奴隷医の奴隷。

隠岐 旅雨

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奴隷医のお仕置き

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「あ、タカ。おかえり」
 高弘が自宅に到着したのが午後十時過ぎ。特別遅くもないが、早くもない時間だった。
「おう。ただいま」
「メシあるけど、もう食った?」
「いーや。まだだな」
 ジャケットを脱ぎハンガーにかける。勝司はエプロンを身に着けていた。ダイニングではなく、リビングのテーブルには数冊の参考書と問題集、ノートなどが置かれていた。どうやらサボらず、受験勉強にははげんでいるようだと、感心する高弘だったが──。
「おい。なんだ、この異様な誤答率の高さは……」
「正答率の低さと言って欲しかったかな」
「アホか。同じことだろうが!」
「ちょっと苦手なんだよね、二次関数」
 高弘は頭を抱える。
「ちょっと、とかいう問題じゃないな」
「タカ、その先は見なくていいから!」
 高弘はさらに頭を抱える。
「……まさか二次方程式まで忘れたのか、おまえは」
「いや、ほら。久しぶりだったからつい」
 高弘は敢然かんぜんと立ち上がる。
「カツ。このあいだの模試、見せてみろ」
「あぁぁ、見なくていいよべつに。メシがまずくなるから、さ?」
「ほほう──?」
 高弘は、模試の結果を見て愕然とした。それから思い切り嘆息する。
「あのさ、一番ショック受けてるのはオレなんだし。なんかフォローの一言とかさぁ」
「おまえこないだ『前よりよかった』とか言ってたんじゃなかったか、確か……?」
「うん。ちょいアップ、だぜ」
 総合偏差値44──高弘には目眩めまいのしそうな数値だった。
「しかも数学が偏差値38だと──?」
「ほら、でも英語が上がってるだろ」
 勝司は、背後に忍び寄る高弘の不穏な気配に、おそるおそる振り向いた。
この俺・・・が教えた数学で、この有り様か」
「あの、ゴメンナサイ……」
 高弘は、勝司の両肩をがっしりと掴む。
お仕置き・・・・が必要なようだな、奴隷クン」
「まだオレ、奴隷扱いかよ──だから家賃くらい入れるっていってんじゃねえか!」
「ダメだ、学費に回せ。だいたいオマエは俺に買われた奴隷だろうが。反論は認めん」
 そうして高弘はカバンの中から取り出したモノを、勝司の手に乗せた。
「なに、コレ──?」
「コックリング。遠隔操作リモートで、振動強度をコントロールできるタイプだな」
 勝司の顔色が、せた──。

 高弘は表情も変えずに、黙々とはしを進めている。
「余計な発言はするな。姿勢は変えるな」
 指令は全裸にコックリングを装着した姿で中腰を維持していろ、というものだった。両手は両膝に置くことを許可されている。
 しかしち上がりを露骨に突きつけるこの姿は、精神的にかなりのダメージだった。
「オレが苦しんでんの見ながら、どうして平然とメシが食えるんだよ、アンタは!」
 なかば叫ぶような口調が熱を帯びている。
 耳も頬も紅潮していた。憎まれ口をきいてはいるものの、過ぎた快楽が身に苦痛というだけだろうな、と高弘は分析した。

「むしろ、おいしく食わせてもらってるが」
「この変態ドクターがっ!」
「大抵の医師は多少、ビジュアル的に問題ある場面でも平然と食事ができるもんだ」
「じゃあ、さっさと食い終われよ──!」
「わかった、わかった」
 言葉とは裏腹にニヤけながら、ちまちまと箸を口に運んでいる。
「おーい。先走りたれてんぞー」
「……うっせーな!」
「射精したら罰ゲームだからなー」
 根元を締めつけられ、勃起が震えている。まだ遠隔操作は開始してないというのに。
 潤んだ瞳で睨み上げられ、高弘の嗜虐心は高まる一方だった。
「オマエさ、助手はじめてからだいぶ筋肉ついたんじゃねえの?」
 伸びやかな肢体したいと、アンバランスなまでに怒張した勃起がたまらなくエロかった。
「言葉も出ねえか。じゃあ、スイッチだ」
 リモコンの電源を入れる。リングが細かく振動を始めた。
「──ッぐ…!」
「どうした、まだ半分も食ってねえぞー」
 こらえるようにギュッと閉じていた目が、放心したかのように虚ろに開いた。うつむいたその視線は、自身の硬直を見ている。
「カツ──こっち、向けよ」
 歯を食いしばり憤怒したような表情。食事もそこそこに、手を出したくなる。
「こっち向けって。でないと強度マックスにすんぞー」
 そして根元に伝わる振動が激しくなる。勝司の全身が、ビクリと跳ねた。
「安心しろ。もうすぐ食い終わっからよ」
 敵意すら込められていた視線から、唐突に覇気が失われていった。
「タカ。たのむよ……」
「どうした」
「とめてよ、でないと──オレ」
 高弘は、左手でリモコンをもてあそぶ。
「さて。どうしよっかなー」
「──う。あ…!」
 勝司は最後まで、姿勢を崩さなかった。いつもより激しい射精は放物線を描き、軽く食卓まで届いている。
 ヒザをガクガクと揺らしながら、勝司は涙を流していた。それでも射精は留まらない。
「──うあ、あ…」
 さすがに精を出し尽くしたのか。目を閉じた勝司は、自らの白濁が飛散する床へと倒れこんだ。

 勝司が目を覚ますと、浴室で横抱きにされながら温いシャワーを浴びせられていた。
「よう。気絶するほど、よかったのか?」
「ちがう──ッ!」
 勝司は立ち上がろうとするが腰に、膝にも力が入らない様子だった。
「無理すんな、わかってるって。俺に見られてんのがキモチイイんだよな、カツは」
「──ッ…!」
 否定しきれないものがある。高弘の何でも見透かしているような視線はときに心地よく、ときに怖ろしかった。
 あの視線にさらされると、勝司はもうなにも抵抗ができなくなってしまうのだ。
「なあ、れてもいいか──?」
 余裕のない高弘の声音に、勝司は怪訝そうな表情をしてみせた。
「なんか俺も食事どころじゃなくなって、な」
 高弘の手に誘導された左手は、いつになく頑強なその勃起に触れた。勝司は顔を赤くする。
「了解、とみなすぞ……」
 大きな両脚の間に抱かれ、勝司は突き入れられてくる勃ち上がりの存在感に震えた。
 ゆったりした造りの白いバスチェアに腰かけた高弘に、後ろを犯されている。
 勝司は自分がそれなりに体格のいい方だと自負しているが高弘はそれを苦にしない。
 腰を持ち上げられ、あるいは落とされて、深く内奥までをえぐられる。
「う、あ──スゲエ…」
「すごく、どうした?」
「キモチイイ。すごく」
 高弘の、濡れた短めの黒髪に手をやる。ひどく艶めいた視線が見下ろしていた。
「タカはかっけぇよ……マジで」
「こんなときにいうセリフか?」
 無駄ない、というよりむしろ屈強な体躯。切れ長の細い二重。冷徹なようでいて不意に見せる優しさと。一見すると不遜なまでの、己への信念と──高弘にはそういった確立された確固たる自我がある。
 勝司は意図せず、高弘に口付けた。
「カツ。これ以上、あおってくれるな」
「いいだろ。いまさら何いってんだ」
 突き上げが加速していくと、勝司の勃起に高弘の右手が添えられた。たぶん、限界が近い。
「うォ──っ!」
低い呻きとともに、内側にほとばしる熱を感じる──くりかえし、何度も。
「タカ、オレも……!」
 イク、とは言葉にならなかった。浴室の白い壁に、白さではやや劣る液体が何度も降り注ぎ、伝い落ちていく。
 内部に注ぎ込まれる精にあえぎながら勝司はじっと、その光景に見入っていた。
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