より過酷」なものになったわけだ。好きなのに──だから離れたかったのに、距離はむしろ近くなってしまうという皮肉・・。これじゃ生殺ナマゴロしだ。この距離感になったことで、あいつはなにか変わるんだろうか……たぶん、それはないとは思うんだけど。だとしてもオレは何も変わらないままでいられるんだろうか。ここまでの一年は本当に、本当に長かったんだよ……?

 何もかも不透明なまま、オレは一年目と同じ立ち位置、その立場をまだ貫いているままで。ただ、先は見えなかった。至近距離からあいつの、やけに胸をき動かす明るい笑い声が聞こえる。
 視線は向けずにいられても「耳だけは」ふさげないから。どこにも逃げ場なんてないんだから……。

 だから相変わらずオレは、自分の存在感を「トレードオフ・・・・・・」にかけて、代償としての「現状維持だけ」を望んでいる。無事にこの二年目と、最後の三年目を何事もなくやり過ごせること、それだけをただ、ただひらすらに祈っていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。 周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。 初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。 (これが恋っていうものなのか?) 人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。 ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。 ※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。

推しが青い

nuka
BL
 僕の推しは、入学した高校で隣の席になった青井くん。青井くんはイケメンな上にダンスがとても上手で、ネットに動画を投稿していて沢山のファンがいる。  とはいえ男子の僕は、取り巻きの女子に混ざることもできず、それどころか気持ち悪がられて、入学早々ぼっちになってしまった。  青井くんにとって僕は迷惑なクラスメイトだろう。ぼっちのくせに、誘いは断るし、その割に図々しくファンサを欲しがる。なぜか僕には青井くんが触れたところがなんでも青く染まって見えるんだけど、僕が一番青い。青井くんにたくさん面倒をかけてる証拠だ。  ダンスの他メンバーと別れて2人きりになった帰り道、青井くんは僕の手を取って─ 高校生男子の、甘くて優しくてピュア~なお話です。全年齢。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

今日も、俺の彼氏がかっこいい。

春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。 そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。 しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。 あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。 どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。 間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。 2021.07.15〜2021.07.16

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...