誰だおまえは。

隠岐 旅雨

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賢いフリするヤツが一番バカだ──そう、オレのことだ。

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 性行為セックスというのは、心許し合う男女がする行為なんじゃないのだろうか、などと教科書的かつ間の抜けたことをオレは考えている。つまり混乱していた。勝手にオレのちんこに唇なんてわすんじゃねえ。てかしゃぶんな、何なんだよおまえ刺激キッツいわーっておい!

 オスとオスとの間に性交などという行為が存在するのか、否かという、残酷なひとつの命題テーゼ

 いやいやそんなレベルですらなく、オレはひとことで言えば、ただの童貞ドーテイなんだよ。そのくらいのレベルで性知識というものがなかったんだが、その何が悪い? ふざけんな、オレはこの年齢で知っているべき他のこと・・・・はすべて知っている。そのつもりだ。
 そして、それなりに優秀なはずの頭脳が答えを導き出す──ああ、コイツはかなりやべえレベルのポンコツ巨神兵なんだなと。物理的には勝ち目もないし、べつにオレには特殊能力のたぐいもない。

「なあ大智。自慰行為オナニー性行為セックスは別のモノなんだぞ、知ってるよな?」
「……なんつーかさ、疑ってはいたけどおまえやっぱシンプルにただの童貞なんだろ、秋介」

 クソ、なんだそのバカをあわれむような視線は。童貞は罪ではないぞ。汚れなき無垢むくな魂の象徴であり、原罪げんざいとは無縁の孤高ここうの存在にして……ああ、やめよう。さすがに言っててむなしくなってきた。

「えーと、何だ。よくわかんねーけどおまえはいろいろ経験済みってことなのかよ?」
「うーん……?」
 大智は、その太い両腕をオレの後頭部で交差させて、キスをしてきた。なんという暴虐無人、問答無用。
「あとさ秋介。おまえさ、このレベルでも初めてだ──とか言っちゃうレベル感なの、もしかして?」

 だから、その憐れむような視線をやめろってんだろ、このデカブツが。
「口は食事をするためにあるものであって、それ以外の用途ようとに使うものではない!」
「うっわぁぁ……ッ、おまえ大丈夫なん!? 病院行く──? 保険証持ってるか?」
 あ、ドン引きですか。しかもなに鳥肌立ててんだよ失礼きわまりねーな、しかも国民皆保険こくみんかいほけんの対象かよ。なんかオレも泣きたくなってきたぞ、もういいおまえはここで死ね。てか殺す。



「でもさ、完全に無反応ってわけでもないじゃん、おまえだって」
 大智のでかい手がまた、オレのちんこを握りだす。やめろバカ。
「……そんでさ、おれのも握ってみてよ」
 イヤな予感がしたので抵抗したが、完全に無意味だった。オレの手は大智のちんこに誘導される。べつに勃起しているわけでもないのに手ごたえだけはデカくて、ジャージの上から触っただけなのにズルけではっきりとした亀頭カリの感触が手には残った。わ、えっぐぅ……というか、これ勃起したりしたらどんなデカさになるんだろう。そんでこれを受け入れたらオレはどうなっちまうんだろう──まぁシンプルに裂けて死ぬんだろうな。うん間違いない。我ながらグロい最期さいごだ……。

「あのさ。おれだって傷つくんだからさ、イヤそうな顔とかすんなよな。秋介」
「傷つく、のか、おまえが……? どこでどんなふうにだ。オレはおまえのその、まだ臨戦態勢でもないのに予測できるデカさにドン引きしただけだぞ」
「汚ねーモンに触らせられたみたいな顔しただろ秋介、おまえ。ひでぇよ……」
「あ、いや。事実としてべつにきれいなモンではないと思うぜちんこなんてさ。けど、あのな……」
 大智は、そこでいきなりひどく邪悪そうな笑みをその顔に浮かべた。

「なあ秋介。そうやっていきなり人のことヨゴレもんみたいに扱ったうえにさ、ヘッタクソな言い訳ばっかじゃんか。さっきからよぉ──?」
「……ごめん、けどオレそこまでのこと言ったっけ。『きれいではない』って言った程度じゃね? きれいじゃない、の同義語は『きたない』じゃないんだぞ。覚えとけデカザルめ!」
 はっきりいって論理的には破綻しかけてるし、このセリフが大智を決定的に吹っ切らせてしまったらしいことにオレは気づいていなかった。

「おい、ごるァ秋介ェ? バレバレの嘘つくなよ──? おれだって分かるっての、きれいの対義語は『きたない』だろ。ひでえよ……なぁ、秋介ェ?」
「おい、まてなんだよクソ、泣きマネみたいなガキの戯言たわごといってんじゃねーわこの巨神兵! 巨根! 野蛮人バーバリアン!」
「おまえマジで、そんなバカみてえな言葉選びでよく、この世の中で無事に渡り合ってきたよな?」
 マズい。意味なんて通じないと思っていた「バーバリアン」という言葉が大智には通じちまってるっぽいぞ。失策だった。

「雨にズブ濡れなのはお互い様だよな。じゃあ汗臭いも雨臭いもねえ、家には誰もいねえ。ヤろうぜ……」
「……マジかよ、やめろ、なんかマニアックなんだよさっきからおまえが口に出す言葉ってなんかさぁ!」

 その双肩そうけんに軽々と背負われて、オレはベッドに横たえられて、さらに両手両足の自由を奪われたのだった。
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