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振り上げられたこぶしはクラリスに届く前に、デクスターによって止められた。
「──罪を重ねたな」
静かに口を開いたのは、デクスターだった。掴まれた腕を振り払い、デイヴが声を荒げる。
「父親に向かって、その態度は何だ!」
「あなたを父だなどと、思ったことはない──わたしを腹に宿した母上に、手をあげるような奴のことなど」
クラリスは瞳孔を開き「……初耳です。どういうことですか……?」と、デクスターに視線を移した。
「お前が子を宿したら、ますます正妃の立場がなくなるだろうと怒鳴りつけ、今のように、殴りつけていたそうだ」
「で、でたらだ! そんなこと……っ」
クラリスがすっと手をあげると、兵たちが左右から、デイヴの両腕を掴んだ。離せ、無礼者、と叫ぶデイヴに、クラリスがゆっくり近付いていく。
「あなたは、そればかりですね。知らん、でたらめだ。さすが、あの馬鹿なイライジャを育てただけのことはある──ねえ、デクスター様」
「どうした?」
「幽閉など、生ぬるい。民たちの前で、首をはねてはいかがでしょう」
ひっ。
デイヴが、引き攣った悲鳴をあげた。デクスターは後ろから、怒りを露わにするクラリスの肩にそっと手を置いた。
「心を病んで亡くなってしまった母のためにも、こいつの苦しみを、一瞬で終わらせたくないんだ──だが、わたしの大切な妃に手をあげようとした罪は、きちんと償ってもらうとしよう」
デクスターはクラリスから、デイヴに視線を移した。
「幽閉場所は、王族用の塔から、地下牢へと変更することとする」
「は……? ちょ、ちょっと待て!」
焦るデイヴに、デクスターは憐れみの目を向けた。
「大人しく従っていれば、ましな寝床と食事は与えられていたのに……もはやお前が日の光を浴びることは、生涯ないだろう」
「……そ、そんな勝手なこと、まわりが許すはず……っ」
「少なくともお前の幽閉は、そのまわりと共に決めたことだ」
行こう。
絶望したように床に膝をついたデイヴにはもはや目もくれず、デクスターはクラリスの肩を抱き寄せ、その場を後にした。
「──罪を重ねたな」
静かに口を開いたのは、デクスターだった。掴まれた腕を振り払い、デイヴが声を荒げる。
「父親に向かって、その態度は何だ!」
「あなたを父だなどと、思ったことはない──わたしを腹に宿した母上に、手をあげるような奴のことなど」
クラリスは瞳孔を開き「……初耳です。どういうことですか……?」と、デクスターに視線を移した。
「お前が子を宿したら、ますます正妃の立場がなくなるだろうと怒鳴りつけ、今のように、殴りつけていたそうだ」
「で、でたらだ! そんなこと……っ」
クラリスがすっと手をあげると、兵たちが左右から、デイヴの両腕を掴んだ。離せ、無礼者、と叫ぶデイヴに、クラリスがゆっくり近付いていく。
「あなたは、そればかりですね。知らん、でたらめだ。さすが、あの馬鹿なイライジャを育てただけのことはある──ねえ、デクスター様」
「どうした?」
「幽閉など、生ぬるい。民たちの前で、首をはねてはいかがでしょう」
ひっ。
デイヴが、引き攣った悲鳴をあげた。デクスターは後ろから、怒りを露わにするクラリスの肩にそっと手を置いた。
「心を病んで亡くなってしまった母のためにも、こいつの苦しみを、一瞬で終わらせたくないんだ──だが、わたしの大切な妃に手をあげようとした罪は、きちんと償ってもらうとしよう」
デクスターはクラリスから、デイヴに視線を移した。
「幽閉場所は、王族用の塔から、地下牢へと変更することとする」
「は……? ちょ、ちょっと待て!」
焦るデイヴに、デクスターは憐れみの目を向けた。
「大人しく従っていれば、ましな寝床と食事は与えられていたのに……もはやお前が日の光を浴びることは、生涯ないだろう」
「……そ、そんな勝手なこと、まわりが許すはず……っ」
「少なくともお前の幽閉は、そのまわりと共に決めたことだ」
行こう。
絶望したように床に膝をついたデイヴにはもはや目もくれず、デクスターはクラリスの肩を抱き寄せ、その場を後にした。
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