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プロローグ
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高校に入学して、オレにも人生で初めて好きな人ができた。
なにもかもが初めてだったんで、自覚するまでにも時間が必要だった。だけど間違いなさそうだ。
告白──? なんてできるはずがない。そんなことをしたら最悪の場合、この先の三年間をオレは虐げられて過ごすことになるかもしれないから。マイノリティとして堂々と生きる、そんな勇気は、惨めなオレには欠片もなかった。
仮に、たとえ「あいつ」がどんなにいいヤツだったとしても、三年間も余計な気を遣わせ続けることになるのかもしれない──ムリだ。こういうウワサはすぐに巡り巡って簡単には消えないものだって、オレにも痛いほどわかってた。
だから決めた。この想いを、オレは秘めることにする──内に隠して殺すんだ。決して誰にも悟られないように。
それにしても、こんな結果が待っているなんて知っていれば、オレは進路に「男子校」なんて選ばなかっただろう。
自分の鈍さと愚かさをオレは憎んだ。なんで最初に好きになるのがよりによって同性だったんだよ、と。そしてなんでそれに気付けなかったんだよ、と。
そう、最初の一年をオレは、こうして過ごし続けてきたわけだ。
それでも、嫌でもあいつを見てしまう。あの存在を感じてしまう。その明るさ、笑顔、落ち着いた声色、誰にでも等しくやさしく接する姿だとか──。
それらを無視し続けることは、オレにとってはただ苦痛でしかなかった。あえて距離を置いていたんだから、すごく嫌な奴だと思われて当然だとも思ってたし、そのくらいの覚悟はしてたのに。そうして一年間が過ぎて二年生へと、かろうじて時は過ぎたわけだけど。
だけど学年が変わっても、あいつは同じクラス。そして席はオレの真後ろに決まった。
そう、この時点でオレの高校生活、二年目は「より過酷」なものになったわけだ。好きなのに──だから離れたかったのに、距離はむしろ近くなってしまうという皮肉。これじゃ生殺しだ。この距離感になったことで、あいつはなにか変わるんだろうか……たぶん、それはないとは思うんだけど。だとしてもオレは何も変わらないままでいられるんだろうか。ここまでの一年は本当に、本当に長かったんだよ……?
何もかも不透明なまま、オレは一年目と同じ立ち位置、その立場をまだ貫いているままで。ただ、先は見えなかった。至近距離からあいつの、やけに胸を衝き動かす明るい笑い声が聞こえる。
視線は向けずにいられても「耳だけは」塞げないから。どこにも逃げ場なんてないんだから……。
だから相変わらずオレは、自分の存在感を「トレードオフ」にかけて、代償としての「現状維持だけ」を望んでいる。無事にこの二年目と、最後の三年目を何事もなくやり過ごせること、それだけをただ、ただひらすらに祈っていたんだ。
なにもかもが初めてだったんで、自覚するまでにも時間が必要だった。だけど間違いなさそうだ。
告白──? なんてできるはずがない。そんなことをしたら最悪の場合、この先の三年間をオレは虐げられて過ごすことになるかもしれないから。マイノリティとして堂々と生きる、そんな勇気は、惨めなオレには欠片もなかった。
仮に、たとえ「あいつ」がどんなにいいヤツだったとしても、三年間も余計な気を遣わせ続けることになるのかもしれない──ムリだ。こういうウワサはすぐに巡り巡って簡単には消えないものだって、オレにも痛いほどわかってた。
だから決めた。この想いを、オレは秘めることにする──内に隠して殺すんだ。決して誰にも悟られないように。
それにしても、こんな結果が待っているなんて知っていれば、オレは進路に「男子校」なんて選ばなかっただろう。
自分の鈍さと愚かさをオレは憎んだ。なんで最初に好きになるのがよりによって同性だったんだよ、と。そしてなんでそれに気付けなかったんだよ、と。
そう、最初の一年をオレは、こうして過ごし続けてきたわけだ。
それでも、嫌でもあいつを見てしまう。あの存在を感じてしまう。その明るさ、笑顔、落ち着いた声色、誰にでも等しくやさしく接する姿だとか──。
それらを無視し続けることは、オレにとってはただ苦痛でしかなかった。あえて距離を置いていたんだから、すごく嫌な奴だと思われて当然だとも思ってたし、そのくらいの覚悟はしてたのに。そうして一年間が過ぎて二年生へと、かろうじて時は過ぎたわけだけど。
だけど学年が変わっても、あいつは同じクラス。そして席はオレの真後ろに決まった。
そう、この時点でオレの高校生活、二年目は「より過酷」なものになったわけだ。好きなのに──だから離れたかったのに、距離はむしろ近くなってしまうという皮肉。これじゃ生殺しだ。この距離感になったことで、あいつはなにか変わるんだろうか……たぶん、それはないとは思うんだけど。だとしてもオレは何も変わらないままでいられるんだろうか。ここまでの一年は本当に、本当に長かったんだよ……?
何もかも不透明なまま、オレは一年目と同じ立ち位置、その立場をまだ貫いているままで。ただ、先は見えなかった。至近距離からあいつの、やけに胸を衝き動かす明るい笑い声が聞こえる。
視線は向けずにいられても「耳だけは」塞げないから。どこにも逃げ場なんてないんだから……。
だから相変わらずオレは、自分の存在感を「トレードオフ」にかけて、代償としての「現状維持だけ」を望んでいる。無事にこの二年目と、最後の三年目を何事もなくやり過ごせること、それだけをただ、ただひらすらに祈っていたんだ。
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