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土曜日
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部屋はちゃんと掃除していただろうか、と少し不安ではあったが、ざっと見る限りとりあえず散らかっているということもないようだ。
「へぇ……。部屋、片付いてるんですね!」
「単純にあんまり物がないからな。余計なものを持ちたくないっつーか、散らかってると落ち着かねーんだ、俺」
向晴は、物珍しそうに俺の部屋を見渡している。とりあえず手渡したクッションに座るようにうながす。ついでにパソコンを立ち上げてパスワードを解除しておく。
「なにか飲むか?」
「いえ、あんまり気ィ使わないでください」
「じゃあさ。とりあえず、さすがに昨日の汚れた格好のままだと落ち着かねーから、シャワー浴びて着替えさせてくれ。テレビとかネットは、適当にいじっててくれていいから」
向晴はあぐらをかくと、リラックスした様子で俺を見上げた。初めて見るような、斬新な構図ではある。
「……エロ動画とか、見られちゃマズいモンが入ってるんじゃないんすか?」
向晴は、悪戯そうに笑う。
「ばーか。見られて困るようなモンは見れないようになってんだよ」
「さすがです、センパイ」
普段のクセで、その場で普通に服を脱ぎだしてから、途中でなんだか動揺してしまう。ここは自分の部屋だというのに落ち着かないのは、どういうことだ──?
まあ、……深く考えるようなことでもないだろう。浴室に入るとシャワーのノズルを手に、湯温をたしかめる。あまり熱めのシャワーをいきなり浴びるのはよくないとも聞くが、俺はそれが好きだ。
水の流れとそれにともなう音は、日常の汚濁も流し去ってくれる気がする──もともと水が好きだった。だからスポーツクラブのプールにも通っていたが、最近まったく行けていない。
髪を洗いながら考えていた──部屋には向晴がいる。たぶん、どう話を切り出せばいいのかを考えているんだろう。しかしまずは俺から質問してやったほうがいいような気がした。
「──よしっ!」
一通りさっぱりしたところで、気合を入れてみた。鏡を見ながら前髪を後ろに流す。うん、こうしてみると少なくとも未成年には見えないな。よく居酒屋や、コンビニで酒を買おうとして身分証明書の提示を求められる俺は、──そんなことで満足している自分にすごく情けない気分になった。
それに髪など乾けば、どうせすぐ元に戻るわけで。
バスタオルで雑に全身を拭き、それを腰に巻きつける。着替えを用意していなかったことに気づき、勢いで部屋に戻ると、テーブルに肘をつきボーッとテレビを見ていた向晴とモロに目が合った。
「……おー、お待たせ」
なぜか呆然としているようで、リアクションがない。というか硬直している。
「着替え持ってっとくの忘れてたわ……はは」
すごく言い訳じみたセリフを口にしながら、俺は衣装ケースをあさる。バスタオルが落ちないように、実は必死に左手で押さえていたりする。
とりあえずボクサーパンツとグレーのスウェットの上下をつかんで、浴室方面に一時退却すると、背中から間の抜けた声がした。
「舜さんって、色白いっすね……」
「は? 悪ぃかよ」
この気まずさは何なんだろう。俺はべつに妙なことはしていないと思うのだが。少なくとも男友達が部屋にいるときは、だいたいこんな感じなのだし。
とにかくさっさと着替えを済ませると、俺は冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを選び出し、グラスをふたつ手にして氷を入れると部屋に戻った。
「ほれ、飲め」
「ありがとうございます。舜さん、体調の方はどうなんすか……?」
「もう全快。心配すんなって」
向晴が見ていたのは、サッカー日本代表の国際試合だった。そういえば今日、この時間の対戦だったか。金曜の荒れた飲み会のおかげで、きれいに忘れてしまっていた。
「……舜さんは、大学でもサッカー、続けてたんですか」
「マトモにやってたのは高校までだな。大学ではフットサルのサークルに参加はしてたけど。バイト仲間とかと一緒に」
「……ちなみに、バイトって何やってたんですか?」
「居酒屋。厨房にも入ってたから、けっこう俺、料理もできるし」
「それで酒にも強い、と」
「うるせーよ……」
なんだかんだで根に持ってるのか──しかし普段、冗談を口にするときよりも、どこか表情は重いようだ。
俺は、前置きもなしに本題に入ることに決めた。
「あのさ、向晴。おまえ、故障したから引退したのか……?」
「──ほんとうは、ちょっとだけ違うんです」
「へぇ……。部屋、片付いてるんですね!」
「単純にあんまり物がないからな。余計なものを持ちたくないっつーか、散らかってると落ち着かねーんだ、俺」
向晴は、物珍しそうに俺の部屋を見渡している。とりあえず手渡したクッションに座るようにうながす。ついでにパソコンを立ち上げてパスワードを解除しておく。
「なにか飲むか?」
「いえ、あんまり気ィ使わないでください」
「じゃあさ。とりあえず、さすがに昨日の汚れた格好のままだと落ち着かねーから、シャワー浴びて着替えさせてくれ。テレビとかネットは、適当にいじっててくれていいから」
向晴はあぐらをかくと、リラックスした様子で俺を見上げた。初めて見るような、斬新な構図ではある。
「……エロ動画とか、見られちゃマズいモンが入ってるんじゃないんすか?」
向晴は、悪戯そうに笑う。
「ばーか。見られて困るようなモンは見れないようになってんだよ」
「さすがです、センパイ」
普段のクセで、その場で普通に服を脱ぎだしてから、途中でなんだか動揺してしまう。ここは自分の部屋だというのに落ち着かないのは、どういうことだ──?
まあ、……深く考えるようなことでもないだろう。浴室に入るとシャワーのノズルを手に、湯温をたしかめる。あまり熱めのシャワーをいきなり浴びるのはよくないとも聞くが、俺はそれが好きだ。
水の流れとそれにともなう音は、日常の汚濁も流し去ってくれる気がする──もともと水が好きだった。だからスポーツクラブのプールにも通っていたが、最近まったく行けていない。
髪を洗いながら考えていた──部屋には向晴がいる。たぶん、どう話を切り出せばいいのかを考えているんだろう。しかしまずは俺から質問してやったほうがいいような気がした。
「──よしっ!」
一通りさっぱりしたところで、気合を入れてみた。鏡を見ながら前髪を後ろに流す。うん、こうしてみると少なくとも未成年には見えないな。よく居酒屋や、コンビニで酒を買おうとして身分証明書の提示を求められる俺は、──そんなことで満足している自分にすごく情けない気分になった。
それに髪など乾けば、どうせすぐ元に戻るわけで。
バスタオルで雑に全身を拭き、それを腰に巻きつける。着替えを用意していなかったことに気づき、勢いで部屋に戻ると、テーブルに肘をつきボーッとテレビを見ていた向晴とモロに目が合った。
「……おー、お待たせ」
なぜか呆然としているようで、リアクションがない。というか硬直している。
「着替え持ってっとくの忘れてたわ……はは」
すごく言い訳じみたセリフを口にしながら、俺は衣装ケースをあさる。バスタオルが落ちないように、実は必死に左手で押さえていたりする。
とりあえずボクサーパンツとグレーのスウェットの上下をつかんで、浴室方面に一時退却すると、背中から間の抜けた声がした。
「舜さんって、色白いっすね……」
「は? 悪ぃかよ」
この気まずさは何なんだろう。俺はべつに妙なことはしていないと思うのだが。少なくとも男友達が部屋にいるときは、だいたいこんな感じなのだし。
とにかくさっさと着替えを済ませると、俺は冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを選び出し、グラスをふたつ手にして氷を入れると部屋に戻った。
「ほれ、飲め」
「ありがとうございます。舜さん、体調の方はどうなんすか……?」
「もう全快。心配すんなって」
向晴が見ていたのは、サッカー日本代表の国際試合だった。そういえば今日、この時間の対戦だったか。金曜の荒れた飲み会のおかげで、きれいに忘れてしまっていた。
「……舜さんは、大学でもサッカー、続けてたんですか」
「マトモにやってたのは高校までだな。大学ではフットサルのサークルに参加はしてたけど。バイト仲間とかと一緒に」
「……ちなみに、バイトって何やってたんですか?」
「居酒屋。厨房にも入ってたから、けっこう俺、料理もできるし」
「それで酒にも強い、と」
「うるせーよ……」
なんだかんだで根に持ってるのか──しかし普段、冗談を口にするときよりも、どこか表情は重いようだ。
俺は、前置きもなしに本題に入ることに決めた。
「あのさ、向晴。おまえ、故障したから引退したのか……?」
「──ほんとうは、ちょっとだけ違うんです」
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